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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1 章 体験版編
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90,襲撃の毛玉 前編


 鈍器になりそうな程硬い、白っぽい黄色の丸パンを12枚切りの食パン以上に薄くスライスしてお皿に並べる。

中が詰まっていて硬い所はライ麦パンや黒パンと同じだけど、この世界のパンは精製度が低かったり混ぜ物が多いと黄色っぽくなっていき、逆に高いと茶色っぽくなっていくそうだ。


そして、別のお皿には市場で買ったハムや塩湯でし食べやすい大きさに裂いた風見鶏のモモ肉、調味料類と同じく暇を見て一度に大量に作って食料庫に置いておいた『クリエイト』で出したスライスチーズ。

厚めにスライスしたトマトやキュウリ、玉ねぎ、レタス、イチゴ、ブルーベリー、リンゴなんかの野菜や果物。


そうそう、最初の頃はマヨネーズやケチャップなんかの調味料も手作りしていた。

けど、栄養とかカロリーの事があるとはいえ、味の面でも衛生の面でも『クリエイト』や『ミドリの手』で出した方が良い事に気づいてからは作ってない。

うっかり手作りマヨネーズを一晩食料庫に入れ忘れたら、翌朝赤と緑のカビみたいなのが物凄く繁殖していて2度と作らないと心に決めたのは記憶に新しい。

市販されている卵は基本その日採れた新鮮な物だから、サルモネラとかは大丈夫だろうと油断していた。

けど、あれを見るともうこの世界の生卵食えそうに無い。

たった1晩で、それも普通は腐らない物の中であんなに繁殖するって・・・・・・

俺の作り方が下手過ぎたせいもあるかも知れないけど、とりあえずこの世界の菌、マジで怖い。


だから卵の具は確り火を通した2種類。

みじん切りにして『クリエイト』で出したマヨネーズと和えた固湯で卵のシンプル卵サラダと、砂糖は入れずバターと塩コショウのみで味付けしたスクランブエッグを用意した。


小鉢にはイチゴ、ブルーベリー、マーマレードの3種類のジャムと、『ミドリの手』で出したチョコと買った牛乳を混ぜただけのチョコクリーム。

ミルクラクダのバター、『プチヴァイラス』で作ったヨーグルト。

スライスチーズと同じく『クリエイト』で出しておいたクリームチーズを用意した。


飲み物に気持ち濃い目に入れた紅茶を用意して本日の朝食は完成。

休日の朝だから手の込んだ物を作っても良かったけど、今日はユマさんの故郷の料理に挑戦してみた。

最初は物珍しさもあって美味しいと言ってくれていた俺の世界の料理。


いざとなったら草原の動物や魔物を狩ったりして食べる。

そんなワイルドで細かい事は気にせず何でも食べるルグ。


好む味覚の範囲が広い上、好奇心と言うか知識欲と言うか・・・

そう言うのが旺盛で、チャレンジ精神で異世界の料理でも進んで食べてくれるユマさん。


それで作った本人である俺と言う3人だから今まで俺の世界の料理だけでも何とかなっていた。


でも流石にルグもユマさんも飽きて来た様で、俺は今2人に教えて貰いながらこの世界の料理に挑戦中なんだ。

まぁ、まだ見た事のないこの世界の食材を使った物は無理だけど。

後、難しいのもまだ無理だし、実際作れる物は限られている。


「でも、これは簡単過ぎる気がするけどな」


目の前の料理と言っていいのか分からない朝食。

ジャックター国の一般的な朝食の1つであるこれは、薄く切ったパンにそれぞれ好きな具を載せて食べるだけ。

忙しい朝には簡単に出来て便利だし、パンはユマさんに教えて貰いながら作ったけど、手抜き過ぎないか心配になる。

いや、パン作りは予想以上に大変だったけど。

ただ小麦粉を水や牛乳、酵母と混ぜで焼くだけだと思っていたら、俺の想像を超える難しさだった。

中々種が混ざらなくて1つの塊じゃなくてボロボロの小さな塊になっていくし、思う様に発酵しなくて膨らまないし。

各家庭でパンを手作りしてるなら、ある意味手の込んだ朝食とも言えなくないよな?

後、ジャックター国で定番の保存が利く具が何種類もあるらしいけど、まだ作れないんだよな。

もしかしたら、それがとんでもなく手間がかかるのかもしれない。


まぁ、今は異世界料理初心者でも簡単に出来る並べるだけの朝食だけど、他のジャックター国の一般的な朝食には作る朝食もあるそうだ。

聞いた話だと、甘くないホットケーキとか、前日の夕食で余った枝豆とトマトのスープにジャガイモで作った団子を入れた物とか。


そうそう、どちらかと言えばしょっぱいものが多いジャックター国とは逆に、ルグの故郷、グリーンス国は朝食に甘い物や果物や木の実を食べるそうだ。

ドライフルーツと木の実で作ったクッキーの様な焼き菓子とか、炒った木の実を挽いた粉で作ったクレープの皮にジャムやメープルシロップの様な甘い樹液を掛けた物とか。

後、凄い偶然だけどグリーンス国にはフレンチトーストが存在していた。

まぁ、異世界だから俺の知ってる作り方とは大分違うけど。

牛乳と卵の代わりにフルーツジュースや樹液に香辛料やミントを加えた液にパンを浸して焼く伝統的な料理で、木の実と果物と一緒に食べるそうだ。

この話をルグから聞いた時は動物性の物を使わずに作ってる所を考えるにエルフの為の料理なのかと思っていた。

でも、


「いや、エルフだって肉も卵も食べるぞ?

