81,真夏の夜の鬼火 9つ目
ユマさんが放った『オンブラ』のお陰でさっきまで我武者羅に暴れていたのが嘘の様に大人しくなった男達。
そして影の布で男達を縛り上げてから暫くして、漸く息を切らしながらティツイアーノさんが追いついて来た。
彼女の目はこの状態に大きく見開かれている。
「こ、これは・・・・・・一体、何が・・・」
「ティツイアーノさん。
今、ユマさんの魔法で縛られているのが、恐らくミュドラを沼に放った犯人です」
「違う!!!」
俺がティツイアーノさんにそう言うと男の1人が叫び暴れる。
そう言えば、さっきも違うと叫んでいたな。
念の為ルグ達を背中に隠す様に立ち、『スモールシールド』を掛ける。
それから男に声を掛けた。
「さっきも違うって言ってたけど、何が違うんだ?
俺達がミュドラを見たから襲ったんじゃ無いなら、何故俺達を襲ってきた?」
「それは・・・・・・それは・・・・・・・・・」
まぁ、聞いた所で答えるとは、いや、答えられる精神状態だとは思っていなかったけど。
でも、聞かずには居られなかったんだ。
「なぁ、サトウの兄ちゃん」
「ん?何、レモン君」
「サトウの兄ちゃんはあの小父さん達が何言ってるか分かるのか?」
「え?」
レモン君の言葉に慌てて確認すると、本当にあの男達の言っている言葉が分からないらしい。
『言語通訳・翻訳』のスキルがある俺は、あんな状態の男達の言葉でも分かる様だ。
だからその恐怖がどれ程のものか分からないけど、言葉が通じない複数人の男に襲われたレモン君は相当恐ろしかったと思う。
そう思い俺は極力、レモン君の視界に男達が入らないよう少し移動した。
その後、一応ユマさんとティツイアーノさんにも確認すると、2人も男達の言葉が分からないそうだ。
でも、ユマさんは男達が何処の国の言葉を喋っているかは分かるらしい。
「多分ヒヅル国語だと思うんだけど・・・
あの人達、興奮していて上手く聞き取れないんだ」
「ヒヅル国?その国ってどんな国なんだ?」
「えっと、この国の南西に在る島国で、アンジュ大陸国って言う魔族の国と仲がいい国だな」
「うぁあ、あぁ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
首を傾げるレモン君にティツイアーノさんが説明する前に俺はルグから聞いた話を簡単に言った。
その直後、固く口を結んで震えていた男の1人がこの世の終わりの様な狂った叫びを上げる。
その男の顔に浮かぶのはまるで化け物でも見たかの様な恐怖。
「いやだいやだいやだいやだ!!!
あああああああああああああああああ!!!!」
「ちょっ!おい!あんた、落ち着けって!!!」
他の男達も皆、真っ青を通り越して白い顔で振るえ、視線を泳がしている。
「やめてくれ!あれは俺達のせいじゃない!!あれは、ジャックター国女王が死んだのは俺達のせいじゃない!!!俺達が殺したんじゃない!!!事故だったんだ!!!頼む!許してくれ!!!殺さないでくれ!!!!!!」
「・・・・・・・・・え?」
「馬鹿!!それ以上は!!!」
宥めようとした男の口からとんでもない言葉が出る。
叫んだ男の口を押さえようとして周りの男達が暴れている。
俺はその様子が現実の事に思えず、ただただ固まっていた。
え?誰が、死んだって?
ジャックター国女王って、ユマさんの事?
じゃぁ、今も、一緒に居る、彼女は、誰?
何?
たったそれだけ考えるのに何時もの倍以上時間が掛かってしまった。
「サトウさん、彼らは何を言ってるんですか?」
「・・・・・・あ・・・・・・えーと・・・・・・」
「サトウさん?」
「その・・・・・・事故で・・・この人達が・・・
ジャックター国の、女王を・・・・・・
死なせて、しまったって・・・・・・」
喉と唇がカラカラと乾いた様に、口から上手く言葉が出てこない。
中々離れない唇の間から漏れた言葉に3人が目を見開く。
それと同時に男達の目に諦めの色が浮かび、光が消えた。
「あぁ、もう、私達は逃げられないんだな・・・」
叫んだ男とは別の男がそう呟くと、まるで懺悔でもするかの様にポツリ、ポツリと自分達の事を語りだした。
「私達は、ヒヅル国の空間魔法研究所の職員です。
私達の研究所ではワープ系の魔法道具の研究をしています」
「それって・・・・・・」
『ワープ系の魔法道具の研究』をしているヒヅル国の研究所。
それはユマさんと始めて会った日に聞いた、ユマさんがこの国に来た原因の施設と同じ。
もしかして、この男達がユマさんと一緒にこの国に飛ばされた研究員なのか?
