8、ギルド 後編
「・・・・・・よし。
これでお前も今日から冒険者だ」
早っ!
1分も掛かって無いのにもう終わったのか!?
「ありがとうございます」
「あぁ。
何時もならこのまま簡単な依頼を受けて貰うんだが・・・・・・
お前さん、今日、この街に来たばっかか?」
「え、えぇ、はい」
「住む所は決めたか?」
住む所、か。
全く考えて無かった。
魔女達が用意・・・・・・してくれないよな。
「いいえ、まだ。
お金も有りませんし、暫くは野宿をしようかと」
「止めておけ。
初心者が野宿なわてそんなに死にたいのか?」
「いいえ!全くそのつもりはございません!!」
そんなにこの世界って危険なのかよ!?
モンスターに食い殺される危険があるからか?
それとも、盗賊に身包み剥がされる?
若しくは、貴族や商人に・・・・
「バス、トイレ付き、最新の石釜と高品質氷木箱も完備したキッチンがある、月2万リラの貸家があるがどうだ?
元々はどこぞの貴族のボンボンが立てた別荘だったんだ。
本来なら唯の冒険者処か中小商人にも一生縁の無い物件だ」
氷木箱?
リラ?
ボスの話から察するに氷木箱は調理器具の一種で、リラはこの世界、若しくはこの国の通貨の単位だと思う。
念の為に魔女に聞いてみるか。
ちゃんと答えてくれるか分からないけど。
しかし、月2万か。
この世界で冒険者が1ヶ月でどれだけ稼げるか分からないし、物価もどの位か分からない。
でも元の世界で考えると有り得ない位安過ぎるんだよなー。
『本来なら唯の冒険者処か中小商人にも一生縁の無い物件』って事は元々高価値な物件だったはずだ。
それが2万。
「つまり、何も知らない国外から来た人間に押し付けたい程厄介な曰く付き物件なんですね?」
「お、見かけによらず鋭いな。
駆け出し冒険者でも稼げる値段で夢の高級物件に住めるんだ。
今までならどんな奴でも飛び付いてきたんだがなー」
ニヤニヤしながら見ていたボスが苦虫を噛んだ様な表情で呟いた。
どう考えても可笑しいだろう。
今までこの話を持ち掛けられた冒険者達は何故、可笑しいと思わなかったんだ?
「で、どうすんだ?
此処以上に安い所なんて無いが他の所にするか?」
「いいえ。
此処に着たばかりで伝も無く、無一文な俺が選べる状況ではありません。
月々の支払い方法と相手、場所と曰く付きの理由が分かれば何があっても文句は言いませんよ」
「ほぉ、意外と度胸有るじゃねぇか」
「いえいえ」
今もボスを見て足がマナーモードです!
でも背に腹は返られない。
数日暮らしてダメだったら他に移ればいいよな。
「で、どんな理由があるんですか?
事件、事故、自殺?
そのせいで凶暴な悪霊が住み着いてるとかですか?
それとも、入ったら最後、行方不明者多数?」
「いんや。
そんなモン目じゃ無い程凶悪な魔物が2匹住み着いちまったんだよ。
1匹は不気味な野生のロックバードだ」
「ロックバード?」
「何だ、ロックバードも知らんのか?
何処にでもいる奴らなんだが・・・・まあ良いっか。
ほれ、あのカウンターの後ろに沢山居るだろ?」
ボスが指差したのはあの大量の鳥篭。
あのカラフル雀がロックバードなのか。
長い尻尾とコロッと毛が膨れた見た目は、岩石って呼ばれる様なゴツイ感じじゃないし、元々岩場に住んでいた魔物なのか?
