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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1 章 体験版編
66/498

65,跳ねかえる巨大クロッグ 22匹目


 作戦実行の為、俺は会議室に来ていた。

後はルグからの連絡を待つだけ。

渡された通信鏡からはルグ達が戦っている様子が映し出されている。

俺が来る前と同じ様に、動き回ってカエルを誘っている。

少し傷を癒せたのに、『ヒール』を掛ける前よりも更にボロボロに傷付いていくルグ達。

それもあって不安が膨れ上がる。


「大丈夫。大丈夫。大丈夫。・・・・・・よし!」


この作戦の要である物を握り締め、自分にそう言い聞かせる。

廊下の時の様な歪な物じゃ駄目なんだ。


心配するな。


絶対上手くいく。


イメージしろ。


あのカエルを倒す、勝利のイメージ。


「サトウ!!もう直ぐ会議室の上!!

カウント開始!5!」

「OK!」


ルグからの合図が来た!

地面にある物、『ミドリの手』で出した樫の苗を置き、普段庭で野菜を育てる様に急成長効果を持たせた水を与える。


「・・・・・・・・・4!・・・・・・・・・3!」

「確り育てよ!」


成功する様にと、祈る思いが口から零れる。

その思いが届いたかの様に樫の苗がドンドン、俺の不安と正反対の逞しく大きい姿に育つ。


「・・・・・・・・・2!・・・・・・・・・1!」

「そのまま大きく、太く。

そのまま・・・そのまま・・・」

「0!!」

「天井を突き破れぇえええええええええええ!!!」


俺の叫び声に答える様に樫の木は部屋とほぼ同じ位の巨木に育ち、天井を突き破る。

そして、真上にいたカエルを打ち上げた。

それを急成長する樫の木に掴まって屋上に向かいながら通信鏡で見る。

後、俺がやる事は、


「『ミドリの手』!!!

ルグ!ミモザさん!!ロアさん!!!

お願いします!!」

「勿論!」

「任せろッ!!!!」


『ミドリの手』で出した数え切れない程の蔓蜜柑の蔓を使い、カエルを腹を見せた状態で地面に縫い付ける。

特に舌が使えない様に口には何十にも蔦を巻いて。

でも、俺が知る蔓の中で1番強い蔓蜜柑の蔓の強度はカエルの力に比べ弱く、あの巨体を何時までも縛り続ける事は出来ない。

現に今もカエルが暴れるせいで、何本かの蔓が切れだしていた。

だからこそルグとミモザさん、そしてロアさんが動いてくれているんだ。

蔓は3人の準備が整うまでの時間稼ぎでしかない。


「うおりゃぁあああああああああ!!!!」


気合を入れるように叫びながらルグがかなり重そうな貯水槽の残骸が端に着いた鎖を投げた。


まずは事前に『クリエイト』で出した2本の太くて重くて長い鎖を使い固定。

鎖の両先端には貯水槽の残骸を括り付け、俺が蔓でカエルを縫い付けると同時に『オンブラフォール』が消えた屋上の端から鎖がピンッと張る様に落とす。

これで鎖が重しの様にカエルを押さえてくれる。

屋上の隅が高くなったりフェンスがある訳でもなく、隅から隅まで平らだったから出来た事。


此処の所長に言いたい。

こんなに開放的な屋上なら落下防止の柵は立てるべきだったと。

お陰でカエルの動きを止められるけど、普段此処を使う職員は危険だと思うぞ?


