268,黒い試練 8回戦目
ジャングルの木々に隠れる木造の家と言う所は他の家々と同じだけど、明らかに他の家よりも広くて豪華な神殿を思わせるその家。
村の集会場も兼ねてるその場所がチャドさん達ドラク族の長一族の家らしい。
正確に言えば催事や集会に使う場所が殆どの割合を占めていて、居住スペースは他の家とそう変わらない様だ。
そしてチャドさんに案内され俺達が訪れたのも集会用の広間。
その広間の入口正面。
何処かで見た事ある模様、いや、あれは逆さまの蝙蝠の像が読んでた本に書かれてた古いアンジュ大陸の文字か。
その文字が唯のお洒落な壁紙だと言わんばかりに翻訳されない程不規則に普通の模様と共に壁一面に彫られていた。
多分アレもコラル・リーフの仕掛けか何かの1つなのかもしれない。
その壁の前の他の床より一段高い場所には俺達が来る前からニャニャさんのお母さんが被っていたお面よりも立派なお面を被ったとても大柄な男性が大きな杖を抱えて座っていた。
一目で偉い人と分かる場所に座ってるから多分あの人がチャドさんのお父さんである先代長さんなんだろう。
断定できないのはその体格の良さから俺やニャニャさんと同じ位になる孫が居る老人とは到底思えないからだ。
お面のせいで辛うじて目元が分かる位で、今一体どんな表情をしてるか全く分からない事も判断出来ない事に拍車を掛けている気がする。
俺達の事を説明するチャドさんの態度的に先代さんで間違いないとは思うけど試練の事を含めての影武者って可能性も捨てきれないし・・・・・・
失礼にならない程度には一応警戒しておこう。
「ほう・・・ほう・・・・・・」
仮面越しにでも分かるチャドさんの説明を聞く先代さんの値踏みする様な視線が辛い。
隠す気が一切ない分、ニャニャさんのお母さんやチャドさんよりも間違いなく威圧感がある。
「まさかと思っていたが・・・
ついにその時が来たか」
「えぇ」
「・・・・・・さて。
『緑の勇者』候補とその仲間達よ。
よく来た。改めて歓迎しよう」
多分、先代長さんにも認められた、って事で良いんだよな?
その証拠に値踏みする威圧感が段々消えていき、チャドさんの嬉しそうな短い返事が聞こえる頃には完全に消え去っていた。
けど完全に認められた訳じゃ無い。
消えた威圧感の代わりに仮面の奥の瞳が不敵な笑みを湛える様に細められたんだから。
思ってたよりアッサリ第3面接をクリアしたからって油断は絶対できない!
「余計な話など貴方達も必要としていないだろう。
早速次の試練の話をしよう」
「はい。お願いします」
「とは言え、貴方達は既に第2の試練をクリアしているからなぁ・・・・・・
フム・・・どうしたものか」
俺達は本来2番目に受けさせるはずの試練をクリアした状態で現れたんだ。
予言に書かれた手順通り事を進める事は出来ない。
そう唸る先代長さんの視線が一瞬背後の壁に向く。
もしかしてあの壁の文字が第1の試練と関係あるのか?
「・・・・・・1つ聞く。
この壁を見てどう思う?何か気づいた事はあるか?」
「えっと・・・・・・
読めないですけど、古いアンジュ大陸の文字が隠されてますよね?
これもコラル・リーフに関わる物なら仕掛けかが施されてるか、試練と関係あるんでしょうか?」
「ほう」
そう思って先代長さんから逸らされた俺の視線が後ろの壁を見ていると気づいたんだろう。
唐突にそう言って少し体を動かして後ろの壁を手で指した先代長さん。
その質問に俺はそう答えた。
勿論出鱈目で言ってるんじゃないって証明の為に文字が何処に刻まれているかも忘れずに言う。
無事望まれた答えを言えた様で、その返答に先代長さんだけじゃなくチャドさんの目も嬉しそうに細められた。
「流石歴代最高峰の『緑の勇者』候補。
良く気づいた。合格だ」
「・・・・・・・・・え?
いや、あの・・・合格って言うのは・・・・・・」
「勿論第1の試練の事だよ。
本来なら此処に初めて通された時、出るまでにこの壁の文字に気づく事が第1の試練だったんだ」
村での行動次第では1回目で気づかなくても合格にする事もあるけどね。
と言う茶目っ気を含んだチャドさんの言葉にルグ達の肩の荷が少し下りた様な気がした。
そんなルグ達とは違い、俺の体はまだ緊張で硬くなっている。
勿論それはこの後に最難関の第3の試練が待ち構えてるからじゃない。
本来第2の試練になる筈だったラルーガンの実探しに比べ第1の試練があまりにも拍子抜けする程簡単だったからだ。
多分、四郎さんも同じ様に思っているんだろうな。
オロオロと言葉に出来ない不安が渦巻くだけだった頭の中に、
「あのコラル・リーフが関わる試練なんだぞ?
