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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1 章 体験版編
52/498

51,跳ねかえる巨大クロッグ 8匹目


 巨大クロッグの依頼を受けた翌日。

俺達はヒュドラキスが居ると言うベッセル湖に向かっていた。


「それにしても、まさか


『魔道書の事件の方には関わるな』


なんて言われるとはな。

確かにクロッグの事件と同時にやるのは正直、オレとユマでも大変だとは思うけどさ~」


ベッセル湖に向かう馬車の中。

今朝、雑貨屋工房で買った釣竿を手入れしながら、昨日通信鏡を使って父親に言われた事を思い出したルグが呟いた。


「仕方ないよ。

それが昔、お祖父ちゃんとグリーンス国の間で決めた事なんだから」


ルグの言葉に釣竿と一緒に、何時までも棒切れを使う訳にも行かないと買った杖や、素材を集めルグの分も含め雑貨屋工房に製作を依頼し漸く完成した鞄を弄ったり、窓の外を見続けたりとソワソワとしたユマさんが答える。


魔道書が盗まれた当時のジャックター国の王様であるユマさんのお祖父さんと当時のグリーンス国の王様との間で交わされた契約。


『魔道書の件は全てグリーンス国王に任せ、例えジャクッター国王でも口を出す事は出来ない』


と言うもの。

その契約は代替わりした今でも有効で、魔道書の事件にジャックター国王としてユマさんは手も口も出す事が出来ない。


「まぁ、逆に考えれば『1冒険者』として、もしくは『家族()とその友人』として、魔道書の事件を手伝うかも知れないって事だよな。

バトラーさんと一緒にいるの、ルグのお姉さんなんだろ?」


ルグが確認した所、予想通り昨日会えなかったバトラーさんのもう1人の仲間はグリーンス国の人。

と言うか、ルグのお姉さんだった。

ルグのお姉さんがどんな人か知らないけど、ルグのお父さんが関わるなと言ったところで、現場を任されているルグのお姉さんの判断で、


『家族とその友人の好で手伝ってくれ!!』


と言われるかもしれないんだ。

その事を俺は魚を取る罠としてお馴染みのペットボトルを使った罠、セルビンを作る手を休めずにチラッと2人を見ながら言う。


「あー・・・あー・・・うん。

ミィなら言うだろうなー」


あー、あーと上がって下がって悟った様な顔で言うルグ。

ユマさんも同意する様に苦笑いを浮かべ頷く。


「ミィに巻き込まれる覚悟はしておくよ。

それより、今はヒュドラキスが釣れるかどうかだろ?

特に初心者ズ」

「ハハ。うん、そうだね。

でも、初めての釣りだからすっごく楽しみなんだ!!

・・・あ、ほら、湖が見えてきたよ!!」


ユマさんが指差した方を見ると、キラキラと太陽の光を反射する青い湖が見えた。





 *****





 馬車を降り地図の通り進んだ先に在ったのは、お椀型に削れた大きな穴。

その穴の中には所々木が生え、小さな林の様になっていた。

だけど、その穴の中には一滴も水が無い。


「可笑しいなぁ?

地図だと此処のはずなんだけど・・・・・・

あ、看板も出てる」


穴の側にあった細い丸太を組み合わせて作られた看板。

そこには、


『ここは太古から変わらない神秘の湖、ベッセル湖』


の文字とベッセル湖の説明。

それとベッセル湖が出現している期間が書かれていた。


「やっぱり此処がベッセル湖なんだな。

今はただの穴だけど」

「もう、水が引いたんじゃないのか?」

「いや、看板によれば明日まで水が張ってるはずなんだけど・・・・・・」

「それに、馬車から見た時はちゃんと水が張ってたよ?

キラキラと水面が光ってたし、水が引いたなら土や木が湿ってないのは可笑しいよ」


そうなんだよなぁ。

馬車を降りてから此処に来るまで10分位しか経っていない。

そんな短時間にこんなに大きな湖の水が全部引いて地面がカラッカラに乾くものか?

どう考えても無理だろ。


「やっぱ何処かで道間違えた?

でも看板が出てるし・・・・・・・・・え?」


睨み合っていた地図から顔を上げ目の前の穴を見ると、少し離れた木々の間を水色をしたコイ位の大きさの魚。

鱗の色から俺達が探しているヒュドラキスだろうその魚が『飛んで』いた。

慌ててよくよく穴の中を見回すと、ヒュドラキスの他に同じ色の小魚の群れも飛んでいる。

その様はまるで見えない水の中を泳いでいるかの様だ。


「・・・魚が・・・・・・飛んでる?」

「・・・違う。この魚達は泳いでるんだよ」

「泳いでるって・・・・・・

でもこの穴の中には・・・・・・ッ!!!」


俺と同じ事を思ったルグの言葉を否定したユマさん。

ユマさんは泳いでると言うけど穴の中には本当に水が無い。

そう、水なんて一滴も無いはずなのに穴の中に延ばした俺の手には、まるで体中の熱を奪うような有るはずの無い冷たい水の感触と、火傷したんじゃないかと思うほど勝手に熱くなっていく手の体温がありありと感じられた。

それにに驚いた俺は慌てて手を引っ込める。

けど、水の中に入れた感触とは裏腹に、俺の手は最初から水の中に入れていないと言わんばかりに、一切濡れて無くてサラサラしていた。


「・・・ナニ・・・コレ・・・・・・」


両手で水を掬っても両の掌で感じる水はその手の器の中に無くて。

手を開いて零した筈のその水は足元の地面を濡らさない。


「あっ・・・まさか!ユマ!!

