281,コラル・リーフの過去 9ページ目
「流石俺達の異世界の同一人物って言うか・・・
『勇者』にさせられてもシローは戦闘に関するスキルや魔法が乏しかったんですね」
「だが、その分、物作りに関するスキルや魔法が非常に高かったんだ。
それこそコラル様の世界の伝説級の職人を軽く超える位」
だからシローは他の勇者達が使う武器や防具、道具、そして日々の食事なんかを作る担当していた。
そう真剣な表情で頷いて言葉を続けるチャドさん。
そのチャドさんの話によるとシローは、それだけじゃ前線で頑張ってる他の勇者達の足元にも及ばないから、と言う名目で医学や薬学、コラル・リーフ達の世界に無い便利な道具や魔法道具の製作にも貪欲に手を伸ばしっていったそうだ。
・・・・・・・その裏に隠された真意を誰にも悟らせないまま。
「サポート特化型の勇者と思われてたからだろう。
誰にも違和感を持たれずシローは大量に開発した他の品々に隠し、絶滅した『蘇生薬』の素材や『蘇生薬』の試作品を作り出していたんだ」
読書や料理が趣味って言う理由も合わさって、シローがヒッソリ『蘇生薬』の事を調べ作り出そうとしてる事に誰も気づかなかった。
長い時間を掛けて絶滅させた『蘇生薬』のメイン素材がシローの作った物の中にあっても、何十、何百もの復活させた黒幕達にとって有益な植物の中に偶然混じってたとしか思われなかったそうだ。
と言うかそう思わせる為にあえて本命とは関係ない黒幕達が興味を持つだろう植物やキノコ、道具を大量に生み出していたんだろう。
どんなに時間が掛かって遠回りでも自分達がゾンビにしてしまった人達を救い出すその日まで絶対に自分の本心を悟らせない様に。
此処まで聞いて1つだけ言わせて欲しい。
シロー、本当に俺より年下!?
本当に中学生だった頃の俺の異世界の同一人物なの!!?
中学の時の俺どころか今の俺よりも明らかに頭良いし冷静だよね!?
実はシロー達の世界では中学校の定義が俺達の世界と違って実年齢は四郎さんと同じ位とかない?
それか進化し過ぎた科学の力を使って物凄い学習能力を与えられてるとかで、どんな中学生でも俺達の世界の難関大学に通える位の頭脳があるとか。
「そしてシローが『蘇生薬』を作っていると気づかれなかった理由がもう1つ。
シローは『蘇生薬』の試作品を薬ではなく料理と言う形で作っていたんだ」
「まさか・・・」
「料理で?馬鹿か?そんな事出来る訳無いだろう」
「・・・・・・あぁ、なるほど。薬膳料理」
ハッとした様に口元を手で隠す微かなシュガーさんの声と、呆れ気味に眉を寄せるクエイさんのハッキリした声が重なる。
その2人の声から少し遅れて俺はチャドさんの話を聞いて浮かんだ考えを声に出した。
「確かにあれもある意味医学の分野ですね」
「医学分野の料理?
サトー君の国にはそんなモンがあるのか?」
「俺達の故郷じゃなくて、俺達の故郷の国のお隣の国の奴ですね。
その国から伝わった古い言葉?教え?
まぁ、そう言うのに医食同源って言う、『病気を治す治療も、日々の食事も、生命を養い健康を保つ為の源は同じである』って考えがあるんです。
その考えを元に食材の持つ薬効や性質、自然のパワー的な物を活かして病気予防や健康維持、体質改善を目指したのが薬膳料理」
本来の薬膳料理は治療より予防って感じだからシローがやっていた事とは多分違うと思うけど。
でもその考えを応用して『蘇生薬』料理を作っていたのは確かだと思う。
「それ、本当に効果があるのかよ?」
「あるよ。
ほら、副素材の話した時に言ったでしょ?」
「あぁ、アレか。アレ、この話が元だったのかよ」
訝しげなクエイさんに答えたのはチャドさんじゃなく、納得した様な真剣な表情を浮かべたシュガーさんだった。
森塩とかの『蘇生薬』の副素材の話をしてる時にその話題も出たんだろう。
そのシュガーさんの話を聞いて直前まであんなに疑っていたクエイさんが嘘の様にすんなり納得した。
「あ、えっとね?