かなり難易度を上げて隠された文字の意味を答える所までやって漸く合格とかにするだろう、普通。
1番最初の試練だから比較的簡単なのは当然だって言っても流石に壁の文字に気づくだけってのは簡単すぎないか?」
と言う冷静的で具体的な考えがスーッと流れ込む様に浮かんできた。
感覚的にそれが四郎さんの考えだって分かって、やっぱりと思った俺の体が更に不安と緊張で硬くなる。
硬くなりすぎて痺れすら感じる程だ。
そんな俺達の思いは正しかった様で、チャドさんが喋り終わって少し間を置いてから仮面越しでもニヤリと意地の悪い笑みを浮かべたって分かる雰囲気で先代長さんが口を開いた。
「だが本物の『緑の勇者』とその仲間達ならこの質問にも答えられるだろう。
この壁の模様から読み取れる人名と薬品は何だ?」
「え?・・・え?ええ!!?」
あぁ、やっぱり。
合格ってのはあくまでも『緑の勇者』候補としてって事ですか。
合格だって言って油断させて本当の試練はここからだってのは流石にフェイントが過ぎるって。
本当はこの国の言葉が分かるルグがプロ根性で思わず反応しなかっただけマシなんだろうけど、思わずマシロもジェイクさんもシュガーさんも咄嗟に驚きの声を上げる事しか出来なかったじゃないか。
予想していたとは言え俺も咄嗟に頭を抱ええる事しか出来なかったし。
その位で済んだのも四郎さんのお陰で、もし四郎さんの叱咤激励の思いが流れ込んでこなかったら間違いなく俺は崩れ落ちていた。
その位フェイントの衝撃が強かったんだ。
「そんな後だしの試練、1000年前には、聖女キビが来た時にはなかったはずですよね!?
そんな事聞かなくても聖女キビは当時1番の『緑の勇者』候補だと認めたじゃないですか!?
最終試練を本当の意味でクリア出来なかったから違うって当時のドラク族の人達に見切られたけど、それまでは間違いなく最有力『緑の勇者』候補だって認められていた!!」
「そうだね。
確かにその事は私達の代までちゃんと伝わっている」
「だったら!!」
「だからこそ、だ」
そう1番最初に復活したシュガーさんの反論の叫びを制するチャドさん。
その顔には1000年前の祖先の期待を裏切られただけでは説明できない憎悪にも似た軽蔑の色が浮かんでいた。
「彼女達を最有力『緑の勇者』候補だと見誤った祖先の失敗を繰り返すわけにはいかないんだ。
今度こそ絶対に間違える訳にはいかない」
「失敗?なんの事を言ってるんですか?」
「ふむ・・・
どうやら君は祖先の美化された話しか知らない様だね。
なら、この際ハッキリと教えてあげよう。
『緑の勇者』のフリをしてまでこの地にやって来た彼女達が何を仕出かしたか。
どれ程の裏切り行為を働いたか」
「裏切りって・・・・・・」
「ウォルノワ・レコードの破壊」
その先代長さんの静かに響いた言葉に俺達の息がつまる。
そんな俺達の様子に気づいていないのか、それともあえて無視してるのか。
その後遠慮なく続いた先代長さんの話とそれに反論するシュガーさんの言葉で俺達は漸く『レジスタンス』アジト奥のウォルノワ・レコードの壁の仕掛けを追加した人が誰か知る事が出来たんだ。
「どうやって知ったのか。
『クグツの半人魚』と同じく『眠らぬ彼の者』の手先だったあやつらは、この地にコラル様から託されたウォルノワ・レコードがある事を知り、その破壊の為にやって来た。
それも我等が祖先を騙し油断させる為態々『緑の勇者』のフリをしてまでな!!」
「何、それ・・・・・・・・・
ち、違うッ!!!それは貴方達の勘違いで!!」
「何が勘違いだ!
現に『緑の勇者』ではないと見切られたあやつらは強硬手段に出たではないか!!
我等が祖先が阻止したから最小限の被害で済んだが、あやつらのせいで未だにウォルノワ・レコードの1部は壊れたままなのだ!!
その上そのせいでコラル様の遺志を継ぐ最大の同士まで失う悲劇まで起きたんだぞ!!?
これがどれ程コラル様を裏切る行為になるか・・・
お前に分かるかッ!!!」
「違うッ!!!
私が否定したいのはそっちじゃ無くて、『眠らぬ彼の者』の仲間。
この世界を滅茶苦茶にしようと暗躍してる黒幕達の仲間だって言われた事の方です!!
確かにスティー・・・ンガー・ブラウンはウォルノワ・レコードを壊したり改造しようとしてましたよ?
でもそれはコラル・リーフと同じ、黒幕達からこの世界を守る為なんです!」
「何!?」
本当、シュガーさんは何処までオリジナルの事知ってるんだ?
憎しみにまで発展した様な激しい悲憤の感情が霧散する位驚いて先代長さんが言葉を詰まらせてる間に畳み掛ける様に続いたシュガーさんの話。
それによってスティンガー・ブラウンが魔族を守るついでに世界までも救おうと暗躍していた事が分かった。
当時から存在して居た黒幕達の思い通りに事が運ばない様にこれから『召喚』される本命の勇者の魔法やスキルを制限しようとしたり、
蘇生薬やそれ以外の黒幕達が作ろうとしてる物に対抗できる物の素材が消されない様に壁の仕掛けを作ったり、
『珊瑚の図書館』を使えるスマホモドキをアンジュ大陸国人以外直せない様に壊したり。
後アイテム目当てに魔族が虐殺されるのを阻止する為に『ドロップ』のスキルに制限を掛けたりもしたそうだ。
「そう言う理由で彼女達はウォルノワ・レコードを狙ったんです。
結果的にそうなっちゃったけど、決して貴方達の祖先やコラル・リーフの思いを裏切りたかった訳じゃ無い!
彼女もまた『眠らぬ彼の者』に抵抗しようとした同士なんです!!」
だから聖女キビ達の事を理由に俺達を疑うのはやめてくれ。
そう訴えるシュガーさん。
けど、そのチャドさん達の表情的にその訴えは受け入れて貰えそうなさそうだ。




