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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1 章 体験版編
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94,草原のバイオリニスト 3曲目


「スキルで出した金は次から5番のカウンターに持っていってくれ。

金銭関係は全部あそこでやってるから、何か病気に掛かってスキルで出した金を使わないといけないとかになったら5番カウンターの職員から許可貰ってくれ」

「はい、分かりました。

あ、それで俺達で出来る依頼って今ありますか?

掲示板には難しい物しか残ってなくって・・・」


掲示板には『オオカミの群れの退治』や『女盗賊団の捕縛の協力』、『チボリ国行きの商人の護衛』と言う難しい依頼ばかり。


『言語通訳・翻訳』が有るから出来そうな『団体観光客の通訳・ガイド』は3年以上ローズ国に居た5年以上冒険者をしている者って言う条件で俺達には受けれない。

通訳の仕事を冒険者がやる場合、ある程度実力があって有名じゃないと受けれないらしい。

誠実な仕事をしていると有名な人なら兎も角、新人や無名の冒険者じゃギルドが保障してくれていてもその冒険者が本当に正しく通訳してくれているか不安になるんだろう。

冒険者の仕事っぷりに依頼人が安心出来ない、信用出来ないとなると巡り巡ってギルドの評判まで下げてしまう。

だから『団体観光客の通訳・ガイド』の様な信用が。

実力より依頼人と冒険者の信頼度が重要な仕事は、どんなに有利なスキルを持っていても俺達の様な新人は受けれないんだ。


特に俺なんて得体の知れない異世界人だぞ。


俺が依頼人なら冒険者の行動が依頼書に記録されているから変な事しないと言われても、異世界から来た新人なんて胡散臭過ぎて信用出来ない。


後、俺は直ぐ元の世界に帰るし、ユマさんも迎えが来たら国に帰る。

ルグには本業を休んで手伝って貰ってるんだ。

そういう理由で俺達は長期の仕事も出来ない。

雇った新人が仕事を覚えて直ぐやめましたじゃ、雇う側も困るだろ?


だから、俺達が受けれる依頼って結構限定されてるんだよ。

巨大クロッグの事件の時や名指しで来た依頼でもなければ、採取系とか、討伐系とか、お使い系とか。

そう言う依頼の証拠となる品をギルドに持って帰る事が前提の、新人でも出来る比較的簡単な依頼に限定されるんだ。


「そうだな・・・ちょっと待ってろ・・・・・・

これはどうだ?

植物系の魔物のヒツジの紙刈りの手伝いだ」

「羊の髪?毛じゃなくてですか?」

「ヒツジっていやー紙だろ。

この依頼書も羊の紙が使われているんだ」

「カミってそっちの紙!?」


どうもこの世界の紙は木や草の繊維から作るんじゃなく、魔物から取れるらしい。

話を聞くに、毛にあたる部分を利用する為の家畜と言う意味でヒツジと翻訳されたみたいだ。


この世界のヒツジは管器官型の魔物で、体内の魔元素を穴から糸と言うか繊維状にして出して、それが伸びるごとに絡まり合い1枚の長い紙になる。

特に品種改良された訳じゃないのに、大昔から変わらずそんな姿と生態だと言うんだから、多分キメラの1種なんじゃないかな?

そうじゃないと、こんなに人間に都合が良い生き物が自然に生まれる理由が分からない。


「ヒツジから取れないならどうやって紙が出来るんだよ?

サトウの世界には紙が無いのか?」

「紙自体はあるよ。

詳しくは知らないけど、木や草の繊維を使って作るんだ。

工場で機械を使って大量に作るのもあるけど、昔ながらの方法で手作りしたのもあるな」


『ミドリの手』で確認すると、ズラッと紙の原材料の植物が出て来た。

その中には見た事も聞いた事も無い植物が殆どで、本当普段自分がどんな物から作られた物を使ってるのか気にしていなかった事が良く分かる。

この紙もそうだし、服や食器、スマホやテレビ。

普段当たり前に使ってる物の製造方法とが材料とか知らなくても使うのに困らないから、『気にする』って事自体頭から抜けてるんだと思う。

そういう物作りに関わる職業の人や趣味にしている人以外、気にしている人って少ないんじゃないかな?


「それと、俺の世界の羊からは毛が取れて、それを毛糸や布に加工して服とか作るんだ」

「へー。

この世界だと、動物の毛を使った糸や布ってウサギの物しかないんだよ。

あとはジュエルワームやダーネアとかの虫の糸や木や草を加工したりとか」


行き成り現れるのは心臓が止まる程驚くから勘弁して欲しいけど、話に聞く分には些細な事でも俺の世界と違うんだなってとっても面白い。

慣れたと思っても驚く事ばかりで、聞いてて全く飽きないんだ。

でも、何の前情報も無く現れるのは本当やめて。


「あ、そう言えば。

この世界って紙のお金って無いんだよな?

この依頼書にも本にも紙が使われているし、依頼内容を見るにヒツジが飼育されていて、ある一定以上安定して紙が手に入るのに何でなんですか?」


ふと、今日此処に来て話題になったお金と紙の話からその事が気になった。

金属が貴重で、ボスが出してくれた依頼書を見るに印刷技術も有って、なのに紙のお金が無い。

アニメやドラマからの知識だけど、俺の元々居た世界だと硬貨のお金より紙のお金の方が多いと思う。

偽物のお金って言うと大体偽札だし。

そう思って尋ねた俺にボスは、


「お前さんの世界の紙がどんなものか知らんが、時間結晶を使わなきゃこの世界の紙は魔法で加工しても1、2年後には読む事も書く事も出来ない位ボロボロになっちまうんだよ」


と答えてくれた。


「お金って、日常で使う物だからね。

常に時間結晶で出来た部屋や箱に入れて置けないでしょ?

