61,跳ねかえる巨大クロッグ 18匹目
俺はルグに担がれたままバトラーさん達が通れる様にバラバラにしたカエルの横を通り過ぎ、第2研究室に入った。
第2研究室は今まで見てきた研究室と殆ど変わらない。
ただ違う所が3つ。
1つは隣の第1研究室もそうだけど、他の部屋に比べ天井が高い事。
もう1つは第1研究室との壁の1部がくり抜かれ、そこに天井に着きそうなほど巨大な水槽があった事。
最後に水槽を含め此処と第1研究室だけが、まるで災害に遭ったかの様にボロボロになっていた事だ。
壁や床はひび割れ、水槽は粉々。
粉々になっているのに水槽だと分かったのは、殆ど乾ききっているものの研究室同士の間の天井から未だに水が滴り落ち、水溜りが出来ていたからだ。
この水槽に入っていた水の殆どは水槽の隅にある巨大な排水溝から流れて行ったみたい。
排水溝は本来、水槽横の壁についたレバーで蓋を開け閉め出来る様になってたみたいだけど、今はその蓋が壊れ常に開いた状態だ。
排水溝の反対側には大きな蛇口があり、少し硬いバブルを回すと水が勢い良く出る。
でも水はほんの数秒出ただけで、バブルを閉じていないのにそれ以上出てくる事はなかった。
水汲み魔法道具が止まっているから、今出たのはパイプに残っていた分なんだと思う。
蛇口の向かいの第1研究室の方には梯子も着いているし、この仕掛けを考えると定期的に水槽の水を抜いて掃除をしていたんだろう。
床には水槽のガラスの他に鏡の破片と鉄の塊も落ちている。
この状況から此処が研究員が連絡を取った場所なんだと言う事が分かった。
幸いな事に研究員の姿はないから、無事に逃げ出せたんだろう。
「この水槽からクロッグ達は逃げ出したのか。
それにしても、見事なまでに粉々だなぁ。
此処と隣の研究室だけ異様にボロボロだし」
「此処が職員さんの言っていた所なんだろうね。
でも、魔法道具は見当たらないよ?」
「変わった物はこの壊れた水槽とデッカイ蛇口だけだしな」
「魔法道具は別の場所か・・・・・・」
あ!
そう言えば、今更だけど重要な事を聞いていなかった。
「あの、もしかして魔法道具も魔道書も逃げる時に誰かが持って行ったんじゃないんですか?
重要な物なら此処に放置していくとは思えません」
「それは無い。
まず、魔法道具はあのろ過の魔法度具の様に大きな物で、この研究所に設置されている。
この研究所で1番大きな魔法道具とも言っていたな。
だから、持って逃げる事は不可能だ」
『1番大きい』って事はあのろ過と水汲みの魔法道具よりも大きいのか。
それに、ミモザさんの言う通り、設置されているなら如何にか空間結晶を使った鞄や箱を使って魔法道具を持ち出せても、もう2度と使えなくなる。
その事から考えても魔法道具が誰かに持って行かれた可能性は低いか。
そもそも、此処にはあの湖のおたまじゃくしやカメレオンの様なカエルが居たんだ。
あいつ等はバトラーさんが此処に来る前に調べた時には存在していなかった。
それなのにあいつ等が存在すると言う事は、今も魔法道具が動いて異常な巨大クロッグを生み出してる事に他ならない。
それは未だにこの街の何処かに魔法道具が在って、暴走状態で活動してる証拠だろう。
冷静になって思い出せば、この研究所に魔法道具がまだある可能性の方が高いよな?
「魔道書の方は前所長しか場所を知らなかったそうだ。
前所長は魔道書はこの研究所に置いておくと言っていたらしいけど、詳しい場所は誰も知らない。
現所長に伝える前に亡くなってしまったからね。
だから、今もこの研究所にあるはずだ」
「魔道書の方は分からないけど、魔法道具はそんなに大きい物なら目立つはずだよね?
倉庫の方にあるのかな?」
「あるいは・・・・・・・・・
いや、まずは倉庫の方に行こう!」
バトラーさんは何か言いかけ、研究室を出た。
最後にもう1度、変わらずポタポタと水が落ちる音が響くだけの研究室を見回してから俺も後を追う。
倉庫はやはり、他の倉庫と変わらない。
よく分からない物と大量の貯水晶があるだけだった。
唯、最後の部屋は部屋中金庫だらけだったけど。
「金庫がいっぱい・・・・・・
もしかして、これの何処かに魔道書が?」
「所長室になかったんだ。
此処が1番可能性があるよな!!」
「よし、片っ端から開けていくか!」
「ちょっと待って!どう見てもこの部屋罠でしょ!?
こんなに金庫だらけで・・・
いや、それ以前にその金庫本当に開けられるんですか?
