一○二号室の住人、弘中新
何度もドアベルを鳴らしたが反応がなく、出直そうと武内達が去りかけたときにドアが開いた。昼下がりだというのに、弘中新は起きたばかりなのか、寝癖の直っていない髪型で半開きの目をしばたたかせていた。
武内達が警察手帳を見せると、弘中は明らかに動揺したが、「昨夜の事件のことで」と言うと、ほっとしたように弘中は「ああ、昨夜の事件」と復唱した。だが、弘中は昨夜の事件を知らず、武内はあらましを教えてやった。
「ガヤガヤと夜中にうるさかったのはそういうことか」
同じハイツの住人が死んだというのに、弘中は関心を示さなかった。
「零時頃の上の二○二号室の様子はどうでした?」
権藤が手帳を開きながら訊いた。
「様子って言われてもねぇ。ああ、ドタバタ足音とか叫び声が聞こえたのって、そのくらいの時間だったのかな。上の人、基本的に静かな人だからね。珍しいなって思ったんだよ。本当に静かな人でね、ここ一週間くらいは夜中にちょこっと足音が聞こえる程度で、その他はシーンと静まり返ってたよ」
「静まり返っていたのは、すでに死亡していたからですよ」
武内が告げると弘中はなるほどと頷いた。
「でも、じゃあ、ちょこっと聞こえていた足音は、岩壁の婆さんのってこと?」
「おそらくは」
「あの婆さん、上で何やってたの?」
それが武内達にもわからないのだ。岩壁美千代は何をするつもりで二○二号室へ行ったのか。