88,スライムパニック! 7体目
「な、何だこれは!!?」
「えっと、このスライム達もこの研究所で飼育してるスライムなのか?」
「いや、違う。
カンパリツノナシケアリスライム、カンパリツノアリケナガスライム、ローズヴィオスライム、エヴィンヴラウデンススライム、アクアゼリースライム、グラスライム・・・・・・・・・
全部、元からエヴィン草原地帯に生息してるスライムだ」
ルグの疑問にクレマンさんは首を横に振る。
もう1度スライム達を見るとやけにカラフルだ。
カンパリツノナシケアリスライム、ローズヴィオスライム、エヴィンヴラウデンススライムは何度か見たことあるけど、他3種は今回始めて知った。
ゴチャゴチャしすぎてどれがどれか良く分からないけど、こんなにカラフルなスライムがあの草原に居るのか。
「そっか。
なんでこんなに集まってるか分からないけど、野生のスライムなら倒しても構わないよな!?」
「ルグ!?ブルドックさんも!?」
そう言うやいなやルグとブルドックさんがスライムの群れの中に飛び込んで行った。
俺とスピリッツさんの話しを聞いていたんだろう。
2人はナイフと剣を使っているのにスライムは分離する事なく倒れていく。
そしてベッチャっと倒れたスライムの周りには色とりどりのビー玉の様な物が転がっていた。
『成功するにはそれ相応の技術が必要』と言われていたのに、本番一発で成功させるとは・・・・・・
流石、というか何と言うか。
その2人を見てユマさんとデビノスさんも直ぐに魔法陣を書き、攻撃していく。
「あぁ、もう!そんなにガンガン攻撃するなよ!?
プリズムスライムが中に紛れてるかも知れないだろ!?」
「あ!そっか。
・・・・・・ちゃんと見て倒すから大丈夫!!」
「間違って攻撃するなよ!?
とりあえず、クレマンさんとスピリッツさんは中へ」
「う、うん・・・・・・」
少し遠くに行ってしまった2人に叫びつつ、念の為にクレマンさんとスピッツさんを研究室に戻し入り口に『スモールシールド』を張る。
魔法陣を書く間に襲われない様に勿論、魔法陣を書くユマさんとデビノスさんの前にも『スモールシールド』を張った。
どちらも重ね掛して厚めに張ったから当分の間は大丈夫だろう。
さて、この後はどうしようか?
俺も攻撃するのに参加した方が良いだろうけど、俺の魔法のコントロール技術じゃこの中に紛れ込んでるプリズムスライムまで巻き込んでしまう。
ルグ達にあぁ言った手前、俺がプリズムスライムを傷つけてどうする。
「・・・『フライ』!
ユマさん、俺上から探してくる!」
「分かった!」
何時だか『クリエイト』で作ったレジャーシートを鞄から出し、『フライ』を掛け、ユマさんにそう声を掛けてから飛んだ。
上から見るとスライム達は研究所を中心に円になる様に集まっていった。
その中でスライム以外のものはルグとブルドックさんだけで他に人の姿も動物も魔物も見当たらない。
「遠くの方にも何も居ないか・・・・・・・・・
と言う事は・・・・・・居た!!」
俺はこのスライム達の中心に在る建物を下から順々にゆっくり見ていった。
そして1番高い屋根の上。
そこに俺達が探していたプリズムスライムが張り付いていた。
下半分はスライムのまま、上半分は眠っている時の様な水晶の花になったプリズムスライム。
光の加減でそう見えていると言うには違和感を感じるけど、水晶の花の部分がユマさんの目の様にコロコロと色を変えている。
「あのスライム達を呼び寄せているのはお前なのか?」
答えるはずが無いと分かっていながら、つい問いかけてしまう。
当然返答は無く俺はとりあえず下に居るユマさん達にプリズムスライムが居た事を伝えてから、プリズムスライムを捕まえる為に手を伸ばした。
しかし、プリズムスライムはスルリ、スルリと俺の手を避ける。
急斜面になった屋根に乗り移るのはどう考えても危険で、俺はレジャーシートから落ちない様に手を伸ばすのがやっと。
だからプリズムスライムに逃げられてしまうんだろうな。
そこで『クリエイト』で出した虫取り網で捕まえる作戦に変更!
