74,真夏の夜の鬼火 2つ目
「では、モリーノに向かうのは明日で良いですか?
まだ、俺達準備出来てないので」
「はい、大丈夫です。
明日の朝7時にまた此処に集まりましょう」
「分かりました。あ、そうだ。
ティツイアーノさんが得意な魔法とか武術とかあったら教えて頂けませんか?
ティツイアーノさんが回復魔法とか使える様でしたら、持って行く傷薬や解毒剤の量を減らせるので」
ゲームの神官って、肉体的な傷も精神的な傷も癒せて、悪魔とかゾンビとかのアンデット系モンスターに強いってイメージがある。
でも、あの英勇教の神官だからなぁ。
回復魔法が使えるかどうか分からないだろ?
「それなら、お互いの得意分野を確認しませんか?
サトウさんの事はルチアナ様から聞いておりますが、ユマさんとルグさんの事はよく知らなくて・・・
一緒に依頼をするんです。
お互いのことは知っておくべきです!!」
「気分を害したのなら、すみません。
俺達の事を指名してくれたので、俺達の戦い方は既に知っていると思っていたんです。
だから、伝える必要は無いと思ってたんです」
自分だけ得意な事を言えと言われ不信感を持ったんだろうか。
少し目つきを鋭くしながらそう言うティツイアーノさんが、これ以上変に違和感を持つ前に俺は謝った。
ティツイアーノさんは俺の言葉に、
「そう言う思われていたなら仕方ないです」
と納得してくれたから良かったよ。
さて、どうやってティツイアーノさんにルグとユマさんの正体がバレ無い範囲で俺達の事伝えるか?
そう考えてると、事前にこう言う事を聞かれる事を想定していたらしいユマさんが話し始めた。
「まずはリーダーの私から。
私はこの杖を見て貰えれば分かる思うけど、魔法使い。
得意な魔法は影を操る魔法、『オンブラ』だよ」
「ユマさんは闇属性の魔法が得意なんですね」
「うん。
後は、コカトリスの毒を解毒した時に使った『ミスト』の様な初級の魔法を少しと、『ミスリーディング』や『クラールハイト』も短い間なら使えるよ。
でも、これ以上難しいのは無理かな」
どうやらユマさんはティツイアーノさんに正体がバレ無い様に使う魔法を制限す様だ。
ユマさんの言い方だと、『オンブラ』の上位魔法の『オンブラフォール』やある意味チート技の『デナイアル』は使わないだろう。
『闇属性の魔法が得意』って設定なら、コカトリスの事が伝わってなければ水属性のあの霧の魔法、『ミスト』も使わないつもりだったんだろうな。
「次はオレ!
こう見えてもオレは見習いシーフなんだ」
俺の世界でシーフと言うと盗賊の事だけど、この世界でシーフと盗賊は別物扱いだ。
シーフと言う職業は俺の世界で言えばスパイや正反対の探偵の様な職業らしい。
人や物を探したり事件の捜査をしたり、犯人を尾行したり情報収集したりするのが主な仕事。
勿論、『シーフ』と翻訳されるんだからそれだけじゃない。
エスメラルダ研究所でルグが実際にやっていたけど、ゲームのシーフらしく鍵や罠を安全に解いたり、魔物や動物の気配を探ったり、隠し扉やダンジョンの仕掛けを見つけるのも仕事だ。
後は、ルグの戦い方が俺が知っているファンタジー職業の中で1番シーフっぽかったから、そう翻訳されたんだろう。
ルグがヒヅル国出身だったらきっと忍者って翻訳されていたな。
「ほんの数ヶ月前に師匠から実践練習だって言われてこっちに来たんだ。
だから、情報収集はまだ苦手。
でも、罠の解除なら任せろ!」
エスメラルダ研究所ではあえて罠を解除しなかったけどな。
さて、次は俺か。
つい最近知った事だけど、この世界の冒険者と言う職業にはそれぞれ得意分野から5つの役割で分けられるらしい。
1つ目が、剣や槍、斧なんかの武器を使った接近戦が得意な『戦士』。
どちらかと言えば攻撃よりだけど攻めも守りもこなす、冒険者と言えばコレ!って言う程基本的な役割なんだそうだ。
