69,『 ≒ 』 中編
注意です!!
この話には、少々ホラーの様な描写や人によっては不愉快に思う描写が一部あります。
ホラー物と言うには大したことはないと思われる方も居ると思われるますが、
苦手な方はご注意下さる様、お願いします。
「えぇ!?マジかよ!!?」
「そんなに驚いて、どうしたんだ?
何が書いてあった?」
毎日さして変わらない日記の内容に驚く事が書かれていた。
それは勇者が旅に出て大体半年位経った頃。
本に残っている姫と勇者全員が集まった後に、どの本にも存在が残っていない、知られざるもう1人の仲間が加わったんだ。
「
『今日、俺と同い年の変わった男が仲間に加わった。
名前はネイビー・ビート。
自称小説家志願の魔法道具発明家。
今はただの遊び人の奇抜な頭と瓶底眼鏡が特徴の小太りな奴だ。』
」
「ッ!!ネイビー!?
ネイビーってDr.ネイビーの事!?」
「それに、ビートと言うと『勇者冒険記』の作者ですよね?
まさか、Dr.ネイビーと同一人物だったんですか!?」
まだ同姓同名の別人の可能性もある。
けど、『ネイビー』って名前で魔法道具の発明家と言われると嫌でもDr.ネイビーと同一人物だと思ってしまう。
まさか、勇者と同一人物だと思っていた人物の登場に驚きを隠せない。
「とりあえず、続きを読みますね。
『街でネイビーに後ろから声を掛けられた時は驚いた。
くぐもっているけど、アイツに声がそっくりだったんだから。
アイツは城に居て、此処には居ないのは分かっているのにな。
思わず慌てて振り返って見たネイビーの奇抜な恰好に別の意味で更に驚かされた。
ネイビーはビート名義で何冊か本を出したけど全く売れず、今では毎日賭け事ばっかしてる遊び人の様になっているそうだ。
俺に声を掛けたのは有名になった俺達の活躍を近くで見て本にしたいからだと言われた。
かなり面白い奴だし、俺以外女ばっかのパーティーに同じ男が入ってくれるのは助かる。
俺は大歓迎なんだけ、カレン達はあんまり嬉しそうじゃなかった。
まぁ、これから一緒に旅をするんだ。
その内カレン達も仲良くなるだろう。
ネイビーが仲間になった事、早くアイツに手紙で知らせたいな』
」
双子の弟に声の似た同い年の『ネイビー・ビート』
・・・・・・か。
「『勇者冒険記』以前にもネイビー・ビートは本を出していたみたいですね。
勇者一行と行動していたのもその本の為だったみたいですし。
他のページにはネイビー・ビートが発明した魔法道具が書かれているものもあります。
例えば、この日とか・・・」
「・・・・・・・・・確かに、この魔法道具は全部Dr.ネイビーの初期の作品として伝わってる物ばかりだよ」
日記に残っていたネイビー・ビートの魔法道具を読み上げる。
その中には俺も使っている洗濯機の様な魔法道具や氷木箱、ローズ国城の王の間のシャンデリアの魔法道具の元に成った魔法道具も書かれていた。
「て、事はDr.ネイビーとネイビー・ビートは同一人物で間違いないよな?
それで勇者とは別人」
「だが、他のDr.ネイビーの著書の文字とこの魔道書の文字は同じ筆跡だ。
この魔道書が異世界の者の物ならDr.ネイビーが異世界の人間だと言う事になる」
「ならDr.ネイビーは勇者の弟じゃないか?
異世界から来たもう1人の人間。
同い年で声も似ているなら可能性は高いと思う。
ただ、何で実の兄の前に変装して偽名を名乗って現れたのかが謎だ」
やっぱロアさんの言うとおり、Dr.ネイビーの正体は勇者の弟である『ラディッシュ』ってのが現実的だよな。
俺の予想が正しければ、名前からしてそうだし。
そうすると、何で変装してるのかと言う事と、噂ではDr.ネイビーが自分を蘇らそうとしていると言う謎が出てくる。
変装に関しては自分が追いかけてきた事を兄に心配されない様にとか、一緒にいる姫達を何らかの理由で警戒しているからって可能性が思いつく。
Dr.ネイビーが本当に蘇らせたかったのは誰なのか。
いや、正確に言えば、本当に勇者は元の世界に帰れたのか?
それが謎だ。
この場合1番可能性があるのは兄である勇者なんじゃないのか?