「あいつ等は気に入った物、特に部屋や箱に尻尾の鍵で鍵を掛け開けれなくする習性があるんだよ。
ロックバードに鍵を掛けられたモンは鍵を掛けたロックバードが開けるか死ぬかするまでどんな事をしても開かないし、どんな攻撃でも壊せない。
うまく調教できれば唯の木箱でも頑丈な金庫に早変わりだし、部屋なんかどんな手慣れでも侵入不可な砦にしちまう」
あ、ロックって施錠の方なんですね。
此処からだと尻尾が鍵の形をしてるかどうか分からない。
「ん?あの、野生のロックバードが住み着いているって事はつまり、借りても家に入れ無いって事ですよね?」
「入れるには入れるんだがなー。
普通のロックバードなら気に入らない奴を入れない筈なんだが、不思議な事にそのロックバードはどんな奴でも家に入れてくれる。
だが1度入ると・・・・・」
「は、入ると?」
ゴクリと唾を飲み込み、次の言葉を待つ。
その間はほんの数秒だったかも知れない。
けど、やけに長く感じた。
「鳥恐怖症と猫恐怖症に成るまで出してくれんのだ」
「・・・・・・・・・はい?」
あのカラフル雀で鳥恐怖症?
何それ、冗談?ギャグ?笑うとこ?
寧ろ、猫と一緒に居て大丈夫か心配になる。
猫って雀を食べるんだぞ。
「信じて無いな。
だが、死者は今の所いないものの、その貸家を立てた貴族もその貴族に雇われた冒険者も。
貸家にしてから入った住人も絵に描いた鳥や猫にすら尋常じゃない程怯え切っている」
「う~ん、やっぱり想像出来ません。
本当に冗談や脅しじゃないんですよね?」
「あぁ、全部本当の事だ。
特にもう1匹の魔物、猫の方の被害なんて目も当てられない程だ。
今なら間に合うが止めるか?」
どう言われても答えは決まっている。
「いいえ、お願いします」
「ここまで聞いて怖がらないなんてお前さん変わってるな。
一応契約はこっちでしておくから安心しろ。
管理は此処のギルドがしてるから、支払いは5番カウンターでしてくれりゃ良い。
それと、今まで最大で3日で皆出て行っちまったから、3日間暮らしてダメだったら金は払わなくていいぞ」
そう言ってボスは手書きの地図を渡してきた。
その地図には此処から件の貸家の場所までと、
「あの、この貸家までの途中にあるもう1つの印の場所は?」
「お前さん、そんな傷だらけで準備もまともにして無いのに冒険に行く気だったのか?
依頼を受けるなら先ずその怪我を治して装備を整えな」
「ですが・・・」
俺は金を持っていないのだともう1度言おうとした俺をボスは手で制止、言葉を続けた。
「あぁ、分かってる。金が無いんだろ?
その途中の印はギルドお勧めの新人冒険者御用達の店だ。
冒険に必要なものは一通り揃ってるし、新人には1回ならツケにしてくれるさ」
「そうなんですか!なら、是非行ってみます。
ありがとうござました!!」
「おう、頑張れよ」
ボス、見た目は怖いけど良い人だな。
で、戻ってみると不機嫌な顔×2+無表情。
「随分遅かったですね。
何か問題でも起こしましたか?」
魔女よ、開口一番にそれですか・・・・・
「すみません。
職員の方に貸家と新人冒険者御用達のお店を紹介して貰っていました。
早速行こうと思うのですが、いいでしょうか?」
「勝手に行けば良いだろう?何で僕達に聞くんだよ」
「いえいえ。
まだ異世界の能力を研究するって仰ったではありませんか。
俺が勝手に行動したらまずいでしょ?
念の為に確認したまでですよ」
まぁ、ダメと言われても勝手に行くけどな。
ただ、確認するフリ位しないと後々何言われるか分かったもんじゃない。
言質さえ取れればそれで良いんだ。
「そうですね・・・仕方ありません。
ジャル、ダン。私達も一緒に行ってあげましょう」
「「はい」」
別に来なくっていいのに。
寧ろ来るな。
と言いたいけど営業スマイルを貼り付けたまま耐える。
こっちもまだ確認したい事があるんだ。
もう少し一緒に行動した方が良いだろう。