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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1 章 体験版編
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79,真夏の夜の鬼火 7つ目


 翌朝、昨日と同じくレモン君の案内で俺達4人はファザーツリーの沼に向かっていた。

本当に誰も近づいていなかったんだろう。

沼に近づくにつれ道はドンドン荒れ、最終的には道すら無くなった。


「うぅ・・・・・・凄く、草が伸びてます」

「オレ達の背よりも高いからな。

皆、はぐれない様にな!!」

「この草、鋭いから気をつけてね!?」


どれだけ放置すればこうなるのか。

まるで俺達が小人になった気分にさせるほど背の高い草を刈りながら俺達は進む。

その背の高い草はレモン君が言う様に、カッターの刃の様に薄いのに丈夫で、少し擦っただけでも肌が切れそうだった。

それに草の中には小さな虫もかなり潜んでいる。

イチゴ狩りの時は間に合わなかったけど、念の為にヘビイチゴの焼酎漬けも持ってきた。

ヘビイチゴの焼酎漬けは虫刺されや痒み止めの他に、ニキビや火傷、擦り傷、口内炎にも効く田舎の万能薬だ。

市販の薬も結構持って来てあるし、『ヒール』もあるけど森に入るって言うから念には念を入れて持ってきたのは正解だったかもな。

草と虫のせいで地味にダメージを負うし、この調子で進み続けると結構な量の薬を消費しそうだ。


「・・・・・・あれ?あそこ、草が折れてない?」

「うん?本当だ」


そんな事を考えながら草を掻き分け進んでいるとユマさんの驚く声が聞こえた。

ユマさんが指差す方を見ると、確かに草が倒れている。

いや、所々土と混ざりグチャグチャになった草を見るに、倒れていると言うか押しつぶされているのか?


「風で倒れたって言うよりこれは・・・・・・道?」

「と言うよりは、何か巨大な物を引きずった跡みたいだね」


傍から見れば村の方から沼の方に向かって真っ直ぐ伸びた太い道にも見れるソレ。

草を押しつぶし、磨り潰し出来たソレは何かを引きずって出来た物だった。

俺が両手を広げるよりも広い幅で、草の様子からその引きずった物は相当大きく重いものだと思う。


「レモン君、沼から何か持ってきたり、逆に村から沼に何か重いもの持って行く事って・・・・・・」

「無いよ」

「じゃぁ、巨大な蛇がこの森に居るって事は・・・」

「それも無い!!・・・・・・はず」


村人が原因じゃ無いとすれば、巨大生物が這った跡と言う事も考えられる。

けど、レモン君は今までこの森でこんな大きな跡を作る生き物を見た事が無いそうだし、村でもそんな話題一切上がっていないらしい。

突然そんな生き物が現れたなんて事ある訳無いだろうし、一体この跡は如何して出来たんだろう?