ユニが1番好きな食べ物はオムレツだしな」


と、物語に出てくるエルフと同じ様にこの世界のエルフも動物性の物を食べれないのか聞いたら、


「如何してそうなった?」


と言いたそうな顔でルグに違うと言われた。

どうもこの世界のエルフは耳が尖って長い種族だからエルフって翻訳されているだけで、別に野菜しか食べれないとか、寿命がとんでもなく長いとか、美女とイケメンだけとかでは無いらしい。

そんな事を思い出しながら俺はルグとユマさん、ジャックを起こす為に2階に向かった。


「ルグー、ユマさーん、ジャックー。

朝だよー。ご飯できたよー」


トントンと戸を叩いて2人と1匹を呼ぶ。

ユマさんからは今着替えているという返事が帰ってきたけど、ルグの部屋からは、


「ん~・・・」


と言う寝ぼけた声とゴロゴロベットを転がる音だけ。


「ルグー、入るぞー」


半分寝ていて多分聞こえていないだろうけど、一応声を掛けてから部屋に入る。

お目当てのルグはケット・シーの姿で掛け布団の中でうー、うー唸りながらゴロゴロ転がっていた。


「ルグ、朝ごはん出来たぞ。

起きないなら先食べてるからな?」

「う~・・・・・・・・・はよ。サトウ・・・」

「おはよ・・・・・・」


体を揺すって声を掛けるとルグがのろのろと体を起こした。

寝起きが悪い方のルグの何時も通りの朝の姿。

けどその姿に俺は思わず息を呑んでしまった。

それはルグが体を起こしたその瞬間、ルグの頭の部分の茶色い毛がゴッソリ束になって抜け落ち、枕とベットの上に散らばったからだ。


「・・・・・・サトウ?」

「・・・・・・・・・ぃ」


ルグの顔を見たまま固まった俺にルグが眠そうな目で俺を見返して首を小さく傾げる。

そしてまたハラハラ落ちる毛。

そんな何時もと違うルグに、


「ぎゃぁあああああああああああああああ!!!」


俺の口からは思わず悲鳴が出ていた。


「ッ!!ななななんだよ!!」

「どうしたの!?ルグ君、サトウ君!!?」


俺の悲鳴に寝起きでボーとしていたルグは飛び上がり、悲鳴を聞きつけたユマさんが飛び込んで来る。


「どどどどどどユマさ。

ル、ルグ。ルグがぁ・・・・・・」

「サトウ君落ち着いて。ルグ君がどうしたの?」

「え?え?オ、オレ?オレ、なんとも無いぞ?」


上手く喋れない位混乱していた俺はユマさんに言われ、何度か深呼吸を繰り返した。

その間、俺の混乱の原因が自分だと分かったルグが、自分の体を触ったり見回して首を傾げる。

その時またルグから毛の束が落ちた。


「ほら、また!ルグから毛が落ちた!」

「え、毛?」


そう言って頭に手を当てたルグの手には大量の茶色い毛。

黒や白の部分も少し抜けているけど、茶色の部分みたいに束になって大量に抜けて無い。

茶色の部分だけ1度にこんなに大量に抜けるなんて普通じゃないだろ?

まさか、なんかの病気に罹ったんじゃないよな?


「どうしよう、ユマさん!

まさかルグ、変な病気に罹ったんじゃないよな?」

「っしゃ!!見ろ、ユマ!やっと抜けた!!」

「おめでとう、ルグ君!」

「へ?」


病気を疑う俺とは反対にルグとユマさんはルグの毛が抜けた事を喜んでいた。

当の本人であるルグなんって、さっきまで眠そうだったのが嘘の様に部屋中を飛び跳ねて喜んでいる。


「え、えーと・・・・・・」

「大丈夫だよ、サトウ君。

あのね、ケット・シーって生まれた時は見んな毛が茶色なんだ。

それで成長すると茶色の毛が抜けて色んな色や模様の丈夫な大人の毛に生え変わるんだよ」


人間の歯が生え変わるのと似た様な物だ、と言うユマさん。

個人差はあるものの、大体7、8歳から始まって15歳までには大人の毛に完全に生え変わるらしい。

だから、その年頃のケット・シーは皆2、3色の毛色をしているそうで、三毛猫だと思っていたルグも実際は黒と白の2色のケット・シーだった。

小さい頃は茶色一色で大人になると白と黒になるなんて、何か猫よりペンギンみたいだな。


「それにしても、ルグ、すっごく喜んでるな。

ケット・シーにとって毛の生え変わりってそんなにめでたい事なの?」

「う~ん・・・

確かに嬉しい事だけど、ルグ君の場合は同い年の他のケット・シーの子より生え変わるのが遅くてゆっくりだったからかな?」

「そうなの?」


俺達人間で言えば、周りの奴等はドンドン背が伸びてデカクなるのに自分だけはどんなに頑張ってもチビのまま。

ルグにとってはそんな気分だったんだろうな。


「そっか。

病気じゃないし、寧ろいい事だったんだな。

うん、そっれなら一安心だ。良かったな、ルグ」

「おう!」


まだ、ルグの体には茶色い毛の部分が残っているけど、ルグがほんの少しだけでも大人に近づいた事を喜ぼう。


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