56,跳ねかえる巨大クロッグ 13匹目
船、と言うかドラマとかでカップルが乗っている様なボートに分担ごと乗った俺達。
同じボートに乗った事で初めて知った事なんだけど、バトラーさん達と俺達の他にあの鍋を覗き込んでいたフード2人組みも研究所チームらしい。
ドラマのボートよりこっちの方が大きいけど、流石に9人も乗ると狭い。
オールを漕ぐルグ、バトラーさん、ロアさん、ミモザさんの4人以外は一箇所に固まっているから特に狭く感じる。
いや、狭い位は我慢しよう。
本当はオールを漕ぐのはそれなりの力と体力が要るからと俺を含めた男4人だったんだ。
だけど、俺が初めてボートを漕いだ事もあって他3人とタイミングを合わせられず、ボートが上手く進まなかった。
このボートも魔法道具らしくて、4つのオールをタイミングよく漕ぐ事でかなりのスピードで進む事が出来る。
逆に言えば、1人でもタイミングがずれると上手く進まないんだ。
だから俺はミモザさんと交代した。
交代する時に向けられたミモザさんの呆れた様な視線が痛い。
本当、申し訳ありません!
4人のタイミングは正に息ピッタリで、それどころか同じタイミングでオールを漕ぎながら楽しそうに喋る余裕すらある様だ。
「ここまで順調に来れてよかったよ。
これも日ごろの僕達の行いのお陰かな?」
「バトラー、『強者と欲をかく者はただエサになるだけ』だよ」
「あぁ、そうだね。
ごめんね、ロア君。気をつけるよ」
ニコニコ言うバトラーさんにロアさんが窘める様に言う。
それに素直に謝るバトラーさん。
それにしても、何かの諺だと思うけど、『強者と欲をかく者はただエサになるだけ』ってどう言う意味なんだろう?
「あの、ロアさん。
今の『強者と欲をかく者はただエサになるだけ』って何ですか?」
「古代のチボリ国の王様が残した言葉だよ。
チボリ国の砂漠はとても厳しい環境でね。
自分が強くなったからと慢心した者や、獲物や成果を深追いした者はその人の力では到底敵わない自然の力によって死んでしまい、そこに住まう魔物のエサになるって事。
つまり、どんな事でも油断してはいけないって教えさ」
「なるほど。良い言葉ですね」
俺の世界で言えば油断大敵と同じ意味なんだろう。
此処に来て何度も身にしみた教えだ。
「うん。
他にもその王様は『例え利益がなくとも常に始まりの地に足を向けよ』とか、
『金銀財宝、目先の宝ではなく真の宝はその先にある青きモノ。目先の宝にくらんだ者は死が訪れる』とか。
そう言う言葉を残してるんだ。
意味はそれぞれ、初心を忘れてはいけないって事と、金銀財宝よりも水が何よりも大事って事。
例え沢山のお金を持っていても一滴の水すら手に入らなければ人はすぐに死んでしまうからね」
『たとえ利益がなくとも常に始まりの地に足を向けよ』って方は『初心を忘れるべからず』って諺のこの世界版って事だろう。
その証拠にこの諺の一般的な解釈と同じ、
『何事においても始めた頃の新鮮で謙虚で真剣な気持ちや志を持ち続けて行かなければいけないと言う戒め』
の意味と、夏休み前に国語の先生が言っていた本当の意味?
と言うか、ルーツ?
とりあえずこの諺を作った人の言葉と同じ意味もあるそうだ。
この世界版で言えば、チボリ国の初心者冒険者がチュートリアル的に行く洞窟での事を忘れてはいけないって事らしい。
その洞窟は特にこれと言って凄い宝や有益な素材がないのに、弱いけど中々倒すのが面倒くさい魔物や動物が住み着いている。
だから冒険者は皆最初の頃は強くなる為に旨味のない洞窟に何度も挑戦し、貧乏と言うか惨めと言うかそんな状態だ。
そしていつか強くなってもその頃の未熟でみっともない初心者の頃を思い出す事で、
「あの頃に戻りたくない!」
と更に自分を奮い立たせ精進出来るって事らしい。
水の大切さを説いた
『金銀財宝、目先の宝ではなく真の宝はその先にある青きモノ。目先の宝にくらんだ者は死が訪れる』
の方は砂漠だからってだけじゃないよな。
人間、たった1%でも水が体から失くなると喉が渇くし、ほんの2%失くなっただけで脱水症状になってしまう。
8%失くなれば幻覚を見始めて12%失くなっただけで死んでしまうと聞いた事がある。
それほど人間と言うか動植物にとって水は、イコールで命と言っても良い程大事な物なんじゃないかな?
