53,跳ねかえる巨大クロッグ 10匹目
何時も通りのパチンコとナイフ、調理器具と調味料各種、傷薬と包帯を幾つか。
疲労回復用に大量に作っておいたレモンの蜂蜜漬け。
準備した無音石の粉が入ったヒュドラキスの鱗が沢山。
「後、弁当と水筒は明日の朝だな」
明日はついに巨大クロッグ駆除の決行日。
夕飯のカレーの鍋を掻き混ぜながら俺は、鞄に入れる物を思い浮かべていた。
殆どは常に鞄に入れてるし、ヒュドラキスの鱗も既に鞄に入っている。
夕飯の片づけをしたらもう1度確認して、何時もより早めに起きて弁当を入れれば良いだろう。
「・・・・・・・・・よし、出来た。
けど、少し甘すぎたか?」
『クリエイト』で出したルーと食料庫に入れておいた収穫した当時そのままの新鮮な野菜と、同じく食料庫に入れてた数日前にルグが狩ってきて捌いた風見鳥の肉で作ったチキンカレー。
カレーを食べた事が無いルグとユマさんの為に牛乳と摩り下ろした林檎とハチミツを入れて出来るだけマイルドな甘口カレーにした。
ちょっと入れすぎて俺としては辛さが物足りないけど、まずは2人の様子を見てからだ。
付け合せはラッキョウ・・・
より福神漬けの方が良いな。
後は簡単なサラダを付けて・・・・・・
「おーい!夕飯出来たぞー!!」
「はーい!」
「よっしゃッ!!待ってました!!」
2階にいる2人とスズメを呼んで席につく。
はじめて見るカレーに、不思議そうに恐る恐る食べる2人と1羽。
口に合わなかったらどうしようかと思ったけど、それは杞憂に終わった。
「あ、美味しい・・・」
「見た目は変だけど、これ美味いな!!」
あー、見た目か。
そこまで考えてなかった。
小さな頃から食べなれてるなら兎も角、初めて見た奴にはご飯に泥が掛かってる様に見えるんだろうな。
「そんなに変だったか?」
「この世界だと見た事無いな」
「うん。
それに見た目もそうだけど、回復薬が入ってるのに美味しいのは不思議だよねー」
「回復薬?
名前からして何かを回復する薬なのは分かるけど、俺はカレー。
この料理に薬なんて入れた覚えないぞ?」
本当は我が家流にナスとかトマトとかトウモロコシとか。
色んな野菜をたっぷり入れた野菜カレーにしたかったんだけどな。
まずは普通のカレーの方が良いだろうと、今日のカレーは野菜もシンプルにジャガイモ、人参、玉ねぎだけだ。
「回復薬はどんな種族の魔族でも一瞬でオーガンに魔元素を溜めれるヒジョーに苦い薬だ。
あまりの苦さに飲み込む前に吐き出す奴が大半だけどなー。
アレを飲み込むなんて無理無理」
つまり、ゲームで言う所のMP回復アイテムなんだな。
けど、どんな良薬でも飲めない程苦いんじゃ意味がないだろう?
「それで、このカレー?
を食べたらちょっと辛くて甘くて不思議な味がするけど、回復薬の味がしないのに回復薬と同じ様に魔元素が溜まったんだ。
だからこれに特殊な調理法で回復薬を入れたのかなって・・・
そもそも魔族を敵視しているこの国に回復薬がある訳無いよね?」
「材料も何時も通り『ミドリの手』を使って庭で育てた野菜と林檎、ルグが狩った風見鳥の肉、市販の牛乳とハチミツ。
何時もと違う事と言えば、『クリエイト』で出したルーを使った事位か?」
ルーに含まれる香辛料が回復薬の材料と同じだったのか?
