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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1 章 体験版編
55/498

54,跳ねかえる巨大クロッグ 11匹目


 ガタゴトと揺れる馬車の中。

キャハハ、ウフフと楽しそうな女性3人+ルグの話し声をBGMに、俺は1人ゆっくりと、流れる外の景色を眺めていた。


ミモザさんに威嚇されルグともユマさんとも話す事すら叶わないし、俺よりましとは言えミモザさんにギロリと睨まれたバトラーさんは御者をしてくれているロアさんの所に避難している。

まぁ、早い話、俺はこの狭い馬車の中話相手もいないボッチなのだ。


あぁ、何だか景色が歪んでる気がする。


今の俺に出来る事が外を眺める事位しか無いとは言え、そろそろこの代わり映えしない景色にも飽きてきた。

きっと歪んで見えるのはそのせいだ。

けして泣いてる訳じゃないからな!


「・・・・・・本、読むか」


俺は特に、車や電車に乗っている時に本を読んでも酔う様なタイプじゃない。

けど、今持っている本の内容が内容だけに、ルグ達の前で読むのが躊躇われるんだ。

全部がそうでもないけど殆どの本の作者がローズ国出身なせいか、当然の事の様に魔族を悪く書き過ぎている。

昨晩途中まで読んだ本もそのタイプで、魔族の事を酷く書いていない新しい本を読むよりは出来れば続きから読みたい。


チラッと少し離れた場所で楽しそうにお喋りに花を咲かせる4人を見る。

お喋りに夢中で俺に意識が一切向いていない。

不用意に近づかなきゃ問題ないだろうと、それでも本の表紙が出来るだけルグ達の視界に入らない様、俺はもう少しだけ4人から距離をとってから昨日の続きから読む事にした。


俺が今読んでいるのは1000年前に『ビート』と言う人が書いた、『勇者冒険記』と言うシリーズ物を比較的最近翻訳し直した本だ。

考古学や勇者関連の研究成果をまとめた本に稀に載ってる手紙や口伝の類を抜かしたら、現存する勇者関連の本の中で最も古く、実際に起きた事がほぼそのまま書かれている、らしい。

多少偏見と都合で脚色されているから全てを信用している訳じゃないけど、このシリーズを主軸に他の本やルグとユマさんの話と合わせて考察しているんだ。

多分それが、1番俺の知りたい答えに近いものが出る方法な気がする。


そして今読んでいる話は英勇教で祭られている勇者、名前は『ダイス』と言うんだけど。

そいつがパーティーの仲間、


女剣士のカレン、


魔法使いのユーベル、


重戦士のレイ、


女僧侶のサクラ。


当時のローズ国、チボリ国、マリブサーフ列島国、ヒヅル国の人間が住む4国のお姫様と共にこれからアンジュ大陸に行こうとしている所で、ローズ国王に頼まれ急遽ある街で暴れる1体のゴーレムを止めに行ったという言う場面だ。


ついでに言うと、勇者の仲間のお姫様達4人は全員勇者に恋している上、当時の法律で一夫多妻制を許していたってのもあるけど、勇者は最終的に4人全員と結ばれている。


つまり、魔女やおっさんを含めローズ国、チボリ国、マリブサーフ列島国、ヒヅル国の王家には勇者の血が流れているんだ。


そんなベタな展開であり、世の半分位の男が1度は憧れる、俗に言うハーレム展開という奴だな。

そんな『魔王を倒してハッピーエンド』直前のハーレム勇者の前に現れたのは、今まで誰も見た事も無い。

どころか、そんなゴーレムが居るとか作られているとか言う噂すらない、本当にある日突然何の前触れもなく現れた未知のゴーレム。


俺はこの世界のゴーレムを見た事がないからどんな姿か分からないけど、本の内容からするにゲームで出てくる土や鉄で出来た巨人みたいなの限定ではなく、『魔法で操った人形全般』を指してゴーレムって言うみたいだ。