「頼むから、大人しく捕まってくれよ~」
そう言って何度も網を振り下ろすけど、やっぱりプリズムスライムに逃げられてしまった。
「あ!待って!このッ!!」
屋根をグルグル回る様に追いかけっこをする俺とプリズムスライム。
虫取り網を持って必死にスライムを追いかけている今の俺はさぞ滑稽な事だろう。
俺、何でこんな事してるんだろう?
「ゼェ・・・ゼェ・・・ゼェ・・・・・・はぁ。
本当、マジで大人しくしてくれって。な?」
「サトウ!助っ人に来たぜ!」
「ルグ!?」
どの位追いかけっこをしていたのか。
レジャーシートの上で息を切らした俺がプリズムスライムに頼み込んでいると、ルグが軽いステップで屋根を駆け上ってきた。
流石、猫!
ルグはあの足場としては最悪な屋根の上に危なくなく立っている。
下を見るとスライム達が未だに集まっているけど、どっからどう見てもこの事件の原因にしか見えないプリズムスライムの確保を優先してくれた様だ。
ルグの代わりにデビノスさんがブルドックさんと一緒にスライム達を牽制してくれている。
急いでプリズムスライムを如何にかして2人に加勢しないとな。
「オレはこっちから回り込むから、サトウはそっちから回り込んで挟み撃ちな」
「分かった。ありがとう、ルグ」
「おう!よし、いくぞサトウ。せーのっ!!!」
俺とルグがほぼ同時にプリズムスライムに襲い掛かる。
これで捕まえられる!と思った瞬間、プリズムスライムはまさかポロリと屋根から外れ、重力に従って落ちていってしまった。
「う、わぁあああああああああああああ!!!?」
「落ちたぁあああああ!?」
流石にこの高さから落ちたら柔軟な体のスライムといえ唯ではすまないだろう。
まさか俺達に捕まる位なら死んでやろうとでも思ってるのか!?
予想外の出来事に俺とルグは叫ぶ事しかできない。
やっと俺達が動く事が出来たのは真下からユマさんの悲鳴が聞こえてきた時だった。
「ユマさん!?」
「ユマ!!?・・・ッ!何だよ、これ!!?」
慌ててユマさんの元に向かうと、潰れているはずのプリズムスライムの姿は影も形も無かった。
その代わりどう言う訳か普段ユマさんが着ているコートが巨大に膨れ上がり、ユマさんを襲っている。
「このッ!ユマから離れろ!!!」
「一体何があったんですか!?」
俺とルグは直ぐにユマさんからコートを剥ぎ取ろうと引っ張るけど、まるで熱々のお餅かトロットロに溶けたチーズの様に伸びてユマさんから離れない。
謎のコート相手に悪戦苦闘しながら、俺は怒鳴る様に『スモールシールド』越しとは言えこの場に居たクレマンさん達に声を掛けた。
「わ、分からない・・・・・・
上から降って来たプリズムスライムが彼女のコートに吸い込まれたと思ったら、こんな事に・・・・・・」
「はぁあ?」
その答えは俺達の予想を遥か斜め上に行く物で、思わず手が止まる。
何だよ、それ。
今このコートとプリズムスライムは一体化しているって事なのか?
そんな事ありえるのか!?
「何ですかそれ!
プリズムスライムはそんな事も出来たんですか!?」
「い、いや!こんな事例今まで1度も無かった!!」
八つ当たりだと分かっていても、ついクレマンさんを責める様に怒鳴ってしまう。
「何故、教えてくれなかったんだ!」
と。
クレマンさん達の様子からコレが今回初めて起きた特殊な出来事だと言う事は分かる。
でも、このままユマさんがプリズムスライムに殺されるのでは、と思うと・・・・・・・・・
それなのに何も出来ない自分の無力さが歯痒くて、頭では分かっていながらも周りに当たってしまったんだ。
「クッソ!」
悪態を吐きつつもコートを見回す。
力で及ばないなら何か他に方法は無いか?