でも、カレーのスパイスに使われるって聞いた事がある生姜やニンニク、黒コショウ、オールスパイス、ローリエは『ミドリの手』で出した物を既に使った事がある。
昨日使った洋風出汁にはローリエが使われてるし、塩と一緒にコショウも頻繁に使ってるけど今まで1度も、
『食べたら一瞬で魔元素が溜まった!!』
なんって事無かったぞ。
確かに管器官型のオーガンを持つルグは物を食べると魔元素が溜まる。
でもそれは栄養と同じく食べた物がちゃんと消化されないと吸収出来ないらしい。
だから物を食べても魔元素が溜まるまで時間が掛かるんだ。
そもそも、角から魔元素を取り込むユマさんも食べ物で魔元素が回復した時点で何時もと違うのか。
あぁ、そういえば。
何だかんだで『クリエイト』で出した食品を使った事が無かったな。
何時もは市販の安い肉や魚と『ミドリの手』か『プチヴァイラス』で出す野菜や調味料しか使ってなかったし。
『クリエイト』で出した食べ物は初日に出した林檎だけだ。
『クリエイト』で出したからか、それともルーに含まれる香辛料以外の科学調味料とかによるものか。
「えーと、原材料は・・・・・・・・・ん?」
元の世界で愛用している見慣れたルーのパッケージを見回すけど、何処にも原材料名が書かれていなかった。
その代わりたった一行、
『効果:魔元素回復』
の文字。
「あ、やっぱこれ回復薬なんだ」
「いや、そんなはずは・・・・・・
本来なら此処に原材料が書かれているはずなんだけど・・・」
パッケージを覗き込み納得した様に頷くルグとユマさん。
そんな2人を尻目に俺は『教えて!キビ君』を起動しパッケージを撮影した。
検索した結果、
『クリエイト』飲食品・・・
『クリエイト』で作り出した食べ物や飲み物。
味や見た目、食感は記憶に忠実だが、一切の栄養やカロリーが無い。
魔族や魔物が摂取した場合のみ回復薬と同様の効果がある。
との事。
つまり、たん白質やビタミン、カルシウムといった栄養素が全くないし、ダイエット食品も驚きの無カロリー。
腹を満たす事は出来ても、そればっかり食べていたらいつか栄養失調で倒れてしまうだろう。
でも、真夜中に小腹が空いた時には便利だろうな。
太らないけど腹は満たされるんだ。
女性には嬉しいんじゃないか?
確かに栄養やカロリーってふわっと説明できるけど、見た目や味の様に鮮明にイメージできないもんな。
イメージが大切な『クリエイト』で作った食べ物や飲み物に栄養やカロリーが無いのも納得できる。
「けど、なんで魔元素が回復するんだ?
俺はそんな効果イメージしてないぞ」
いや、そもそも魔元素がオーガンに溜まるってイメージ自体出来ないし。
そう俺が悩んでいると、その疑問はやはりユマさんが解決してくれた。
「多分、不自然と言うか、歪なものだからじゃないかな?」
「不自然って言うなら同じ魔法の『ミドリの手』や『プチヴァイラス』で作った物にも同様の効果があるはずだろ?
魔法陣から種を出して急成長させたり出来るんだから」
「うーんとね。
サトウ君の『ミドリの手』の様な植物を生み出す魔法は、自分や親、遠いご先祖様が例え加工されている物だとしても、その植物に触れたり食べたりして植物の情報が体を構成する魔元素に記録されてる。
と言うか体の1部になっている?
から作り出せるんだよ。
その情報を元に空中にある魔元素を使って作り出してる。
体の中にその植物の確りした設計図が記録されていて、周りの魔元素を使って再構成したって考えれば分かり易いかな?
多分、『プチヴァイラス』を使った時もそうだと思うけど、サトウ君が実際に触れたり食べた物しか作り出せないはずだよ?」
ユマさんに言われアプリの図鑑を見てみる。
今まで気が付かなかったけど、確かにテレビでなら知っている植物や発酵食品は図鑑に記録されていなかった。
マングローブとか、ドリアンとか、バオバブとか、シュールストレミングとか。
つまり、自分の血肉になっていたりDNAに刻まれていたりするから、俺がイメージできない栄養素がちゃんと有ったり、加工する前の植物の姿でも作り出せていたんだな。
「『クリエイト』の場合はサトウ君のイメージだけを元にして出来ているから、元々自然に無かった物でも作り出せるんだと思う。
そのぶん落書きみたいな設計図を使って作られているから壊れ易い。
えーと、お腹の中には食べた物を溶かしちゃって体の中に取り込む液体が出てるいるって言われてるんだけど、サトウ君は知ってる?」
「あぁ、うん。知ってるよ。
胃液とか唾液とかの消化液の事だろ?
授業で習ったからざっくりとなら。一応」
と言っても、中学で習ったきり復習なんてしてないから殆ど覚えてないけど。
テストの時は必死に覚えてるけど、その後はドンドン忘れちゃうんだよな。
教える側からしたら呆れてものも言えないだろうけど。
「うん、それなら分かり易いかな?
