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第十二章 「視線」

帰って来た初五郎を部屋へと案内する永久子。

酒の勢いに乗って不満をぶちまける初五郎に永久子は・・・

永久子が初五郎を通した畳の部屋には新鮮な鮪の刺身やぐつぐつ音をたてたすき焼きが用意されていた。

すき焼きの甘い醤油の香りが部屋いっぱいに広がっている。


「今日はご馳走なんですよ。久し振りにあなたが帰っていらしたから。」


初五郎が座ると永久子は初五郎に酒をつぎながら言った。


「お疲れでしょう?今日はゆっくりお休みになって下さいね。」


「…お前はゆっくり出来たろうな。毎日嫌味を言われる事がなくて。」


できるだけ優しく話し掛けたのにこれだ。

暫く会わないうちに初五郎は更に横柄になっている。

この男は一体何が気に入らないのだろう?

しかし、ここで黙っていたりはいそうですなどと言ってはたちまちこの男は癇癪を起こすだろう。

見抜かれていても愛想良くしておくに限る。


「そんな事ありませんわ。夫の帰りを待たぬ妻がどこにいましょう?毎日貴方の事を考えていました。」


初五郎は白々しいとばかりに小さく舌打ちをする。

本当にこの男は救えない。

まあ我ながら本当に下手くそな演技をしているとは思うが…


「…お仕事の方は上手くいって?」


「…いつもの事だ。全部親父だ。大成功だ。」


「そうですか。」


「親父程仕事の才能がある人間はそうはいない。俺にはそれがないから親父が死んだらお前はそんな小綺麗な服着られなくなるかもしらんなぁ。」


酒が回ってきたのかだんだん初五郎の口調がたるんできた。

昔からこの場所で仕事をこなしてきてようやく東京にも足を出すようになった重造と違い、小さい頃から都会に何度も足を運んでいた初五郎はあまり方言を使わない。

地元でしか通じない言葉だというのを十分理解しているし、仕事の面でも、何だか聞き取りにくくやたら語尾が変るわかりにくい地元言葉より、いかにも東京らしい清楚な言葉で話した方が仕事の面でも有利だと言う事がわかっているからだ。

実際、ほとんど標準語が話せない重造の傍に、きちっとしたスーツを着て丁寧な標準語を話す初五郎がいる事によって商談が成立した例も少なくないだろう。

何せ、重造の言葉といえば話が弾めば弾むほど理解不能な御国言葉おくにことばになってくるのだから。


「お義父様は本当に立派な方ですものね。きっと将来は貴方もあの才を発揮なさるわ。親子ですもの。」


初五郎は飲みかけの酒が入った杯をかんっと盆の上に叩き置いた。


「はっお前に何が分かる!?この家の事なんざ何も興味がないくせに。親父は腑抜けちまってるよ。あのばばあのせいでな。あいつのせいでうちはめちゃくちゃだ。あいつが親父から仕事のやる気まで奪ったら俺が絞め殺してやる。」


ばばあ」とは梅の事だろう。

永久子は初五郎が梅を相当嫌っている事を再確認した。

さて、ここで永久子は誰ですか?そのばばあとは?と馬鹿な振りして知らない風に聞き返すか、そんな事言うのおやめになってと梅を庇うべきか・・・どちらがより静かに事を終える反応だろうと考えてみた。


「あなた・・・」


とりあえず永久子はこのまま様子を見ることにした。


「あの女はな!この家に来た疫病神だ。あいつのせいでお袋は死んだ。親父はそんな事見向きもしないで傍に置きやがる。よりにもよって、お前の女中なんかにしやがってどんどんあの女は態度をでかくしていきやがる!」


初五郎は酒のせいか怒りに任せて発する暴言のせいか顔が真っ赤だ。

結婚してから梅の事をこんなにも具体的に罵ったのは初めてだった。


「あなた・・・疲れてらっしゃるのよ。そんな言い方おやめになって。今日はゆっくり休んでくださいな。」


できるだけ刺激を与えないように永久子は優しくなだめようとする。


「はっお前はもうあの女に操られちまってるに決まってる!お前が今日こんなにも猫撫で声を出して優しそうにしてるのは俺のご機嫌取りをしてあの女に八つ当たりさせないようにしてるからじゃないのか!?え!?だいたいお前は・・・っ」


永久子は自分の考えを見透かされ、一瞬動揺の色を出してしまいそうになった瞬間急に襖が開いた。


「あ、失礼します。・・・お茶を運ぶよう言われたので。」


瑠璃だった。初五郎の大きな声に若干戸惑いながら遠慮がちに入ってきた。

不慣れな手でもたもたとお茶を運び出ていった。


「あの女見ない顔だ・・・それにここの生まれじゃないだろう?」


瑠璃の言葉遣いで初五郎はすぐに分かったらしい。


「ええ、先日新しく来た瑠璃ですわ。東京から来たんですの。・・・梅の親戚だとか。」


永久子は一瞬言おうか迷ったが、いづれ分かってしまう事だと梅との関係を付け加えた。


「・・・ふん、あの女のねぇ・・・」


初五郎が瑠璃の出て行った後を見た。

その視線はただ睨むでもなく、笑うでもなく何とも謎めいている。

永久子は初五郎の思惑を読み取ることが出来なかった。

これからどんどん新キャラをだしていく予定です!

・・・が話が進まない;

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