50,跳ねかえる巨大クロッグ 7匹目
「こんにちはー」
「いらっしゃーい。お、兄ちゃん!久しぶりだなぁ」
「はい、お久しぶりです。
お陰様で、無事地下水道を進めました。
ありがとうございます」
「いいって事よ!それで、今日は仲間連れか?」
この世界に始めて来た日以来、全然来てなかった魔法道具屋。
店に入るとカウンターに座って暇そうにしていたお兄さんが俺達に気づいて軽く手を上げる。
「はい。ユマさんです」
「はじめまして」
「今は居ないけど、もう1人ルグって子と3人で冒険者活動してます」
「そっか。良い仲間に巡り会えた様で何よりだぜ。
それで、今日は・・・無音石だよな?
悪ぃな。
さっき無音石は全部売り切れちまったんだ」
ウチまで来るって事だから、多分他の店も売り切れだろうな。
とお兄さんは申し訳なさそうな顔をして唸った。
予想はしていたけど、やっぱダメだったか。
キール氷河まで採りに行く事なんて出来ないしなぁ。
本当、どうしよう?
「無音石を加工した時に出た粉やクズならあるんだが
「それ、売って頂けませんか!!!」
う、おぉおおッ!!?」
お兄さんがポツリと何気なく呟いた言葉に、ユマさんが瞬時に食いついた。
ユマさんの反応に驚いているのか、お兄さんは何度も瞬きしながら不思議そうに頷いている。
「べ、別に構わねぇけど、あんな粉じゃ無音石として効果はねぇぞ?」
「大丈夫です!!
魔法道具の素材になる石とかを加工した時に出る粉やクズ石もちゃんと使えるんですよ?
ガラスの小瓶の半分位詰めれば、加工した石と同じ効果があるんです。
ローズ国では見た事無いですけど、チボリ国やホットカルーア国では極々普通に売られています」
多分、星の砂の様な感じなんだろうな。
アレは生き物の殻だけど。
確かにその方法なら素材を無駄にしなくて済むし、キーホルダーやアクセサリーとしても人気があると思う。
なのにこの国では見た事が無い。
それにそう言うガラス瓶が売られているのは、2大鍛冶大国。
『ガラス細工が有名』ともルグが言っていた国達だ。
「もしかして、この国のガラス製品って高いんですか?
それか、数が少ないとか?」
「そーなんだよ。
ここじゃガラスの元に成る鉱石や砂が取れないからチボリ国から輸入しないといけないし、作れる奴も少ない。
だから数も少ないし、バカ高いんだよ。
2大鍛冶大国の様に粉やクズを入れて売るなんて無理無理。
アレは庶民でも簡単にガラスが手に入る2大鍛冶大国だから出来る事で、兄ちゃん達がこの国で小瓶を買おうと思ったら、1コ買うので精一杯だと思うぞ」
そう言えば雑貨屋工房で売られている傷薬も、缶とか木や竹の様な植物で出来た入れ物に入っていたな。
こう言う所の傷薬って軟化毒が入っていた小瓶に液体の薬が入っているイメージだったけど、実際はクリームの様な塗り薬で売られている。
缶に入ってるってのもあるけど、何というかドラマとか映画でみる『昔の手作りの薬』と言う感じだ。
「なら、小さな袋や竹筒で代用すれば・・・・・・」
「う~ん・・・・・・それも難しいと思うぞ?
袋だとクズ石なら未だしも粉は零れ易いし、竹は皮が分厚いから効果が薄いしなー」
この世界の布は目が粗い。
だから粉を袋に入れると隙間から零れてしまう。
逆にそれを利用してお茶を入れる方法に、粉になるまで引いたお茶葉を袋に入れて煮る方法があるそうだ。
そして竹。
俺達の世界の竹にかなり近い植物みたいだけど、皮がかなり厚いせいか、持っていても中に入れた粉の効果が竹筒の外まで届きにくいらしい。
そのせいで効果が薄かったり発揮されないそうだ。
水筒としては便利だけど、確実に効果を発揮してくれる保証がないと使用するのは躊躇われるな。
陶器の壷に入れる方法も考えたけど、軟化毒の小瓶を含め全部強化ガラス並みに頑丈なこの世界のガラスに比べ、陶器は普通の皿と同じ様に落としただけで簡単に壊れてしまう。
『クリエイト』で出しても『ガラスは割れ易い』ってイメージが俺の中にあるせいか、やっぱり耐久性に問題がある。
巨大クロッグが闊歩しているのにそんな耐久性じゃ安心して使えない。
いや、そもそも、そんなに大量の同じ物を『クリエイト』で出せる程俺は自分の魔法に慣れてないだ。
作戦を実行するにはある程度耐久性があって、首から掛けたりポケットに入れられる位には小さく、中身が零れない。
そんな入れ物が大量に必要なんだ。
つまり、粉やクズ石を買ってもそれを入れる条件に合った入れ物が無い。
作戦を考え直さないといけないけど、せめてルグとユマさんの2人分の無音石は用意しないと。
「あ、あぁ、あぁッ!!そうだ!そうだよ!!
