271,ページを捲る前に 前編
「・・・・・・此処なら良いだろう」
アドノーさん達から予定外の連絡があった時以外、ほぼ休まず速足気味のチャドさんと悪路のジャングルを進む事数十分。
村と第3の試練が行われる聖地の火山の麓の丁度中間辺り。
そこで唐突に立ち止まったチャドさんに促され息も途絶え途絶えの俺達は剥き出しの木の根に腰を下ろした。
蔓草に覆われた根がむき出しの巨木が生い茂る慣れない歩きにくい道ってだけでも疲れるのに、近くで温泉でも湧いてるのか火山に近づくにつれ段々マフラーでもカバーし切れない位蒸し暑くなってくるんだ。
それが更に俺達を疲れさせてくる。
このままじゃ第3の試練を受ける前どころか話の続きをする前に倒れちゃいそうだったから本当に此処で休めるのはありがたい。
特に俺とマシロとクエイさんは。
「い、今更ですけど、誰にも聞かれたくないなら俺の魔法で空飛んだ方が良かったんじゃ・・・」
「それは駄目だ!!
コラル様が定めた掟に反するし、何よ・・・・・・
あ」
ピコンさんと協力して作り出した比較的涼しい日傘の下で一息。
時間が惜しいと自家製スポーツドリンクを一口飲んでそう上がった息が整いきる前に言った俺にチャドさんが慌ててそう叫び返す。
その勢いはかなり凄く、恐る恐る口を付けようとしていた渡した満杯の自家製スポーツドリンクのペットボトルが丸めたティッシュの様に簡単に小さく潰れてしまう程だ。
「だ、大丈夫ですか!?怪我は!!?」
「大丈夫だ。濡れただけで問題は・・・
いや、それより折角の飲み物が・・・・・・」
「それこそ気にしないで下さい。
まだスポーツドリンクも麦茶も沢山ありますので」
「すまない・・・・・・
だが、本当に空を飛ぶのは駄目なんだ。
この島で不用意に空を飛ぶとコカトリスや島ワタリと勘違いしたイーラディルスに襲われてしまうかもしれないからね」
空を飛ぶモノは良いエサだとDNAに刻まれているんだ。
と、渡したタオルで体を拭きながらチャドさんが苦笑いを浮かべる。
ブゥ達の様なドラク族と一緒に暮らすイーラディルスでも狩り直後でお腹が空いていたら反射で食いついてくるかもしれないのに、野生のイーラディルスなら間違いなく何の躊躇いもなく全力で狩りに来るそうだ。
特に今居る辺りはドラク族でも制御出来ない野生のイーラディルスが多く生息してる付近だから尚更危険らしい。
だからこそ他のドラク族の人達も迂闊に近づけず、これ以上ない程密会するのに最適な場所はないんだけど。
「さて、『緑の勇者』殿」
「もう、『候補』は付けないんですね?」
「今までのやりとりで貴方こそがコラル様が待ち望んでいた『緑の勇者』だと・・・
いや、正確に言えば『緑の勇者』と同じ魂持つ存在か、もしくは『緑の勇者』と同じ魂を持つ存在のかなり近しい血族。
全く同じじゃなくても『緑の勇者』と似た考え方が出来る、この世界の『緑の勇者』になれる存在だと確信を得れたからね」
「だったらッ!!」
「待って、ピコンさん!」
だったら俺達が第3の試練を受ける必要はもう無いだろう!!?
そう固い声のマシロの翻訳を聞いて叫ぼうとしたピコンさんを俺は短く制した。
「ダメです。ダメ、なんです。
何にしても第3の試練は受けないといけない」
「おい、死人モドキ。
自分が何言ってるのか分かってるのか?
ピコンが言おうとした通り、こんな無駄に時間を食う試練なんざやる必要ないだろう」
「チャドさん。
貴方が俺を『緑の勇者』だと確信した理由は、ニャニャさん達一般のドラク族の人達が知らない、知ってはいけない長の一族だけに伝わる『予言』が理由ですよね?
村の人達がいつ来るか分からない集会場で言えなかったのも、迂闊に言った事が裏切り行為になるのもそれが理由。
違いますか?」
「いいや、違わない。
『緑の勇者』殿の言う通りだ」
不機嫌さを隠そうとしないクエイさんの言葉に静かに首を横に振る事で答え、改めてチャドさんを真っ直ぐ見つめそう確認の言葉を口にする。
それにチャドさんは1度大きく息を吐いてハッキリと頷いた。
予想通り長一族しか知る事を許されない予言が存在した様だ。
そしてそれはこの状況でもニャニャさん達に知られてはいけないらしい。
それだとどんなにチャドさんや先代長さんが認めたと言っても他のドラク族の人達は納得しないだろう。
寧ろ俺達がチャドさん達を洗脳したと思われてドラク族の人達の不信を買って容赦なくグサッと・・・
流石に問答無用でそんな事しないと思うけど、ドラク族の人全員がニャニャさん達の様に穏やかな人とは限らないし・・・
何も知らない一般ドラク族の人達からしたら大き過ぎる期待とコラル・リーフへの信仰心をまた最悪な形で裏切った事になる訳で、だから衝動的に手が出る人が居ても可笑しくないよなぁ。
と、つい思ってしまうんだ。
ニャニャさん達は聖女キビ達が起こした事件の真相をまだ知らない訳だし、尚更そう言う思考になっても仕方ないと思う。
どんな理由があるのか、チャドさん達がこの状況になってもまだ言う気が無いって言うなら茶番だろうと何だろうとそう言うリスクを回避する為にも予定通り第3の試練を受けるべきなんだ。
そうクエイさん達を説得する俺の言葉を聞いてチャドさんがまた大きなため息を吐いた。
「はぁあああ・・・・・・
無理に聞き出そうとはしないんだね?」
「それこそ時間の無駄ですね。
チャドさん達、拷問とかされても絶対口を割らないでしょ?