まぁ、その事は置いておいて。

鎖を運ぶその役を買ってくれたのがルグとミモザさん。

あの重い鎖を扱う為、2人は変化石に回していた魔元素を他の所に使っているせいで本来の姿に戻っている。


ルグは軍服の性能を最大限に生かす為。


ミモザさんは空を飛ぶ為に。


「1本目完了。ルグ次行くぞ!」

「分かった、ミィ!!」


上空でカエルの上を通る様に鎖を運ぶミモザさんはケット・シーの姿ではなく、真っ赤な蝙蝠の羽が生え、尻尾が蠍の尻尾に変わった二足歩行のライオンの姿をしていた。

ルグは母親と同じケット・シーで、ミモザさんを含め1番上のお姉さん以外の他の兄弟はグリーンス国王家の血を引く父親と同じマンティコアなんだそうだ。

因みに1番上のお姉さんは父方の遠い祖先の先祖返りであるエルフらしい。


1万年前の勇者との戦いの後からグリーンス国では、当時忌み嫌われていた異種同士で結婚する事が多くなった。

まぁ、国のトップであるグリーズとリーンが異種同士で結婚しているから当然か。

愛に種族は関係ない!と言う事だろう。

そんな訳で異種同士で結婚が普通になった現グリーンス国では、ルグの家の様に兄弟で種族が違う事は良くあるそうだ。


「ロア、しくじるなよ?」

「心配しないで。

魔法陣さえ書ければこっちの物だよ」


鎖を運び終えたミモザさんがロアさんの側に降り立ち活を入れる。

俺達の行動で無事魔法陣を書けたロアさんの魔法が放たれた。

それによってカエルの四肢と頭は分厚い氷に覆われる。

文鎮の様に2本の鎖に押しつぶされても動けたカエルも流石にこれでは動けない。


と思っていたけど、カエルは強かった。


さっきよりも大人しいだけで、こうまでされてもカエルは微妙に振動する様に動き、氷がピシピシ音を立てる。

氷がなかったら更に激しく暴れていたんだろうな。


「まだ動けるのか!バトラー、急げ!!」

「分かっている。安心しろ。これで終わりだ!!」


この時の為に傷を完全に治し休んでいたバトラーさんが、顕になったカエルの腹を十字に切り裂く。

ヌメヌメした液が無いお陰か、今まで一切の斬撃を寄せ付けていなかったのが嘘の様な呆気なさだ。


「あんなに攻撃しても一切効かなかったのに、呆気ないものだ」

「はい。

それに、原因の魔法道具もここまで滅茶苦茶に壊れたら直しようがありませ。

これで一応、依頼完了でしょうか?」


魔法陣を使わず魔法を使いダウンしたユマさんを介抱しているマキリさんが、出入り口の上でそうミモザさんに返す。

体内の魔元素の使い過ぎで少し前まで気絶していたユマさんも無事目を覚ましたし、今はラムネ形回復薬を少しづつ食べれている。

『オンブラフォール』を解いた直後は全く体が動かない程疲労していたけど、マキリさんが調合した薬のお陰で物を食べれる様になったみたいだ。

その事にホッと気が抜けそうになるけど、まだ油断出来ない。


「油断しないでください!まだ、生きてます!!」


何時まで経っても『ドロップ』のメールが来ない。

という事は、あんなに大きく腹を切り裂いたのにカエルはまだ生きているって事だ!!

それが分かり、武器を構え距離をとる前にカエルが氷と鎖を壊し起き上がった。

切り裂かれた腹から今にも零れそうな中の物が覗いていると言うのにまだ動くのかよ!

どこまで化け物に進化したんだ、コイツ!


「まだこんな力が残っているのか!?」

「くっそ!

もう1度、あいつの動きを止め無いと!!」


俺達が見えていようが見えていまいが関係無い、と言わんばかりに滅茶苦茶に動く舌。

俺は兎も角、もう皆避ける力すら残っていないのに!!

そう思っていると舌が特に動けないユマさんとマキリさんを狙う。


「ユマさん!この!

『ミドリの手』、『ミドリの手』、『ミドリの手』、

『ミドリの手』!

これでも喰らえ!」

「グエッ」


舌を弾き返せなくても一瞬でも止める事は俺でも出来る。

どんなに鞭みたいに攻撃できても舌は舌。

味覚はあるはず。


俺は『ミドリの手』で出した大量のスライスした火炎苺とゴーヤをカエルの舌に向けて投げた。

命中率は低いけど数打ちゃ当たる!

何とかその内の1つがカエルの舌に当たった。

流石のカエルもあの辛さと苦さには耐えられず、舌が止まる。

その間にルグが残った力を振り絞り、瞬間移動で2人を助けてくれた。

そのまま1階まで避難させてくれたし、これでユマさん達の事は一安心だ。

けど俺は、火炎苺とゴーヤのせいでカエルにピンポイントで目を付けられてしまった。


「うっ・・・・・・・・・」


真っ直ぐ俺を見るカエル。

俺が恐怖で微動だにせずに居るからカエルも動かない。

けど、ほんの少しでも動けば即俺を食いに来るだろう。

他の誰かが動く前にカエルに襲われるのが先だ。

だからって大人しく食われてたまるか!

