表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1 章 体験版編
64/498

63,跳ねかえる巨大クロッグ 20匹目


「まず、魔法道具の方なんだけど。

屋上、と言うか屋上に在ったあの大きな貯水槽がそうなんじゃないかと思うんだ」

「貯水槽?え~と・・・・・・あれか。

どうしてそれだと?」

「最初この建物を外から見た時、建物に比べて貯水槽が新品の様に奇麗なのが気になりました。

バトラーさんの話では、この建物は改装工事を1回もしていない筈ですよね?


でも、出来た当時から入り口にある見取り図を見ると屋上には貯水槽がある事が書かれています。


つまり、30年前からあの貯水槽は屋上にあったのに錆びたりペンキが剥がれたりせず、ずっと新品同然のままあそこにあった事になります」


どんなに奇麗に掃除してもあんなに新品同然に奇麗なままでいられるのは不可能だろう?

どうしても雨風に晒され錆びるし汚れる。

遠くから見たから良く分からないって事もあるだろうけど、雰囲気ていうのかな?

30年一緒に建っていたのに建物と馴染んでいないようなそんな感じがしたんだ。

これは直感的なものだから理由として弱いよな。


「次に研究所を探索して思った事なんですが、そもそも貯水槽が必要なのか?と言うことです。

この研究所には倉庫2つ分に大きな貯水晶が保管されていましたし、水を汲んだりろ過できる高性能な魔法道具もあります」

「あ、それは私も疑問に思っていたんだ。

あの魔法道具があれば倉庫の貯水晶はいらない位だったのに、何であんなに水を溜めてるのかな?って。

一瞬って言っていい速さで汲み上げて、ろ過できるのに・・・」

「多分倉庫に貯水晶が在ったのは、何か合って湖の水が枯れたり、魔法道具が動かなくなった時の保険の為だと思うんだ。


でも、あんなに大きな貯水槽があるなら倉庫の貯水晶は要らないよな?


保険として水を溜めてるなら貯水槽で間に合うだろうし、貯水晶を保管しない分倉庫に空きが出来る。

倉庫が2つ分空けば、もう1つ位研究室を造れるだろ?」


それなのに沢山の貯水晶があったのは、あの貯水槽が使えないからなんじゃないか?


と思ったからだ。

最初は見た目に反してあの貯水槽が壊れているのかと思っていた。

けど、それは次の理由で否定できる。


「そして最後。

実は魔法道具が屋上にあるってのは第2研究室に入った時気づいたんだ」

「え!あの時!?何で言わなかったの!?」

「まだ倉庫を探してなかっただろ?

だから、確信がなかったんだ。

それに、魔道書の場所もあの時は倉庫にあると思っていたから。

言うなら倉庫を調べてからの方が良いと思ったんだ」


第2研究室から屋上への階段がある社員食堂はそれなりに距離がある。

もし、あの時屋上に魔法道具があると言って先に屋上に行って、それが間違いで倉庫に戻る羽目になったら大分時間の無駄。

だったら、倉庫を確認してから言った方が良いと思ったんだ。

今思うと魔法道具の場所を伝えて、倉庫は無視しておけば無駄に疲れなかったのにな。

失敗した。


「思い出して欲しいんだけど、第2研究室に入った時、水が滴り落ちて水溜りが出来ていただろ?」

「・・・・・・・・・うん。出来てた」

「場所は・・・・・・

研究室同士の間の、丁度水槽の真ん中辺りの天井からだったな」

「あれ?

でも蛇口は排水溝の反対側の壁の上の方についてたよな?

・・・・・・あっ!

あの辺りにパイプが通っていたのか!

それが壊れて水漏れしていたんだな」


そう、俺も最初ルグと同じ様に思っていた。

だけど、それだと可笑しな事がある。


だって、ユマさんは水を汲む魔法道具は止まっていると言ったんだ。


パイプに残った水も全部出した。


なのに俺達が研究室を出る時も変わらず水が滴り落ちていたんだぞ。


この研究所のどの部屋にも、もう1滴の水も送れないのに何時までも水が滴り落ちているなんって、明らかに可笑しいだろう?

だからあの場所を見上げた。

そしたらそこに、


「奇麗に丸く切り取られた、あのカエルでも通れそうなほど大きな穴が開いていて、真っ直ぐ上に1本のパイプが続いていた。

あの研究室の真上は丁度貯水槽がある」


水が滴り落ちていた事から考えて、貯水槽には水が溜まっている。

昔に水を溜めて何らかの理由で水が出せなくなったのがカエルが暴れた事で穴が開いて水が漏れ出した。

と言う可能性も確かにある。


けど、それなら中の水は長い間貯水槽の中にあったのだから、錆や微生物のせいで赤くなったり緑色になったり、濁って変な臭いがするはず。

でも落ちていた水は普通に飲める位奇麗だった。

という事は、ある程度の期間で水は入れ替わっているという事だろ?

