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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1 章 体験版編
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84,スライムパニック! 3体目


 長年学界に認められ無かった自分達の研究成果が俺達のお陰で認められたと、嬉しそうに語るクレマンさん。

そのままの勢いでクレマンさんは俺達、と言うか俺を質問攻めしだした。

案の定クレマンさん達も依頼書の記録を見ているから、俺達の行動は知っている様で、だから如何してその考えに行き着いたのかと言うのが主な質問内容だ。

名乗っていないのに俺達の名前を知っていたのもそれが理由らしい。


時々ルグ達に補足して貰いながら俺はコカトリス事件の事を、出来るだけ思い出し答える。

そのやり取りで分かった事だけど、俺が出した目玉模様の布。

あの目玉模様は元の世界では蛇や猛禽類。

特に多くの鳥類の驚異であるハヤブサの目に見えて大体の鳥は怖がって逃げるから、鳥避けとして効果があるんだ。

けど、この世界ではあの大きなコカトリスをパックと1口で食べてしまう巨大ワニ、イーラディルスの目に非常に似ているらしい。

イーラディルスは『自分より大きく強い相手でも怖気ずに攻撃してくる』と言われているコカトリスが、唯一直ぐに逃げる程巨大で恐ろしく強い動物だ。

ただし、イーラディルスから逃げるのはイーラディルスが唯一住んでいるマリブサーフ列島国に住んでいる種類と、その種類のコカトリスを改造した俺達が倒したコカトリスのみらしい。


と、言う事はどの種類のコカトリスにもあの目玉模様が効く訳ではなく、本能的に恐ろしい者と刻まれたイーラディルスが居ないクランリー国のコカトリスには効果が無いと言う事か。

コカトリスには最有効手段だと思っていたから今の内にその事を知れて良かったよ。

インコ型には目玉模様が効いて、鶏型には効かないと覚えておこう。


そしてもう1つ、コカトリスの意外な生態を教えて貰った。


「君達はコカトリスの尻尾の擬態を雛の頃、毒が吐けないから身を守る為に蛇に擬態させている、と言ってたよね?」

「はい。実際は違うんですか?」

「うん。

よく間違われるんだけど、バジリスクって言うコカトリスと大きさも姿も同じ魔物が居るんだ。

正確に言えばコカトリスはある習性からバジリスクそっくりな姿に進化していったんだ」


バジリスクって言うと蛇の王って言われる何か強い大蛇だよな?

猛毒を持ってて視線で人を殺したり石化させる。

どうもこの世界では大蛇ではなく、鳥と蛇が混ざったコカトリスそっくりな姿らしい。


「バジリスクはコカトリスと違い、蛇の部分にも脳や口がある。

つまり、ちゃんと蛇として生きているんだ。

そして、バジリスクはコカトリスの天敵でもある」

「天敵・・・・・・

って事はバジリスクはコカトリスを食べるんですか?」

「そう、バジリスクの好物はコカトリスを含む鳥の卵や雛なんだ。

蛇と鳥、2つの口でバクバク食べちゃう。

だからコカトリスはバジリスクに食べられない様に、バジリスクそっくりな姿に進化する事で身を守ったんだ。

自分達は仲間だよ~、だから食べないで~、って」

「へ~。

あんな大きくて毒も吐く鳥を狙うなんて、凄い獰猛な鳥なんですね。

バジリスクって」


すっごく巨大らしいイーラディルスなら兎も角、同じ大きさなのにあの性能の親が守るコカトリスの雛をエサにするなんて・・・・・・・・・

ルグより凄い食欲していないか?