コラル・リーフや祖先の思いを裏切る位なら
「この場で舌を噛み千切って命を絶つ」
あぁ、やっぱり。
集会場に居た時から薄々でも予感はあったんだ。
チャドさんがそう言う事も、その言葉がただの出まかせじゃすまされない事も。
それほどあの時のチャドさんと先代長さんの目は真剣だったんだ。
「俺達だってチャドさんの命を無意味に犠牲にしてまで聞きたい訳じゃありません。
ただ・・・」
「勿論、今話せる事は話そう」
「今、って事はここまで気づいていても話せない事があるんですね」
「あぁ。今話せない事は、ただ1つ。
今はなきコラル様の最大の同士、アイシロー殿から託された、本物の『悪魔の考古学者』殿へのメッセージだ。
それ以外なら私が知ってる範囲での事になってしまうが、君達が知りたい事に全て答えよう」
「アイシローって・・・
さっきアドノーさんが教えてくれたコラル・リーフの協力者さん?
仕掛けやウォルノワ・レコードの製作に関わってたって言う、あの」
「あぁ、そのアイシロー殿だ」
まさか彼の存在を見つけ出す者が現れるとは思わなかったよ。
そう呟くチャドさんの言葉を聞いて俺も此処に来る前にアドノーさん達から来た連絡の内容を思い出す。
少し触っただけで崩れる寸前のボロボロの手紙を頑張って解読してくれて漸く最近見つけた、歴史上に一切名前も姿も、それどころか存在自体すら残ってないコーガ・クー・アリーア以外のコラル・リーフの協力者。
他に分かっているのは、
どの位か分からないけど仕掛けとかの製作に多少なりとも関わってた事と、
名前の響きからヒヅル国人の男性じゃないかって話が出ている位。
正にコラル・リーフとの繋がりを隠していたコーガ・クー・アリーア以上に何もかもが不明な人物だ。
その謎の協力者の名前が漸く分かったからと、次の定期連絡の日に教えてくれても良かったのに、知恵熱出しながら徹夜を続けてフラフラで今直ぐベッドに飛び込みたいって状態だったはずなのに連絡してくれたんだ。
コラル・リーフを信仰するドラク族の元に行くならと、何か試練のヒントになるかもしれないからと、態々。
父親の命が関わっていたとは言え唯の依頼の報酬なのにそこまでしてくれたアドノーさん達には本当頭が上がらないよ。
連絡を貰った時には既に追加分含め3つの試練をクリア済みって状態だったから無駄骨だったとガッカリさせてしまったけど、『コラル様の最大の同士』って言われるなら俺達やアドノーさん達が思ってるよりも重要人物だったんだな、アイシローって。
アドノーさん達のお陰でその存在を重要そうな話の前に知れたのは本当にデカいな。
今度は俺達の方が貰いすぎて無いか心配になるし、本当の本当に頭が上がらない!
「えっと、そのアイシローの事も教えて貰えるんですよね?」
「あぁ、勿論。
だが、彼の事はまた後でまとめて話そう。
彼に関して話すと長くなるし、私の予想だと他にも話す事になりそうだからね。
それにお互いまだ聞きたい事があるだろう?」
「そうですね」
その重要人物のアイシローが何故『悪魔の考古学者』に態々メッセージを残したのか。
そしてシュガーさんと言い合ってる時勢い余って先代長さんが零した『コラル様の遺志を継ぐ最大の同士まで失う悲劇まで起きた』と言う言葉。
アイシローが生きていただろう年代と事件が起きた年代には大分差があるけど、同じ『コラル・リーフの最大の同士』と表すなら何らかの繋がりがあるかもしれない。
例えばアイシローの子孫が1000年前までは存在していたとか。
そう言う事が気になってチャドさんにアイシローの事を尋ねたら、この話は一旦置いておかせて欲しいと言われた。
チャドさんが何を聞きたいか分からないけど、確かにアイシローの存在以上に今直ぐ聞きたい事が俺達にもある。
だからこそ俺はそう頷いてアイシローの事を頭の片隅に追いやった。