アイシーやクロ、私達と一緒に家出した兄弟達の長年の研究が功をなして、医学的にも魔法学的にも効果がある事は証明済みなんだ。
各学会には受け入れられなかったけど」
そう詳しい事情を聞いて無い俺達に説明するシュガーさん。
亡くなってしまったけど薬膳料理や『蘇生薬』料理の研究をしていた『佐藤 四郎』モデルのホムンクルスさん達が居たらしく、その人達が何十年、何百年と研究していてくれたお陰で本当に薬膳料理や『蘇生薬』料理に効果がある事は実証済みらしい。
だけど黒幕達英勇宗信者達の息が掛かっていたのかどんなに論文を発表してもエスペラント研究所の時の様に中々学会の人達が認めてくれず、そのホムンクルスさん達は薬膳料理や『蘇生薬』料理のチェーン店を全国展開させる事で各学会に認めさせよとしていたそうだ。
いや、そうシュガーさん達は思っていたと言った方が正しいか。
恐らくその2人はアイシローの遺志を継いでこの世界の人達のゾンビ毒耐性を上げようとしていた。
その為に『蘇生薬』料理を広めようと家出したんだ。
その事に漸く気づいたからシュガーさんはあんな納得した顔をしたんだろう。
「元々所属していたチームが違うから2人の研究にそこまで詳しくないけど、薬膳料理で予防だけじゃなく治療が出来るのは確かだよ。
実際2人の所属していたチームが薬膳料理を使ってキール氷河に住んでる人の病気や毒を治した事が何度もあるんだ」
「だから理論的には『蘇生薬』料理でゾンビ化が治ると?」
「うん。
2人が生きてる内にゾンビになった人に出会った事がないから実際にはどうか分からないけど、最低でもその病気や毒に対するスキルが付くから全く意味が無いって事は無いのは確かだよ」
「なるほど。
ならシローの方はどうだったんですか?」
「残念ながらシローも『蘇生薬』料理で関わった全てのゾンビを治す事は叶わなかったんだ。
全ての素材を使って料理を作る前に亡くなってしまったからね。
でも、彼女の言う通り、未完成の料理でも口にし続けた者に高ランクの『隷従の首輪』に対するスキルを与える事が出来るのも確かなんだ」
全ての素材を復活させ料理にする前にシローが亡くなってしまったから、結局本当に『蘇生薬』料理でゾンビ化を治せたか分からない。
でも、その経験があったから『ゾンビ毒耐性』のスキル目当てに塩の木の塩とかの『蘇生薬』のメイン素材の商品を広めようって考えになったんだ。
そうシュガーさんに頷き返し答えるチャドさん。
そのチャドさんは真剣な表情のまま続けて、
「そして、そのお陰でコラル様も緑の勇者達も幾度となく『眠らぬ彼の者』の魔の手から逃れられたし、元々毒や魔法に対するスキルを持っていたジャン達はゾンビから戻った」
と言った。
多分、その特殊な魔法を狙われたんだろう。
意識の起きてるゾンビにされたジャン・ルーキュ・リリーチェはシローの『仲間』として行動していた。
本当はその特殊な魔法やスキルを都合が良い次世代に受け継がせる為に他の色の女勇者の仲間にさせられそうになっていたんだけど、本人の必死の抵抗とそれを察したシローの我儘でジャン・ルーキュ・リリーチェはシローの仲間になったそうだ。
料理当番だったシローは勿論そんなジャン・ルーキュ・リリーチェにも『蘇生薬』料理を食べさせていて、それは少しずつだけど効果を発揮していったらしい。
1度で完全にゾンビ化を解く事は叶わなかったけど、段々、段々、キャラさんの様に時々自分の意思で動ける時間が増えていったそうだ。
「その短い間にジャン・ルーキュ・リリーチェはシローに気づかれない様にコラル・リーフと確実な協力関係を築いていったんですね」
「あぁ」
