vs〇〇 後編
(さて……)
携帯をさりげなく机の上に戻し待っていると、ルシファーが帰って来た。
「あースッキリした。 次のターゲットどないする?」
「その前に、先に魔力を補充しとかないか?」
「それがなぁ、補充できへんねん」
ルシファーの取り込んだ魔力は使わないとどんどん外に漏れだしていくとのことだった。
「今まで通りのやり方でええやろ?」
「……了解。 次は数学の担当がいいな」
こうして次のターゲットが決まった。
数学のタカスギだ。
しかし、ガリは大人しくタカスギを狙うつもりはなかった。
作戦決行日。
いつも通りルシファーが魔力を調達して、ガリが隙を見つけて斬るという作戦だが、ガリはタカスギの所にはいなかった。
ルシファーがドラゴンの炎を食らって魔力を吸収すると、ガリのもとに電話をかける。
「プルルルル……」
「プルルて」
なぜか廊下の方から音が鳴っている。
ガリも携帯を取らない。
(何でこんな近くで鳴ってんのや……)
廊下に出るとガリの姿はなく、トイレの方から音が聞こえてくる。
「何やねん!」
ルシファーが音の鳴る方に向かっていくと、男子トイレの中にたどり着いた。
どうやら個室の中にガリがいるらしい。
「ガリ! ふざけてんのか! 出て来い」
ガチャリ、と個室の扉を開けると、携帯だけがそこに置かれていた。
ズン……
背後から何者かに刺された。
「まだ学園には人が残ってるからな」
「……どういう、つもりや」
「お前に利用されるのなんざ、まっぴらごめんだ」
「メールを…… 見たんか……」
ルシファーの体は崩れ去り、消えた。
後に残された携帯を拾うと、魔王宛のメールをうち始めた。
初めまして、三日月狩です。
あなたの側近は始末しました。
俺を見くびった報いだと思ってください。
それと、あなたに取引を持ち掛けます。
もし俺がこの学園の教師を全員始末できたら、俺を代わりに側近にしてください。
返事を待ってます。
メールを送信し、落ちている魔法道具の腕時計を回収した。
ガリは寮に帰ると、ベッドに横になりながらあることを考えていた。
(魔力を補充する手を考えないといけないな。 ルシファーの話じゃ、この学園の中にはドラゴン以外にも音楽の担当のエルフが魔力を持っているらしい。 そのエルフにこの腕時計をつけることができれば、魔力を奪うことができる)
しかし、そのためには腕時計を日常的につけさせなければならない。
一般の生徒からそんなものを貰っても、正直困るだろう。
(恋人からのプレゼントならどうだ? それならつけていても不自然じゃない)
ガリはエルフに恋人がいるのかどうか、それを調べるべく接触を試みた。
ガリは音楽の授業の終わりに、それとなくエルフに恋人がいるのかを聞いた。
自分が先生に好意がある、そんな素振りを交えて。
「あの…… 先生って恋人とかいるんですか?」
「急にどうしたの?」
「その、まあ、聞いてみただけです」
困った風な顔つきになっていたが、実は好きな人がいるから、と断られた。
「この学園の人ですか? 嘘はつかないでください」
エルフはあっさりと告白した。
「絶対秘密よ! いいわね?」
その相手と言うのは、この学校の社会学の先生らしい。
なるほど、穏やかな先生だし、相性は悪くなさそうだ。
俺はがっかりしたフリをして教室を出た。
教室の時計に細工を施して……
別な日に社会学の授業の後、先生にあるものを渡すために話しかけた。
「あの、エルフの先生にこれ渡して貰えますか?」
「僕からかい?」
「その、教室の時計が壊れてて困ってるって言ってたんで。 ただ、俺から渡すのは恥ずかしかったから、先生にお願いしたいんです。 2人がいい感じなのは知ってるんで」
社会学の教師はギクリ、とした表情になったがプレゼントで押すのも悪くないと思ったのか、それを受け取った。
次の音楽の授業では、まんまとエルフが腕時計をつけていた。
そして、ガリは夜な夜なあることを始めた。
この街はドームのように包まれており、外からの侵入者を拒んでいる。
外面はコンクリートのような壁が立ち上がっているが、そこにやって来ると手のひらからツルハシを取り出し、その壁に穴を開け始めた。
(ここが開通すれば、潜入ルートになる)
先日、魔王からのメールで約束を守ってもいいと返事が来た。
ガリはそれに加えて、そちらから一人手下をよこせとメールした。
ここに潜入するためのルートは自分が確保すると言い、ここで開けようとしている穴がそれだ。
ガリは10日かけてその穴を開通させた。
中間テストが目前に迫っていたが、ガリは教師に仕掛ける別なテストを考えていた。
(これから俺が仕掛けるのは、逆中間テストだ。 魔王の手下を学園に放ってやつらの力を試してやる)