276,コラル・リーフの過去 4ページ目
「何が成功した世界だ!!
誰1人『成功した』って言える様な幸せな人生送れてなかっただろう!!?」
気持ちを落ち着ける為に手の中の麦茶を一気飲みしても結局ダメだったんだろう。
軽くコラル・リーフが関わった人達の話を聞いて沸き上がったその怒りにも似た不愉快さをぶつける様にペットボトルを握りつぶしたピコンさんがそう叫ぶ。
ピコンさんがそう気分を悪くするのも無理ないだろう。
今までの経験や情報からコラル・リーフの世界の大切な人達や自分達がどんな人生を歩んで、どの様な終わりを迎えたのか。
簡単に嫌な方向に想像出来てしまったんだから仕方ない。
そしてそれがピコンさんだけじゃ無い事はその顔を見回せばどんなに鈍感な人でも気づくだろう。
「だから、コラル・リーフも『成功し続けてしまった世界』って自分達の世界を称したんですよ。
そうですよね、チャドさん?」
新しい麦茶のペットボトルを渡しつつそんなピコンさんを宥める様にそう言って、改めて俺はチャドさんに向き直った。
そのチャドさんは無言のまま続けて詳しい事を言えと目と手で示してくる。
「世界を分岐させる様な歴史的に大きな出来事が『成功』し続けた分、分岐に関わらない様な個人の幸不幸が『失敗』し続けた。
その小さな『失敗』が積み重なった結果、遂に逆転事件と言う最大最悪の『失敗』が訪れた世界。
それがコラル・リーフ達の生まれた世界。
違いますか?」
「いや、違わない。正にその通りだ。
アイシロー殿も全く同じ様にご自身の出身世界を評していた」
「だからコラル・リーフとアイシローはこの世界を自分の世界とは逆の世界に。
何度大きな『失敗』を繰り返す事になっても小さな『成功』が積み重なる世界にしようとした」
まだコラル・リーフ達の過去を聞いて無いから細かい所までは分からない。
でもコラル・リーフ達が何をしたかったのかは何となく分かった。
『バタフライ・エフェクトによるキルシャ・ジャマーの救出』
それが目的だったんだと思う。
いや、あのコーガ・クー・アリーアとやり取りしていた暗号の手紙の内容から考えるに、キルシェ・ジャマーだけじゃなく元の世界で失った大切な人達全員をどうにか救おうとしていたのかもしれない。
本当はコラル・リーフ達もラノベの王道展開の様に直接過去を『やり直し』たかっただろう。
でも現実はそうじゃ無かった。
暦は同じでも数1000年は前と言える世界に『召喚』されたと気づいたコラル・リーフ達は、異世界のキルシェ・ジャマー達が。
いや、遠い未来に生まれてくるだろ自分の異世界の同一人物達の幸せを『守ろう』とした。
元の世界での出来事と『召喚』されてしまった事実によって心が砕け散ってしまったコラル・リーフは、自分ではどう頑張ってももう叶えられない、
『大切な人達と幸せな人生を送れたIFの自分』
が存在する事を唯一の拠り所にしていたのかもしれない。
いや、後でチャドさんから聞いた話からして、心の拠り所にしていたのは間違いないだろう。
そうじゃないと、
「貴女は貴女として最期まで生き抜いて。
私の後を追うなんて馬鹿な事、絶対にしないで」
と言うキルシェ・ジャマーの最期の命令を守る事が出来なかったから。
「この世界の自分や大切な人達が生まれてくるのはどう計算しても数1000年後で、自分達が直接救う事は出来ない。
けど『失敗し続けた』、『負け続けた』IFの世界だからこそまだ救える手段もある」
「今から仕込んでバタフライ・エフェクトを起こせば自分達の世界で起きた未来を回避できる。
そう、コラル・リーフ達は思った訳だね」
「はい。
そして、100%全部が全部成功した訳じゃ無いだろうけど、そのコラル・リーフの作戦は成功している」
俺の言葉を引き継いでそう言ったシュガーさんに頷き返し、俺は出来るだけ穏やかそうな声でそう言った。
本当はそれが本心からの物だって分かる様にその声に見合った表情で言いたかったんだけど、多分今も表情筋さんが休んでるからせめて声だけは思い通りに出る様に意識したんだ。
そんな俺の言葉を聞いてチャドさんだけじゃなく、ルグ達の目も見開かれて行くのが視界の端に写った。
「何故、そんな断言を・・・」
「ユマさんとナァヤ君が生まれているから」
人伝に聞いただけの俺がとやかく言える程ユマさん達の両親の事を知ってる訳無いし、コラル・リーフも本当はユマさん達のお母さんには涙を流した大勢の人達に囲まれながらベットの上で幸せだったと微笑みながら老衰死する。
そんな穏やかな終わりを迎えて欲しかったと思う。
それは分かってるけど、それでも俺はそうコラル・リーフの作戦が成功したのだと断言した。
「コラル・リーフとコロナさんの様に『違う母親』から生まれたユマさんとナァヤ君の異世界の同一人物がコラル・リーフ達の世界にも存在してるかもしれません。
でも『ランド・ティアレ』と『キルシェ・ジャマー』の2人が何事もなく結ばれた事で生まれた2人が、無事ここまで育った事。
それはコラル・リーフの願いが少しでも報われた結果だと思ってます。
いえ、俺はそう信じてるんです」
「そうだな。
聞いただけでもティフィンミル達の家族の仲は良好そうだし、10代で死んだコラル・リーフの世界のキルシェよりは確実に長生きできた。
少なくともコラル・リーフの世界より幸せな最後を迎えられたのは間違いないだろう」
サトウの言う通り、アイツ等の存在が幸せの証拠って言うのもな。
と、そう他人事の様に言うルグ。
でもその目の奥や口の端に現れた優しい笑みの欠片から、確かにユマさんのお母さんが比較的幸せな最後を迎えられたのは確かなんだろう。
直接関わりのあったルグがそう言うなら間違いない。
「・・・・・・そうか。
コラル様達の努力は多少なりとも報われたのか」
「はい」
「なら、後は異世界の同一人物のネイちゃんが幸せな人生を歩めたら完璧だね!」
「あぁ、確かに」
興奮気味に頬を染めて力強くそう言うマシロの言葉に俺も力強く頷いた。
確かにナト達の手で未練だらけの悲惨な死を迎えてしまった人達は大勢いるだろう。
だけど、まだ全員じゃない。
まだ、救える命がある。
コラル・リーフが大切だった、コロナさんが守りたいと思ってる大切な人達の命はコラル・リーフの努力の甲斐あってまだ助かる可能性が高いんだ。
「だからこそ、コラル・リーフの世界の話をちゃんと聞かないと。
この世界の未来でも同じ様な悲劇が起きる可能性がある以上、1つ残らず余すことなく聞いて俺達自身の手で、意思で回避する。
その覚悟、改めて出来ましたか?」
その俺の質問に全員が姿勢を正して頷いたのを確認して麦茶を一口。
深い溜息を吐いて、俺自身の気持ちも切り替えもう動揺しない様に覚悟を新たにして。
そうやって気合を入れてチャドさんに頭を下げる。
「改めて、コラル・リーフ達の過去を教えてください」
「分かった」