「この道を作ったモノがウィルオウィスプを追いやったのでしょうか?」

「その可能性も・・・・・・有りますね。

先に沼とは反対の方を見に行った方が良いかも知れません。

もしかしたら犯人のアジトや巣にまで続いてるかも知れませんし、何か犯人の手がかりになる物があるかもしれませんし」

「そう、ですね。そうしましょう」


念の為に何時でも戦える様、武器を手に持ちながら俺達は村の方に向かって草の道を進んだ。

だけど、草の道を進んで10分もしない内に草の道は途切れてしまった。

草の道が途切れた場所は草と木が踏み潰された様にペッチャンコになって出来た、綺麗な円形の広場。

広場の周りを一周しても俺達が来た道以外道らしいものは一切無いし、他の場所から誰かが行き来した形跡もない。

そして、広場を囲う様に生えた癒しの木は幹がグニャグニャになって生えていた。

何処をどう見ても自然に出来た物じゃない。

多分、なんかの魔法でこの広場を造ったんだと思う。


「・・・・・・・・・えっと、レモン君。

村の誰かが魔法でこの広場を造ったんだよな?」

「オイラ、そんな話聞いた事無いよ、サトウの兄ちゃん。

それに、何で態々こんな村からも普段癒しの実を取ってる所からも遠い場所に、こんな物を造ったんだよ?」

「う~ん・・・・・・・・・

コッソリ此処で魔法の練習してたとか?」

「それは無いと思う。

どんなに練習してもオイラの村の奴でこんな事が出来る魔法を覚えている奴なんて、1人も居ないはずだし・・・・・・」


まず思い付くのは村の誰かがコレを作ったと言う事。

でもそれはレモン君に直ぐに否定された。

何人、何十人が集まっても村の人達の力ではこんなグニャグニャの木は出来ないし、木や草をペッチャンコには出来ないそうだ。


「サトウさん。

もし、魔法でこれを作るとしたら、かなり強い風か闇属性の魔法を覚えてないと無理ですよ。

もしそんな方がいらっしゃるなら、既にチボリ国でその魔法を磨いているはずです」

「じゃあ、魔物の仕業?」

「う~ん。

こんな事出来る魔物はこの森に居ないはずだけど・・・・・・」

「グニャグニャの木は兎も角、この潰れた木や草は上から大きな魔物が下りて来たら出来るんじゃないか?

例えば、コカトリスとか、さ」

「確かにコカトリスが上から下りてきたら木とか草はこんな風に潰れそうだよね。

でも、サトウ君。

コカトリスが降りて来てもこんなに綺麗な円形にはならないよ?」

「あっ」


そうだよな。

この広場はコンパスを使った様に綺麗な円形なんだ。

上から何かが落ちてきてもこんな綺麗な円形にはならないだろうし、そもそも何かが落ちてきたなら村の人達が気づくはず。


「この場所ではこれ以上の収穫はなさそうですね。

予定通り沼に行きましょう。

ですが、此処には思っていた以上に、危険な生き物が潜んでいる可能性があります。

皆さん、更に気を引きしめて行きましょう!」


そう言うティツイアーノさんに頷き、俺達は武器を構え潰れた草の道を進む事にした。

警戒する俺達が馬鹿らしく思える程、何事も無くドンドン沼に近づく事はできた。

ただ、沼に近づく程凄い異臭がしてくるんだ。

例えるなら、夏場のゴミステーションから漂ってくる匂いとドブ川の匂いを混ぜた様な匂いだろうか?


「う、ナニコレ・・・・・・・・・凄い匂い」

「き、気持ち悪い・・・・・・

鼻が可笑しくなるー・・・・・・・・・」

「気休めにしかならないけど、マスク使うか?」


全員に『クリエイト』で出したマスクを渡す。

本当はガスマスクを出したい所だけど、俺の技術じゃ出せなかったんだ。

鼻センは使った事無いから上手く想像出来なかったし。

俺が出せるのはマスク位しか無かったんだ。


「うぅ。少しはマシになったけど、鼻がー・・・」

「ルグ君は私達の中では1番鼻が良いからね。

辛いなら村に戻る?」


鼻を押さえ涙目になるルグ。

猫は人間の1万から10万倍鋭い嗅覚を持っているらしい。

その猫に体の構造が似ていると思われるケット・シーのルグもやっぱり、人間の俺達や、体がヒトに近い構造だと思われる悪魔であるユマさんよりも鼻が良い。

それは人間の姿になっている今でも変わらず、俺達でも辛いこの匂いは更に辛いだろう。


「・・・・・・・・・まだ、頑張る・・・」

「無理はすんなよ、ルグ」

「おー・・・・・・」


帰る気は無い様でルグは目に涙を溜めながらも歩き出した。

そんなルグに俺は、何枚も重ねてマスクをつけた所で効果があるかどうか分からないけど、無いよりはマシだろうとマスクを多めに渡す。

本当に無理そうだったら無理にでも帰そう、と心の中で決めながら。




*****




「レモン君。

聞いていた話と大分違うんだけど・・・・・・」

「オイラも沼がこんな事になってるなんて知らなかった・・・・・・」


やっと着いた沼はレモン君から聞いた綺麗な沼とは程遠い姿をしていた。

ヘドロだらけのドロドロに濁りきった水面には多種多様なゴミが浮かび、鼻が可笑しくなりそうな強烈な異臭を放っている。

近くの草や癒しの木も何処と無く元気が無く、何時枯れても可笑しく無い。

そのせいか空気も悪いと言うか、汚れている気がする。

どっからどう見ても蛍が住める環境じゃ無いだろう、コレ。


「何で・・・こんな・・・・・・・

だ、誰だよ!!!こんな事したのは!?」

「レモン君、落ち着けって」

「でも!!」


今まで知らなかった沼の現状に顔を真っ赤にして叫ぶレモン君。

此処に犯人が居るかどうか分からないのに、怒りで真っ赤になりながら辺りを見回すレモン君を落ち着けようとそう声を掛けた。


「此処は危険だけど、神聖な場所で、村にとっては大事な場所で!!