壊れ易いって事は消化する液体に触れただけで簡単にバラバラになるって事。
一応、循環型や管器官型以外の魔物や魔族も食べ物から魔元素を吸収出来るんだ。
と言うのも、食べ物から魔元素を吸収する場合、最初は栄養として吸収される。
栄養もこの体とか椅子とかと同じ様に魔元素の集合体なんだけど、吸収される時に余分な栄養が更に分解されて魔元素としてオーガンに吸収されるんだ」
循環型以外は他の場所、肺とか角とかにも魔元素を吸収する場所があるから、余分な栄養として魔元素を取り込む率が循環型に比べ低い。
例えばごはんをどんぶり1杯食べたら循環型は4分の3以上が魔元素に、
管器官型は半分ずつ、
それ以外の呼吸器官型、融合型は逆に4分の3が栄養になる。
つまり、食べた物の殆どが魔元素になって吸収される体をしている循環型の魔族は、必要な栄養を得る為に常人の倍以上。
それこそフードファイター並みに食べないと身が持たない。
肺にも吸収器官がある管器官型も食の細い小さな子供や老人でも育ち盛りの男子高校生並みに食べるそうだ。
と言う事はルグの場合、育ち盛りで多く食べるってのもあるけど、体の構造上と魔法を使って身体能力を上げているせいで激しく消費されるカロリーを補う為に、あんなに大食いなのか。
あの小さな体の何処に入るのか謎だったけど、半分も魔元素になっていてその上、ほぼ毎日技を使っているんだから何だかんだで食べた分のカロリーも魔元素も消費しているんだろう。
それなら納得だ。
「簡単に壊れるから直ぐ胃を通り過ぎて吸収されるし、栄養が無いって事は最初から単純な魔元素そのものとして食べた物全部がオーガンに送られる。
だから少ない量で一気に回復する回復薬と同じ効果があるんだと思う」
何だ?
俺の『クリエイト』で作った食べ物は飲んで直ぐ溶ける薬かなんかなのか?
「元気ハツラツ。
すぐ魔力切れを起こす、そこの魔族の皆さん!!
そんなあなたに『クリエイト』飲食品!
飲んで3秒、直ぐ溶けて、直ぐ効果が現れます!!
キビ君製薬」
とでも宣伝すれば良いのか?
ユマさんの説明で俺の脳内にキビ君主演の変なCMが流れたじゃないか。
「そうだ。
明日の事を考えると、回復薬はあった方が良いよな?」
「うん。
バトラーさんの話と国中の冒険者を集めた事を考えると、魔元素の消費が激しそうだし」
この国に回復薬は売っていないって言ってたし、そもそもあったとしても2人は使わないだろう。
『クリエイト』で出すならどんな食べ物にするか。
チラッと目の前のカレーを見る。
・・・・・・・・・うん、カレーは却下だな。
激しい戦闘のさなかカレーを食べる余裕はないだろう。
俺はカレーは食べ物だと思っている。
絶対飲み物じゃない!!
まぁ、飲み物全般も無理だな。
戦ったり走ったりしていたらゲームの様にちゃんと飲めないし、零れるのがオチだ。
なら、チョコや飴の様なお菓子かな。
チョコは鞄に入れている間は良いとして、タイミングが掴めず持ったままだと溶けるだろう。
飴は噛み砕くまで時間かかるし、誤って喉に詰まらせたら危険だ。
本当、どうしようか?
「・・・・・・今日一晩、どんな食べ物にするか考えて、明日の朝2人に渡すな」
「うん!お願いね、サトウ君」
「任せて。それと、ルグ!!
鍋、空にしたならとぎ汁に付けとけよ」
「分かってる!」
俺とユマさんが話している間、何度もおかわりしていたルグにそう声を掛ける。
山盛りのカレーと行き来した回数から見て鍋は空だろうからな。
米のとぎ汁は食器の汚れを落とし易くする効果がある。
それ以外にも掃除や白い洗濯物を洗う時、野菜のした茹で、消臭剤。
髪や体を洗うのにもとぎ汁は使える。
とても便利な物なんだ!!
それに、この世界の石鹸は高くてガンガン使えない。
今使っている1番安い、傷薬の材料と同じ植物で出来た『癒しの実石鹸』でも1個5000リア。
動物や魔物を使った石鹸なんて1万する奴もある位なんだ。
そういえば、高い石鹸の中にクロッグを使った石鹸があった様な・・・・・・
・・・・・・・・・明日の依頼で『ドロップ』しないよな?
