68,『 ≒ 』 前編
「お待たせ、サトウ君。僕達の意見は纏まった」
ガチャッと音を立てて隣室の扉が開く。
中から出てきたルグ達が部屋に入る前の位置についたのを確認し、バトラーさんが代表し纏まった答えを話した。
「ここまで聞いたんだ。
僕達も自分達の王に真実を知らせる義務がある。
サトウ君。
この場で、この日記の翻訳を頼めるかい?」
「・・・・・・・・分かりました。
どんな真実が書かれていても、冷静に受け止める覚悟は出来ていますね?」
俺はそう言うと周りを見回す。
どうやら、話し合いをしている間に覚悟は出来ていた様で、皆迷いなく頷いた。
俺は深く、深く、2,3回深呼吸をすると、デカデカとシンプルに『日記』と表題紙に書かれた黄緑色のファイルを手に取った。
「・・・・・・・・・この日記、この世界に『召喚』された日から付けられているのか」
他のノートの様に日記の保存状態は良くない。
『真実を』と言ったものの、ちゃんと読めるのか不安になる。
それでも表題紙を捲り、出てきたページは保存状態が比較的良いものの日付が書かれていなかった。
破れていたり掠れて見えない訳ではなく、日付の代わりに『異世界生活 1日目』とルーズリーフの上の余白に書かれている事から、日数をカウントする様に書かれているんだろう。
「
『異世界生活 1日目
信じられない事に下校中に俺達は異世界に召喚された。
ベタな展開だけど、魔王を倒す勇者として呼ばれたんだ。
ラノベみたいで俺は興奮したけど、一緒に召喚されたアイツはスッゲー警戒してんの。
ジショー現実主義者のアイツの事だからこんなラノベ展開に驚いてパニックになっていたんだろうな。
そうそう、俺達2人が同時に召喚された事に召喚した奴も驚いていたな。
本当は1人だけの筈なのにって。
たぶん俺達が一卵性の双子だから一緒に召喚されたんだろう。
安心しろ!俺は兄貴だからな。
何があっても弟を守るのは俺の使命だ。
必ず魔王を倒して2人で帰るんだ』
・・・・・・・・・1日目はこれだけですね。
2日目は・・・・・・」
「待って、サトウ君!
2人?
勇者は2人で『召喚』されたって書いてあるの?」
次のページを読もうとしたらユマさんに止められた。
そう言えば、勇者関連の本でも勇者は1人で『召喚』されたって書かれてたな。
だからこそ、『召喚』されたのが2人と言う事に驚いたんだろう。
「あぁ、間違いなく2人って書かれてる」
「可笑しい。
『召喚』の魔法はどんなに高度な魔法でも1体ずつが限度だ」
「オレ達の魔法でも基本1つずつだよな。
勇者はイチランセーの双子ってのが理由だって書いてあるけど、イチランセーって何なんだ?
変わったスキルとか?」
「スキルと言うか・・・・・・う~ん・・・」
何と説明して良いのやら。
この世界の人は血液型とかDNAとか遺伝子とか分かるのか?
「性別や身長、後顔とか。
そう言う外見が生みの親ですら見分けがつかない位そっくりで、身体能力や学力も非常に近い双子の事だな。
性格とかの中身は兎も角、大雑把に言えば、同一人物と言うか天然クローン?」
「同一人物・・・・・・
オレん家で言えばラフとカランみたいな双子の事か?」
「今更だけど、ルグの兄弟多いな。
ルグから聞いた兄弟の名前、4人は居るけど?」
「そう!オレ、5人兄弟なんだ」
長女の『ユニ』さん、長男の『ラフ』さんと次男の『カラン』さんが双子。
その次がミモザさんで、大分年が離れてルグ。
俺としては驚くほど兄弟が多いけど、この世界では普通の事らしい。
「えーと。
ルグのお兄さん達がどの位似ているかは分からないけど、『同一人物な双子』って言われてパッと思いつくなら、多分その2人も一卵性なんじゃないかな?」
「じゃぁ、ラフとカランも同時に『召喚』出来るのか?」
「どうだろ?俺は魔法にもスキルにも。
それどころかこの世界の事すら詳しくないから・・・」
多分同時に勇者と双子の弟が『召喚』されたのは、遺伝子上は同一人物だからだろう。
あとは、古来から双子は『魂を2つに分けて作られた存在』と言われる程神秘性があるからか。
その事からも同時『召喚』が可能だったんじゃないかな?