つまり、あの貯水槽は正常に使えるって事だ。


「貯水槽が正常に使えるのに大量にあった貯水晶。

そして、水だけならあの蛇口から溜めれる事。

保険として貯水槽に溜めているなら水が奇麗過ぎた事」

「奇麗過ぎた?」

「うん。

此処にある水汲み魔法道具の力なら態々1度屋上に溜めてから他の部屋に配る必要も無い。

だから、そんなに頻繁に水を入れ替える必要は無いだろ?

保険として溜めているなら頻度としても半年か1年位で入れ替えれば良いと思うんだ。


そして、穴やパイプの様子から見て、あの穴は最初から開いていたみたいだった。


もしパイプを繋げるとしたら水汲み魔法道具と、ろ過の魔法道具に繋げるはず。

安全を考えるともう1度ろ過した方が良いだろ?

保険として使うなら、もう1度ろ過してあの巨大蛇口から水を流すはず。


なのに、貯水槽と研究室の水槽が直接繋がっていた。


と言う事は、貯水槽には水以外の物も入っていて、あの穴を通って水槽に落とされていたんじゃないか。

って思ったんだ」


研究室の設備から見て、たぶん第1、第2研究室がメインの研究室だったはず。

原因の魔法道具の能力を考えると、研究室の中か近くに設置すると思うんだ。

じゃないと、態々別の場所に設置した魔法道具で大きくしたクロッグを、あの研究室まで運ばないといけないと言う手間が生じる。

まだ抱える位の大きさなら良いけど、街や廊下であった位大きくなったら運ぶのすら無理じゃ無いかな?


そう考えると、あの研究室の中に目当ての魔法道具がないのが不思議だった。

でも、あの穴を見て自分の中でカチッと音を立てるように納得出来る理由を思いついたんだ。


パイプを通してドボンッ!と水槽にクロッグを落とせば良いのだと。


そう考えるとあの大量の貯水晶も納得出来るだろ?

あの貯水槽が保険として存在しない以上、念の為にあの貯水晶が保管されていた。


「そしてもう1つ。

ちょっと理由としては弱いと思うけど・・・

意外な場所だからってのもあるかな?

ほら、ユマさん言ってただろ?

『普通は雨風に晒される屋外には設置しないはずだ』って」

「うん。

魔法道具を作る職業の人なら誰だって知ってる初歩知識だよ。

そうじゃなくても、精密な魔法道具ほど室内で保管する物だって、一般常識として誰でも知ってるはず」


ユマさんの言葉に俺以外の全員が頷いた。


「そう、だからだよ。

まず誰もあんな場所にあるとは思わない。

常識的に考えて、最初からあの貯水槽、と言うか屋上を除外してしまう。

常識的に考えている内は見つけられない。

それこそが貴重な魔法道具を盗まれない様にする為に前所長が立てた作戦なんじゃないかな?

それか、単純に他の部屋とかの関係で、大きな魔法道具を置ける場所が屋上位しか残っていなかったか」


俺が屋上と言った時その場にいた4人全員にそれは無いと即答された。

それだけこの世界の常識的にありえない事なんだろう。

だけどさ、この世界には魔法が在るだろう?


「大体、雨風に晒されるってのは俺の『スモールシールド』の様な結界を張れば良い。

そうすれば壊れる心配はないだろ?

それに、ユマさんやフード2人組みが着ているコートやローブの様な誤魔化せる魔法を掛ければ結界を張っている事や魔法道具だって事も隠せる。

上手くやれば屋外に設置しても問題ないと思うんだけど?」

「あー・・・・・・・・・言われてみれば」

「そう、だよね。

上手く自動的に、且つ半永久的に魔方陣に魔元素を流す回路を組めれば精密な魔法道具でも外における。

誰も居なくなった場所で今でも魔法道具が動いているんだから、その時点で気づくべきだった。

あんなに大きな魔法道具を動かせる回路を組めるんだから、その位簡単だよね。

盲点だったよ・・・」


皆、してやられた、と悔しそうな顔をする。

ミモザさんなんてまた暴走する少し前の様な顔をしているし。

お願いですからもう、暴走しないでくださいね?


「えーと。

以上の理由から、俺はあの貯水槽が魔法道具だと思ったんですけど・・・・・・・・・どうかな?」

「なるほどな。

サトウ君の考えが当たっていれば、此処の前所長は相当な策士の様だ」


バトラーさん達は俺と前所長が似ていると言ったけど、全然似てないよな。

俺は研究所の様子と言う推理素材があったから予想できたけど、前所長は1から思いついたんだから。

まさに策士って感じの人だったんだろうな。


うん。

見た目も中身も、全然似ていない。


「さて、此処を上がれば答えが出る訳だ。

・・・・・・いや、もう答えは出ているみたいだね」

「・・・・・・・・・サトウ君の言う通り、あの貯水槽が魔法道具だね」


無事食堂に着くと上から最初来た時には聞こえなかった、ドン!ドン!と言う何か大きなものがぶつかる音が聞こえた。

その衝撃で部屋が微かに揺れる。

慌ててユマさんとバトラーさんが階段を駆け上がり、出口から顔だけ出し屋上を見回す。


「あの、この音って・・・・・・」

「残念な事に、新しいクロッグが生まれてしまったようだ。

今回は相当やんちゃな様でね。

魔法道具の中で暴れているみたいだ」

「この調子なら何時魔法道具が壊れても可笑しくないよ。

現に、魔法道具に掛かっていた魔法の魔法陣が壊れてる」


言われて俺も同じ様に屋上を除くと所々穴が開き、水が漏れ出した貯水槽が見えた。

貯水槽の1部はガラスになっており、中が見える様になっている。

そこにギラギラ光る目と巨大な爪と牙が生えたカエルが張り付く様に何度もぶつかっていた。


「ちょぉおおおおおおっとおおおおおおおお!!?

