270,黒い試練 10回戦目
無事第1の試練も本当の本当にクリア出来た。
残るは最難関だろう第3の試練を残すのみ。
そう喜ぶ俺達を見つめるチャドさんと先代長さんを引き続きヒッソリと逆に観察する。
仮面に隠されていても分かるその歓喜と期待と少しの不安に彩られた視線。
その視線が熱心に向けられているのは・・・
なるほど、そう言う事か。
「あの、1つ質問・・・
いえ、確認したい事があるんですが、聞いても良いですか?」
「確認?あぁ、構わないが・・・・・・」
「では、お言葉に甘えて」
そう先代長さんに返し、気持ちを切り替える様に息を大きく吐いて姿勢を正す。
さっきまでクエイさんとジェイクさんに送られていた先代長さんの熱視線と、村でのチャドさんのあの視線の動き。
そしてさっきの急に難易度の上がった第1の試練。
それら全てを素材に考えるとある1つの可能性が浮かび上がった。
「恐らくですが、本来第1、第2の試練。
あ、いえ、もしかしたら第3の試練もそうなのかもしれませんが・・・
取り敢えず、今まで受けた2つ、あ、いや、追加分を入れて3つかな?
その今までの試練でチャドさん達が本当に調べたかったのは『緑の勇者』候補の実力じゃないですよね?」
「えッ!!どう言う事!!?」
「はぁ!?
『緑の勇者』候補じゃないって・・・
じゃあ、何の為の試練だったって言うんだよ!?」
「その仲間として来た『悪魔の考古学者』と『カラドリウスの医者』」
俺の確認の言葉を聞いて思わず被せる様に驚愕の声を上げるシュガーさんと怒鳴る様に叫ぶザラさん。
そんな2人だけじゃなく周りに居る全員が信じられないモノを見た様に目を見開いている。
そんな2人の様に叫びそうなルグ達を落ち着かせられる様に、俺は出来るだけ落ち着いた声でそう答えた。
「この2人の事を調べるのが目的ですよね?
特に、『悪魔の考古学』の方を調べる事が。
カンニングの心配って言うのも勿論あるでしょうが、試練を追加したのもそれが不十分だったからってのが1番の理由ですよね?」
「ッ!!!」
「え?ボク?」
だから本当は俺達が通訳しなくてもルグ達の言葉が分かるのに、それを第1の試練を本当にクリアしたあの瞬間まで隠していた。
そう続けた言葉は果たしてチャドさん達に聞こえていただろうか?
いや、多分あの様子だと聞こえていないな。
ジェイクさんの間の抜けた様な疑問の声に重なる様に微かに聞こえたチャドさんの息を飲む音。
その微かな音だけで俺のこの考えが正解だと言う事と、その後の俺の声が一切耳に入っていない事が分かった。
それ程2人には信じられない事だったんだろう。
「もう1つ言うとすれば、貴方達長一族の方は、『緑の勇者』以上に、『悪魔の考古学者』に期待している。
いえ、救い、を求めてる、のでしょうか?
本物の『緑の勇者』の仲間の『悪魔の考古学者』だけが、貴方達の何らかの苦悩を終わらせてくれる。
違いますか?」
「な、ぜ・・・何故、その事まで、知っている?
『緑の勇者』候補がその事に気づくなんて予言には・・・・・・
いや、まさか、そんな・・・・・・」
混乱の極みといった感じでブツブツと言葉を零す先代長さん。
そんな先代長さんの呟く声で何かに気づいたんだろう。
驚愕の表情を浮かべて固まったままだったチャドさんがハッと弾かれた様に叫んだ。
「君は本当に・・・・・・
いや、一体どこでッ!!?
どこまで君達は知っているんだ!!!?」
「知っている、と言うか・・・
お二人の様子で気づいたんです」
最初からどことなく違和感が有ったんだ、そのチャドさんの視線には。
確かにチャドさんも他のドラク族の人達の様に先祖代々待ち望んでいた『緑の勇者』候補が来た事に喜んでいた。
その感情に嘘は無いと思う。
でもチャドさんだけはそれだけじゃ無かった。
そしてその他のドラク族の人達とは違うモノを先代長さんもその目に宿している。
一般のドラク族の人達に隠しているだろう長一族だけが抱くナニカ。
2人の態度からするに恐らくその重いナニカを変えてくれるのが、終わらせてくれるのが『悪魔の考古学者』なんだと思う。
「ッ・・・
そんなにあからさまだったか・・・・・・」
「違和感に気づいて観察すれば、割と」
「そうか・・・」
俺の考えが合っている証拠だとばかりに響いた先代長さんの困惑の声。
その大きな声とも試練前の自信に満ちた様な声とも正反対の様な段々弱々しく萎んでいく声は最後には何処か自嘲めいた物が混じる絞り出された様な物に変わっていた。
それだけ先代長さんは期待交じりの本心を隠し通せる自信が有ったんだろうな。
「詳しく、聞いても?」
「・・・・・・・・・ダメだ。
コラル様を裏切る事は出来ない。
そして我々の代までコラル様との約束を守ってきた祖先達の思いを裏切る事もだ。
今更そんな事出来る訳がない!!