イメージとしてはホラー物の襲ってくる人形みたいなのが近いんだろうな。


それで勇者を襲ったのは2m近い大きさのほぼ人の姿をしたゴーレム。

挿絵にはそのゴーレムらしいSF物の宇宙服やロボット物のパイロット、後は5色戦隊が着ていそうな恰好の奴が書かれていた。

生きた人間と変わらない滑らかな動きをする事もそうだけど、近くにゴーレムに魔元素を送り操る魔法使いも居ない。

遠距離操作型ってのも当時では信じられない技術だった様だ。


当時って事は今は普通に居るって事なんだろうな。

ユマさんに・・・・・・今度、聞いてみよう。

今は無理だな、うん。

とりあえず、昨日読んだ所は悪戦苦闘しながらも勇者達がゴーレムを倒したって所までだったはず。


「・・・・・・・・・あった。ここからだ」


『これまでに無いほどの強敵に満身創痍になりながらも放った、勇者ダイスの一撃がゴーレムの胸部に嵌った水晶を貫いた』


女剣士カレンの言うとおり、胸部の水晶がゴーレムの心臓で唯一の弱点だったのだろう。

今までどんなに攻撃しても一切傷つけることが出来なかったゴーレムは、その一撃によって小さな唸り声を上げ倒れた。

勇者ダイスがホッとしたのも束の間、心臓である水晶を破壊されても尚、ゴーレムは自身を作った悪しき魔王の命令通り勇者ダイスを倒そうと唸り、最後の力を振り絞るように手を伸ばす。

ゴーレムとの戦闘で体力の限界だったのだろう。

勇者ダイスはゴーレムを大きく見開いた目で見つめることしか出来なかった。


『そんな!水晶が砕けたのにまだ動くのか!

こんな話聞いていない!』


女剣士カレンが叫ぶ。


『今までのゴーレムでは、こんな事ありえません!

これが・・・

これが魔王が新しく作り出したゴーレム・・・』


魔法使いユーベルが絶望した声で呟く。


『ダメ、このままじゃ勇者様が!

お願い!動いて!!』


重戦士レイが自分の体を叱喝する。


だが仲間達も勇者ダイスと同じく動くことが出来ないほど傷ついている。

誰1人動くことが出来ず叫ぶことしか出来ない。


『ゆう・・・しゃ・・・様、お逃げください!!』


何とか勇者ダイスを回復しようと立ち上がろうとしてバランスを崩し倒れた女僧侶サクラの悲痛な叫びが響く。


しかし、それでも勇者ダイスは動くことが出来なかった。

勇者達の間に絶望が広がる。

だが、その手が勇者ダイスに届く事は無かった。


その前にゴーレムは動かなくなったのだ。



『ゴーレムが今度こそ本当に動かなくなったのを確認し、勇者ダイスは気を失った。』


・・・・・・か」

「サトウ君、何読んでるの?」

「え?あ、ユマさん?」


声を掛けられ本から顔を上げると、いつの間にかユマさんが近くに来ていた。


「良いの、俺のとこ来て?ミモザさん怒るだろ?

それにルグは・・・・・・」

「ミィさんはバトラーさん達と大切なお話中。

で、ルグ君はロアさんの代わりに御者してくれてるんだ」


ユマさんが指差した方を見ると確かにバトラーさん達4人が集まって真剣に話し込んでいた。

その先のにはルグの後姿も見える。


「そうっか。

・・・・・・え~と、それで街に着くまで暇だったから毎晩読んでる本の続きを読んでたんだ」

「毎晩って言うと、勇者関連のだよね?

凄く細かい字で書かれた文字ばっかりの。

こんなに揺れてる中で読んで気持ち悪くならない?」

「特にそんな事ないかな?」

「なら良かった」


本を閉じ、2人分のラムネ型回復薬をミモザさんに見えない様にユマさんに渡しながら、俺はそう答えた。


「何か新しく分かった事有る?」

「いや、今は無いよ。

そうだ。この世界のゴーレムってどんな物なんだ?

今読んでいる話に丁度出てくるから、気になって・・・・・・」

「ゴーレムか~。

あれってアンジュ大陸にはない、正確に言えば大陸全土で製作も使用も禁止された魔法道具だから、私も詳しくないんだよね」

「そうなの?

何か魔族の方が沢山使ってるイメージがあったけど?

後は、チボリ国とか?」


やっぱゴーレムは魔法が盛んな所に沢山居るイメージがある。

あとは古代遺跡とかで侵入者を排除しようと巡回しているとか。


「うん、チボリ国には沢山居るよ。

殆ど一家に1体は居るって位には」

「そんなに!凄い普及率だな・・・・・・」

「約1000年前。

正確に言うなら、勇者が現れる前にはゴーレムの中に入って操作したり、近くで操作するのが一般的だったらしいけどね。

今のゴーレムはゴーレムを動かす為に必要な、どう動くか指示が刻まれた動力源の核が魔法道具で、その核を埋め込んだ人形や道具全部をゴーレムって言うんだ。


その核は私達のオーガンの様に魔元素をある一定量溜められる鉱石を使っているらしいの。

だから定期的に魔元素を核に補充すれば近くに人が居なくても自動で動く。

留守の間掃除をしてくれたり、侵入者から家を守ってくれたり。


そう言えば最近、同じ物を大量に短時間で作れるゴーレムを作る計画の話があったな。

それで、その核を作ったのがチボリ国なんだよ」


なるほど。

話を聞く限りだとこの世界のゴーレムは俺達の世界で言う所のロボットみたいな物か。

一家に1体ってのも某円盤型掃除ロボットみたいな感じなんだろうな。


「だから、チボリ国にはそんなに普及してるんだな。

それで、アンジュ大陸では何で禁止されてるんだ?