「他に質問は?」
「そうだな、『ラノベ』と言う言葉が出てきたが、それは?」
「そうですねぇ・・・
簡単に言うと若者向けの小説の1つです」
本当に超簡単な説明だけど、許して欲しい。
アニメや漫画っぽいイラストが沢山ある文庫本って、知らない人にどう説明するべきか全く思いつかない。
他にどう説明すれば良いのか分からなかったんだよ。
そう少し悩みつつ他に質問が無い事を確認し、日記を読み進める。
「
『異世界生活 2日目
朝起きて、知らない天井が目に写った。
異世界に来たのは夢じゃないんだな。
隣のベットで朝からアイツが声を押し殺して泣いている。
つい此間妹が行方不明になって、家族総出で探しまくったのに、俺達まで突然異世界に来て親父もお袋もどう思っているか。
その事を思って、アイツは泣いていた。
泣いてるアイツを見たら、絶対帰らなくちゃって改めて思った。
大丈夫。
俺が絶対元の世界に帰して見せるさ!』
」
続けざまに娘、息子が行方不明になった親の気持ち、か。
・・・・・・・・・父さん、どうしてるかな?
それに、今近くに居ない母さんや兄さん達が俺が居なくなった事知ったらどうするんだろう?
「サトウ君?大丈夫?」
「あー、うん。大丈夫。
心配してくれてありがとう、ユマさん」
また少しトリップしていた様だ。
ハッとして、少し焦った不安そうな表情で尋ねるユマさんに笑って答える。
自分の事ながら、たった2ページ読んだだけで鬱になっていたら先が思いやれるな。
「さて、次は・・・・・・
『異世界生活 3日目
今日はこの国の姫に会った。
名前はカレン。
童話から抜け出してきたかの様に奇麗で可愛い女の子なのにこの国1番の剣の達人なんだって。
こんな可愛い女の子に勇者様なんて言われて慕われるのは悪い気はしないぜ。
でも、俺とカレンが話しているとアイツが不機嫌になるんだよな。
最終的にはカレンが話しかけようとするだけで睨みつける始末。
もしかしてやきもちか?』
『異世界生活 4日目
最悪だ。
やっと準備が整ったからと俺達の魔法とスキルを調べる事になった。
俺は、召喚した奴等の期待どうりだったみたいだ。
カレンも王様もズッゲー喜んでいた。
問題はアイツの方。
アイツはまともに戦える魔法もスキルも持っていなかった。
アイツは戦闘に関しては剣や弓の修行を必死にすればいいし、ダメでも裏方でサポートするから気にするな。
なんって言ってたけど、アイツの魔法やスキルを見た兵士の1人があからさまにアイツを馬鹿にしてきた。
ふざけんな!!
アイツの事、俺達のこと何も知らない癖に好き勝手言うんじゃね!!!
ムシャクシャして最悪な気分だ』
」
2日間連続で読む。
未来の奥さんの1人が登場した3日目と、自分の魔法とスキルが判明した4日目。
どちらも印象に残る内容だけど、俺としては4日目の方が印象的だ。
書いていた当時、勇者は怒髪天を衝く勢いで怒ってたんだろうな。
文字を見ただけでそのイメージが湧くほど、4日目の最後3行は文字の色が濃く、大きく激しい文字で書かれていた。
現存する勇者関連の本に描かれた勇者像からは想像出来ないけど、たった4ページ日記を読んだだけでも勇者が弟を大事にしている事が分かる。
それは日記を読み進める程よく分かった。
日記には必ず毎日1行だけでも弟の事が書かれているんだ。
うん、少し好感持てたかも。
「・・・・・・あ、この日は勇者の名前について書いてある」
「名前?確か勇者の名前は『ダイス』で・・・・・・
弟の方は残っていないはず」
「だが、Dr.ネイビーの関係者なら『ラディッシュ』って人が居るぞ。
勇者がここまで大切にしているなら、Dr.ネイビーになってから生き返らそうとした『ラディッシュ』って人は弟なんじゃないのか?」
ルグの呟きにミモザさんが自分の考えを言う。
ここまで読むと大切に、と言うかミモザさんと同じ唯のブラコンな気がする。
・・・・・・ミモザさんはシスコンでもあるけど。
まぁ、実際『ラディッシュ』は勇者の弟の事だからミモザさんの考えは正解なんだけど。
まだ何も言ってないのに分かったのは、やっぱ同類だからなのか?
「『ラディッシュ』は弟の事で合ってます。
でも、このページを読むに『ダイス』って名前も『ラディッシュ』って名前も渾名だったみたいです。
『カレンが中々俺達の名前を正しく呼んでくれない。
アイツなんてトウモロコシか狐みたいな呼ばれ方してる位だ。
俺達はそんなこと無いけど、異世界の人間の名前って発音しにくいのか?