「う~ん・・・・・・とりあえず、サトウ君。
何か進展がある所まで読み進めてくれないかい?」
「はい、分かりました」
こうして悩んでいても仕方ない。
バトラーさんの言う通り、答えは日記の中にあるはず。
考えるのは日記を全て読み終わった後にしよう。
「・・・・・・・・・あ。ここ本で読んだ・・・
『アイツに会いたい。
このままじゃ、頭の中がグチャグチャして可笑しくなりそうだ。
今日戦った不思議なゴーレム。
戦隊物の変身した姿みたいな奴だった。
核を壊したのに俺に手を伸ばして、ごめんねって何度も謝ってきた。
確認する前にカレンが止めを刺して分からなかったけど、あのゴーレムはなんだったんだろう?
あのゴーレムに会ってネイビーまで様子が変だし。
最初は戦うなって言うし、今は何度聞いてもお前は知らなくて良いなんて言う。
何時もの明るさが鳴りを潜め、真っ青な顔をしている。
本当何なんだよ!
最近カレン達が赤い顔をして昨日の夜は~、なんて良く言ってくるようになった。
俺が顔が赤くなる様な寝言でも言ってるのかとネイビーに聞いてもそんな事無いって言われた。
だったらカレン達は何が言いたいんだよ。
意味解んない。
カレン達が変になって、ネイビーまで可笑しくなったら俺はどうした良いんだよ。
アイツに聞いたら解るかな?』
」
「ゴーレムって当時のアンジュ大陸国王が作った?」
「多分」
「なんで勇者に謝ったんだ?」
うーん、謎だ。
勇者が書いたページを最後まで読んでも、あの後ゴーレムの事が書かれた日は一切なかった。
もしかしたら、ゴーレムの事で何か知ってしまったのかもしれない。
何せ、魔王を倒し城に戻った後に書かれた最後2ページは・・・・・・
『うそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだあいつがいないなんってうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだおれはしんじない
だいじょうぶおれがみつけるから』
『
ご ん
め
ね
』
「・・・勇者、完全に発狂してるじゃないですかー。
やだー」
狂った様に『うそだ』の文字に殆どを埋め尽くされた、2ページ分に渡り書かれた行間も無視して文字の大きさも濃さも滅茶苦茶な平仮名。
その先にもルーズリーフは残っているけど、勇者が書いた日記はたった一言のミミズが這った様な謝罪で終わっていた。
「うわー。
これ殆ど同じ言葉が書かれてるんだよな?
うわー、うわー」
「恐ろしい。
い、一体勇者の身に何が・・・・・・・・・」
最後のページを見せながら説明すると、恐怖で顔を引き攣らせ全員に引かれた。
うん。俺もこれはちょっと・・・
行き成りのホラー要素に俺まで発狂しそうだ。
「勇者は最後に誰に謝ってるんだろうね?」
「その答えは、この日記の続きに書かれた2人の手記が教えてくれるよ」
1人はこの日記を正確に読める人物にDr.ネイビーが残した文。
もう一方を書いたのは、
「スイセンと言う名前のヒヅル国の人の様です」
「スイセン・・・・・・まさか、スイセン様?」
「様付けって事はヒヅル国の王家か、貴族の方ですか?」
「はい。
スイセン様は勇者の奥方様で在らせられるサクラ様の娘です。
そして、他の国と縁を切りヒヅル国の鎖国を決め、スクリュード国とのみ貿易をする事にした方です。
今までスイセン様が何故その様な事をしたのか、ヒヅル国の大きな謎でしたが、まさかこの日記を見て何かに気づいて・・・・・・」
勇者の血筋故にこの日記を読める人が居たと考えていたけど、その考えはどうやら合っていた様だ。
「はい、そうみたいです。
まずは、スイセン姫の方から読みましょうか?」
「・・・・・・・・・いいえ。
この文字なら私も読めます。
サトウさん、私が読み上げても良いでしょうか?」
俺は頷いてファイルから外したスイセン姫の手記が書かれたルーズリーフをマキリさんに渡した。
順番的にはDr.ネイビーの手記の方が先だけど、ページが張り付いて奇麗に剥がすには時間が掛かりそうだったんだ。
「
『この日記を読んだ方へ
ここに書くのは私の罪の告白です。
そして、自己満足な罪滅ぼしの覚悟を書き記します。
世界を救った勇者の娘としてうぬぼれていた私に、魔道書と呼ばれ残されたこの日記は真実を突きつけた。
異世界から来た父と同じようにどんな言葉も解るスキルを持った私にこの日記に書かれた真実の何と残酷な事か。
私は父に怨まれこそすれ、愛されていなかった。
必要とされていなかった。
私の母サクラは、いえ、勇者の妻と呼ばれる方々は皆、罪人だ。
自分達の世界の事なのに自分達は手を汚さず、関係ない異世界の者を多く巻き込み苦しめた。
母達の独善的な正義感が多くの関係ない人々を死に追いやった。
私の父も伯父上も叔母上もそんな人たちの1人です。
母の話では父は母達を愛していたと、
この世界を守る事に協力的だと語ります。
きっとこの先の未来でもそのように伝わるでしょう。
それは違う、違います。
父が愛していたのは伯父上と叔母上だけだった。
勇者の、異世界の人間の特殊な血を自らの血筋に組み込むために、その為に一国の姫でありながら、危険な旅に同行した。
命の危機を共に乗り越える事で父達をほだせると思ったのでしょう。
しかしその思惑は上手くいかず、最終的には大切な伯父上を人質に関係を迫った。
その結果生まれたのが私達です。
母達はどれ程の人の命と心を踏みにじった事でしょうか!