コロナさん達とは違い、コラル・リーフ達は最初単純にお互いを利用し合う関係だったらしい。
クロージング効果とか認知的不協和とか単純接触効果とか。
そう言う心理的な物が働いたのか、それが何時しか恋愛感情に変わっていった。
ジンさんの様にジャン・ルーキュ・リリーチェが片思いしてるだけじゃなく、両片思いって形で。
それが悲劇の最中訪れた単純な甘酸っぱい一幕で済めば良かったんだけど、実際はそうじゃ無い。
これから訪れるコラル・リーフの悲劇の一幕の下準備でしかなかったんだ。
何せ、ジャン・ルーキュ・リリーチェもコラル・リーフ達を逃がす為に自身の命を代償にする危険な魔法を使って志半ばに亡くなってしまうんだから。
その事もコラル・リーフが長く引きずっていたのは当然の事で、この話を聞いて異世界の同一人物の将来を心配したマシロ達がちょっと暴走し話の途中でジンさん達に連絡を取ったのもこれまた当然の事なのかもしれない。
まぁ、コーガ・クー・アリーアがその魔法を作らないようコラル・リーフ達が全力で阻止し続けたからこの世界にはその魔法の名前すら存在してないんだけど。
その代わり『幸福な牢獄』と『幸福な牢獄』を解除する為の魔法の『約束の目覚め』が生まれたと。
「ただ、厄介過ぎる程シーフの才能に溢れた男とコラル様に言わしめただけあって、実際はかなり早い段階で2人の関係にシローは気づいていたんだけどね」
「まぁ、サトウの異世界の同一人物ならそうだろうな」
「何言ってんの、エド?
単純にシローがそう言う才能を持ってただけで、異世界の同一人物とは言え俺は関係ないだろう。
俺、鍵開けとかできないし。
ルグの様なシーフの才能なんてないって。
うん、ないない」
「嘘でしょ!?
サトウ君、本気でそれ言ってる!?」
「はい?何がでしょう?」
「おい、ピコン!
それ以上はないにも言うな。
コイツが気づいて無いならそのままにしておけ。
面倒くさいし、危険だからな」
「そうだなー。危険だからなー。
サトー君。今の話は早急に忘れろ」
「あ、はい」
冗談が過ぎると笑ってルグの言葉を否定したら、ピコンさんが心底驚いた様に叫んだ。
そんなピコンさんの口を慌てて塞ぐクエイさんと、冗談交じりな棒読みな感じでクエイさんに同意して一変。
仮面を落とした様なスンとした顔で脅す様にそう言うザラさん。
成る程、薬や毒の様にまた俺が無意識に気づかないフリをしてる事が発覚したらしい。
こういう時はその皆が気付いた『無意識』が何か気づく前に、ザラさんの言う通りサッサと忘れてしまうに限る。
ただでさえ深く自己暗示を掛けないと薬を使えないって状況なのに、これ以上面倒臭い1工程はさまないといけないモノを増やしたくない。
そうそう、この世界に居る間は薬を使っても効果が無いって思い込んでいたアレ。
大助兄さんのアドバイスのお陰で一応使える様になってるんだ。
思い込みで今まで使えてたなら『使える』って深く暗示を掛けたらまた使える様になるだろうって。
実際その通りだった。
だからあのシェフが求水病になった事件の時もクエイさんは俺に薬を使ってくれたんだ。
まぁ、毎回、薬を使う前に、
「これは効果がある薬、これは効果がある薬、これは効果がある薬」
って何度も呪文の様に唱えて自己暗示を掛けないといけないって手間があるし、俺の意思気が無い時や非常時に直ぐ薬を使えないってデメリットがあるんだけど。
その分、カシスさん達が食べた睡眠薬入りクッキーの様にヒッソリ仕込まれた薬や毒は一切効かないってメリットがある。
そう言うメリット、デメリットを考えるとやっぱり紺之助兄さんの言う通り無意識に気づかないフリしてるモノを追求しない方が良いんだ。