今この場で我々が受け継いできた使命について話す事は許されないのだ!」
「今の貴方達には、貴方には話す事が出来ないんだ。
此処だと・・・・・・あ、いや・・・
そう、駄目なんだ。
貴方が本当に正真正銘本当の・・・
『悪魔の考古学者』殿と確信を得るまでは、言う事は出来ない」
「・・・そうですか」
ニャニャさん達の事を考えると多分チャドさんは最初、
「此処だと全てを知らない他の村人達に聞かれるかもしれないから言えない」
と言おうとしたんだと思う。
だから咄嗟に本物の『悪魔の考古学者』じゃないから言えないと誤魔化した。
そう思うんだけど、本当にそれだけか?
裏切れないと興奮し息の上がった先代長さんの体を労わりながらも真っ直ぐジェイクさんを見つめたチャドさんの視線が一瞬言葉に詰まってあからさまに泳ぐ。
そのチャドさん達の態度や視線を見るに、その誤魔化しも完全な嘘じゃない様に思えたんだ。
少なくとも本物の『悪魔の考古学者』にしか伝えられないナニカがあるのは間違いないと思う。
いや、あのチャドさんの言葉の詰まり具合から察するに、『悪魔の考古学者』じゃない可能性もあるのか。
本当は『正真正銘本当の』なんと言おうとしたんだろう?
そう不自然な沈黙が気にならないと言ったら嘘になるけど、俺が何か察した事に気づいたらしいある程度息が整った先代長さんの口止めしようとするその鋭い視線に刺され押し黙るしか無かった。
この事もコラル・リーフを裏切る事になるから今この場では言えないって事だよな。
「なら、それは何時なんだい?
第3試練をクリアしてから?
それともフェニックスの苔を無事採った後?
まさか確信を得られないからってズルズル先延ばしするつもりじゃないよね?」
「それは絶対にない!!」
自分達もマシロに同じ事をしているからだろう。
これ以上追及しても時間の無駄になるだろうと頷きかけた瞬間、ジェイクさんから何時かのマシロを彷彿させる鋭い指摘が飛んで来た。
それを聞いてチャドさんが食い気味に否定する。
さて、どうしよう?
チャドさん達が今この場で言えないのは俺が予想外に気づいたからってのが1番の理由だと思うし、場所を変えて貰えるよう言うべきか?
いや、でも、先代長さんの視線がこれ以上予想外の余計な事まで気づくなって訴えてるし・・・・・・
チャドさん達から言ってくれるのを待つべき?
「失礼します、長様、先代様!!
第3の試練の準備が整いました!」
そう悩みつつもどうにかこの険悪になり出した雰囲気を変えようと口を開こうとした瞬間、若いドラク族の男性が勢いよく飛び込んで来た。
まるで元気が有り余る大型犬の様なその男性は集会場の中がこんな重い空気になっているとは露程にも思っていなかったのだろう。
自分がタイミング悪く来てしまったと察して耳と尻尾を悲しげに垂れ下げる様にチャドさんの次の言葉を待った。
「えーと・・・お邪魔してしまいましたか?」
「いや、大丈夫だ。ご苦労様。
君は父と一緒に先に行っていてくれ」
「え?長様は?」
「『緑の勇者』候補殿達とまだ話す事があるから後からゆっくり行くよ。
あぁ、ただ話す事がまだまだ沢山あるからね。
もしかしたら着くのがかなり遅く・・・
そうだなぁ・・・・・・
流石に夕方まで掛かる事は無いと思うけど長ければ昼を大幅に過ぎてしまうまうかもしれない。
その事も皆に伝えておいてくれ」
「分かりました!!では、先代様!行きましょう」
数秒にも満たないアイコンタクトでの話し合いの後父親の意図をちゃんと汲めたらしいチャドさんがそう男性に指示を出す。
ガッシリした見た目の印象が強くて気づかなかったけど、実は足か腰が悪かったのかな?
その指示を聞いて男性は丁寧に先代長さんを抱き上げて来た時と同じように勢いよく出て行った。
「あの、チャドさん、村の方達の事が気になるなら、場所・・・・・・」
「あぁ・・・・・・そこも気づいてるんだね」
先代長さんと男性の姿が見えなくなり、お互いの声ももう完全に届かなくなっただろうそれなりの時間。
また険悪な無言状態が続いた事にとうとう耐えられなくなった俺はそうチャドさんにおずおずと切り出した。
その俺の言葉にチャドさんも俺が気付いた事を察したんだろう。
チャドさんは観念した様にそう呟いて苦笑いを浮かべた。
「やっぱり、全てがそうとは思えませんが『悪魔の考古学者』の事は誤魔化しで、俺達が知りたい事の中に村の
「待ってくれ」
あ・・・・・・す、すみません!!」
気づいてるなら、それ以上此処で言う訳にいかないのは分かってるだろう?
先祖代々守ってきた自分達の努力を裏切らせないでくれ。
そう俺の言葉を遮ったチャドさんの瞳が訴える。
どうしてそこまで徹底的に村の人達に隠さないといけないのか。
そしてどうして知られる事が裏切りになるのか。
その理由はまだ良く分からない。
でもそれがチャドさん達にとってとても大切な物だって事だけは嫌でも理解させられる。その位真剣で熱いその無言の訴えに自分が軽率過ぎた事に気づいた俺はそう慌てて謝った。
「えっと・・・・・・」
「分かっている。場所を移そう。
そこで話の続きをしようか」
「はい、分かりました」
この先の事は少しでも村の者達に知られる訳にはいかないんだ。
これ以上誰が聞いてるか分からない此処で話す事は出来ない。
とハッキリ言葉にせず伝えるチャドさんに続いて俺達も集会場を出る事になった。