どれ程の人を道具の様に扱ってきたでしょうか!
私こそ、私達こそ、母達の罪の証拠。
父から唯一送られたこの名が怨念の証。
父が名づけたこの名こそ、父から母に向けての本当のメッセージ。
もし、この世界の者達が安易に異世界の者に頼らなければどれだけの命が救われたことか。
だからこそ、私はもう2度とこの様な愚行が起きないよう、魔族とも共存できる道を探します。
それがどれ程の子孫達を巻き込もうとも、これが私達一族が犯した罪に対して唯一償える方法だから。
それで父が、巻き込まれた異世界の方々が許してくるとは思っていません。
この日記を読んだ方。
どうか私達に同情しないでください。
庇護しないでください。
許さないでください。
これは唯の自己満足なのだから』
」
そこまでマキリさんは読むと俺を見る。
目を瞑り1度深く深呼吸をすると、最後の1枚を読み上げた。
「
『もし、願う事が許されるなら、
父に必要とされたかった。
愛されたかった』
・・・・・・・・・サトウさん。
貴方が今ここに居ると言う事は、スイセン様の思いは叶わなかったのですね」
「みたい、ですね」
マキリさんに返されたスイセン姫の手記は、墨で書かれている様で、所々大小様々な丸いシミの様に文字が滲んでいた。
彼女はどんな思いでこの決断をし、この手記を残したんだろうか?
「この日記はヒヅル国で管理していた魔道書です。
スイセン様は魔道書の保存に力を入れている方でもありました」
「自分の母親がした事を世に残す為に・・・か。
他の勇者の子、カレンの息子、オトギリと娘、アコニ。
ユーベルの娘、オルテンシア。
レイの息子、バルダーナ。
彼らはどう思っていたのか・・・・・・」
オトギリソウにトリカブト、アジサイ、牛蒡。
で、スイセン。
母親が憎けりゃ血の繋がった自分の子供も憎いって事か。
花言葉を考えると自分の子供に付ける名前じゃないな。
『私こそ、私達こそ、母達の罪の証拠。
父から唯一送られたこの名が怨念の証。
父が名づけたこの名こそ、父から母に向けての本当のメッセージ』
とスイセン姫が書いたのもそういう事だろうな。
勇者が姫達をどれ程怨んでいたか良く解る。
「さて、本命のDr.ネイビーの手記を読もうか」
「でも、幾らやっても張り付いたページが剥がれないんです」
「ちょっと見せてもらって良いかな?」
そう尋ねたロアさんに日記を渡す。
ロアさんはジッとそのページを見ると、納得した様に頷いた。
「この紙には『保護』と『封印』の魔法が掛かってるね。
それ以外にも見た事の無い魔法も掛かってるけど・・・・・・
サトウ君、ここに書いてある文を声に出してみて?
ここに書かれている言葉をた正しく読む事が出来れば、この紙の束に掛かった魔法が解けて中に書いてあるものが読めるから」
「えーと、『声に出して読んで』?」
ロアさんに言われた通り、手記の1ページ目に書かれている『声に出して読んで』と言う1文を書かれてある通り声に出して読む。
そうすると、一瞬魔法陣が浮かび上がりピッタリ張り付いていたルーズリーフ同士が離れた。
いよいよか。
乾いた唇を舐め、そっとページを捲る。




