273,コラル・リーフの過去 1ページ目
さて。
そう言って手を叩いて少し険悪になりかけた雰囲気を消し飛ばしたチャドさんが姿勢を正す。
「改めて今話せる範囲の事を話そう。
だが、その前に、確認の為にも『緑の勇者』殿と『悪魔の考古学者』候補殿に幾つか聞きたい事があるんだ」
「聞きたい事ですか?
・・・分かりました。何でしょう?」
さっきチャドさんが言ってたのはこの事かな?
そう思いつつチラリとジェイクさんの方を見れば大丈夫だと言いたげに頷かれた。
そうジェイクさんの方も問題ない事を確認してから何を確認したいのか尋ねる。
「まず、『緑の勇者』殿。
君には・・・お姉さんが居るよね?」
「いいえ」
「え!?
じゃ、じゃあ、『タカヤ』と言う名前は読み方を変えると『シロー』と言う意味になったりしないかい!?」
「しません。
でも、ただ、何もなければ俺も『四郎』って名前になっていたのは確かですね。
だからチャドさんが本当に聞きたかった事に答えるなら、俺は確かに『佐藤 貴美』の異世界の同一人物じゃなく、『佐藤 四郎』の異世界の同一人物で間違いないです」
「そうか・・・
やはり、『シロー』の方だったんだな」
やけに真剣な表情で『姉さん』の事を聞くチャドさん。
その質問と驚いて慌ててされた次の質問でチャドさんが本当に聞きたかった事が分かってしまった。
そうか。
コラル・リーフの世界にも来てしまったんだな、『佐藤 四郎』は。
その俺達の異世界の同一人物がコラル・リーフの世界で何をやったのか。
コラル・リーフが態々名前を残したって事は多かれ少なかれ何かやらかしたのは確かだと思うけど、影も形も見当たらなかった今まで知った情報から推理する事は出来ない。
けど、チャドさんの様子を見るにそれ程悪い事はしてないらしい。
異世界の同一人物とは言えどっかの世界の『俺』がナト達がやらされてる様な事してたら流石に胃が死ぬ。
本題に入る前からリバースしてまともに話す事も出来なくなっちゃうから!
と言うか若干既に胃がキリキリしだしてる気がするんだけど・・・
「『佐藤 貴美』じゃなく『佐藤 四郎』の異世界の同一人物だからって今更『緑の勇者』って言ったのは無し!とかになったりしませんよね?」
「いいや、そんな事言わないよ。
『シロー』と同じ魂を持つ存在ならコラル様が想定していた修正可能な範囲だ。
予言の『緑の勇者』と同じ考えを持っていたし、愛称の事も併せて考えれば君がこの世界の『緑の勇者』で間違いないだろう。
心配しなくてもちゃんと答えられる範囲の君達の疑問には答えるよ」
「そう、ですか」
その微笑みながら言われたチャドさんの言葉にホッと胸を撫で下ろす。
異世界の同一人物でも血縁関係がある訳でもない同姓同名なだけの『サトウ キビ』よりはまだ生まれた時から一緒に居る血の繋がった弟の方が自分達が仕掛けた数々の物達で軌道修正出来ると考えてたんだろう。
コラル・リーフの預言的にも俺がこのまま『緑の勇者』って事で進めて問題ないと言ってくれた。
その事でルグ達の緊張も少し和らいだ様だ。
「あの、コラル・リーフの世界に現れた『佐藤 四郎』は一体何を・・・」
「アイシロー殿の存在とも関わるからね。
その事も後でまとめて話そう。
その前にもう1つ聞きたい。
君は何を・・・
いや、コラル様や予言の正体にどこまで気づいてるんだい?」
「コラル・リーフがこの世界のIFの世界出身だって事は知っています。
そして、ドラク族の人達が予言と呼んでるモノがコラル・リーフの世界で実際に起きた事を元にした物だって事も」
「そうか・・・
やはり、そこも既に気づいていたんだな。
流石、『シロー』と言うべきか」
自分達が知ってる『佐藤 四郎』と同じ魂を持っている存在ならある程度説明すれば納得して余計な事は聞かずに引いてくれるし、仲間の説得もしてくれる。
そう言う確信があったんだろう。
もし『緑の勇者』一行の中に『佐藤 四郎』が居てコラル・リーフの正体に気づいていたなら、長一族にのみ伝わる予言の事含め詳しい自分達の事を話して欲しい。