中に居るの本当にカエル!?本当にカエルなの!!?

何で爪生えてるの!?」


大きさは廊下に居たカエルよりも大きい。

それなのにカエルには似合わない凶悪な爪と牙が生え、クロッグとは思えない恐ろしい顔をしている。

もう、原型留めてないじゃん!


予想外の進化に唖然と貯水槽を見ていると、中の奴が突然消えた。

いや、よく見ると何か白い棒が見える。

・・・・・・・・・あれ、もしかして牙?

中に居るもっと大きな固体に食われたのか?

あのカエルはあの固体から逃げる為に暴れてたのか?


それが解った途端、ぞわっと何かが背中を流れる。

俺は慌てて顔を引っ込めた。


「ななななななななな何で、つ、つ、爪、爪が!?

カ、カエル?

あ、あ、あ、あれ、あれ、あれ、カエル?」

「サトウ落ち着けって。ほら深呼吸、深呼吸」


ルグに言われて何度か大きく息を吸って吐く。

・・・・・・・・・よし、少し落ち着いた。


「何かもうクロッグからかけ離れてるし、共食いしてるし!!

もう、何なんだよあれ!!?」


訳もなく俺は思いっきり叫んだ。

その途端、ロアさんに水を掛けられましたけど。


「よし、サトウ君も落ち着いた事だ。

皆、準備は良いかい?」

「はい!」

「何時でも」


皆、何でそんなに落ち着いてるんですか!?

やる気満々だし。


今、貯水槽の中で暴れているクロッグは居ない。

怖いほど静かだ。

けど、あの共食いした固体が出てきたら・・・・・・


「ん?出てきたら・・・・・・ま、まさか!!」

「「研究室!!」」

「ッ!!あそこから、出てきたのか!?」


俺とミモザさんが同時に叫ぶ。

そうだよ!

貯水槽の出口はあの研究室の水槽の穴!

あんな巨体だけど、あの穴はギリギリ通れる幅があったはず。


「だが、研究室から音は聞こえてきていない。

まだ、中に居る可能性も有るか・・・

うん。サトウ君、ルグ君。

念の為に2人で様子を見てきてくれないかい?」

「は、はい!」

「まかせろ!サトウ、行くぞ!!」

「あぁ!」


俺とルグはルグの瞬間移動を使い急いで研究室に戻った。

けど、研究室を見回しても、クロッグの姿は一切。

それこそ足跡も、影も、不自然な水溜りも、気配すら何も無かった。


「出る時と変わってないな?

まだ、出ていないのか?」

「ルグ、油断するなよ。

街や廊下に居たカエルの様に体色を変えてるかもしれないし、天井に張り付いてるかもしれない」

「壁も・・・・・・天井も・・・・・・

居ない・・・な」


お互い武器を構え注意深く辺りを見ながら穴の下まで行く。

穴を見上げたけどカエルが詰まっている訳じゃなさそうだ。

それに貯水槽の出口は開きそうも無い。


「良かった。本当に出てないんだな」

「よし!サトウ、早く戻ろう




ドガンッ!!!




な、何だ!?今の音!?上!!?」


安心したのも束の間、体が浮くかと思う程の激しい揺れと共に何かが壊れる様な爆音が響いた。


「こっちじゃなく屋上の方に出たのか!!?」

「早く戻らなきゃ!ユマとミィが!!」

「ルグ!先に戻っていてくれ!

この揺れだ。

戦闘が始まったら最悪この研究所が崩壊する。

俺は、その前に魔道書を回収してくる」

「分かった!」

「ルグ、ちょっと待った!」

「何、サトウ?急いでるの分かってるだろ?」


それは俺も解っている。

俺だってユマさん達が心配なんだ。

本当は直ぐルグに向かって貰いたい、って気持ちが強い。

だけど、1つ重要な事を聞き忘れていた。

これを聞かないと俺はどうしようもないんだ。


「魔道書、どういう物か詳しく聞いておこうと思って。

間違えたらまずいだろ?」

「あ、そっか。

サトウは魔道書の事全然知らないんだよな。

え~と・・・・・・」


ルグに言われた魔道書の特徴をメモしていく。

おい、これって・・・・・・・・・


「・・・・・・ありがとう、ルグ。

これで無事探せるよ」

「なら、今度こそ任せたから!」


返事が聞こえたと思ったら既にルグの姿はなかった。


しまった。

途中まで送って貰えば良かった。


そう思っても、もう遅いか。

俺は全力で魔道書がある場所まで向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