7、ギルド 前編
城を出て城下町までドナドナ引きずられた俺は今、レンガ造りの大きな建物の中に居る。
中には子連れの主婦や杖を着いた老夫婦、働き盛りの男性、俺と同じか少し下位の女の子。
老若男女色んな人が、其々の分類に分けられた真面目そうな職員が居るカウンターに並んでいた。
ギルドは俺が想像していた冒険者の集まる場所と言うより、ローマ字に似た字で書かれたカウンターの看板通りだと市役所と郵便局、銀行、ハローワークを混ぜた様な建物みたいだ。
きちんとソファーも並んでいて、雰囲気も俺が知っている市役所と同じ。
カウンターの後ろに並んだ雀位の大きさの色とりどりの鳥が入った大量の鳥篭と、ある事一角を除いて。
建物の中で1番入り口から遠く日が当たりにくい一角。
そこには生傷古傷だらけの強面ガチムチお兄さんが壁際の掲示板らしき物を睨みつけたり、鮮血滴る袋をカウンターに持って行ったりしている。
そんなお兄さん方を相手にしているのも海外映画でマフィアのボスをしてそうなお爺さんや、プロレスラーの様なお姉さん。
うん、市役所の様な雰囲気の中あそこだけ異質だ。
正直あそこには近づきたくない。
「ようこそ。今日はどういうご用件でしょうか?」
「彼の国民登録と冒険者登録をお願いするわ」
「はい、少々お待ちください」
総合受付と書かれたカウンターの前に来ると、そこに座っていた職員の小母さんが一瞬不愉快そうに眉をひそめ義務的に尋ねてくる。
それに魔女が答えると小母さんは俺に長方形で、ローマ数字に似た字で23と彫られた木の板を渡してきた。
「準備が終わり次第、この板の数字が光ります。
そしたらあちらの1と書かれたカウンターまでお越しください」
「あ、はい。ありがとうございます」
それだけ言うと小母さんは何か作業をしだし、魔女と助手はさっさと並んだソファーに座った。
兵士はその隣にピッシと立っている。
俺も何時までも此処に居たら次に来る人に迷惑だよな。
そう思い俺は魔女達の後ろのソファーに座った。
時々板を確認しながら待っていると、何故かジーッと鎧兜の間から暗緑色の髪とエメラルドグリーンの目が覗く兵士に見られる。
俺、何か変な事しているか?
「えーと、何か?」
「いえ」
「あー、俺は佐藤って言います。貴方は?」
「ミング・ヴェールダンス」
「ヴェールダンスさんですね。
よろしくお願いします」
兵士は頷くとそのまま前を向いてしまった。
俺を見ていたのは名乗れって事だったのか?
だけど兵士は、時々此方をチラチラ見てくる。
立っている時でさえ俺達4人の中で1番背が高いのに、座ったまま立っている兵士に見られるのは威圧感が半端ない。
板もまだ光って無いし、本当何なんだ?
「あの、まだ何か?」
「いえ」
「いえって。それならさっきから何なんですか?」
「・・・・・今の自分はルチアナ様とココモ様を守るのが仕事」
「ん?・・・・・・・・・あー、そう言う事ですか」
俺は兵士に魔女や助手を襲ったりしない様に監視されているらしい。
地下室から出る時も思ったけど、俺はそんなに人を襲いそうな顔をしているのか?
それとも異世界人だからか?
そうこう考えているうちに板が光り、俺は指示されたカウンターに向かった。
そこには真上に光を放つ両手で抱える程の赤紫色の水晶と、インクの着いていない羽ペンを持った中年男性職員が居た。
「えーと、国民登録をする方は・・・・・」
「あ、俺です」
「じゃあ、先ずお名前をフルネームでお願いします」
「佐藤。いや、タカヤ・サトウです」
俺の名前は漢字で書けば『貴弥』と書く。
『貴弥』と書いて『キビ』と読む。
担任が変わる度にいっつも間違えられた。
高校に入ってからなんて担当教科の教師全員に間違われた程だ。
だけど今は間違った読みで登録した方が良いだろう。
こう言う世界で本当の名前を知られると、危険な呪いや魔法を掛けられるのはお約束だろ?