体からは嫌な汗が止め処なく溢れ心臓はバクバクと破裂しそうな程早く脈打っている。

過呼吸になりそうな程息も上がってるけど、頭の中は妙なほど落ち着いていた。

なら何かこの状況を抜け出す策を考えられるはずだ!!


「おい、人間。

そのまま、ソイツを引き付けておけよ?」

「ッ!?」


どうしたら抜け出せるか考えていると、上空から声がした。

カエルに襲われるから見上げられないけど、声からしてミモザさんだと思う。

ミモザさん、何をする気なんだ?

そう思いつつも、言われた通りカエルが動かない様に対峙する。

暫くすると視界の隅にミモザさんの姿が入ってきた。

斧を構えながら落下するミモザさんの姿が。


「ミモザさん!?」

「死にたくなきゃ避けろッ!!!!」

「は、はいぃいいい!!」


俺が転がる様にカエルから逃げるのとほぼ同時。

落下の力が加わったミモザさんの斧の先がカエルの脳天に突き刺さる。

そして斧が刺さった内側からまるで爆発する様にオレンジ色の炎が吹き上がりカエルを包み込んだ。

俺はその光景をカエルが最後に放った舌によって吹っ飛ばされ、屋上から落下する中で見ていた。


「『フライ』!」


まぁ、『フライ』があるから死ぬ事は無いけどな。

着ていたジャージに『フライ』を掛け、ゆっくり地面に下りる。

『避けろ』って言われた時、俺は自分が動いたらカエルに襲われる事が分かっていたから、自分の体に何十にも『スモールシールド』を掛けてから動いた。

お陰で骨が折れたりしていないけど、滅茶苦茶痛い。


「う、ゲェ・・・・・・」


それに思いっきり腹を打たれたから、胃の中の物が逆流してきた。

今は胃の中が空っぽになっても治まらない吐き気と痛みで動けそうに無い。

けど、その前に1つやらないといけない事がある。


「ゲホッ・・・・・・・・・

プ、『プチレイン』・・・」


今度こそ聞こえたメールの音を聞きながら、今も燃え盛るカエルの真上に『プチレイン』を出す。

このままカエルが燃えていたら、何時研究所に燃え移るか分からない。

ルグ達はまだ研究所の中と屋上に居るんだ。

今のルグ達が炎に囲まれたら逃げれない。

ミモザさんは魔法であの炎を出したみたいだから、有る程度コントロール出来ると思う。

けど、あんなに傷ついてボロボロなんだ。

上手くコントロール出来るから分からないから、念の為に一応な。


「サトウ!生きてるか!?」


そう言いながらルグ達が研究所から出てきた。

ルグ、ユマさん、バトラーさん、ミモザさん、ロアさん、マキリさん。

うん。ちゃんと全員居るな。

全員傷だらけだけど、何とか誰一人欠ける事なく外には出れた。


「いき・・・・・・てる・・・・・・

ルグ達・・・は・・・無事?」

「良かった。見ての通りオレ達も無事だ」

「で・・・も・・・・・・

ユマさんと、ミモザさんが・・・・・・

それに傷・・・」


全員無事と言うけど、ユマさんとミモザさんはグッタリしてルグとバトラーさんに背負われている。

2人共真っ青な顔して意識もないし、呼吸も正常とは到底思えない程弱々しい。

俺からみたら今にも死んでしまいそうに見えた。


「大丈夫、俺達は薬塗って飯食って寝れば治るって!

この位、たいした事無いさ。

ユマとミィも魔元素が尽きる位の大技を放ったから疲れって眠ってるだけ。

少し休めば、目を覚ますって!」


ユマさんは『オンブラフォール』のが今だ治り切っておらず、ミモザさんはあの炎の魔法のせいらしい。

あの炎の魔法は発動までにかなりの溜め時間が必要で、尚且つ大量の。

それこそ体の中にある魔元素の殆どを消費する。

その分、それに見合った強力な技を放てる、正に一発逆転の大技なんだそうだ。


「ならゆっくり休んで貰った方が良いよな?

