6,魔法 後編
「ふむ、実際見ない事には何とも言えんな」
「は、此方に」
おっさんに目を向けられたローブ集団の1人が、既に用意していたらしい細い木の棒と石で出来たナイフを取り出した。
そいつは俺に近づくと、
「それを貸してやるから、この場で魔法を使ってみろ」
と言いながら棒とナイフを渡してきた。
いや、渡されただけじゃやり方知らないから出来ないって。
魔法陣も知らないし。
だけど、何もしない訳にもいかない。
そう思って何故か頭に浮かんだ図形を俺は木の棒で空中に描いていった。
二重になった円の真ん中に桜の花の様な模様が書かれ、外側と内側の円の間に三角形を重ねた様な模様が書かれた図形。
もしかしてこれが『クリエイト』の1つ目の魔方陣なのか?
なら何を出そう。
やっぱ、武器かな。
あのおっさんの事だ。
俺には王様が最初にくれるヒノキの棒すらくれないだろう。
この世界の通貨を持っていないから買えないし、身を守る為にも俺でも使える武器を出す必要がある。
剣や槍、弓は使った事無いし、武器になりそうな包丁や鎌、金槌、斧、フライパンは職人の大切な道具だから武器として使うのは失礼だ。
それにモンスター相手に接近戦なんて出来ない。
同じ理由でナイフも無理だな。
銃火器は構造知らないし、カッターや鋏の様な文房具はモンスター相手に効かなそうだ。
そうすると・・・・・・
そう考えていると魔法陣が完成し、魔法陣は光りながら最後に思いついた武器の形に変わっていった。
プラスチックで出来たY字の棹にゴム紐が張られた、パチンコとかゴム銃って呼ばれる玩具。
情けない事に俺でも使える武器としてこれしか思いつかなかったんだ。
いや、素材どころか空気しか無い所からイメージ通りの武器を作れた事をまず驚こう。
嘘みたいにすんなり魔法が使えた事を喜ぼうぜ、俺。
ついでに変えのジャージとか林檎とか、果物ナイフとか、白い鳩を出そうとして鳩の縫ぐるみを出す。
林檎を果物ナイフで切って食べてみたら腹が膨れて、特にイメージしていないのに良く家で食べているほど良く熟して甘酸っぱい味がした。
色艶、形、性能。
ここまでイメージ通りで完成度が高いとは。
だけど、
「やっぱ思い通りに出来ませんね。
想像した通りにいきません。
『クリエイト』の魔法は確かに凄いですが使いづらいです」
「そうなんですか?
十分使えると思いますけど・・・・・・」
「いえいえ。特にこの鳥なんて大分違いますし。
細かく想像して作り出したのに出てきたのは人形ですよ。
長く集中してコレです。
時間が無い時に出したらもっと雑なのが出てきますし、なにより1つ出すだけでとんでもなく疲れるんです。
連続して使うのも無理だと思います」
俺は出来るだけ疲れている風を装いそう言った。
それを見て魔女やおっさん、観客の目から俺へのギラギラした欲望が消え失せる。
確かにテスト明けの様な疲労感を感じるけど演技の様なグッタリする程酷くないし、林檎みたいにそこまで細かくイメージしなくても想像以上の物が作り出せた。
1回の魔法陣で何個も出せず、一々魔法陣を書かないといけない欠点を除けば思い通りの物が作れるとっても便利な魔法だ。
その欠点も説明に書いてあった『魔法陣を刺繍した袋』を作れば解決するかもしれない。
だけど、ここで馬鹿正直にその事を言ったら拉致監禁製作工場道まっしぐらじゃないか。
「・・・・・・・・・サトウの想像力の問題?
それとも魔法自体これが限界だった?
でも・・・・・・まぁ良いわ。
サトウ、落ち着いたら『クリエイト』のもう1つの方を試しなさい」
俺は頷き返し何度か大袈裟に深呼吸してからアプリを起動させた。
相変わらず猿がピョコピョコ動いている画面の上の方、『新しく魔法を作る』のボタンを押す。
しかし、
『エラー:条件が揃っていません』
出てきたのはその文と新しく魔法を作る条件だった。
「新しく魔法を作る条件。
『1、異世界に召喚されるまでに存在を信じている』、か。
スキルの時と同じだな」
スマホを見て動かない俺に痺れを切らしたのか、助手が覗き込み読み上げる。
「えぇ。
そして2つ目。
『情報を入手していない為表示できません』。
て事は俺が知らないだけで他にも魔法を作る条件があるって事ですよね。
そう言えばこの世界にレベルってあるんですか?」
「レベル?それは何ですか?