だから水か宝かどっちか1つしか手に入らないなら迷わず水を選べって事らしい。
宝を手に入れても死んだら意味なんて無いもんな。
ある意味この世界版の『命あっての種物』とか『死んで花実が咲くものか』とかそう言う諺なんだと思う。
「・・・・・・・・・あれ?」
「うん?何かへんな事言ったかい?」
「あ、いいえ。なんでもないです。
ロアさんの話しを聞いて少し昔の事思い出していただけなので。
気分を害したようならすみません」
「ううん。
そういう事なら、気にならないから大丈夫だよ」
「はい、ありがとうございます」
今まで気にしていなかったけど、この世界と俺が居た世界で意味が同じ諺があるのに、その諺は俺の世界の諺に翻訳されなかった。
『ケット・シー』や『悪魔』、『コカトリス』の様に何かゲームのキャラに近い生き物の名前はそのまま俺の世界の言葉に翻訳されたのに。
ルグの種族は西洋風化け猫の種族だから『ケット・シー』、尻尾が蛇みたいになってる鳥の化け物だから『コカトリス』。
『クロッグ』や『メテリス』は俺が近いキャラを知らないから、そのままこの世界で呼ばれる名まで翻訳されてるのかも知れない。
けど、諺は出来た経緯は違うとは言え、意味は同じなのに俺の世界の諺に翻訳されなかった。
その事に気づき、つい疑問が声に出ていたらしい。
今更だけど、俺の『言語通訳・翻訳』のスキルってどういう基準で変換してるんだ?
あ、もしかして単語ごとなのか?
そう考えると文章の諺が翻訳されなかった事も、ローズ国の言葉を頑張って話そうとしたデビノスさんの可笑しな話し方も納得出来る。
本当にそうとは限らないけど、自分なりに納得出来る答えが出た俺は、ずっと同じ姿勢で考え込んでいた体をほぐす様に体を伸ばした。
「う~ん。
・・・・・・・・・後ちょっとで街に着くのか」
いつの間にかエスメラルダの街が見えていた。
それほど長い間俺は考えて込んでいたらしい。
そのせいか他の人達は誰かとのお喋りに夢中だ。
俺がキョロキョロしだしたのにも気づいてない位夢中なのに、オールのタイミングは安定してるんだから凄いよ。
だからかな?
何となく気になって、片手に俺が朝作ったサンドイッチを持ったフードの2人組の様に俺は湖を覗き込んだ。
まぁ見た所でこんなスピードじゃ魚とかは見つけられないだろうけど。
そう思ってたんだけどなぁ・・・・・・・・・
「皆、何処でも良いからボートに掴まって!!!」
「え、サトウ君?どうしたの?」
「説明は後!!後舌噛まない様にッ!!
『フライ』!!!!!!!」
俺が湖を覗き込んだ時、俺達のボートの下にドンドン大きくなる影が居る事に気がついた。
そいつの正体が何か分からない。
けど、ボートと同じ位かそれよりも大きな何かが近づいて来る。
このままじゃヤバイと咄嗟に叫んで行動に起こしたのも束の間、そいつは俺がボートに『フライ』を掛けるとほぼ同時に下から船体を押し上げて来た。
何か押し上げられる時パッキと言う様な嫌な音が聞こえた気がするけど・・・・・・
気の所為、だよな?