あれが有ったじゃないか!!」
もう1度作戦を練ろうと頭を捻っていると、何かを思い出したらしいお兄さんがそう叫んで店の奥に向かった。
あぁ、何か、この店に初めて入った時の事を思い出すなぁ。
あの時もお兄さんは店の奥から無音石を持って来てくれたんだっけ。
そして今回お兄さんが持ってきたのは、
「これだよ、これ!!ヒュドラキスの鱗!」
大きな壷と膨らんだ雫型の小瓶の様な物。
色は半透明の白い、いや、水色か?
お兄さんの言葉通りなら鱗なんだろうけど、魚の鱗にも蛇の鱗にも似ていない気がする。
「コイツはベッセル湖って言う変わった湖にしか居ない魚、ヒュドラキスの鱗だ。
この鱗は面白い効果があってな、まぁ見てろ」
そう言ってお兄さんは一緒に持ってきた壷の中に鱗を入れた。
壷の中には小さな石が所々混じった、塩の様なザラザラした真っ白な粉。
多分、無音石の粉とクズ石なんだろう。
その無音石の粉にお兄さんは持って来た鱗を半分位漬けた。
「・・・28・・・29・・・30!!
よしッ!!!」
声に出しゆっくり30数え、お兄さんは鱗を取り出す。
その鱗の中にはどう言う訳か無音石の粉が鱗を漬けていた所まで入っていた。
逆さにしたり振っても中に入った粉が零れてこないし、本当どうなってるんだ?
「なるほど、この鱗は中に魔元素を溜める習性があるんですね。
この鱗を持った魚は循環型の魔物。
でもあまり捕食をしないのかな?それとも出来ない?
だから、技を使う時は鱗に溜めたマナを使うんですね」
一瞬驚いたユマさんは直ぐに『アイテムマスター』のスキルを使って、鱗をじっくり観察しだした。
よほど珍しい物なのか、ユマさんは何処と無く生き生きしている様に見える。
「へぇ、鱗を見ただけでよく分かったな。
姉ちゃん、そう言うの得意なのか?」
「得意と言いますか、魔法道具を鑑定するスキルを持っているのでそれで・・・・・・」
「あぁ、『鑑定眼』持ちだったのか!!
なら分かって当然か」
そう言って納得するお兄さん。
『観察眼』と言うスキルがどう言う物かは今は置いといて、この鱗の効果は分かった。
叩いたり落としてもヒビ1つ入らない所を見るに、耐久性も十分。
うん、これを小瓶の代わりにしよう。
問題は・・・
「すみません。これ、まだ在りますか?
あと、値段は・・・・」
「値段はこの店でも1番高い15万リラ。
ウチにはこの1つしかない、値段に見合った超レアアイテムだ。
当然ながらレンタルもなし」
あ、やっぱり。
予想はしてたけど、高いな。
前金と手持ちを叩けばギリギリ買えるけど、無音石の粉の分を考えると足りないんだよな。
けど、お兄さんの表情を見るにまだこの話には続きが有るみたいだ。
「だけど、兄ちゃん達は随分運が良いみたいだ。
ちょうど今はベッセル湖が現れる時期」
「『ベッセル湖が現れる時期』?
普段は湖じゃないんですか?」
「うん?
あー、ベッセル湖は変わってるって言っただろ?
普段はデカイ穴なんだけど、年に1回。
だいたい1、2週間位その穴が湖になるんだよ。
それが今。
つまり、タダでヒュドラキスが釣り放題だぜ!!!
て事だ」
大雨によって穴に水が溜まって湖になっているのか?
なら、その魚は普段何処にいるんだ?
雨と一緒に降って来た?
お兄さんには、
「口で説明するのは難しいから、実際見に行けば良い」
と詳しい事は教えてくれなかった。
それは良い。
今回の作戦には鱗が必要だし、タダで手に入るなら釣りに行くのはほぼ決定事項だろう。
だけど問題は、
「俺、釣りの経験ありません。ユマさんは?」
「私も・・・・・・
あ、でもルグ君は何度かハルさんと一緒に釣りしてる所見たよ」
俺もユマさんも釣り未経験者だという事だ。
唯一の救いはルグが経験者って事だな。
そして釣竿も無い。
いや、『クリエイト』で作ろうと思えば作れるんだけどな。
棒に糸と針金が付いたの位しか俺は想像出来ないぞ?
リールやら何やらなんって無理、無理。
「後、エサって何処で買えば良いんです?」
「ヒュドラキスのエサは光苔の実だ。
ウチにも有るけどいるよな?」
「はい」
釣り未経験者の俺とユマさんでは何が釣りに必要な物か、どういう物が良いのか分からない。
そこら辺はルグに相談する事にして。
絶対いるだろう釣り餌の白い飴玉の様な光苔の実と、無音石の粉を買い俺達は店を出た。