そう感心しているとクレマンさんに変な所を否定された。


「いや、バジリスクは鳥じゃないよ」

「え?じゃあ、尻尾が鳥になった蛇なんですか?」


実は蛇の方が本体と言う、そんな設定の漫画を読んだ事を思い出し尋ねる。

だけど、それも否定された。


「ううん。鳥の体に生きた蛇の尻尾が生えてるんだ。

尻尾の蛇を失っても鳥の部分は生きていられるし、呼吸器官なんかの体の構造もほぼ鳥の物だ。

でも、尻尾の蛇だけは外の温度で体の温度が変化するし、寒い場所では動きが鈍る。

場合によっては蛇の部分だけが冬眠する場合もあるんだよ。

卵も形は鳥の卵に近いけど性質は蛇の物だ。

鳥とも蛇ともはっきり言えない、その中間の種族と言えるんだ、バジリスクは」

「えーと、それは、俺達が知らなかっただけで進化の結果、そう言う中間の種族が生まれていたって事ですか?」


始祖鳥とか羽毛恐竜とか。

確か鳥類と爬虫類どっちの特徴も併せ持っているって聞いた事がある。


「いや。

確かに現代に残るバジリスクは長い年月を掛けて多少進化している。

けど、バジリスクの祖先はある日突然、あの姿そのままで出現したと思われるんだ。

あの姿以前の化石が見つからないし、進化。

つまりは元々の形態から世代ごとに改変されてきたなら、今居るバジリスクには祖先の名残があるはず。

だが捕まえて解剖したバジリスクには不自然な程そういう痕跡が見つからなかった。

バジリスクを含め幾つかの生き物や植物は、何者かの手が加えられたとしか思えない様な、自然に進化した結果あの姿になったと考えると可笑しな所が多くあるんだ」

「自然に進化した結果では可笑しい、突然現れた誰かの手が加えられた生き物。

まさか・・・・・・」


ユマさんの祖先が『生命創造』で作った生き物なのか?

そう思って隣に座るユマさんを見ると、ユマさんも同じ事を考えたらしく、不思議そうに話しを聞いていたその顔から表情がドンドン抜け落ち真剣なものに変わっていってる。

その俺達の顔を見てクレマンさんは頷きながら答えた。


「そう、君達が考えた通りだよ。

バジリスクは魔王によって作られた生き物なんだ!」

「やっぱり・・・・・・」

「1万年前に人間と魔族の大きな戦争が起きた事は知っているよね?」

「はい」


クレマンさんの質問に俺以外の4人が直ぐに頷く。

それ程この世界では有名な話なんだろう。

と言うか1万年も前から人間と魔族は仲が悪かったのか。

俺達の世界で言えば石器時代位からずっと不仲でチョクチョク戦争してるって事だよな。


「えーと・・・・・・」

「おや?サトウ君は良く分かって無いみたいだね?」

「すみません・・・・・・」

「ううん、良いよ。気にしないで。

じゃ、確認の為にも最初から話そうか」


そう言って笑って許してくれたクレマンさんは、雰囲気をガラッと変える様に一呼吸置いてから話し始めた。


「1万年前、魔界ことアンジュ大陸国が5つの国に分かれる事になった、そして人間と魔族の最初の戦争でも在る大きな戦争が起きた」


その最初の戦争が起こる少し前、なんとこの世界は魔王に完全に支配されていたと言うのだ。

本当の本当に血も涙も無い悪逆非道なその当時の魔王に支配された世界の、当時ローズ国の中でもかなりの田舎だったアーサーベルに住む1人の若者が仲間と共に魔王に立ち向った。

その若者、初代勇者であり初代ローズ国王は仲間と共になんとか魔王の手からローズ国を奪還。

そこから少しずつ力を付け、他の国も少しづつ解放し初代勇者はついに魔王軍と全面戦争に打って出たそうだ。


と、言う何か小説やゲームの設定でありがちな出来事が大昔あったらしい。


「結果、双方膨大な損害と犠牲を出したものの最後は人間側がなんとか勝てたんだ」

「と言っても殆ど休戦の様な形だけどね」


ありがちな設定でもゲームや小説とは違って勇者側が完全勝利とは行かないのが現実だ。


「その頃にはどちらもまともに戦える状態じゃなく、人間側が兵の9割を失いながらもなんとか当時のアンジュ大陸国王の首を討ち取った事で、その戦いは終わった。

魔族側は人間側が1度態勢を整える為に大陸を出た隙に残った力の強い者達で人間が入れない様に大陸全土に魔法を掛けたと言われているんだ。

それで結果的に休戦状態なった」


えーと。

ユマさんとクレマンさんの話からすると、ルグがこの世界の説明をしてくれた時見せてくれた『弱虫ジャックターと不思議な仲間達』って絵本に書かれていた戦争の事だろうか?

