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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1 章 体験版編
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55,跳ねかえる巨大クロッグ 12匹目


 向こう岸が見えない位広大なスペクトラ湖の水面に反射した朝日が徹夜明けの目に痛い。

ユマさんと話した後、馬車の中で大分眠ってしまったせいか、初めての野宿で興奮していたせいか、四方八方で奏でられる鼾の大合唱のせいか。

それとも・・・・・・・・・。

色々な理由が浮かぶけど、兎に角俺は一睡も出来なかったんだ。


馬車の中で寝ていたおかげで睡眠不足になっていないから、まぁいいけど。

昨夜遅くこのスペクトラ湖に着いた俺達一団は、肉眼では見えない遥か遠くの街、エスメラルダの対岸で野宿していた。

野宿自体は問題なく・・・・・・

いや、俺が夕飯の鍋の1つをひっくり返し慌てて作り直した事以外は問題なかった。


丁度俺も夕飯係に選ばれ鍋を掻き混ぜていると、いつの間にかヌッと現れた見た事の有る顔の2人組のフード男達が鍋を覗き込んでいて・・・・・・

驚いてつい・・・・・・・・・

今思い返しても勿体無い事をしたな。


「サトウ、おはよ~。何か良い匂いするな」

「おはよう、ルグ。

もう直ぐ、朝飯出来るから顔洗って来いよ」


いやはや、食べ物の恨みは恐ろしいな、本当。

昨日の失敗の事もあり、俺は全員分の朝食作りを1人任されていた。


メニューはこの後戦闘がある事を考え消化に悪い油物は避け、比較的消化、吸収が早い炭水化物として野菜とジャム中心のサンドイッチ。

サンドイッチなら朝食べれないって人が居て残っても後でお弁当に出来る。


そして、1番簡単な運動前の栄養補給食材だとテレビで言っていたヒヨコ豆も入れた野菜と豆類たっぷりのミネストローネ。

具沢山だから色んな栄養も取れるし、湖の直ぐそばで野宿して冷えた体も温められるだろうし、消化にも良さそうだろ?


デザートにはスポーツ選手が試合前に食べているイメージがあるバナナ。

たしか、バナナには炭水化物を直ぐにエネルギーに変える効果があるとどっかで聞いたな。


飲み物には体を疲れにくくする効果があるらしいカフェインを含んだコーヒーとお茶を準備済み。


あと少し煮込めば完成するミネストローネの匂いに誘われ、ルグを筆頭に皆が起きてきた。

まぁ、テントから出てこなかっただけでその前に起きていた人は沢山居たみたいだけど。


「皆、聞いてくれ。船の準備があと1時間で終わる。

その間にもう1度、昨晩決めた各パーティの分担の確認をしたい。

パーティの代表はもう1度集まって欲しい。

他の者達はそれまで各自支度を整えてくれ!!」


ミモザさんにも


「まぁ、悪くない」


と、おかわりする程それなりに好評だった朝食後、バトラーさんがそう言った。

ユマさんを含めた代表達はバトラーさんの所に集まり、他の人達も準備の為にテントに戻っていく。

この場に残ったのは俺と大量の食器と空っぽの巨大な鍋。


あと1時間か。


食器は『クリエイト』で出した紙と木で出来た物だけだから燃やせば良いとして、鍋と調理器具は洗わないと。

1時間もあれば何とか1人でも洗い終わるかな?


「それにしても、結構な人数が集まったなぁ」

「確かにな。もっと少ないかと思ったんだがな」


湖の側で鍋を洗っていると少し離れた場所に準備を終わらせたらしい冒険者達が集まっていた。

冒険者達の声は大分大きく、洗い物に集中していても嫌でも耳に入ってくる。


「これでも、この国に居る冒険者の中のほんの一握りなんだから、ここ数年で本当に同業者が増えた」


その集団の中に居た年の割りに筋肉質な中老の男性の言葉に思わず鍋を洗う手が止まる。

え!!?

どういう事だ!?

依頼を受けたときボスは、


『今、ローズ国に居る冒険者全員にこれ以外受けさせるな!!』


とおっさんが言っていたと言ってたし、ギルドにもこの巨大クロッグの依頼しかなかった。


あっ、いや、『受けさせるな』だから元々別の依頼をその前に受けていたパーティーや怪我や病気で休んでいる冒険者は依頼を受けていないのか。

そう言えば、初めての依頼の時のコカトリス事件で一緒だったデビノスさんとブルドックさんを見かけていない。

軽く100人位は集まっているからただ単に見つけられないだけかと思っていたんだ。

もしかしたら2人もこの依頼を受けていないのかもしれない。

だとしたら、俺が勘違いしていただけで此処には国中の冒険者全員が集まっている訳じゃないんだろう。


「まぁ、そりゃそうだろ。

派手な見た目で実力もないくせに威張り散らす兵士どもと違い、俺達はやる事は確りやるからな!」

「オウサマに何か言うより、ギルドに依頼した方が確実に、早く解決してくれる。

どんな依頼でも受けたら最後までやり遂げる、安心と信頼の冒険者と木偶の兵士じゃどっちが頼もしいか一目瞭然だろ?」

「だからなんだろうな。

中にはどっかのお貴族サマや街に抱え込まれた奴もいるんだぜ。

いいよなー、そういう奴らは。

比較的収入が安定していて。

俺達みたいに明日の飯の事心配しなくて良いんだから!!」


・・・・・・・・・ふ~ん。

なるほどね。


あの冒険者達はそれ程自分達の仕事に自信がある様だ。

だからこそ不満もある様で。

これ以上大声で愚痴を言い合っている冒険者達からは興味をそそられる話は聞けそうにないな。

そう思って無意識に洗い続けていた鍋を濯いでいるとルグが近づいてきた。


「サトウ、今良いか?」

「ああ、うん。大丈夫だよ。何かあった?」

「ううん。昨日言った分担。

変更なしってユマから伝言」

「変更なしって事は俺も研究所の方か・・・・・・」


俺達3人はバトラーさん達と一緒に原因の機械を止めに行く事になった。

元々ルグとユマさんはそっちに行って貰う予定だったから良いもの、何故俺まで?

俺は余計、と言うか居ても足手まといになるのは一目同然。

だけど、結局俺も研究所メンバーに選ばれた。

まさか、裏事情を知っている奴を目の届かない所に置いとくのは危険と思ったのか?

俺、誰にも喋りませんよー?


「・・・・・・・・・不安しかないけど、皆の足引っ張らない様努力するよ」

「心配すんな!

いざとなったらオレが助けるからさ!!」

「・・・・・・ありがとう」


年下にそう言われるのはかなり複雑だ。


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