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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1 章 体験版編
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78,真夏の夜の鬼火 6つ目


「えーと、皆さん。

見て貰った通り、虫であるウィルオウィスプの説得は無理です。

俺達誰も虫と話せるスキルも魔法も持っていないので」

「そうですか。

でも、なぜ急にウィルオウィスプは私達のお弁当を盗む様になったのでしょうか?」

「このバケツを見てもらえば分かると思いますが、このウィルオウィスプの幼虫の主なエサはポンドスネイルです。

蛍は成虫になると口が退化し水しか飲めません。

だから、約1年かけて幼虫の内に沢山エサを食べます。

その時体に蓄えた栄養で成虫の間を生き抜くらしいです」

「ポンドスネイルを?

・・・・・・・・・そっか、オイラ達がポンドスネイルを沢山取ったから、ウィルオウィスプは食べる物が無くて弁当を狙ったんだな!」

「そう!

多分、レモン君の言う通りだと俺は思っています」


レモン君は、


『見つけたら積極的に捕まえてるんだ!!

そのせいで村の近くで見なくなっちゃったらしいけど』


と言っていた。

村人がポンドスネイルを取ってしまったせいで中々エサにありつけ無かったウィルオウィスプは、川の近くに置かれたポンドスネイル弁当を我慢できずに食べてしまったんだろう。

どんなに体が大きくても虫なら、空腹の時に好物のエサを目の前にして我慢しようと考えるだけの知能も無いだろうし。

現に、俺達人間が近くに居るのに、川に入れたポンドスネイルにウィルオウィスプの幼虫は飛びついた。

それほど、飢えていたと言う事だろう。


「この段階でこの事件に関われて良かったですよ。

もし、このままだったらウィルオウィスプが人を襲っていたかもしれない。

飢えを凌ぐ為に、生き残る為に人を襲ってまでポンドスネイルを食べていただろうし、その時人の味を覚えたら積極的に人を襲っていたかもしれません」


蛍の幼虫はタニシを食べる事から分かる通り、肉食だ。

ポンドスネイルを食べるウィルオウィスプの幼虫も多分肉食だろうし、この大きさなら人を食べる事もありえただろう。

『自然の中では人間も唯のエサでしかない』って何かでも言ってたしさ。

そんな俺の言葉に村の大人達がウィルオウィスプから少し離れた。


「今のは唯の可能性の話ですよ。

今は多分大丈夫です。

それで、ウィルオウィスプが弁当を盗み出したのは、本来の住処を何らかの理由で追い出されたからだと思います」

「本来の住処・・・・・・

ファザーツリーの沼ですか?」

「はい。

元々この近くにもウィルオウィスプは居たと思います」


レモン君と村長さん、村人への聞き込みからするとウィルオウィスプはこの近くにも住んでいたと思う。

でも今よりも数が少なく、ウィルオウィスプを捕まえた場所よりもっと奥に居たはず。

それが、村の近くまで来たという事は、村の近くまで産卵しないといけない理由だ出来たからじゃないのか?

勿論、ウィルオウィスプの数が急激に増えたって可能性も考えた。


でも、食べる物(ポンドスネイル)が減っているのに、数が増えるだろうか?


理科の授業で習った事を考えると逆に減るはず。

だから、自然にウィルオウィスプが増えたとは考え難い。

人の手が入っているのなら可能性もあるだろうけど、村の人の話を聞く限りその可能性は低そうだ。

だったら、沼に何かあってウィルオウィスプがこっちまで逃げて来た可能性が高いと思う。


「その沼って、神聖だからとか危険だからって、大人でも近づかないと聞きました」

「はい。あの沼を直接見た者は少ないと思います」


実際見たと言う人はほんの2人だけで、その人達も数年前に1度見たっきり。

最近沼の様子を見た人はいないそうだ。


「誰も知らないなら、事件が起きる少し前にその沼で何かあり、ウィルオウィスプが此方まで逃げてきた可能性はあると思います。

暗い中調べるのは危険だから、明日明るい内に調査したいと思います」

「そんな事しなくても、ウィルオウィスプを倒せばいいだろ!」

「そうだな。守護霊じゃなくただの虫だったんだ。

祟りを恐れる必要は無い!

