82,スライムパニック! 1体目
モリーノからの依頼を解決して数日。
その日、俺達はまた名指しで依頼をされた。
「また、ですか・・・・・・」
「おう。お前達も随分有名になったな!」
全く嬉しくないよ、ボス。
ユマさん達の事もあるし、有名になるのはあまり良くない。
極力目立たず地味に活動出来れば良いんだけど・・・
何かもう遅い気がする。
「それで、今回もまた、英勇教からの依頼ですか。
今回もティツイアーノさんと?」
いい加減にしてくれ!!
俺達はあんた等に関わりたくないんだ!!
と、直接言えれば良いんだけど、そんな事不可能で、今回も俺達に拒否権は無いんだろ。
また、あのティツイアーノさんと仕事をするのかと思うと気が滅入る。
そう思っていたんだけど、今回はティツイアーノさんは一切関わっていないらしい。
「ティツイアーノって言うと・・・・・・・・・
あぁ、この前の依頼人か。
いや、今回はあの譲ちゃんからの依頼じゃないぞ。
英勇教を通して依頼してきているが、正確に言えば今回の依頼人は英勇教に協力しているある研究所からの依頼だ」
「研究所?」
俺が関わった研究所と言うと、巨大クロッグのエスメラルダ研究所位だろう。
この間の事件で英勇教に保護された研究員達が元々所属していた研究所は遠く離れたヒヅル国にある。
モリーノの事件が解決した日の夜にルグがミモザさん経由でマキリさんに研究員達の事を連絡したとは言え、英勇教を通じて異国の俺達に依頼する可能性は低いだろう。
依頼するならマキリさんにするだろうし、俺達に依頼するならマキリさん、ミモザさんを通してルグに連絡があるはず。
そもそも、国柄英勇教とは中が悪そうだ。
そうなると、全く接点の無い研究所からの依頼?
・・・・・・・・・いや、そう言えばもう1つ俺達と関わりのある研究所があったな。
「もしかして、英勇教に協力してコカトリスの毒の解毒剤を作り出した博士が居る所からの依頼ですか?」
「そうそう。
この前の依頼人の譲ちゃんから聞いたかもしれないが、解毒剤を作った博士が詳しい話が聞きたいと言って来てな」
「詳しい話も何も・・・・・・
オレ達の行動は依頼書に記録されてるだろ?
あれ以外には特に何も無いぞ。なぁ?」
「うん、うん」
ルグの言葉に頷くユマさん。
そうなんだよな。
コカトリス関連なら俺達の行動は依頼書に記録された事以上の事はないはず。
それ以前の事はちょっとユマさんが書き換えたけど。
「依頼書が記録出来るのは依頼を受けた冒険者の行動だけだ。
頭ん中で考えた事まで記録出来ねぇよ。
だから、あん時お前等が何考えてあの答えにたどり着いたか、色々聞きたいんだとさ」
「はぁ・・・・・・」
色々聞きたいって言われても、そんな凄い事は考えて無いぞ、俺は。
それに、1ヶ月近く前の話だ。
細かい所なんか殆ど覚えてないぞ?
それで良いんだろうか?
「そんな不安そうな顔するなって。
向こうも相手が冒険者だと分かってんだ。
そんな難しい事を聞かれる訳じゃ無い。
それでも、1日、2日束縛されるけどな。
ほら、依頼書」
「あ、はい」
つまり、相手が満足するまで質問攻めに合うのか。
ある意味拷問だな。
あぁ、やっぱり碌な依頼じゃなかった。
これならチミチミと草を集めてる方が何百倍マシだったろうか。
そう、内心愚痴を零し依頼書を見直した。
嫌々ながら受ける依頼でも、依頼内容は確り確認しないと更に碌な目に遭ってしまう。
何事も確認は大事だ。
「えーと、依頼内容は面会と研究所の、見学?」
「見学?
面会と言うか、コカトリスの事を聞かれるだけじゃないの?」
「そう、みたいだな」
ルグとユマさんに聞こえる様、声に出して依頼書を読む。
どうやらただ質問攻めに遭って終わりという訳じゃなさそうだ。
依頼書には、
「我が研究の大恩人である君達に、是非我が研究所を見て貰いたい!
我が研究所を見た君達はきっと我が研究の更なる発展のきっかけをくれるはずだ!」
とも書かれていた。
『研究の大恩人』ってのはお世辞だとしても流石に言い過ぎだろう?
俺達をおだてて一体何をしたいのやら。
「コカトリスの事で過剰に期待されちゃってるのかな?」
「オレ達じゃ、何も参考にならないと思うけど・・・
サトウなら兎も角」
「え!俺!?」
いやいやいや!
俺の何が参考になるって言うんだ!?
そう思って否定するとユマさんがボスに聞こえない様に小声で伝えてきた。
「多分、この依頼人はサトウ君の、異世界の知識を狙ってるんじゃないかな?」
「あっ!そう言う、事か・・・・・・」
魔女達とも深い関わりのある英勇教。
その関係者なら俺が異世界から来たって事を知っていても可笑しく無い。
コカトリスの事だけを聞くフリをして尋問するつもりか?
いや、それよりもスキル玉や魔法玉の様なのがあるんだ。
人の頭の中を覗ける魔法や魔法道具だってきっとあるはずだし、それを使ってアレやコレやするつもりなんじゃ!!
思わずホラーゲームのマッドサイエンティストやカルト教団が行った人体実験のシーンを思い出し、体がガタガタ震えだした。
「おい、まだサインしないのか?」
「は、はい!直ぐ書きます!」
この約1ヶ月間で慣れ切った魔方陣のサインは、想像した恐怖に震えていて特に意識してなくてもボスに促されるまま難なく書けてしまった。
もう、ある意味条件反射なんだろうな。
ハッと現実に目を向けた時には俺の手の中に丸まった依頼書があった。