ロックバードが鍵を掛けたなら、そのロックバードが居ない今開けるのは不可能ですよね!?」
この研究所にロックバードが居る事はバトラーさんも言っていたし、大量の鳥かごも有ったから間違いないと思う。
ならこの金庫もロックバードが鍵を掛けた可能性がある。
そのロックバードは防犯の為にか此処の職員と一緒に逃げたみたいだけど。
ロックバードに鍵を掛けられたら、
『ロックバードが開けるか死ぬかするまでどんな事をしても開かないし、どんな攻撃でも壊せない』
はず。
それに、
『うまく調教できれば唯の木箱でも頑丈な金庫に早変わりだし、部屋なんかどんな手慣れでも侵入不可な砦にしてしまう』
とボスが言っていた。
それなら態々こんなに金庫を用意する必要は無いはずだ。
その事を含め、部屋の様子からして罠っぽいだろ?
そう思ってやっと普段通り動ける様になった俺は、倉庫の戸と近くに遭ったランプを『クリエイト』で出した丈夫な鎖で繋いで、戸が閉まらない様にしてからルグ達を止めた。
せめて、まずは金庫の周りから調べようよ!!
行き成り金庫開けようとしないでッ!!!
「鍵を掛けたロックバードが居なくても鍵を開ける方法はある。
それに、良いか人間」
「はい?」
「一流の冒険者はあえて罠を発動し、それを難なく躱し、その状況を楽しむものだ!」
「え、えー・・・・・・・・・」
何言ってるんだ、この人は?
そんなんだったら一流の冒険者にはなりたくない。
いや、そもそもなる気はないけど。
バトラーさんもミモザさんの言葉に頷かないで!
「よし、開いた!!」
その言葉に呆れている間にルグの手によって金庫は難なく開けられた。
出てきたのは魔道書ではなく、一輪車に両手に鋭い剣を持ったマネキンの上半身が乗った良く分かんないモノ。
本来マネキンの頭がある場所には大きな水晶の様な物が乗っていた。
それが1つしか金庫を開けていないのに、部屋全部の金庫から次々出てくる。
その上、扉に魔法陣が浮き上がり俺達を閉じ込め様とガタガタ音を発てていた。
やっぱ罠だったじゃ無いですかぁああああああ!!
ミモザさん!バトラーさん!
1人でやるなら未だしも、一流じゃない仲間を巻き込まないでくださいッ!!!!
「これ、ゴーレム!?
それにこれ、過激な防衛ゴーレムって有名な奴!!」
「うわぁ。
言われた通り罠は解除せず金庫だけ開けたけど、凄い数だぞ。
どうするんだ、ミィ?」
ちょ、ルグ!?
言われたからって、罠があるの分かってて開けないで!!
開けるならせめて、そこは罠まで解除するものだろ!?
「普通に考えて逃げましょう!?」
「逃げるぅ?誰が逃げるか!」
俺の意見は即ミモザさんに却下された。
ミモザさんは嬉々として斧を構える。
何処となくミモザさんが怒っている気がするのは気のせいかな?
気のせいだよな?
うん、気のせいじゃないね、知ってた。
「丁度、人間共のせいでイライラしていたんだ。
相手になってもらうぞ!!」
「バトラーさーん・・・・・・」
「残念だけど、僕もミモザちゃんと同じなんだ。
君達は隠れてて良いよ」
え?
こうなったの元を辿ったら俺のせい?
でも、お言葉に甘えて隠れさせて頂きます!
無双って言葉はこういう状況を言うんだろなぁ。
ミモザさんとバトラーさんはブツブツ何か言いながら確実にゴーレムの頭をドンドン壊していく。
あの頭が核だったんだろう。
頭を壊されたゴーレムはガラクタの様になってピクリとも動かない。
10分も経たずに金庫部屋はガラクタの山と化したゴーレムに埋め尽くされてしまった。
「チッ!歯ごたえが無い!」
「無くて良かったじゃないですか!
本当、勘弁してください!!!
ロアさんも油断するなって言ってたでしょ?
またあのカエルが出てくるかもしれないんですよ!?
無駄に体力を消費しない様、お願いですから慎重に行きましょう!?」
「何を言ってる。
核を確実に素早く壊しているんだ。
慎重に行動しているだろ?」
違う!
それは慎重とは言わない!!
内心でそう叫んでいると、ルグとユマさんが死んだ魚の様な目をして肩を叩いてきた。
「サトウ君、諦めて」
「1度こうなったミィは満足するか、ユニ、1番上の姉貴かお袋しか止められないんだ。
オレ達じゃ無理無理」
「そ、そんなぁ」
バトラーさんもあの2人組みの事を切欠に変なスイッチ入ってきてるし。
ロアさんとマキリさんも同じ様に暴走していたらどうしよう。
また、無事生きて帰れるか心配になってきた。




