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第十八章 「静枝」

八夜の妻・静枝に会った永久子は静枝に対してある感情を抱き・・・

二、三十人しかいない広間に甲高い声が響く。


永久子はその声の主をちらりと見る。

そこには大きな声でけらけらと笑う静枝がいた。


野本静枝。

何故彼女はこれほどまでに堂々と振る舞えるのだろう。


永久子も堂々としてはいるが、艶やかに美しく、それでいて控え目でおしとやかな態度だ。

しかし、静枝の場合は違う。

まるで少年のように身軽ではきはきとした快活な態度である。

肌の色も日に焼けていて黒く、決して美人ではない。痩せすぎなくらい細く、その細い顔に更に細い目がついている。

着物もこれと言って名の知れた高そうなものではない事から身なりへの執着がない事が伺える。


人も集まりそろそろ盛り上がりを見せた頃、永久子は新しく訪れる客に軽く会釈をしながらそんな事ばかりを考えていた。

野本静枝は・・・私の苦手な人間かも知れない。

まだ挨拶だけでろくに言葉も交わしていないが、永久子はそう思っていた。

そう、言ってしまえば好かないのだ。

あの堂々とした態度も、はつらつとして何の悩みも持っていなさそうなあの顔も何故か気に食わない。



「嫌だわぁ。だから、言ったじゃありませんか。私の方が正しいって。」


そう言って静枝はぽんと重造の肩を叩く。


「おじさまは知らなすぎますわよ。世間は今めまぐるしく変わっているんだから。」


こんなに馴れ馴れしく有名大会社の社長に話しかける事のできる女はきっと静枝くらいだろう。


「おれぁ、今んこと何もわかんねぇからなぁ。いんゃ、静枝にはかなわん!降参じゃ!」


程よく酒が入り顔を真っ赤にしながらげらげら笑う重造の口元で金歯が何本も眩しく光る。

二人はまるで親子の様に楽しそうに話を広げている。

その二人の周りを囲むようにして人が少しずつ集まっていた。

それを何事もないような顔で見つめる永久子の顔は冷静そのものだ。


永久子は本来芯のある女だ。

自分の考えが正しいと思えば、相手を負かすまでその口で正論を述べる。

決して今の時代の女人の様に、男に死ぬまで付き従う従順な性格ではない。

だが、富田家に嫁ぎ、その凛々しい性格は奥深く身を潜めてしまった。

初五郎に組み敷かれ、家の重圧に潰されいつしか永久子は見た目通りのただ大人しそうな美しいだけの何も知らない奥様となっていたのだ。

それに気付かず、気付こうともせず暮らしていた永久子の目の前に今その全てを突き付けるように静枝がいる。


その静枝の姿の何と輝かしい事だろう。

特に何が秀でているわけでもないのにこの煌めきは一体どこから産まれてくるのか。

もし、富田家に嫁がなければこうはならなかったのだろうか?

いや、佐原の家に生まれなければこんな事にはならなかったかもしれない。

昔のように、あの幼い自分のままでいられたならどんなに楽しく暮らせただろう・・・


私もああなるはずだったなど今思っても仕方のない事だとわかっていても頭の中を回る悲しみの渦は消え去らない。

地位も名誉も美しさも全て自分は持っているはずだ。

だが、その全てが外側にあるものでしかない。

自分の内側はどうだろう。この白く美しく光る皮を剥けば、どろどろと流れる血と肉の向こうにあるのはきっと暗く空虚なものなのだろう。

それがわかってしまった自分の何と悲しい事か。何と空しい事か。

静枝の内側にあるものは何なのだろう?内から出てくるあの本当の笑顔を作っているものは何なのだろう?

永久子は激しい嫉妬に、妬みにそして悲しみに包まれた。

自分の全てが間違って生まれてきたのだと、育ってしまったのだと思うと急に涙が湧きそうになった。


「永久子さん?」


そう言ってそっと背中に触れた相手は八夜だった。


「御気分でもお悪いですか?さっきからずっと遠くを見ていますね。」


八夜は永久子にそっと水の入ったグラスを差し出した。


「いいえ、気になさらないで・・・酔ってるわけではありませんの。」


永久子はそう言いながら八夜の差し出したグラスの水を断った。


「でも、具合が悪そうだ。貴方そんなに顔も青白いじゃありませんか。少し休まれた方が良い。」


八夜は最初に話をした時よりも何倍も優しい声でそう言った。


「心配していただいて有難うございます。でもわたくし元々この様な顔色ですわ。あまり体も丈夫ではありませんから。でも気にしないで下さいね。いつもこうですから。」


そう言って永久子はふふっと笑った。もちろん作り笑いだ。

その顔を見て八夜はやや深刻そうな顔をした後急に永久子の手を掴み、部屋の端の椅子へと連れて行った。

その手は熱く、強引で何故か永久子の胸は一つ高鳴った。


「八夜さん?どうなさったの?」


驚いた永久子は思わず八夜に話し掛ける。


「どうぞ座って下さい。やはり貴方は無理してらっしゃる。元々体が弱いなら尚更休まれた方が良い。」


そう言って八夜は永久子を椅子へと座らせた。

やや強引に座らされた永久子は驚きながら八夜の顔を見上げる。

その瞬間心配そうな顔で此方を見下ろす八夜と目が合った。


「・・・有難うございます。」


間の抜けたような声で永久子は感謝の言葉を口にした。

八夜は永久子を見たままその視線をそらさない。

八夜は消えそうな位小さな声で一言ある言葉を口にしたのを永久子は聞き逃さなかった。


「・・・美しい。」


永久子の胸の高鳴りは一つ二つと増えていく。

その高鳴りは速まり止む事を知らない。


永久子と八夜はずっとお互いを見つめ続けていた。

また更新が遅れてしまい大変申し訳ありません。

もう飽きてしまった読者の方もいらっしゃるかもしれません↓↓

学生の身なので試験に追われてる間は更新もかなり滞ってしまう事ご理解頂けたら嬉しいです。(何であんなに試験が多いんだろう;)

今年までに後一話くらい更新できたらと思っています。

来年はもう少しテンポ良く更新できるよう頑張ります。

見てくださってる読者の方々に感謝です。

本当に有難うございます。

そして、永久子と誰かさんが意外な展開になってますね←他人事。

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