77,真夏の夜の鬼火 5つ目
「あ、帰ってきたぞ!!」
村に戻ると、村人のほぼ全員が広場に集まって居た。
これなら、態々集まって貰うよう声を掛けなくても良いかな?
「まだ、ウィルオウィスプが近くに居るみたいですが、どうでしたか?」
「それが・・・・・・」
レモン君が無事戻ってきた事にホッとしつつ、ウィルオウィスプの事を聞いて来る村長さん。
それにティツイアーノさんがチラリと俺を見る。
「説明は俺からします。
結論から言うと、此処を出る前に言った通りウィルオウィスプの説得は不可能です」
「それは・・・・・・・・・
それほど、ウィルオウィスプが私達に怒りを感じているという事ですか?」
「いいえ。
ウィルオウィスプの正体は幽霊ではなく、コイツだからです!」
そう言って俺は、レモン君が持つウィルオウィスプが入った瓶を指さした。
花の中で光るウィルオウィスプを見た村の人達がどよめく。
「こ、これはウィルオウィスプ!
捕まえたのですか!?どうやって!!?」
「そう、驚く事でもありませんよ。
よく見てください・・・・・・
と、これじゃ暗くてよく見えないよな。
『プチライト』!」
俺は『プチライト』で辺りを照らし、村長さんに瓶の中を覗く様に言った。
「これは・・・・・・・・・虫ですか?」
「はい。これがウィルオウィスプの正体。
俺の故郷では蛍と言う尻の部分が光る虫です」
「た、確かに光っていますね」
村長の言葉に他の村の人達も代わる代わる瓶を覗き込んで行く。
子供達は特に興味津々にウィルオウィスプを覗き込み、目を輝かせていた。
何人か、
「コイツ飼おうぜ!」
とか言ってるけど、ちゃんと逃がそうな?
成虫になった蛍の寿命は短いんだから。
そんな、ウィルオウィスプに夢中になってる村人を見てると、ユマさんが話し掛けて来た。
「今更だけど、サトウ君よくウィルオウィスプが虫だって気づいたね」
「そう、かな?
俺の故郷ではさ、初夏には蛍を観賞する行事やツアーがある位、蛍って夏の風物詩なんだ。
小説や詩、歌なんかの題材にもされるし、俺の故郷ではその位馴染み深いもなんだ。
だから、分かったんだと思う」
と言っても生の蛍を見た事なんてウンと小さい頃、1度か2度家族で見に行った位だけど。
小さい頃に聞いた数年前に亡くなった祖父さんの話だと、昔は家の近くでも沢山飛んでいたみたいだ。
蛍の光で勉強したり、捕まえた蛍を蚊帳の中に放って観賞したり。
でも、色んな開発が進んで消えていったらしい。
だから、俺にとっての蛍はニュースで見る、テレビの向こう側の存在だ。
「そうじゃなくて、ウィルオウィスプが幽霊だって思わなかったの?
それとも、サトウ君は幽霊を信じていないの?」
「いや・・・・・・
情けない話、幽霊が怖いから全力でそれ以外の可能性を考えた!」
だって、幽霊って怖いじゃん!
幽霊の存在を信じてるか信じてないかで言えば信じてる。
それは、幽霊って存在を見た事ないから、幽霊が絶対居ないとは言い切れないって意味だけど。
幸運な事に俺は霊感が無いなのか、今まで1度も幽霊を見た事が無い。
もし、本当に幽霊が居たならきっと、あの俺達が『召喚』されたローズ国城の地下室には
「子々孫々末代まで祟ってやる~」
とか
「生まれ変わっても呪ってやる~」
って魔女達に言い続ける、俺の前の被害者達の幽霊だらけだろう。
後は、Dr.ネイビーや勇者ダイス、その2人の妹の幽霊も憑いていそうだ。
そんなもの見た瞬間、俺は直ぐに気絶してた。
「それと、何でもかなんでも幽霊のせいにするのはどうかと思ってるだけ、かな?」
「どうして?」
「いや、さ。
幽霊だって、死んじゃっただけで生きていた頃と考え方や価値観がコロッと変わる事は無いと思うんだ」
生きていた時と同じ様に考えて、同じ様に何かを感じる。
自分が如何なっても守りたいって思うものもあるだろうし、痛かったり悲しかったり頭に来たり。
そういう感情だってあるだろうし、心の整理にだって時間が欲しいだろう。
幽霊になっても、そういうモノだと俺は思う。
だから、何でもかんでも幽霊のせいにするのが嫌なだけだ。
だって、ただ生前の思い出に浸りたくてその場に居ただけで、
見える奴にギャーギャー騒がれて、
塩とかお札で痛めつけられて、
最初から居たのは自分の方なのに後からに来た人間に追い出され。
それで、何もしていないのに、ただそこに居るだけで偶然起きた不幸の原因にされる。
全く望んでいないのに、幽霊になったってだけで、理不尽に虐められ差別されるんだぞ?
「生きていた時と同じ価値観と感情持っていて、でも幽霊ってだけで無実の罪を着せられる。
そうなった幽霊がどう思うか。
きっと凄い物凄く頭にくるし、物凄く相手を憎んで恨む。
俺だったらそうなると思う」
「・・・・・・うん。その気持ちは分かる・・・な」
「だから、怖い」
死に口なし。
死んだ後に無実の罪を着せられても、誰にも弁解出来ないし、どんなに、
「違う!」
と叫んでも信じて貰えない。
生きている人間でもそこから生まれる感情って凄く強いものだと思う。
それが物理法則の通じない幽霊が持ったら、どんなに恐ろしいか。
「最初から幽霊のせいにして、それでその無実の幽霊から恨まれるのも憎まれるのも怒られるのも、嫌だ。
怖い。
だから、俺は怖いから何でも最初から幽霊のせいには出来ないんだ」
臆病な俺がそう言うとユマさんは、
「そっか・・・・・・」
と呟いた。
俺達がそんな話をしていると、ウィルオウィスプを見ていた村の人が少しずつ静かになっていくのが見えた。
そろそろ、先に進めても良いかな?