この穴の中に溜まってるのって、水の魔元素なのか!!?」

「うん。

普通こんなに水の魔元素が集まってたら水になっていないと可笑しい筈なのに、信じられないけどこの穴の中の魔元素は魔元素のまま溜まっているんだ」


本来なら水の魔元素同士が結合して『水』に成るはずの大量の水の魔元素が結合せず、魔元素のまま一箇所に集まっている。

それはつまりこの穴の中には、風とか光とか水の魔元素同士を繋ぐ魔元素が一切無い、『100%水の魔元素しかない』状態なんだ。


「で、でも!!

この穴に中には木が生えてるし、土や石だってあるじゃないか!!」

「それに、魚だって居るんだぞ。

なのに結合していないのか?」

「だから『信じられない』んだよ。

地の魔元素だってこんなに集まってれば結合して岩とか土になってるはずなのに・・・

それが水の魔元素なら尚更・・・・・・」


だから『太古から変わらない』って事なのかな?


とユマさんは呟いた。

そう言えばそんな事が看板に書かれていたな。

ユマさんの言葉を聞いて読むのを忘れていた看板の説明文を思い出し、俺達は改めてその説明を読んだ。


『遥か昔、創世の時代や混沌の時代のマナはとても結合しにくいものでした。


その為殆どの場合、マナ同士が結合せずマナのまま一箇所に固まっている事がありました。


ベッセル湖はその時代と同じ様に結合しないマナが溜まって出来る湖です。


年に一度遥か遠くに位置するカンパリ大陸の最北端、ベルエール山から地下を通って大量の水のマナが流れ込みベッセル湖が出来るのです。』


「大体は分かったけど、『創世の時代』?

『混沌の時代』?って何だ?」


俺は看板を読んで疑問に思った事を2人に尋ねた。


「えーと、『創世の時代』ってのはこの世界が出来てすぐの時代の事なの。

その時代の地層や化石を調べた結果の憶測だけど、その頃は看板に書いてある通り、殆どの魔元素が結合せずそのまま一箇所に固まっていたって考えられているんだ。

結合していたのは闇と風の魔元素と言うか、その中の『時間』と『空間』だけが現象と言う形で結合していた」

「それから長い、長い、長ぁああああい時間をかけて一部の水の魔元素が結合して海だけの世界が出来て、


残りの風の魔元素が結合して風が吹き雲が出来て、


雲の中で光の魔元素が結合して雷が産まれた。


風と雷が暴れた事で地の魔元素が集まり島が出来て、


風によって激しい波と渦が出来た海に流されて島同士が打つかって、その衝撃で火の魔元素が結合しマグマが出来た。


全ての魔元素が結合するようになり、海の中で全部の魔元素が1つになって小さな命が産まれた」


当然ながらこの話は地層や化石、それと琥珀みたいに中に結合しないままの魔元素が入った宝石からの推測らしい。


「この生き物が生まれてから、ドラゴンが産まれた時代までを『創世の時代』っていうんだ。

そのドラゴンが支配する時代から魔族や人の祖先が繁栄しだした時代までが『混沌の時代』」

「『混沌の時代』にも結合せず、魔元素のまま固まっているのがあったけど、その次の『白の時代』にはもう無くなったって言われてるんだよ」


つまり、えーと。

地球で言うところの『創世の時代』が地球が誕生してから先カンブリア時代とか古生代とか位の時代。

で、『混沌の時代』が中生代。

確か、恐竜がいたジュラ紀とか白亜紀位か?

『白の時代』が猿人が出現した新生代位だろう。


て事は、地球に例えるとベッセル湖は三葉虫とかアノマロカリスが生きていた頃。

いやもしかしたらもっと前の、シアノバクテリアが出現した頃位前から変わってないのかもしれない。

そんな湖の中を泳いでるあの魚も、湖と同じ様に大昔から殆ど変わってないのだとすれば、生きている化石って言われるシーラーカンスよりも凄いよなぁ。


「あっ!ねぇ、ルグ君、サトウ君。

そんな凄く変わった湖を泳ぐ変わった魚を普通の釣りすらした事無い私達が釣れるのかな?」

「あー、確かに」


普通の釣りでも不安だらけだったのに、初挑戦がこんな特殊な場所だと更に不安になる。


「そんな不安そうな顔するなよ!

何事も挑戦だって。

それに、いざとなったらオレに任せとけって!!」

「まぁ、挑戦する前から諦めるのも、何か嫌だしな」

「そう、だね。折角此処まで来たんだもの。

1匹位は釣りたいよね!!」


俺とユマさんは相当暗い顔をしていたんだろう。

そんな不安を吹き飛ばす様にカラッと笑いながら言うルグに勇気付けられ、俺達は釣りを始めた。

勿論、罠の大きさ的にヒュドラキスは掛らないだろうけど、何か採れる事を期待して罠も仕掛けてある。


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