57,跳ねかえる巨大クロッグ 14匹目
「あとちょっ・・・・・・うわぁッ!!!」
「ちょっ!サトウ!?」
ボートを操作していたら勢い余って陸地に乗り上げてしまった。
ボート、壊れてないと良いなぁ。
まぁ、全員無事に街に着いたんだから良しとしよう!
湖が氾濫した時の為にか街の建物は結構高めに作られている。
そのせいで此処から見えないだけかもしれないけど、街にはクロッグの姿は見当たらない。
けど確かに鳴き声が聞こえるから居る事は確かだ。
「・・・・・・・・・うわぁ・・・・・・」
「・・・・・・逃げて正解だったな」
「はい」
湖を振り返ると少し遠くの湖が黒く染まりビチビチ鳴っていた。
あれ全部おたまじゃくしかぁ。
想像したら鳥肌が・・・・・・・・・
ちょっと気持ち悪いし、本当アレに襲われなくて良かった。
それに、他に襲われた人も無いみたいだし、取り敢えずひと安心だな。
「あの湖のはなぁ・・・・・・
よし、街に入る前にもう1度分担を変更しよう。
各代表者もう1度集まってくれ!?」
バトラーさんの言葉にユマさん達が集まった。
他の人達を見ると街に入る前から少し疲れが見える。
まぁ、当然か。
此処まで急いでオールを漕いできたんだから。
そう言う俺も少し疲れた。
バトラーさん達の話し合いが終わるまでお茶でも飲んでゆっくり休むか。
「2人共、私達は変更なしだよ。
ただ、最初の予定と違って真っ直ぐ研究所に向かうんじゃなくて、研究所に向かう間逃げ遅れた人が居たら救助しつつだけどね」
「了解、ユマ!
元々そのつもりで準備してたんだからな。
な、サトウ」
「あ、あぁ」
「サトウ君?どうしたの?
何か準備してる時と違って、乗り気じゃないみたいだけど?」
「あのおたまじゃくし見て、ちょっと・・・な」
思っていたよりもおたまじゃくしが大きかった。
止まっている人はたぶん無事だと思う。
ただ、動き出した時が問題だ。
クロッグは見た目的にアマガエルとさして変わらない生態だと思う。
アマガエルは基本肉食で動いている物しか食べない。
あのサイズのカエルからしたら俺達は少し大きな虫に見えるだろう。
つまり、ヒュドラキスの鱗を渡しても無事に助けた人が逃げられるかどうか。
カエルだからジャンプ力凄いだろうし、クロッグもそうとは限らないけど、ゲームで出てくるカエル型のモンスターってカメレオンの様に舌が伸びる奴もいるし。
場所によるけど止まっている人はそのままの方が安全なんじゃないかって思い始めたんだ。
「なるほど。
そういう事なら確かに予定通り助けるべきか悩むよな」
「うん。
でも、私達の分担じゃないけど、残っている街の人が安全に逃げられる道を確保する分担の人も居るし、此処に救護所も作るって。
だから近くにクロッグが居たら倒してその後に救助したら良いと思うんだ」
「それなら・・・・・・大丈夫か。
後はクロッグを見落とさない様に気をつければ良いよな?」
いや、あのおたまじゃくしサイズなら早々見落とさないけど。
油断は禁物。
その思い込みが危険なんだよな。
もしかしたら建物を飛び越え空から降ってくるかもしれない。
「ユマちゃん。そろそろ行くけど準備は大丈夫?」
「えーと・・・・・・・・・はい、大丈夫です!
何時でも行けます!!」
話し合いが終わったらしいバトラーさんが声を掛けて来た。
ヒュドラキスの鱗は他のパーティにも事前に配ったし、俺達の準備は既に出来ている。
俺の覚悟は出来てないけど!
態々エサになるって分かってるのに行くのは誰だって躊躇われるだろ!?
それに、街に入ったら何が起きるか分からない。
此処まで来てなんだけど、恐怖と不安がドンドン膨らんでくる。
しかし、残念な事に俺がそう状態だと言っても他の面々はやる気満々だ。
「ちょっと待って!まだ無理です!!」
なんて口が裂けても言える雰囲気じゃない。
あー、もう!