スキルのランクと何が違うんですか?」
聞いた魔女だけではなく周りも首をかしげたり、近くの人と聞き合っている。
「スキルの1つだけと言う訳ではなく、その人の全体の成長度を表す数値です。
創作物の話ですが、モンスターを倒した事で得られる経験値をある一定量ためる事で次のレベルに上がり、新しい魔法や技を覚えられるんです」
「そういうモノは在りませんね。
努力しだいでスキルが上がる事はありますが、モンスターを倒しただけで魔法や『狩猟』系のスキル以外を覚える事はありません。
もしあるとしたら『狩猟』系のスキルが上がるか今練習している技が完成に近づくかです」
「そう・・・・・・ですか」
今の話で2つ目の条件が開放されない事を見ると、ゲームみたいにレベル上げが条件ではないんだろう。
そもそもこの世界にレベルと言う概念自体無いらしい。
「じゃあ、ローズ姫様やシャルトリューズさんは、昔話とか噂で聞いた事でも良いので、何か知っていますか?」
「・・・・・・・・・・僕は聞いた事無いな」
「残念ですが私も。
魔法学の研究で多くの書物や伝説を調べましたがその様な話は載っていませんでした。
解っていれば勇者様をお呼びした時お役に立てたのに残念です」
周りを見渡せば皆同じ様に知っているかどうか聞き合っていた。
けど誰も知らないみたいだ。
それより魔女は今、『勇者様をお呼びした時』って言ったよな。
という事は俺の世界から呼ぶ事はほぼ確定なのか?
「これは少し時間をかけて勇者様をお呼びする前に調べる必要がリますね」
予想はしてたけど、これは勇者が来るまで俺はこの世界に拘束されるフラグ確定か?
実験動物と言う意味で。
「後は『ミドリの手』。
農夫なら大体持っている基礎魔法ですが、その道具を使うとなると・・・・・・」
「試してみますか?」
「えぇ」
エラー画面から元の画面に戻し『植物』の項目を選ぶ。
そこには元の世界で知っている草木や花、野菜がズラッと並んでいた。
ざっと見て1つの花を試しに選ぶ。
あ、ちゃんと色も選べるんだ。
この花なら黄色だな。
後は右下にある緑色の手のボタンを押せば、多分魔法が発動するんだろう。
思った通り画面いっぱいに我が家の家紋、丸に抱き茗荷を西洋風にした様な魔法陣が出現し、クルクル回りだす。
そうすると魔法陣の中心から光に包まれた種が画面を飛び出し成長していった。
望んだ所まで成長し余分な根や葉がポロリと取れ空中に溶けると光は消え、俺の手元には花屋で売ってそうな1輪のカーネーション。
「使う道具が特殊なだけで効果は同じですね」
「そうなんですか。あ、良かったらこの花どうぞ」
「あら、ありがとう。
始めて見る花ですね。サトウの世界の花ですか」
「はい。
特別な日に母親に感謝の気持ちを伝える為に贈る花なんです。
母親に送る時は赤い色ですが。
ローズ姫様に形とか色とか色々似合いそうな花だったので出してみました」
魔女は嬉しそうに花を受け取った。
うん、思った通り奇麗で可愛い淡い黄色のカーネーションは魔女に良く似合う。
それと、助手。
この位で布噛んで歯軋りしない。
「『基礎魔法』は問題なく使えました。
後は『創作魔法』なんですが・・・・・」
何度も頭の中で『ファイヤーボール』や『アイスボール』と言いながら木の棒を回しているが、まったく魔方陣が浮かんでこない。
「『クリエイト』と違う条件があるのか?
『ファイヤーボール』や『アイスボール』には」
コンッ・・・・・
「あっ」
「おい、お前・・・・・」
「ん?」
呼ばれた気がして振り返ると何故か魔女や助手が俺の方を目を見開いて見つめていた。
それに、直ぐ側で何かかが落ちる音と焦げ臭い臭いがしている。
足元を見ると卓球球の位の氷の塊。
ダランとたらした右手の方を見ると、俺の右手と脚の間に同じく卓球球位の炎の塊が・・・・・・
「どわぁあああああああっ!!!」
俺は慌てて右手を激しく振り火を消した。
右手を見ても火傷していないし、ジャージもあの臭いから燃えたかと思ったけど何処にも焦げ目は無く無事だ。
「へっ?はぁ?