「うわぁあああああああああああっ!!」
「きゃぁああああああああああああっ!!!」
『フライ』を掛けてあるお陰で転覆はしなかったものの、掛けるのが遅かった為か悲鳴を上げる俺達を乗せたボートは水切りの石の様に跳ねる。
「何だ今の!!?」
「おい!!お前達、大丈夫か!!?」
「いっつ・・・・・・・・・皆、大丈夫?」
何とか衝撃収まり、少し離れた場所に居た船の人の言葉に慌てて辺りを見回す。
オールが幾つか無くなっている以外、全員ボートの中には居るみたいだ。
無事かどうかはまだ分からない。
舌噛んだ人がいないと良いけど。
「う、うん。なん、とか」
「良かった。大丈夫です!全員無事でーす!!」
誰も怪我をしてない事を確認し、声を掛けてくれた船の人に叫ぶ。
「今のは・・・・・・いったい・・・」
「なんだったんだ?凄い衝撃だったけど・・・」
「あれは・・・・・・足の生えた巨大鯰?」
もう1度跳ねた俺達を襲った生き物に誰かが呟いた。
確かに傍目からあの巨体を見ると鯰に見えるけど。
「じゃなくて、おたまじゃくしだよ。あれ。
研究所から逃げ出したのか、それとも逃げ出したクロッグが産んだのかは分からないけど」
「おたまじゃくし?
あれ、研究されていたクロッグの子供か!!」
「チッ!話に聞いていたものより大きいな。
あの職員の退社後、ここまで大きくしたのか?
いや、魔法道具の暴走の影響か!」
舌打ちしながらミモザさんが武器を構える。
けど、巨大おたまじゃくしが暴れるせいでボートがグラグラ揺れ立つ事すら儘ならない。
このままじゃまともに戦えないよな。
なら・・・・・・・・・
「『フライ』」
「あれ?急に揺れが・・・・・・まぁ良い。
兎に角あいつを倒すぞ!!」
「いえ、逃げましょう!他の方も急いで街へ!!!」
「はぁ!?何言って・・・・・・・・・うわぁ!!」
『フライ』を操作し、ボートを水面を滑る様に飛ばし街に向かう。
確かに頑張ればあのおたまじゃくしを倒す事は出来るだろう。
けど問題はその後だ。
この湖にいるおたまじゃくしがあの1匹だけとは限らないだろう!?
蛙が1度に産む卵の数を思い出すと、この湖には他にも同サイズのおたまじゃくしがまだ居るはずだ。
何匹居るか分からないけどたった1匹でも襲われた時の衝撃は凄かったのに、何匹も一度に襲われたらボートが持たない。
「なぜ逃げる!!」
「・・・・・・知ってますか?
おたまじゃくしって雑食、つまり何でも食べます。
主には水中の苔やミジンコ、落ち葉、そして・・・
生き物の死体」
「・・・・・・何が言いたい?」
「おたまじゃくしって場合によっては共食いもするんですよ。
だから死んだ仲間の体もあいつ等にとっては良い栄養源だ。
特にあの巨体ならこの湖にあるエサじゃ足りなくなっている可能性も有る。
もし無事倒せても倒したおたまじゃくしを食べにこの湖に居る他のおたまじゃくしがやって来る。
そうなったらこのボートは耐え切れないし、あんな大きなおたまじゃくしが大量に集まった湖に投げ出されたら俺達の方がエサになる!!
そうなったら解決以前に全滅だ!」
このボートから考えて湖でおたまじゃくしと戦う事は想定していなかったんだろう。
いや、依頼の内容は『エスメラルダとスペクトラ湖で巨大化したクロッグが暴れている』と言う物だ。
だからこの湖にもクロッグが居る事は分かっていたはずだ。
なら想定してても、もっと丈夫な船を借りられなかったんだろう。
誰が船の料金を払ったか知らないけど、この人数で街まで行くなら、安くて大勢乗れる船の方が良かったんだろうな。
ならせめて、ここは一端街まで逃げて街でもっと丈夫な船を借りるべきじゃないか?
「ッ!・・・・・・・・・分かった。
ここは一端お前の言う通り街に行こう」
渋々といった感じではあるけど、ミモザさんも納得してくれた。
実際『フライ』を使って移動してるから分かりづらいけど、ボートにはヒビが入り浸水しだしている。
やっぱり襲われた時に聞こえたパッキと言う音は聞き間違いじゃなかったんだな。
ミモザさんの方が経験豊かだし、この状況がヤバイ事は。
いや俺が思っているよりも、ヤバイのかもしれない。
だからそれにミモザさんも気づいて、大人しくしてくれているんだと思う。
普通にオールで漕いでいたらおたまじゃくしに襲われなくても遅かれ早かれ沈んでいただろうし。
出来るだけ他のボートの人達にも聞こえる様に、大声でミモザさんにおたまじゃくしの話しをしたからか、皆おたまじゃくしを無視して街に向かってくれている。
ちゃんと、皆無事に町に着けるよな?