えーと、所謂企業秘密とか特許とかの関係とか?」

「ううん。

勇者が現れてから300年位の間作られていた、あるタイプのゴーレムが原因で私達の国ではゴーレムは嫌われていて、今でも持つ事も作る事も禁止されているんだよ。

確か、1番最初に作られたと言われてるゴーレムは勇者が壊した、見た事も無いゴーレム」

「えーと、もしかして、こいつ?」

「・・・・・・・・・うん、そうだよ」


ユマさんに本の挿絵を見せながら尋ねる。

案の定、ユマさんは頷いた。

て事は本の中では魔王が作ったみたいに言われてるけど、このゴーレムはチボリ国の奴が作ったのか?


でも、それなら何で同盟国のローズ国にこのゴーレムが?

少なくとも魔王を倒すまでは互いの中を悪くする様な事はしたくないはず。

1番最初って事はまだ試作品の段階だろうに・・・

態々他国で実験?


そう考えユマさんに尋ねるとユマさんは小さく首を振って答えてくれた。


「あのね、サトウ君。

その1番最初のゴーレムはチボリ国じゃなくて、当時のアンジュ大陸国王が1人で作ったって言われてるんだ。

チボリ国はその勇者が倒したゴーレムを回収して研究して核を作る技術を手に入れた。

守るべき国民すら道具にしか見ていなかった残虐な王が密かに作り出した最悪のゴーレム。


そのゴーレムの・・・・・・・・・


ゴーレムの核には・・・・・・・・・」





ゴーレムの核には結合型の魔族のオーガンが、私達悪魔の心臓が、使われているから・・・・・・





そう言うユマさんの顔には一切の感情が浮かんでいなかった。


「・・・・・・・・・ごめん。嫌な、事聞いた。

本当に、ごめん」

「ううん、気にしないで!

それに、今はその残虐さから悪魔の心臓を使ったゴーレムの製作は禁止されているし!

あ、そう言えばこのゴーレムとも関わりがあったはず・・・・・・」

「関わり?何と?」

「Dr.ネイビー。

核が出来た後だったけど、Dr.ネイビーはこのゴーレムを盗み出したんだ。

だから、今もこのゴーレムの行方は分からないままなんだよ」


Dr.ネイビー。

今回の事件の原因である魔法道具の設計図を描いた、歴史に名を残すほどの危険人物。

死者の蘇生を目指していたDr.ネイビーは何で目的と関係なさそうなゴーレムを盗んだんだ?


「あれ?

そう言えば、Dr.ネイビーって勇者関連の本には一切出てこないよな?

Dr.ネイビーが生きていたのは勇者が居た頃なんだろ?」

「正確に言えば、どの国の今あるどの書物にも載ってないけど、当時他の国に黙って悪い事をしていたアンジュ大陸のどれか1つの国王を倒した勇者が元の世界に帰った後に、Dr.ネイビーは現れたんだ。

魔道書もそうだけど、その時のDr.ネイビーの行動はとても危険で、彼を止める為にもう1度勇者を呼ぼうとしたけど失敗したんだって。

だから、勇者の本にはDr.ネイビーの事は載ってないんだよ。

勇者が現れなかったからって言う人も居るけど、いろんな人がDr.ネイビーを捕まえ様としたけどダメだった。

そのままDr.ネイビーは消えて最後どうなったか誰も知らない」


なるほど、勇者と言う脅威が居なくなったからDr.ネイビーは行動を起こしたんだな。

それにしても、


「何なんだ、その勇者は。

嫁さんが4人も居るのに置いて元の世界に帰るとか。

元の世界に帰るんだったら責任持って嫁さんも連れて行けよ」

「う~ん。

勇者と結ばれた姫達は其々各王家の血を残さないといけなかったから。

どんなに好きで結ばれても着いていけなかったんだよ」

「だからって、4つの国の王家は勇者の子孫なんだろ?

て事は勇者は子供も居たのにそれすら捨てて帰ったんだ。

俺も元の世界に帰りたいんだ。

勇者に帰るなとは絶対言えない。

だけど、最初から帰るつもりなら、そういう事は自重しないといけないと俺は思うぞ」


恋人止まりでもモヤッとするけど、子供が居たなら尚更責任を取るべきだろ。

英雄色を好むとは言っても、やりたい事だけやってそれで終わりじゃないんだぞ!!

何か、更に勇者が嫌いになったかも。


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