そうコラル・リーフとアイシローは言い残していたそうだ。
だからかなりの事は話せる。
そう呟いたチャドさんの声に和らいだ緊張がもう1度俺達の間に走った。
「そうだな・・・
『悪魔の考古学者』殿の話を聞く前に、コラル様の事を話した方が良いだろう。
コラル様が元々居た世界、そしてこの世界の未来と存続に関わる話だ」
「この世界の未来と存続って・・・・・・」
「その位重要な話しなんだ。
だからこそその分長い話になる。
それでも全部聞く覚悟はあるかい?」
「はい、それは勿論」
覚悟があるか聞いたチャドさんの方が緊張してるんだろう。
またも中身入りのままその手の中で潰れそうなペットボトルの中の麦茶で口を濡らしため息1つ。
改めて息を整えてチャドさんは口を開いた。
「『緑の勇者』殿の言う通り、コラル様はこの世界によく似た、でも少しだけ違う世界出身だ。
その世界はこの世界と違い、勝利し続けた、成功し続けた世界。
いや、『成功し続けてしまった』世界だったそうだ」
ローズ国で60年前起きたクーデーター。
そう言う成功すれば黒幕達が不利になる歴史上の事件がことごとく黒幕達側に不利になるように進み、この世界より数1000年は技術が進歩した世界。
つまり暦は同じでもある意味でこの世界の未来のIF世界と言える世界がコラル・リーフの生まれた世界だったらしい。
「この世界ではどうなのか知らないが、コラル様はコープスリヴァイブ家と言うその世界のホットカルーア国の王家の私生児で、先祖返り的に人間として生まれた事で辛い幼少期を過ごされてきた」
そのチャドさんの言葉を聞いて俺達は皆内心やっぱりと思っただろう。
やっぱりコロナさんとコラル・リーフの間には繋がりがあったんだ。
IFの世界とは言え血縁関係があったなら根の部分が似てるのも納得だな。
そう内心頷いていたら、更にルグ達にとって衝撃的だろう言葉がチャドさんの口から飛び出て来た。
「そんな幼いコラル様に『コラル・リーフ』と言う祝福された新しい名前と共に慈悲の手を与え救い出してくれたのが、キルシェ・ジャマーとい
「えッ!!?」
「そこまで驚くって、こっちの世界でもそんなに有名なご先祖様なの?
そのキルシェ・ジャマーさんって」
よっぽど驚いたんだろう。
チャドさんの言葉を掻き消す様にマシロの驚愕の声が木々の間に響き渡る。
声には出てないけどジェイクさんも目を見開いて心底驚いてるし、正体がバレない様にピコンさん達みたいに誰なんだって態度をどうにか保ってるけどルグもかなり驚いてる様だ。
それ程アンジュ大陸国では有名で、ここでその名前が出てくるとは思わない様なマシロとジェイクさんのご先祖様なんだろう。
と思っていたら、どうもそうじゃ無いみたいだ。
「う、ううん。違う・・・違うよ。
キルシェ・ジャマーは私達のご先祖様じゃ無くて、3000年前に生きてた人じゃ無くて、この世界では、3年位前まで、ちゃんと生きてた人・・・・・・」
「・・・え?」
「今のジャックター国の母后様・・・」
「つまり、ティフィンミルの母親だ」
「えぇ!!?ユマさんのお母さん!!?」
思わず上げた俺の驚愕の声聞いてドンドン目が見開かれて行くピコンさん達の姿が視界の端に写る。
そして響き渡る幾層もの絶叫。
こんなに大声で叫んでてたら流石にドラク族の人達か危険な野生のイーラディルスに見つかるなぁ。
と挙句に驚き過ぎた頭が現実逃避し始める始末。
いや、でも、思わず反射的に叫んじゃったけど冷静に思い返すとその可能性は最初から分かっていたんだよな。
コラル・リーフの世界がこの時代に非常に近い未来IF世界って可能性も、マシロとジェイクさんがユマさんの親戚かもしれないって可能性も。
『環境適応S』のスキルが働いたのだろうか、四郎さんの思いが流れて来なくともそうゆっくり今までの情報を思い出せばドンドン冷静になっていく。
うん、これなら落ち着い居てチャドさんの話を聞けそうだ。