あ、2人に回復薬代わりの・・・・・・

飲み物出した方良い?」

「うん、お願い。

魔族は魔元素が体にあった方が疲れが取れるの早いから」

「分かった。ルグも要るよな?」

「オレはこっちがあるから大丈夫!!」


そういってラムネ型回復薬を見せるルグ。

そのままルグはラムネを1つ取り出し自分の口に放り込んだ。

ルグのその姿を見てから俺は『クリエイト』で水を出し、『教えて!キビ君』でチェックしてから2人にゆっくり飲ませる。

飲ませる前より、少しだけ顔色が良くなった。


「サトウさん、薬使いますか?」

「ありがとうございます。

でも、俺は大丈夫ですよ。

たいした怪我してませんし、回復魔法ありますので。

俺の分は薬はルグ達にお願いします」

「分かりました」


俺にまで薬を渡してくれ様としたマキリさんにお礼を言って断った。

それより、ルグ達の方が重症だからな。

ルグはマキリさんに薬を塗ってもらい、ラムネ形回復薬をボリボリ食っている。

あれなら大丈夫そうだ。


念の為に『ヒール』を掛けておくか?

俺は自分で何とかなるから良いし、バトラーさんとロアさん、マキリさん自身はマキリさの薬を塗って包帯を巻き、治療ずみ。

マキリさんの調べでは誰も骨や内臓にダメージが行っていないみたいだし、『ヒール』も掛けたから安心だ。


「他の所も無事クロッグを倒せたみたいだね」

「そうですか。皆さん無事で?」

「あぁ、問題ない。寧ろ1番重症なのは僕達だ」


通信鏡で確認したバトラーさんの言葉に胸を撫で下ろす。


「無事だった分魔法道具は壊れ、最後に生まれた異形クロッグは丸焦げで何の素材も手に入らなかったけどね」

「素材・・・・・・そうだ!

サトウ、あのクロッグの『ドロップ』って何が出てきたんだ?」

「ちょっと待て。え~と・・・・・・・・・」


メールを見ながら『ドロップ』したアイテムを確認する。

出てきたのは5種類。


「『ドロップアイテム 


異常進化したクロッグから“潤滑液”×100


異常進化したクロッグから“異常進化したクロッグの舌”


異常進化したクロッグから“異常進化したクロッグの皮膚”×80


異常進化したクロッグから“クロッグナイフ”


異常進化したクロッグから“クロッグパチンコ”



をゲットしたよ』・・・・・・・・・・か」


皮膚と、ヌメヌメした液こと潤滑液は数え切れない位、残り3つは1つづつ手に入った。

そう言えば、何気に武器の『ドロップ』って初めてじゃないか?


クロッグナイフはあのカエルの爪を加工した白い色をした鋭いナイフ。


クロッグパチンコは柄の部分に牙を、ゴムの部分に舌と皮膚を使ったモノクロの丈夫なパチンコだ。


どちらも俺が『クリエイト』で出したパチンコとナイフよりも丈夫で威力が高くなっている。

ゲームで言えば初期装備の1番弱い武器と始まりの町の次の町で手に入る武器位の差だろうか?

けど、あのカエルが素材だと思うと、使うのが少し躊躇われる。

いや、生きる為にはそこは我慢しないといけないのは分かっているんだけどさ。

だけど、嫌悪感がまだ・・・・・・・・・

使うのはまた日を改めてからで良いかな?


「はぁ。やっと、終わったー。疲れたー」

「何か、オレ。

終わったと思ったら眠くなってきたー」


寝不足と疲労でもう限界だ。

もう、寝ちまっても良いよな?

・・・・・・・・・いや、ダメだ。


ルグが既に夢の世界に旅立ってしまったから、俺まで意識を飛ばす訳には行かない。

こんな所で寝落ちる訳にも行かないし、あと少し頑張ろう。


作れるかどうか分からないけど、屋敷に帰ったら疲れを癒せる入浴剤を入れた風呂にゆっくり浸かりたいな。


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