こんな危険な虫、消してしまうべきだ!!」


そう声を張り上げる村の男の言葉に、何人かが同意する。

子供達は不満そうだけど、大人達の大半はやる気みたいだ。

それは俺が『人を襲うかもしれない』と言ったからだろう。


「皆!落ち着きなさい!!」

「そんな事言ってる場合か村長!!

冒険者さん、如何にかこの虫を全部退治してくれないか?」

「いいですよ」

「サトウさん!!?」


村長さんの言葉を無視してそう頼んでくる、最初にウィルオウィスプを退治しようと言い出した男に、俺はそう頷き返した。

自分や村長さんの意見をちゃんと聞かず、勝手に決めた事がそうとう気に食わなかったのだろう。

それを聞いてティツイアーノさんが怒った様に俺の名前を呼ぶ。

そして、ルグとユマさん、レモン君は驚いた様に目を見開き俺をただ見ていた。

こうなる事はある程度予想出来てたからな。

そんなティツイアーノさんを手で制止、ルグ達の方をもう1度見てから俺はその言い出しっぺの男にある事を言う。


「でも、ウィルオウィスプを全滅させたら二度と癒しの木は実をつけませんよ?

それでもいいなら、お受けします」

「なに・・・言ってるんだ?

こいつ等が、居なければ癒しの実が出来ないって、どう言う事だ!!!?」

「そうですね。ちょっと、待ってください・・・」


俺の言葉に騒いでいた村人の大人達が思わずと言った感じでピタリと静かになった。

そんな村人達の間を抜け、俺は昼間俺達が休んだ癒しの木から花を1つ摘んで戻る。


「見てください。

この花とウィルオウィスプが入っている花。

同じ癒しの木の花ですが、少し中が違うでしょ?」

「・・・・・・はい。確かに、言われて見れば」

「本当だ!

生まれてからずっと癒しの木を見てきたけど、こんなの気づかなかった!!」


村長さんとレモン君の言葉に村の人達も驚く。

摘んできた花とレモン君が持っているウィルオウィスプが入った瓶を交換し、俺はウィルオウィスプが逃げない様注意しながら『クリエイト』で出したピンセットで花の雄しべとウィルオウィスプの点々。

体に付いた癒しの木の花粉を1つずつ取った。

そして取った花粉と雄しべは見えやすい様に、黒い紙の上へ。


「知っている事だと思いますが、一応説明します。

えっと、花には雄しべと雌しべがあって、この雄しべから出る花粉が雌しべに付くと受粉して種が出来ます。

癒しの木は此れが雄しべで此れが雌しべです」


そう言って、黒い紙の上の雄しべとレモン君が持った花を指さした。


「花の中には雄しべも雌しべも一緒に生えている物がありますが、見ての通り癒しの木は雌しべだけが生えた花と雄しべだけが生えた花に分かれています。

どっちの花が咲くかは木ごとに違います」

「えぇ!!!?」

「ほ、本当か!?」

「・・・・・・本当だ!!

木によって咲いてる花が違う!!」


確認しに行った村の人が叫びながら帰ってきた。

村の大人達は驚いて騒いでるけど、子供達はワクワクとした目で続きを促してくる。

その中に、ルグとユマさん、ティツイアーノさんまで居るのは何でだろうな?


「受粉の方法には大体5つあって、


花粉を風に運んでもらう方法、


虫に運んでもらう方法、


鳥に運んでもらう方法、


水に運んでもらう方法、


人の手で受粉させる方法がある。


それで癒しの木はこの虫に花粉を運んでも方法。

つまりウィルオウィスプに花粉を運んでもらって実をつけてるんだ。

現にウィルオウィスプの体に付いた白い点々は模様じゃなくて、体に付いた花粉だしな」


証拠の為に、ウィルオウィスプに付いた花粉を『教えて!キビ君』で検索する。

結果スマホに表示されたのは間違いなく、癒しの木の情報。


この上を向いたワイングラスの様な形の花の奥に雌しべも雄しべも在るんだ。

この形じゃ風に花粉を運んでもらう事は不可能だろ?