2つ目は『戦士』と同じく接近戦が得意だけど自身の肉体を武器に戦う『武闘家』。
前衛を任される切り込み隊長な役割だ。
3つ目が、『魔法使い』。
この場合の魔法使いは職業としての魔法使いから役職名を貰っているものの職業の魔法使いとはべつもので、追加魔法が使えなくても自分が持つ基礎魔法を主に使って戦う人の事を言うらしい。
ちょっと特殊だけど、ユマさんがこの役割だ。
4つ目が、ルグの役割の『シーフ』。
『魔法使い』と同じく職業シーフから名付けられた。
戦闘よりも情報収集や罠や鍵開けの様なサポートが得意な人が担う役割。
まぁ、ルグの場合戦闘も得意だけど。
で、最後が弓やボウガン、この世界では最近出てきたばかりで数が少ない銃。
そう言う飛び道具を使って遠距離で戦う人が『狙撃手』だ。
遠距離攻撃が出来る基礎魔法を持つ人も『狙撃手』に分類されるらしい。
まぁ、正確には違うだろうけど、ゲームで馴染み深いファンタジー職業がそのまま役割になったって事だろう。
「俺は・・・・・・何だろう?」
冒険者と言う職業の中で俺はどう言う役割になるんだろうか?
一応回復役の様な事はしているし、ゲームだったら白魔道師とかが近いんだろうけど、この世界じゃ白魔道師なんって役割は無いんだよな。
こう言う回復役は『魔法使い』の役割の人が担当するらしい。
でも俺は『クリエイト』や『ミドリの手』を使って色々出しているけど、『魔法使い』って言う程魔法が得意じゃないし、そもそも戦う事自体苦手だから『戦士』とか『武闘家』とかの戦闘メインの役割は絶対違う!
罠とか鍵の掛かった扉とか解除出来ないから『シーフ』も違うし・・・・・・・・・
「あえて言うなら、『狙撃手』じゃないか?」
「あぁ!」
俺がそう悩んでいると、ルグが助け舟を出してくれた。
パチンコを使ってるから、強ち間違いでも無いだろう。
本当に敢えて言うなら、だけど。
「とりあえず、変わった魔法とこのパチンコを使った攻撃なら一応出来ます。
ローズ姫様から何処まで聞いているか分かりませんが、俺はサポート役の方が向いているし、元々戦いには向いていません。
ですから、そちらの方面で期待され無いで頂けると助かります。
それで、ティツイアーノさんはどんな事が得意なんですか?」
「はい。
私は『チェンジ』と言うあらゆるモノを入れ替える魔法が使えます。
それと、『浄化』や『回復』の魔法も使えますよ!」
「『チェンジ』が使えて『回復』も出来るって事は、『転移型』だよね?」
「はい!!」
「えっと、ちょっと良い?その『転移型』って何?」
『回復』の魔法の1つだという事は何となく分かる。
けど、ティツイアーノさんと正反対のルグとユマさんの険しい表情を見ると、あまり良いものじゃなさそうだ。
俺が同じ回復魔法の『ヒール』を掛けた時はそんな顔しなかったのに・・・
英勇教の神官に回復魔法を掛けられたくないって訳でもなさそうだし、そもそも回復魔法は1つじゃないのか?
「えっとね。
『回復』は大きく分けて3つの種類があるんだ」
「1つは一般的に『回復』の魔法と言われている光属性の『活性型』。
2つ目は私が使える風属性の『転移型』。
3つ目が非常に珍しい闇属性の『修復型』です」
『活性型』はその名の通り魔法を掛けた相手の細胞を活性化させ、速く傷が治る様にする。
そう言う自然治癒力を一時的に高める、肉体強化系の魔法の一種らしい。
よくアニメや漫画に出てくる回復技と言えば分かると思う。
このタイプの魔法もその手の技の副作用と同じ様に、寿命を縮めてしまったり使い過ぎると急激に老いてしまうそうだ。
それに、失敗すると傷口に入った菌を活性化させ大変な事になる。
一瞬で怪我や病気が治る分、リスクが高い魔法のせいか、中には『活性型』の『回復』の魔法を受けるのを嫌がる人も居るそうだ。
この話を聞いた後だと俺も遠慮する!