覚悟は今だ着いていないけど、何時でも攻撃出来るようにパチンコはちゃんと握り締めた。
本当は凄く、逃げ出したい。
逃げ出したいけど、頑張って進むか。
*****
街に入ったけど相変わらず鳴き声だけでクロッグの姿は見え無かった。
そして、今の所逃げ遅れた人の姿も見当たらない。
家の中に居る様なら他の人に任せよう。
俺達は俺達のやる事をやらないとな。
研究所への道を走っていると、ドンドンクロッグの鳴き声が大きくなってきた。
叫ばないと会話も出来ない位だ。
「あ、あそこ!!固まっている人が!」
「本当だ。
近くに・・・・・・クロッグの姿はないな!
急いで救助しよう!」
初、住人発見!
その人は少し上を向いて固まっていた。
ルグ達がその人の所に向かう中、俺はどうしてもその事が気になりその人が見ている先を見た。
あるのは相変わらず高い家のみ。
その高さのままグルッと周りを見る。
「あ・・・・・・」
あぁ!
そう言えばアマガエルって、家や水槽の壁に張り付いている事あるよな。
そりゃあ、同じ様な姿をしたクロッグも足に吸盤を持っていても可笑しくない。
それにしても、軽く建物1階分よりも大きなカエルが張り付いているのに良くあの建物は壊れないなぁ。
「って、そんな場合じゃない!!
ルグ!ユマさん!!早くそこから離れて!!
『スモールシールド』!」
「え、ちょ、今度は何だよ、サトウ!!」
「上からデッカイクロッグが降ってくる!!
・・・・・・かもしれない!」
「はぁああああああ!?」
よく見回すとルグ達の近くの建物の上の方に、大きなクロッグが張り付いていたんだ。
そのクロッグは大きいだけで姿は同じだけど、地下水道で見たクロッグと違い、色が建物と同じ灰色っぽい色していた。
もしかしたら別の魔物かもしれないけど、この町にいるカエルの魔物はクロッグしか居ないはずだし、鳴き声で止まっている人も居る。
だからたぶんアレはクロッグで良いはず。
それに、アマガエルはある程度体の色を変えれるし、地下水道に居たクロッグが黄緑色のままだった理由が何かあってクロッグも普通に体の色を変えられるのかも知れない。
まぁ、兎に角。
その色と殆ど動いていない事から、良く見ないと気づかなかっただろう。
後、普通あんな巨大なものが壁に張り付いてるとは思わない。
きっと固まったあの人も、あんな風に壁に張り付いたクロッグに気づいて驚いたまま固まったんだろうな。
警戒して固まった人を守る様に集まったルグ達の上に『スモールシールド』を張ったものの、クロッグはただ鳴くだけで一切動こうとしない。
俺達に気づいて無い訳じゃなさそうだけど。
襲うつもりもないのか?
けど、クロッグが動かなくてもあの建物があの巨体に何時まで耐えられるか分からない。
どっちにしても早く離れた方が良い。
そう思っていたんだけど・・・・・・・・・
「グエッ」
と言う声と共にクロッグが落ちて来る。
それから少し遅れてメールの着信音と共に俺の真横にドンッと何かかが落ちてきた。
メールを見ると時間結晶と書かれている。
確かに見た目は時間結晶だけど、優に2mは超える大きさ・・・
クロッグが大きいと『ドロップ』する時間結晶も巨大化するんだなー。
どうやらミモザさんとマキリさんがあのクロッグを倒したみたいだ。
ミモザさんの斧に真新しい血がついてるし、クロッグの額に刺さったクナイをマキリさんが回収している。
クロッグのオーガンはフード2人組みがクロッグが倒れた瞬間、直ぐに取り出していた。
「まさか壁と同化していたとはね。
普通のクロッグはこんな事しないはずなんだけど・・・・・・」
話を聞くに、クロッグは鳴き声で相手を止めるからアマガエルの様に体の色を変える事はないそうだ。
けど、このクロッグは壁の色に合わせて体の色を変えていた。
巨大化した事でそういう色になった訳ではなく、カメレオンの様に体色を変えれるみたいだ。
固まって居た人にヒュドラキスの鱗を渡し、救護所の場所を教えた後、他にもクロッグがいないか調べた所、結構な数のクロッグが壁に張り付いていた。
その内何匹かは実際俺達の目の前で体の色を変えたのだから間違いない。
「湖のおたまじゃくしに、この体色を変える巨大なクロッグ。
やはり、事前に調べた情報と違いが出ています。
魔法道具の暴走でクロッグが予定外の進化をし始めてるのかもしれません」
「そうだろうね。
もしかしたら、前にユマちゃんが言った毒や火を吐くクロッグも出てくるかもしれない」
倒したクロッグを見るに巨大化と体色を自在に変えられる以外の変化は今の所無い。
けど、今の状況じゃその内本当に出てきそうで怖いな。
湖のおたまじゃくしと言い、このクロッグ達と言い。
マキリさんの言う通りならたった3日で急激に進化したんだろう。
それ程酷い暴走をしている、若しくはしだしたって事だ。
漫画だとこう言う暴走した機械って、最終的に爆発するのがお決まりの展開だと思う。
原因の魔法道具の所に行ったら、行き成り爆発とかしないよな?