花の形からして虫か小さな鳥の力を借りないと受粉できないのは分かっていた。


「ウィルオウィスプも成虫になったら水しか飲めないんだろうな。

蛍は草に付いた夜露か朝露を飲むって聞いたけど、ウィルオウィスプは癒しの木の花に溜まった水を飲むんだと思う。

それに癒しの木の花の中に居れば、自分を食べようとする鳥からも身を守れる。

そんなウィルオウィスプに花粉を付ければ、ウィルオウィスプが2種類の花を行き来するたびに受粉すると言う訳だ」

「はぁ。花って凄いんですね・・・・・・

そもそも、そんな方法で癒しの木が実を付けていたなんて知りませんでした。

毎年時期になれば何もしなくても、殆どの木に取り切れない程沢山の実が生るものだと思っていたので、驚きを隠せません」


本当に今まで全然知らなかったんだろう。

ポカンとした顔で村長さんがそう言う。

そんなに実が生るなら、村の人が知らなかっただけでウィルオウィスプがもっと沢山居るんだろうな。


「一応言っておきますが、実が生るのは雌しべが生えてる花の方だけですよ。

あぁ、それと癒しの木とウィルオウィスプの関係はそれだけじゃありません。

レモン君から聞いたけど、ポンドスネイルは癒しの木を食べてしまうそうですね?」

「はい。それには、私達もとても困っています」

「あ、あぁ!!そういう事か!!!

そういう事なんだね、サトウ君!!?」


何かに気づいたユマさんが叫ぶ。

ユマさん、『そういう事か!』のそう言う事を言ってくれないと俺は頷けないよ。


「ウィルオウィスプの幼虫がポンドスネイルを食べる事で癒しの木を守っているのか!!」

「そ、そうか!!

癒しの木をポンドスネイルが食べる前にウィルオウィスプの幼虫が食べる事で守っているんだな!」

「まぁ、そう言う事だ」


こう言うのを共生って言うんだよな?

異なる生物同士が自分の足りない部分を補い合い、共に助け合う生き方。

クマノミとイソギンチャクとか、ランとラン菌とか。


「弱肉強食の自然界において、人間には到底真似出来ない素晴らしい関係だ!」


って高橋が、イソギンチャクに隠れたクマノミの写真を見せながら力説していたな。

どうでもいい事だけど高橋の話によると、共生には両方に利益がある『相利共生』と片方に利益がある『片利共生』があって、相手の養分を奪って生きる『寄生』とは違うらしい。

俺は未だに片利共生と寄生の違いがよく分からないけど。

多分、ウィルオウィスプと癒しの木の関係は両方に利益があるから相利共生だと思う。

まぁ、問題はそこじゃなくて、


「ウィルオウィスプと癒しの木は共に助け合って生きています。

人間の貴方達が1から10まで完璧にウィルオウィスプの代わりをする事が出来ますか?

出来ないなら、最悪の場合癒しの木は枯れますし、二度と実を取る事だって出来ません」


と言うものの、俺の世界ではこう言う果物を育てる場合人工受粉の技術が無いと産業として成り立たないんだよな。

だから、安定した質と量を得る為に人工授粉の技術はドンドン進化して言ってる父さんが言っていた。

確かにどう考えても人間ではその行動を完璧にコントロールできない虫や風に任せっきりにするより、自分達の手で受粉した方が確実だ。


でも、今の村の人達に馬鹿正直にその事を言ったら間違いなくウィルオウィスプが滅ぼされてしまう。


俺はそれが良いとは思わなかった。

だからこれは、村の人が納得する様に付いた嘘だ。


「そうですね。

ウィルオウィスプを退治するのは得策ではありません。

きっと私達の祖先はこうなる事が解っていたから、ウィルオウィスプを守護霊と言い守ってきたのでしょう。

・・・・・・冒険者さん」

「はい」

「改めて依頼します。

どうか、ウィルオウィスプを元の場所にかえしてあげてください」

「・・・・・・善処します」


ティツイアーノさんから、


「私にお任せあれ!!」


ってオーラが出てる気がする。

でも、場合によっては相当時間が掛かるんだよな。

何時までも、この依頼を受け続ける事は出来ないし・・・・・・

とりあえず、明日沼を見に行ってから考えよう!


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