*****
早朝6時過ぎ、ギルドの前に並んだ何十台もの荷馬車。
俺達はその1つの中に入り自分達の馬車が出発する時を待っていた。
国中の冒険者が集まっての大掛かりな依頼に今更ながら色んな不安と緊張がのしかかって来る。
それは予想以上にこの国に冒険者が居た事と、その人達が一目見て分かる位強そうだからだろう。
「もう1度荷物の確認をするか・・・」
不安を拭う様に屋敷を出る前にも確認した鞄をもう1度見る。
まず、ダーネアの布と時間結晶で出来た小さなウエストポーチにパチンコとナイフ、スマホがあるか確認。
メモ帳や鉛筆、念の為の硬化毒と軟化毒の瓶、傷薬とか、走ったり戦ったりしながらでもパッと直ぐ取り出したい物もちゃんと入ってるな。
このウエストポーチはルグとユマさんの鞄を雑貨屋工房で作って貰った時に余った材料で作って貰った物だ。
次に鞄。
今日、1番大切な無音石の粉が入った沢山のヒュドラキスの鱗。
予備の傷薬と硬化毒、軟化毒、包帯、ガーゼを幾つかと、調理器具と調味料各種。
何日掛かるか分からないから着替えと寝具代わりの大きな布。
ついでに毎晩読むのが日課になった勇者関連の本を数冊持ってきた。
レモンの蜂蜜漬けと念の為の弁当と水筒もある。
それと『クリエイト』で作った色取り取りの飴玉サイズのラムネ形回復薬が入った大きな瓶。
一晩考えて決まったのはラムネだ。
ラムネなら口に入れて少し噛めばしゅわっと溶けるし、喉に詰まらせる心配もない。
最後まで迷った金平糖よりはサイズ的にラムネかな?
って思ってコレにしたんだ。
他にもっと良い物があったかも知れないけど、俺がイメージ出来る範囲ではこれが限界なんだよ。
それは兎も角、ラムネ形回復薬が俺の鞄に入っていては作った意味が無い。
こんなに沢山の冒険者が居るんだ。
いつルグとユマさんと逸れるか分からないし、今の内に渡しておかないと。
・・・・・・・・・渡せるか分からないけど。
「ごめん、ルグ、ユマさん。朝渡し忘れた、これ
「おい!
私の可愛い可愛い弟と妹分に変なモンを寄越そうとするな、人間ッ!!!」
ほら、やっぱりダメだった。
俺に答えたのはルグとユマさんを両手に抱えた金髪の女性。
俺はちょっとギルドに用があって2人より早めに家を出たんだ。
家に書置きと一緒に置いておけば良かったんだけど、少し慌てててど忘れしてしまった。
だから、馬車に乗る前にラムネ形回復薬を渡そうとした所、突如現れた彼女に阻止されそれから今まで彼女はルグとユマさんから一時も離れないんだ。
そんな俺を今にも射殺しそうな。
いや、背負ってる身長と同じ位の大きな斧で切られるか、槍の様になった斧の先で刺しそうなこの女性はミモザさん。
バトラーさんと一緒に行動しているルグのお姉さん、『ミィ』とは彼女の事だ。
ルグ曰く女性好き・・・
いや、女性には優しいが極度の男嫌い。
但し家族は除く、と。
現にはミモザさんはルグとユマさん、同じ馬車になったバトラーさんパティーのマキリさんには優しく声を掛けている。
それでも、バトラーさんとロアさんの扱いはまだましだ。
俺なんてちょっと動くだけで睨まれるんだぞ?
今日始めて会ったからってのもあるだろうけど、流石に酷くないか?
挨拶も自己紹介もさせてくれない。
やっぱ、顔なのか?
イケメンじゃないからいけないのか!!?
「・・・・・・えーと。何か、すみません・・・」
「ミィ、サトウは悪い奴じゃないぞ。
それに、変なもの渡そうとしてないって」
「そうだよ、ミィさん」
そう言って両脇からミモザさんを説得しようとしてくれるルグとユマさん。
そんな2人にミモザさんは優しく微笑みかけ諭す様に言った。
「2人共、男は狼だ。獣だ。
迂闊に信用しちゃいけないよ」
「ミィ、オレも男・・・」
「ルグは例外」
即答して俺を一睨み。
うぅ、出発する前から胃が痛い。