そ、それなのに・・・それれなのに・・・・・・

今まで誰も沼が、ファザーツリーが、こうなってるなんて知らなくて・・・・・・

知ろうともしなくて・・・・・・・・・」

「うん」

「オイラ、それが、そんな自分が許せない」

「そっか」


そう言ってレモン君はポロポロ大粒の涙を流す。

大切にしていた神社を他所から来たガラの悪い観光客に荒らされた気分なんだろうか?

申し訳ないけど、何かを信仰している訳じゃない俺には、レモン君の気持ちは分からない。

だから、レモン君に何と声を掛けて良いのか・・・


「とりあえず、この沼のゴミ拾わない?

なんにしても、此処を綺麗にしなきゃウィルオウィスプは帰って来ないし。

もしかしたら、何処で出されたゴミか分かれば犯人絞り込めるしさ」

「いいえ、サトウさん。犯人は分かっています!

こんな心無い酷い行いが出来る者はたった1人しか居ません!!!

犯人は、」

「ティツイアーノさん。

魔王とか魔族が犯人ってのは無しだから」

「な、何故ですか!?

村が困り、我が国で傷薬が手に入らなくなる危機!

間違いなく、これは魔王の仕業です!!」


うん、ティツイアーノさんならそう言うと思った。

ジャックター国王である、ユマさんは今此処に居るし、ユマさんは絶対そんな事しないって解ってる。


「あのさ、ティツイアーノさん。

もし、仮にティツイアーノさんの言う通り傷薬が手に入らない危機だとして、何で犯人はこんなまどろっこしい事するんだ?

魔王が本当に物語の様な力があるんだとしたら、森ごと癒しの木を燃やすとか枯らす事だって出来た筈だ」

「そ、それは・・・・・・・・・そうです!

今の魔王はそれ程の力が無く、こういう方法でジワジワと追い詰めてるんです!

そうに決まってます!!」

「なるほど。じゃあ、聞くけど。

どうやって此処にゴミを持ってきた?

幾つもの検査を潜り抜けて態々船や飛行船で此処までゴミを運んだ?

態々薬を手に入らなくさせる為だけに?」

「そ、それは」

「非現実的だよね?

何より、そんな事していたらレモン君達が気づく。

そんな事よりこの近くの、それこそレモン君の村の誰かが此処にこのゴミを不法投棄したって考えた方が現実的だ!

違う?」


そこまで俺が言うと、ティツイアーノさんは押し黙ってしまった。

ティツイアーノさんとしてはどんな些細な事でも魔王のせいにして、自分達が正義の味方だと宣伝したいんだろう。


「まぁ、レモン君の様子からしてモリーノ村の人達が此処にゴミを捨てるとは考え難いけど」

「当然だよ!!そんな事絶対しない!!」


俺の言葉にレモン君が力強く頷く。

沼の現状を見て、怒って泣いたレモン君のあの姿が嘘だとは思えない。

何より、村の人は俺達が来るまで『ウィルオウィスプの祟り』を恐れていた。

そんな人達がゴミを沼に捨てるなんて言う、ウィルオウィスプに祟られそうな事するとは思えないんだ。


「だとすると、犯人はこの村の近くの住人、もしくは依頼を受けてこの森に来た冒険者って考えた方が良いかな?

そいつ等がまた来るかどうか分からないけど」

「じゃあ、此処を綺麗にしてもまた同じ事する奴が現れるって事!?」

「まぁ、そうなるな。

一応対策として、『此処にゴミを捨てるな!!!』って看板を立てたり、チョクチョク見に来たり。

後はゴミを捨てた奴には厳しい罰を与えるって方法があるけど・・・・・・」


元の世界でもやってる対策だけど、この世界でどれ程の効果があるか。

そう思いながら中でゴミが発酵しているのか、ボコボコと泡立っている沼を見る。


・・・・・・・・・あれ?

あの泡、さっきより激しくないか?


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