次にティツイアーノさんが持っている『移転型』。
空間系の魔法の一種で、負った怪我を治すんじゃなく別のものに移す魔法だ。
言葉にすると簡単そうに見えるけど、実際はかなり扱いの難しい魔法らしい。
本当に移せる人も居るらしいけど、ティツイアーノさんを含め殆どの場合、移転とは言うものの実際は『怪我をした場所』と『怪我を移したい場所』を入れ替える魔法。
ティツイアーノさんが得意とする『チェンジ』の魔法の応用魔法なんだそうだ。
ようは『怪我をした場所』と『怪我を移したい場所』。
両方を魔元素まで1度分解して交換して、再構築する魔法と言う事だ。
だから、上手く分解、再構築が出来ないと拒絶反応を起こしたり、交換した場所が変に再生されてしまう。
それに、怪我や病気が治る訳じゃないから、結局他の方法で治療しないといけないと言うデメリットもある。
まぁ、『活性型』と同じく嫌がる人が多いそうだ。
そして最後。
『修復型』は時間系の魔法で、他2つと違い病気や毒を治せず傷しか治せない。
その分3つの中で最も安全な『回復』の魔法でもある。
傷を負った事で魔元素まで壊れ、空中に漂う体の1部だった魔元素をそっくりそのまま『元に戻す』魔法。
『元に戻す』訳だから傷口から入った菌を消せるし、寿命を削る訳でもない。
難しく考えずとも出来るのもメリットだ。
病気や毒を治せないと言うデメリットは他の薬を使えばカバー出来るし、安全性をみれば1番良い『回復』の魔法だろう。
ただ、もう1つ問題を上げるとすれば、使える人が極端に少ない事。
「俺、結構『ヒール』使ってたけど、迷惑だった?」
「ううん。そんな事無いよ。
サトウ君の『ヒール』は『修復型』だから安全だったし、嫌だったらもっと前に言ってるよ!」
「サトウさんも私達の神 勇者様と、かの有名な犯罪者、Dr.ネイビーと同じ様に『修復型』の『回復』の魔法が使えるのですね!!
ルチアナ様ともお知り合いでしたし、もしかしてサトウさんは何処かの国の王家の方なのですか?」
「いえ。
俺は新しく魔法やスキルを作れる魔法とスキルを持っていて、それでたまたま偶然『修復型』の回復魔法を作れただけです。
俺は各国の王家とは何の関係もない、唯の農家の三男坊ですよ」
これも癖なんだろうか?
神と勇者の間を数秒開けて言うティツイアーノさんの言葉通りなら、『修復型』の回復魔法は異世界から『召喚』された人間とその子孫が使える魔法なのかも知れない。
恐らく創造スキルだと思われる『言語通訳・翻訳』に近いスキルをDr.ネイビーの娘であるスイセン姫が持って生まれた事からも分かる通り、創造スキルと創作魔法も固有スキルや基礎魔法の様に自分の子孫に受け継がせる事が出来るみたいだ。
魔女達が今も覚えているかどうかは分からないけど。
「えーと。
それだと怪我を負ったら薬を使うか、俺が『ヒール』を掛けた方が良いよな?」
「はい。
ユマさんとルグさんは『転移型』の『回復』の魔法を嫌っている様ですから」
それ以外にも理由はあるんだけどな。
態々ティツイアーノさんに言うつもりは無い。
「それでは、私達はこれで。
明日の準備をしたいので、お暇させていただきます」
「はい。明日はよろしくお願いします!!」
「此方こそ。
無事に依頼を達成出来る様、尽力に努めます」
ジュースを飲み干し、全員分のジュース代を払い酒場を出る。
道中は良かったものの、館に帰った途端ルグとユマさんは緊張の糸が解け、倒れてしまった。
たったあれだけティツイアーノさんと話しただけで、2人がこうなってしまうんだ。
本当、明日の依頼、肉体的にも精神的にも無事に終わってくれるよな?