その考えは男の次の言葉が肯定した。
「開発中の魔法道具の実験中に起きた暴走事故に巻き込まれ、私達5人と研究所の廃棄物処理用のミュドラの1匹。
そして、その時丁度研究所を見学に来ていたジャックター国の女王様がこの場所にワープしました。
私達5人と1匹は無事にワープ出来ましたが、ジャックター国の女王様は・・・・・・・・・
着けていた仮面だけを残し消滅してしまったのです!」
「消滅って・・・・・・」
男の話によると、現在研究中のワープ系の魔法道具には『移転型』の回復魔法と同じ欠点がある可能性があった。
つまり移転先での再構築の失敗。
別の場所にワープしても体がバラバラになったり、手足が逆に生えたり。
場合によっては別のもの同士がくっ付いた様な姿でワープされたり。
最悪の場合、上手く再構築出来ずただの魔元素として分解されワープしたものが消滅してしまう。
何かSF物で聞く様な問題が有るそうだ。
100%そんな事が起きない様、如何にかしようと研究している最中に事故が起き、懸念していた通りワープ先の再構築に失敗したジャックター国の女王は消滅してしまった。
だが、これは完全なる事故であり、ジャックター国の女王が消滅したのも自分達のせいではけして無い。
と言うのが男達の言い分だ。
「私達に一切の落ち度の無く、完璧に仕事をこなしていたんだ。
本来あの事故は起きないはずだったんだ!
それでも起きたあの日の事故は不良の事故で、ジャックター国の女王が亡くなった事は運が悪い、仕方ない事だなんだ。
けれど、私達がどんなに言っても魔族の者が信じるとは思えない。
国に戻れば・・・・・・
いや、この事が誰かに知られれば私達とその家族はジャックター国の女王を殺したと言う罪で惨たらしく殺されてしまう!!」
そう言って怯える男達。
何が原因かは分からないけど、ユマさんだけ別の場所に飛ばされた様で、そのせいで男達はユマさんが死でしまったと思い込んでいる様だ。
実際はユマさんはこうして五体満足、何処にも怪我する事無くこの場所に居る。
でも、男達には申し訳ないけど、その事を言う訳にはいかない。
この場にはティツイアーノさんも居るし、依頼書にも記録されている。
このままユマさんが死んだ事にした方がユマさん達が国に帰るまで安全だ。
「それで、ミュドラを見た俺達があんた達の事を知る前に口封じをしようとしたのか」
「はい・・・・・・そうです・・・・・・」
俺は直ぐ様男から聞き終えた話を未だ目を覚まさないルグを抜かした3人に話した。
一瞬驚いた様に目を見開き直ぐ複雑そうな表情を浮かべるユマさんと、始終驚きっぱなしのレモン君。
そして、
「そうですか」
と言ったティツイアーノさんの顔には狂喜の笑みが浮かんでいた。
「そうですか。ついに、魔王は死んだのですね」
「ッ!」
心の底から純粋に人の死を喜ぶティツイアーノさんに背筋がゾワッとする。
その後、慈愛に満ちた笑みを浮かべこの場には似つかわしくない優しく穏やかな声で男達に声を掛けた。
「安心してください。
魔王を倒した貴方方を私達英勇教は歓迎します。
何があっても、どんな者が来ようと貴方方を守る事を私達の神 勇者様に誓いましょう」
「本当・・・ですか?
本当に、私達を助けてくれるんですか!?」
男達が何を言っているか分からないはずなのに、ティツイアーノさんは男達に答える様に笑みを深めた。
そのティツイアーノさんの姿は男達には女神にでも見えているんだろう。
嬉しそうに涙を流している。
けど俺にはそのティツイアーノさんの姿が不気味で恐ろしい物にしか見えない。
「フフ、卑しき魔族の王である魔王が消滅するのは当然の事なんです。
この世界が出来た時から決められた運命なのです。
だから、貴方方は何も悪くないんですよ。
・・・・・・・・・さぁ、サトウさん。
早くミュドラを保護して沼を元に戻しましょう!」
「分かり、ました」
上機嫌でそう言うティツイアーノさんに俺は何とかそう答える。
あぁ、この人は魔女達以上にイカレているのかも知れない。
*****
その後、男達にも手伝って貰い何とかミュドラを沼から出し、全てのゴミを回収した。
回収したゴミはティツイアーノさんの方で如何にかしてくれるそうだ。
そして最後もティツイアーノさんの『浄化』の魔法で沼は元の綺麗な姿になった。
最後の最後でティツイアーノさんに良い所を持ってかれたけど、そんな事どうでも良い。
俺は早く彼女と別れたかった。
こんな恐ろしい女性と知り合いになりたくなかったし、2度と一緒に仕事はしたくない。
けど、俺のその思いとは裏腹にこの後もティツイアーノさんと関わる事を、この時の俺は知る由もなかった。