だから、直ぐボロボロになるし、魔法やスキルを使ってる時に誤って燃やしたり、塗れて溶かしたら損でしかないよ。

多分、この世界でお金の紙が出来ても1年も持たないんじゃないかな?」

「そっか。

この世界の紙ってティッシュやトイレットペーパーみたいで、俺が思っている以上に脆いんだな」

「サトウの世界だとどの位保つんだ?」

「えーと。お金だとどの位保つんだろう?」


そういえば、夏目漱石が書かれた昔の千円札なら実際見た事あるな。

それに、空かない古い金庫をを空けたら聖徳太子が描かれた1万円札が出て来たって話もどっかで聞いた事がある。

でも、実際お金の寿命ってどの位なんだ?

1、2年位?

それとも古いお金が残ってる事を考えると5年とか10年位保つのか?


この世界の様に魔法もないし、町を出たら直ぐに危険な魔物や動物とエンカウントって訳でもない。

そう考えると人の間を渡り歩いて直ぐ汚れるとしても、この世界よりは長く使われているんじゃないかな?

紙自体ならかなり丈夫だし。


「ごめん。

お金がどの位保つか分からないけど、紙自体なら種類や保存状態にもよるけど、読み書き出来る状態って意味なら10年、20年位は保つって聞いたな。

保存状態が良ければ100年、200年保つ物もあるし、和紙って紙なら1000年保つって言われてるよ。

虫に食われたり黄ばんだりしてるけど、博物館とかで実際に使われた大昔の本や手紙が展示されてる事あるし」


昔ながらの和紙なら1000年以上保つらしいけど、今一般的に使われている紙は薬とかを使っているせいで100年が限界だとテレビで言ってた。

保存状態と運が良くて和紙で出来た、平安時代とか初期の鎌倉時代の本が今も残ってるとも。


「だから、俺からしたら紙って意外と丈夫な物ってイメージが強いな。

種類によっては水に浸けても乾かせば使えるし、燃やしたり切り刻まなければ結構大丈夫な方だと思うよ?」

「ほーう。

お前さんの世界は作るから丈夫なのかね?

まぁ、その依頼書もそうだが、魔法で加工しているから多少なら問題ないが、水に落としたら使いもんにならんし、簡単に燃えちまう。

そうなったら依頼の報酬は出ないから気をつけろよ?」

「はい、気をつけます。

あ、でも、実物がどんな物か分かりませんが、そんな繊細な紙を扱う仕事を何も知らない俺達がやっても大丈夫なんですか?」

「そうだよね。

紙の収穫って結構技術がいるはずだよ?」


ボスが出してくれた依頼はヒツジの紙刈りの手伝い。

そんな加工されていてもボロボロになり易い繊細過ぎる紙を、何も知らないド素人が扱って良いものなのか?

ユマさんの話では刈り取るには相当の技術が必要みたいだし、寧ろ俺達が行っても損しかないと思うんだ。


「誰も紙を刈り取れとは言ってないさ。

お前達にやって貰いたいのは、収穫した紙を倉庫に運ぶ事だ。

お前達、物を浮かせる魔法や影を操る魔法、肉体を強化出来るスキルを持っているだろ?

依頼人からは1度に大量に運べるスキルや魔法を持っている奴等を出来れば寄越してくれって言われているんだよ」


そんな不安な俺達にボスは特に気にした様子も無くそう言って依頼書を見せてきた。

依頼人はラム・ルディって人で、そこには、


『最近オオカミがヒツジを狙う事が多く、ヒツジを守る為に人を割いて収穫の人手が足りないので手伝って欲しい』


と書かれていた。

しっかりと仕事内容は収穫した紙の運搬だと書かれている。

そして、もう1つ条件が。


「自分の身は自分で守れる者・・・・・・か」

「この依頼のサマースノー村って、掲示板に張ってあった『オオカミの群れの退治』を依頼していた所だよな?」

「そうだ。

ここ数年、サマースノー村はオオカミに狙われてるんだよ。

何年か前までは不思議な程オオカミに見向きもされていなかったのに、だ。

オオカミに狙われているせいか、その位からサマースノー村の紙の質も落ちてきたんだよ」


どうやら、この依頼の場所は相当危険な様だ。


「依頼を受けた冒険者や村の男衆が守っているからそうそう簡単には襲われないさ。

とは言っても常にオオカミに狙われているからな」

「だから、いざとなったら最低限自分の身を守れる事が条件なんですね?」

「あぁ。

お前さんは結界系の魔法も治癒系の魔法も持っているし、そっちの2人はその歳にしては戦い慣れている。

お前さん達でも十分安全に出来ると思うが、どうする?

今の所ギルドに来ている依頼の中でお前さん達が出来そうなのはこれ位しかないぞ?」

「そうですね・・・・・・・・・どうする?

俺としては依頼は出来るだけ受けたいんだけど・・・・・・」


もう『ドロップ』で出たお金が使えないとなると、今の貯金では心もとない。

普通に生活する分には余裕がある位だけど、またルグの部屋の様な予想外の出費があるとまともに買い物も出来ないだろう。


「オレは受けても良いと思うぞ。

掲示板の依頼の条件を見るに、他に村を守っている冒険者はそれなりの実力者だ。

襲われる事はまず無いと思っていいと思う」

「うん。

それに、運ぶだけなら私達でも出来るからね。

私も、賛成だよ」

「うん、よし。

他に出来る物も無いって言われたし、この依頼受けます」


ルグとユマさんと軽く話し合い、この依頼を受ける事にした。

何時も通り依頼書にサインし、丸まった依頼書を何時も以上に慎重に鞄に入れる。

あの話を聞いた後だと、今にも壊れそうな物に思えてつい慎重になってしまったんだ。


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