そう思って見てみるとコートの1部がビー玉位の大きさの円形のシミの様に他の部分と色が違っている事に気づいた。
普通のコートだった時はこんなシミは無かった。
不思議に思うより前に俺の頭にスピリッツさんのあの言葉が浮かび上がってくる。
違う。
あれはシミじゃない。
あれは、コートと一体化したプリズムスライムの核だ!!
そう気づいた俺の体は考えるよりも先に、
「ユマさんから離れろ!!」
と叫びながら手に持ったままの虫取り網を核に叩きつけていた。
核を攻撃されプリズムスライムは悲鳴を上げる様に体を捻りながらユマさんから離れる。
その一瞬とも言える隙にルグがユマさんを抱え俺達の目の前から消えた。
ルグの行動に疑問に感じ、
「そんな目の前から消える程遠くに行かなくても・・・」
と思った次の瞬間にはもう、俺の頭にはその答えが浮かんでいた。
そうだ、あのコートを着ていないとユマさんがジャックター国女王だってバレルんだった!
「ユマさん!?大丈夫!!?」
「う、うん。大丈夫、問題ないよ!」
俺の『大丈夫?』の意味を察したユマさんが建物影から出てきながら言う。
『状態保持S』の効果で俺の目にはユマさんの頭には角が生え、背中からは翼の生えた悪魔の姿にしか見えない。
けど、ユマさんの後ろから出てきたルグの様子から完璧に人間に化けれているみたいだ。
あの短時間の間に無事魔法を掛けれたんだな。
その証拠に出てきたユマさんに対し周りは心配こそすれ、驚いたり怯えた様子はない。
その事に俺はホッと胸を撫で下ろした。
「それなら良かった・・・・・・
後はあのコートからどうプリズムスライムを剥がすかだ」
未だにモゾモゾ動くコートに虫取り網を構えながら少しずつ、ゆっくり、ゆっくり、ズリズリと近づく。
だけど、ギリギリ虫取り網が届く範囲まで近づいた所で急にコートが大人しくなった。
大人しくなったからと言って攻撃してこないとは限らない。
だから俺は、プリズムスライムの攻撃に備え『スモールシールド』を唱えた。
けど、この『スモールシールド』は全く役に立たなかったんだ。
なにせプリズムスライムは俺達を襲うのでは無く、何故かコートごと目も開けれない程激しく輝きだしたんだから。
「うわぁ!?」
「ま、眩しい!!」
強く瞑った瞼の奥で、まるで俺の閃光弾バージョンの『プチライト』の様な光が収まったのを感じ取った俺は、数回瞬きをしてやっと今の明るさに少しずつ慣れる事が出来た。
その間コートと一体化したプリズムスライムから目を離していた時間は結構長く、1分以上は確実に過ぎていただろう。
その間にコートは消え去り、代わりにコートがあった場所には虹色の薄いガラスで出来たバラの様な花が着いた、コートと同じ色のリボンが1つ置かれていた。
「え?
まさか、コートとプリズムスライムがこれに?」
「嘘・・・・・・」
「クレマンさん・・・これって・・・・・・」
プリズムスライムが襲ってくる事を警戒し、少し離れた所からリボンを観察する俺達。
この状況からしてコートとプリズムスライムがこのリボンになった様にしか見えない。
『スモールシールド』が解け出てきたクレマンさん達にどう言う事だと言う視線を向ける。
けれど、クレマンさん達も良く分かっていない様子だ。
「少し、時間をくれないかな?
直ぐに調べてみるから」
「はい、分かりました。
それなら私達は周りのスライム達を何とかしていますね」
何の躊躇いも無くリボンを拾ったクレマンさんがユマさんに尋ねる。
それに快く承諾したユマさん。
そのユマさんの言葉を聞き研究所に戻ったクレマンさん達とは正反対に、俺達はユマさんの言う通り未だに残るスライム達を見た。
やっぱり、あのプリズムスライムがこのスライム達を呼び寄せた元凶だったんだな。
もうスライム達が増える様子はない。
俺達が騒いでる間もデビノスさんとブルドックさんが頑張っていてくれた様で、だいぶスライムの数は減っていた。
何時までも2人任せっきりにする訳にもいかないし、早く俺達もスライムの相手をしなくちゃ。