終わり方とかやっぱり絵本と違うみたいだけど。

でも、それが人間と魔族の最初の戦争か・・・・・・


「その後人間と魔族は約千年毎に戦争をしてるんだけど、その話は今は関係はないから置いとくね。

その1万年前の戦争、『最初の人魔大戦』と呼ばれるんだけど。

その戦の中で魔王は自身の『技』で幾つもの『強力な兵器』を生み出したと言われているんだ」


クロッグの事件の時に聞いた『王都遺跡事件』で出現した古代生物も魔王が生み出した生き物らしい。

魔王が支配していた頃にチボリ国に置いてそのまま忘れられたのか、大昔のチボリ国王の中に魔物をコレクションする趣味の人が居たらしく、その人が買い取ってあの場に閉じ込めていたのか。

遺跡が壊滅状態の今、その真相は闇の中だけど世間一般では前者の説が信じられているそうだ。


「バジリスクの様な不自然な生き物の化石が1番見つかるのも1万年前の地層。

そして物語の中の魔王は魔物を生み出す存在とも書かれる事もある。

これらの事から考えて魔王が産み出したのは強力な『技』や戦闘能力を持った兵器となる生物、通称キメラなんじゃないかと僕達は考えたんだ」


キメラと言うとキマイラとも呼ばれるライオンの頭に山羊の体、蛇の尻尾って言うゲームで良く出てくるモンスターだよな。

ホラーゲームだと遺伝子を組み換えて作られた生物兵器として色んな姿のキメラって呼ばれる敵が出てきたはず。


そう言えばテレビで実際にキメラは実在するって言ってたな。

実在するって言ってもモンスターのキメラの様なものじゃなくて、双子や三つ子を身篭った時赤ちゃんの素が妊娠中に融合したり細胞を交換し合ったりで交じり合う事がある。

例えば、双子の兄弟がお互いにお互いの細胞のツギハギで出来ているとか、体の1部の細胞だけ流産でこの世を去った見知らぬ兄弟の体の細胞になって生まれてくるとか。

そう言う1つの体の中に複数の遺伝子のタイプの細胞が混ざっている状態を生物学ではキメラって言うそうだ。


実際生物学のキメラは珍しくなく、運がよければ本人も周りも知らずに普通に生きているそうで、兄さん達がこの話をテレビで見た時はだいぶ盛り上がってた。

特にブラコン気味の大助兄さんの方の食いつきは凄く、暫くの間紺之助兄さんとのキメラなら良いのにって言ってたっけ。

そもそも2人は一卵性双生児なんだから遺伝子的には同一人物なんじゃないのか?

って大助兄さんが言うたびに思ってたけな。


俺はクレマンさんの言葉にフッとそんな事を思い出し、本題から逸れそうになる意識を小さく首を振る事で振り払おうとした。

首を振った所で本当にその考えが出ていく訳じゃないけど気分的についやってしまったんだ。

周りに不信がられて無いと良いけど。

その思いから少し慌ててクレマンさんに確認の様な質問をした。


「その1つがバジリスクなんですね?」

「そう。

殆どのキメラはこの世界の環境に合わず直ぐに死んでしまったけど、1部の生物は何とか環境に適応し子孫を残し、バジリスクの様なキメラを祖先に持つ生き物がこの世界には沢山居るんだ。

1部のスライムや、そうそう!

四天王達の祖先もキメラだったんだ」

「はぁ!?嘘だろ!!?」


クレマンさんの言葉にルグが叫ぶ。

ルグからしたら自分の家族や友達が元々兵器だったと言われた様なものだからな。

叫びたくなるのも分かる。

でも、俺からしたらミモザさんのあの姿と力は誰かに作られた『兵器』だと言われれば納得出来る物だった。


「まさか。本当なんですか?」

「本当さ。研究所にはその証拠も在る。

興味があるなら続きは研究所に着いてからでいいかな?

もう直ぐ着くから、少し待ってて」

「分かりました」


御者をしているスピリッツさんを窓越しに見ながらクレマンさんがそう言う。

それに頷きながら窓の外を見ると目的の研究所が見えてきた。

エスメラルダ研究所に比べれば確かに一軒一軒は小さいけど、幾つも建物が建っていてかなり広そうに見える。


「ようこそ!エスペラント研究所へ」


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