そこで、いっそうの事カレン達が呼びやすい渾名を決める事にした。
俺はそのままカレンが呼ぶダイスで、アイツは俺達2人の通称からラディッシュにした。
俺はアイツの渾名もカレンが呼ぶ奴で良いと思ったんだけどな。
アイツがスッゲー嫌がるから変えた。
あっちの方が可愛いのにな』
」
「渾名か・・・・・・
本当の名前は書いて無いのかい?」
「・・・・・・無い・・・ですね。
他のノートにも持ち主の名前は書いてありませんし」
本当の名前の大体の予想はあるけど、確信が無い。
と言うかその予想の名前が俺にとっては身近な人達の名前だから、本当にその名前だとは信じたくないんだ。
もしかしたら、この先読み進めていけば答えが書かれているかもしれない。
けど、出来れば予想が外れている事を願う。
「ここから先は劣化が激しくなってきてるな。
読めない所が多いかも・・・・・・・・・」
シミや破れた箇所が多く、読めないページが多くなってきた。
辛うじて読める場所を読み進めて勇者兄弟は大体1年位、ローズ国城に住み修行していた事は分かったけど。
詳しい修行内容は分からなかった。
「
『今日、遂に俺は魔王討伐の旅に出る。
師匠からもお前なら大丈夫だって太鼓判を押された。
旅の仲間は今の所カレン1人だけだ。
アイツは不本意だろうけど、このまま城で留守番していてもらう事になった。
俺としてはその方が安心だ。
魔物と戦い続ける危険な旅にアイツを連れて行きたくない。
安全な場所で俺の帰りを待っていて欲しい。
アイツが待っていてくれるって思えば生きて絶対帰ろうと思えるからな!』
・・・・・・掠れてる文字を補足すると、多分こんな感じだと思います。
自信ないけど・・・」
多分合っていると思うけど、掠れたり破けている所は前後の文と文字で補って読んだ。
特に3行目と6行目の掠れ具合は酷い物で、まともに残っている文字は、
『 の仲間は 所 ン1 け 。』
『魔 戦い 危険 イツを連れ ない。』
と言った感じだ。
もしかしたら『魔物』じゃなく『魔王』だったかも知れない。
後は今までに日記に出てきた、最後『ン』が付く3文字の名前から『カレン』と読んだけど、本当は別の人間だったかも知れない。
「大丈夫!
勇者が弟を置いて旅に出た事が分かれば十分だって!!」
「そうそう。
今まで勇者の弟の存在が一切残っていないのが不思議だったけど、なるほどね。
魔王討伐の旅に同行しなかったから、一緒に『召喚』された弟の存在自体、一部の人間しか知らなかった。
だから、勇者の話には勇者と姫達だけが出てきたのか」
「それか、意図的に弟の存在が隠されていたかです。
ですが、その場合何の為にそんな事をしたのでしょうか?
今の所弟の存在を隠す利点が有りません」
「う~ん・・・・・・
例えば勇者が弟を大切にし過ぎたからとか?」
旅に出てからの日記にも必ず弟の事は書かれている。
『元気にしているだろうか?』
とか、
『病気や怪我をしていないだろうか?』
とか。
毎日弟を心配している内容が書かれていた。
新しい街に着くたびに手紙を出していた事も書かれている。
それに文の端々から、勇者は弟にしか興味、と言うか愛情?が無い様に感じた。
ラッキースケベが起きたら冷静に謝って終わり。
姫達からの積極的なアプローチは全スルー。
態とフラグを折るし、挙句の果てに姫達の事を、
『痴女じゃないのか?』
と書く始末。
そんな勇者の態度から、
「王や姫達は弟を人質に勇者を道具扱いしている。
だから勇者は姫達を嫌っているんだ」
と邪推する人が現れるかもしれない。
いや、実際現れたのかも。
未来に自分達の功績を残すとして、『正義の味方』として良いイメージを残したい思うはず。
その場合、『弟を人質にして勇者を動かした』と言うより、『姫達と恋仲になって、姫達と国の為に善意と正義感から勇者は我々を助けてくれた』と残した方が良かったんだろう。
だから弟の存在は邪魔だった。
「弟の存在を意図的に消したなら、その可能性も有ると思う。
後は、完全に生まれ故郷で勇者を待つ幼馴染ヒロインポジの弟に対する姫達の嫉妬とか?
まぁ、1番は今残っている本の作者達が弟の存在を知らなかったてのが現実的かな?」
「今の所、正しい答えは出ないだろう。
きっと日記を読んでいけば答えが出るはずさ!」
「そうですね。えーと、次は・・・・・・」