な、何だ、今の・・・・・・・・・
まさか、『アイスボール』?」
もしや、と恐る恐る呟いてみる。
そうすると上に向けた手の平に足元に落ちた氷塊と同じ物がポンと出てきた。
まさか本当に名前を言っただけで発動するとは・・・
だけど、魔女達に説明する時は発動しなかったのは何でだ?
他にも発動の条件があるのか?
解らない内は『創造魔法』は迂闊に言えないな。
特に『プチヴァイラス』なんてリアルバイオハザードじゃねぇか!
「あと、『アタッチマジック』と『フライ』は・・・
魔法を付属させたい物を視界の中心に入れて名前を言えばいいのか」
俺が『アタッチマジック』と『フライ』と言った瞬間、ボーっと見つめていた鳩の縫ぐるみがフヨフヨと浮き天井に当たって落ちてきた。
今度は渡された石のナイフを持ち意識して魔法を使う。
「『アタッチマジック』、『ファイヤーボール』!」
その瞬間、イメージ通り刃の部分だけ炎が、
「うわぁっちぃいいいいいっ!!!
『プチレイィィイイイインッ』!!!!!」
纏われる事なく石のナイフ全体が炎に包まれ、俺は慌ててナイフを放り投げた。
こんな状況で咄嗟に『プチレイン』を唱えた俺、偉い!
「何やってんだ、お前?柄の部分まで燃やして。
馬鹿だろ」
「ハハハ、お騒がせしました。
次は失敗しない様にしますよ」
「たく。
ルチア様方に怪我でもさせたら承知しないぞ!!」
「肝に銘じておきます」
その後何回か付属させる魔法を変えて『アタッチマジック』を使って分かった事は、
「この『アタッチマジック』と言う魔法は武器の1部だけに魔法を付属させるのは無理みたいですね」
「ですねー」
100回近くやっても無理だった。
ここまでやれば俺に才能が無いからと言うより『アタッチマジック』はこう言う魔法だと、周りでレポート書いてる魔女とローブ集団に結論付けられた。
「使いづらい魔法ですが良いデータが取れました」
「それに、他の魔法も色々解りましたね、ルチア様」
「はい!この結果は魔法学の発展に使えます!!」
「ふむ、良かったなルチア。
これでこの国の魔法学がまた他国を凌駕するぞ!!」
「はい、お父様!!」
「へー、それはよーごさいましたねー」
そこ、笑ってないで助けろよ!!
『ファイヤーボール』で火傷して、『アイスボール』で霜焼になって、『サンダーボール』で色々麻痺しかけて、『フライ』で壁に猛スピードで激突して。
こっちは満身相違なんだよ!!
俺の『ヒール』だけじゃ治せる範囲小さいんだって。
このジャージ着てなかったらとっくの昔に死んでたわッ!
それなのに周りは笑ってるだけだし。
お陰様で魔法を発動しようと思っていないと、どんなに名前を言っても発動しないと言う発動条件が解り、魔法のコントロールが上達しましたよ!!
「はぁ、もう十分でしょ?
そろそろ元の世界に返して頂けませんか?」
「あら、それは無理です。
1度異世界からの召喚の儀式魔法を使うと3ヵ月経たなければ使えません。
ですからサトウにはその間この世界で生活して貰います」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
「あぁでも、何かあってはこの国が困りますから、サトウはこの国の領地から出ないでくださいね」
「・・・・・・・・・・・・・はい?」
「それと身分は一般国民として私達が保証します。
ですが、貴方がこの世界の常識を知らずにトラブルを起こして他の国民に迷惑が懸かっては困りますから就く職業は冒険者だけです」
「・・・・・・・・・はい?」
「では、ギルドに登録しに行きましょうか。
それともう少し、異世界人の能力を研究する必要がありますから、最初だけは私達も着いて行って上げましょう。
シャルと、後兵士からダン。着いてきなさい」
「・・・はい?」
「はい」
「は、姫様のお心のままに」
「では行きましょう。お父様失礼します」
そう行って出て行く魔女の後を助手と1人の兵士に引きずられ俺は連れてかれた。
「はい?いや、ちょっ待って?嘘だろ?
3ヵ月も此処に?
俺は、俺は何時元の世界に帰れるんだぁああッ!?」