76,真夏の夜の鬼火 4つ目
今、俺達はまだ明るい夕日に包まれた森の中をポンドスネイル弁当を持って歩いている。
メンバーは俺、ルグ、ユマさん、ティツイアーノさん。
それと案内役にレモン君。
ティツイアーノさんとレモン君はムスッとした顔で俺達の少し先を歩いている。
2人がこうなったのは俺のせいだ。
あの後俺達は村長さんの家の戻り、
「ウィルオウィスプの説得は不可能だ。
森に行くなら明日、明るい内に行こう」
と言ったからだ。
その理由を説明する前に、2人がキレて森に強制連行。
それから2人の機嫌は悪いままなんだ。
夜の森は慣れた人間でも危険なのに、始めて来た俺達は尚更危険な所。
出来れば、来たくなかったんだけどな。
「此処が、ウィルオウィスプが現れる様になった場所だよ。
もう少し奥になら、昔からウィルオウィスプが何個か飛んでる事があったけどさ。
今は此処でも飛んでるんだ」
レモン君が案内してくれたのは、村の明かりがギリギリ届かない、微かに村が見える位の所にある穏やかな川だ。
大きめの石が重なり合う川底がよく見える、奇麗で穏やかな流れの川。
周りは舗装されずに土がむき出しで丈の長い草が生い茂っているし、十分苔も生えている。
正にウィルオウィスプにとってはファザーツリーの所の沼と同じ住みやすい環境だろう。
「ウィルオウィスプは・・・・・・・・・
まだ見えないですね?」
「うん。もう少し、暗くなったら現れるよ」
レモン君の言う通り、何処にも人魂は見当たらない。
まぁ、此処まで来たなら俺は人魂として現れる前にウィルオウィスプを見つけるつもりだけどな。
「・・・・・・・・・居た」
幾ら草むらを探しても見つからなかったウィルオウィスプ。
ウィルオウィスプが居たのは、川の近くに数える気が起きない程生えた癒しの木の花の中だった。
と言うかザッと見た所、この森に生えた木全てが癒しの木みたいだな。
その癒しの木の殆どが雌木で雄木はこの近くに1本しか見当たらない。
そして、雄木も雌木の花と同じ形をしていた。
違いと言えば、雌しべじゃなく雄しべだけが生えている事位だろう。
その雄木の花の中で休んでいたのは、黒い体に白い点々が付いたグーにした拳位の蛍。
そう、この大きな蛍がウィルオウィスプの正体だ。
それにしても、何なんだ?
今回のウィルオウィスプと言い、地下水道のダーネアと言い、エヴィン草原地帯のジュラエナと言い。
如何してこう、この世界の虫は巨大化する傾向にあるんだ?
「サトウ君、何が居たの?」
「ウィルオウィスプ」
「え!!?」
そうユマさんに答えつつ、癒しの木の花ごとウィルオウィスプを『クリエイト』で出した大き目の瓶に入れる。
空気用の穴を幾つか開けたラップを蓋代わりにしてウィルオウィスプを閉じ込めたと所で、俺の言葉に皆集まって来た。
「この花の中に居る虫がウィルオウィスプ!?
サトウの兄ちゃん、嘘は良くないよ!
この虫は森で良く見る何処にでも居る虫で、ウィルオウィスプじゃない!!」
「サトウさん。
私はウィルオウィスプは『天に昇れず拠り所を求めて彷徨う死者の魂。その成れの果て』と言ったはずです」
「まぁ、まぁ。
もう少し暗くなれば自ずと分かるって」
信じられないと言うティツイアーノさんとレモン君を宥め、俺は弁当を盗んだ犯人を見つける為に川を見た。
既に成虫が居るからまだ居るか分からない。
けど、俺の知っている蛍と同じならこの時期だとまだ居るはず・・・・・・
そう思って川の中をジックリ観察するけど、なかなか見つからない。
俺がそんな事してる間ルグ達は何をしてるかと言うと、ジーッと瓶に入ったウィルオウィスプを見つめ続けていた。
そんなに見つめてたらウィルオウィスプも恥ずかしいと思うぞ?
「・・・・・・うーん。
なかなか・・・見つからないな」
川を唯見てても結局見つからず、川底の石を退かしたりしながらも探すけど、それでも見つからない。
もしかして、俺達の気配を察してかなり深い所に隠れてる?
こうなったら、触りたくないけど弁当をエサに釣るか?
「サトウ!サトウ!!」
「ん?どうした、ルグ?」
そう思って弁当を開いていると、驚いたルグの声が俺を呼んだ。
その声にルグ達を見ると、瓶の中の花が青緑色に光っていた。
その光は俺が知ってる蛍の光と違い、お化けの周りを飛んでそうな。
正に人魂と言って良い様な、ボワァっとした炎の様な光方をしている。
いつの間にか暗くなった森の中、その光が驚愕に目を見開く4人の顔を浮き出していた。
俺から見れば、暗闇に浮かぶ4人の顔の方がホラーなんだけど。
こう、下から懐中電灯で照らしたみたいでさ。
恐怖のあまり息と心臓が止まりかけたよ。
「サトウ君!虫が人魂になった!!」
「この光は正しくウィルオウィスプのものです」
「凄い・・・凄いよ、サトウの兄ちゃん!!
本当にあの虫がウィルオウィスプだったんだ!!」
「だから、言っただろ?
そいつが、ウィルオウィスプだって。
・・・・・・・・・よし!やっと捕まえた!」
弁当のポンドスネイルを川に入れて少し待つと、やっぱりデカイウィルオウィスプの幼虫がポンドスネイルの貝の中に入ってきた。
それを事前に用意していた川の水を汲んだバケツにポンドスネイルごと入れる。
「今度は何を捕まえたのですか?」
「弁当を盗んでいた犯人のウィルオウィスプの幼虫ですよ。
・・・・・・さて、村の人にも説明したいので、一端村に戻りましょう?」
「サトウの兄ちゃん、このウィルオウィスプは?」
「説明の為に、ご同行願おうかな?
その後は、此処に逃がすよ」
ウィルオウィスプが入った瓶を持って、どこか期待に満ちた声音でそう尋ねてくるレモン君。
その目は、ペットを飼って良いか聞く子供そのも。
やっぱ、男の子だから虫に興味があるのだろうか?
俺が逃がすって言ったら少しシュンとしたし。
さて、これで説明の為の素材は揃った。
いつの間にか俺達の周りを沢山のウィルオウィスプが舞っている。
それほど、此処が暗くなったと言う事だ。
何時までもこんな暗い森にいるのは危険だし、説明するなら全員一緒にした方が楽だろ?
事件はまだ解決していないけど、まずは出来る事から終わらせよう。
その為に、早く村に戻らなきゃ。