特に凄い魔法の才能があると持て囃されている魔女が近くに居るんだ。
どんな魔法を掛けられるか分かったもんじゃない!!
そんな事無いとしても念には念を入れるべきだ。
いや、正直言ってそうでもしないと安心出来ない程怖い。
だからって適当な偽名じゃ俺が反応出来ないし、そのせいで偽名だってバレたら意味が無いだろ?
だから本当の名前じゃなく、良く呼び間違え慣れている『タカヤ』にしたんだ。
苗字はもう名乗っちゃたから変えれないけど。
「タカヤさんがお名前ですか?」
「はい」
「分かりました」
そう言うと職員さんは水晶から出ている光に羽ペンで文字を書いていった。
これも魔法道具の1つなんだろう。
インクが着いていないのに何故かキラキラ輝く文字が現れる。
「次に出身国と登録する理由を」
「出身国はヒヅル国。理由は冒険者として出稼ぎよ」
俺が言う前に魔女が喰い気味に言う。
異世界からってのが言えないのは分かるけどヒヅル国って何処だよ。
「あぁ、やはり。
最近、ヒヅル国が開国してから此方に来る若い方が多いですからね」
「え、えぇ。そうですね」
一応魔女に合わせ無難に答えたけど、この世界の社会事情を振られても知らないからな。
何時ボロが出るか解らんぞ。
「後は身分ですが、一般国民でいいですよね?」
「えぇ」
「では最後に確認して問題なければ『基礎魔法』の魔法陣をこの光の中に書いて下さい。
それで登録は完了します」
「分かりました。
あ、『基礎魔法』が2つ在るんですが、両方ですか?」
「いいえ、複数ある場合は1つで十分です」
どちらを書こうか悩んでいると魔女が『ミドリの手』の方を書くよう言ってくる。
城ではアプリを使っただけでちゃんと書けるかどうか心配だったけど、特に問題なくスラスラ書けた。
氏名:タカヤ・サトウ
出身国:ヒヅル国
身分:一般国民
でその下に『ミドリの手』の魔法陣。
うん、問題ないな。
俺の確認が終わると同時に光の中に浮かんでいた文字が水晶に吸い込まれる様に消えた。
「はい、これで登録完了です。
冒険者の登録はあそこの奥のカウンターで行っています。
この板を持って職員に見せれば行えます」
「はい、ありがと・・・・・・うございます」
職員さんが示した方角はあの異質な一角。
1人で行けば流石に怖いけど、4人ならそれほど・・・・・・
「後は1人でも職員の指示に従えば大丈夫です。
私達は此処で待っていますので、早く終わらせてください」
お、鬼ぃいいいっ!!
あんたは悪魔か!?
いや、元々極悪魔女でした!
助手も魔女と一緒に良い笑顔で手を振ってるし、兵士は石像の様に動かない。
逃げて良い?
逃げれないのは分かってるけど逃げて良いですか!?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
冒険者の登録お願いします」
覚悟を決めて開いていたボスが居るカウンターに来た。
周りに居るお兄さん方が怖いよー。
机や床に血や体脂が染み込んで変色してるよー。
何より1番、目の前のボスが怖いよー。
睨まれただけで死にそうです。
正に蛇に睨まれた蛙。
「木の板貰っただろ。渡しな」
「はい」
木の板を渡すとボスは慣れた手つきで宝石の様にキラキラ輝く、色取り取りの石が嵌め込まれたタイプライターの様な手元の箱の窪みに木の板を挿した。
すると、ブンッと言う音共に箱の石が光を放ち木の板から箱に光の糸の様なものが流れていく。