流石に、それは無いよな?
「よし、他のパーティにも無事連絡できた。
これ以上変なクロッグを生み出す前に魔法道具止めに行こう」
「はい!」
バトラーさんが通信鏡を仕舞いながら言う。
どうやら無事に他の担当の冒険者達に連絡出来た様だ。
その間にクロッグのオーガンもフード2人組みが全部取り出したみたい。
オーガンは全部あの2人組みが取ったけどバトラーさん達は要らないんだろうか?
俺達は『ドロップ』で出た巨大時間結晶が在るから良いけど。
「バトラーさん、クロッグのオーガンは回収しないんですか?」
「確かに魅力的だけど、それは魔法道具を止めてからでいいよ。
今は兎に角研究所に向かうのが先決だ」
「はい、分かりました」
チラリと倒したクロッグを見ながらそう言うバトラーさん。
確かに、『今は兎に角研究所に向かうのが先決』と言うのはそうなんだけどな。
そんな事言ってたら他の冒険者やフード2人組みに全部持ってかれると思う。
実際はバトラーさんがそう言っているのにフード2人組みは戦闘には参加せず、俺達が倒したクロッグのオーガンを取るだけだ。
さっきミモザさん達もクロッグの死体をじっと見てたし、本当は採りたかったんだろうな。
いや、死体そのものにも価値があるのかも。
元々生物の巨大化って此処の研究所が始まりだし、多分そこの実験体は研究材料として国に持って帰りたい物なのかもしれない。
まぁ、いざとなったらフード2人組みから分けて貰えば良い。
元々倒したのは俺達なんだし。
「此処がエスメラルダ研究所・・・・・・
のはずなんだけど・・・」
「えーと、話と違いません?」
やっと着いたエスメラルダ研究所は湖の岸とエスメラルダの街の1番奥にある、それなりに高い崖にピッタリくっ付く様に建てられた、とても『奇麗』なほぼドーム状の建物だった。
ほぼと言うのは、ドームの上の方が平らに切り取られ、建物の半分くらいはありそうな大きな新品の貯水槽らしき物が置かれているからだ。
あんなに大きいんだから、もしかしたら貯水槽じゃなく研究室なのかもしれないけど。
ボスの話では、建物はボロボロのはず。
なのにその建物は何処を見ても壊れた所が無かった。
確かに古い建物だから新品同然の奇麗さは無いけど。
だけどボロボロと表現する様な、こう、崩壊した様な感じじゃない。
そういう意味で『奇麗』な建物なんだ。
湖に面した方は確認できなかったけど、行ける範囲で周りを散策してもボロボロになった場所は見つからなかった。
「本当に此処なんですか?
もしかして他にも研究所があるとか・・・・・・」
「いや、この街の研究所は間違いなく此処だけだ。
それは断言できる。
それにこの研究所関連で工事が行われたとい話は研究所が建てられた時以外ない」
「えっと改装や補強の工事も無かったんですか?」
「ないな。
もしあったならもっと話題に出ているはずだ。
少しの改装でも時間も人件もかなり掛かる。
隠そうと思っても隠す事は出来ないはずだ」
「なら本当に此処?でも・・・・・・」
中を覗いても、職員が逃げ出す時に散乱した物があるだけで、ボロボロという感じはしない。
「何処かに隠し研究所があるのかも。
この研究所を建てる時に同時に建てれば、上手くやれば建物の存在を隠せるはずだし」
「もし、そうだとしても、もしかしたら此処に何か手がかりがあるかもしれない。
中は見て回った方が言いと思うな」
「そうだな。
それならバラバラに、いや何があるか分からない。
全員一緒に進んだ方が良いか。
僕とミモザちゃんを先頭に2列で進もう。
1番後ろは・・・・・・」
「あ、俺がなります」
隊列はバトラーさんとミモザさん、ルグとユマさん、ロアさんとマキリさん、フード二人組み、希望通り最後に俺と言う順番になった。
頼むから行き成り変なものは出ないでくれよ?




