vsニャンクミ
さすがにやばい、そう思いガリは寮に戻って教科書を開いた。
「こうなったら、単語だけでも!」
ノートにガリガリ書き写していく。
三日月、三日月、三日月……
5分後……
「よっ」
ひのきの棒を頭の上に乗せてバランスを取る、という遊びに夢中になっていた。
試験当日。
用紙が順番に前から配られる。
教室は紙のこすれる音だけが響き、生徒全員に用紙が行き渡った。
「開始にゃ」
バッ!
生徒が一気に用紙を表に返す。
まず名前を書き、そのまま下の欄へ!
第一問。
次の単語を魔法語に直せ。
(1) 三日月
(2) 灰色
(3) 猫
「楽勝じゃんか!」
教室で誰かが叫んだ。
周りが安堵する中、一人だけ凍り付くものがいた。
(……)
30分後、テストは終了。
ガリは白紙を見られないよう、後ろから回って来た用紙の一番下に自分の用紙を隠し、前に渡した。
全ての用紙を回収し、ニャンクミが言い放った。
「あれだけ煽ったんだから、まさか勉強してない者はいにゃいと思うけど。 もしこれで赤点だったものは見込みなし! 魔物として一生を過ごすといいにゃ」
そんな宣言とは裏腹に、教室内はお祝いムードだった。
「くっそー…… 教科書20回も読み直してきたのにアレだけかよ…… 時間めちゃめちゃ余ったし」
「まあいいじゃん。 卒業まで全員生存できそうじゃない?」
ガリは腹痛を装い、廊下に出た。
(あの答案を見られる前に何とかしないと……)
ニャンクミの後をこっそりつける。
タイミングを見計らって自分の答案だけでも抜き取れれば、テストのやり直しという目がある。
次の角を曲がれば職員室。
答案を見られたらジエンド。
「こうなったら……」
ガリは手のひらから棒を取り出した。
そして、ゆっくり背後から近づき、後頭部を殴打すべく振りかぶった。
ブオン……
棒は空を切った。
ニャンクミは機敏な動きで棒をかわし、こちらに向き直った。
「一体どういうつもりにゃっ!」
「……」
こうなったらわずかな期待にかけるしかない。
「……追試ってありますか?」
だが、ニャンクミはまるで人を見下すかのような目でガリを見た。
「あの程度の試験ができないやつはクズにゃ。 負け犬にゃ。 人生の敗者にゃ」
(……)
ガリは腹の底が煮えくり返るほどの怒りを覚えた。
(どこに行っても教師は同じこと言いやがる)
ニャンクミはガリの答案を見て失笑した。
「全然できてにゃい。 笑えるにゃ」
「うおおおおおおおっ」
ブオン!
しかし、また空を切った。
「どうせ魔物になるなら、ここで死んでも同じことにゃ」
そう言うと、ニャンクミは杖を取り出し、魔法の詠唱を行った。
「究極魔法、アルマゲドン!」
ドオオオオオオオン!!
廊下に轟音がとどろき、地面に直径5メーターほどの穴が開いた。
「あれ? 威力が弱いにゃ」
ガリの目の前に、見知らぬ男が立っていた。
どうやらニャンクミの魔法から守ってくれたらしい。
煙で視界が覆われている隙に、教室に隠れるよう促された。
「てか、あんた誰? 外人?」
黒人ハーフのような男である。
しかし、話し方はバリバリの関西弁であった。
「そんなんええねん。 今はアイツを何とかせな」
この男の言うように、今はそちらが最優先であった。
「これ、つけてーや」
そう言って渡されたのは腕時計だった。
「魔法道具っつーアイテムや。 魔力の受け渡しができんねん」
ガリが腕時計をつけ、魔力を貰う。
すると、持っていたひのきの棒が、巨大な鎌に姿を変えた。
「それで、あいつを真っ二つにしてやったらええ」
「……殺すのか?」
「どうせ霊体やろ? 生身の人間ちゃうで」
「……」
ガリは意を決し、教室を飛び出した。
背後から突然現れたガリに反応できず、ニャンクミはあっさり両断された。
この関西弁あってんのか?w