4,スキル 後編
「それにしても、見た事も無いスキルばかり。
猿にしては中々面白いスキルを造ったものだ。
して、猿よ」
「猿じゃありません。
申し遅れましたけど、佐藤って言いまーす。
以後お見知りおきをー」
「ふん、その様な事どうでも良い。
お前はなぜこの様なスキルを作った?」
どーでも良くねぇよ。
「意識して造った訳じゃありません。
創造スキルにあるのは皆、俺が住んでいる世界の創作物語でありがちなものばかりです。
俺が無意識にそのスキルがある、もしくは在ったらいいなと思ったものがスキルとして作られたみたいです。
俺は此処に来るまで異世界の存在や魔法、スキルと言うものをまったく信じていませんでした。
ですから、これ等のスキルを作っていた事に俺自身が驚いている位です」
「なら、お前の世界の住人は皆、この世界に来たら同じスキルを作り出せるのか?」
今まで俺とおっさんの会話を静かに聞いていた助手がポツリと呟く。
「いいえ、絶対に同じとは言えません。
この世界みたいな異世界を舞台にした作品は有名無名合わせたら星の数ほど在ります。
同じ舞台設定でも作品毎に少しずつ変わっていますから、その人がどんな作品の設定を信じているか、どの作品が好きかによって変わると思います。
現に俺もこう言う作品でありがちなもので、スキルになっていないものがありますし」
「例えば?」
「ん~、そうですね・・・・・・・・」
色々あるけど、例に出すならやっぱりこの2つだよな。
「例えば、ある場所で記録を書けば例え任務に失敗したり、何らかの事件事故にあって死んでも所持金や手持ちの道具の一部が無くなる代わりに記録した時の状態で生き返ったり、最初からやり直せたりとか、
その人物の起こした行動が例え非人道的でも無条件で全て良い方向に認識されたりとか・・・・・・・・・ですかね」
「そんな事が本当に出来るんですか!?」
「この2つもある媒体を使った作品ではありがちです。
『スキル創造』の説明を見る限りだと、心底信じ込めば造られると思います」
そう言うと魔女とおっさんの目がバッチリ合い、魔女はおっさんの所に行った。
何を話しているのか気になり近づこうとすると、助手が邪魔する様に話しかけてきた。
「おい、それなら、何でお前は信じなかったんだよ」
「・・・単純に信じられなかっただけです」
どんな世界でも、死んだ生き物は元の形で生き返らない。
失敗した時間は戻せない。
100人中100人全員が同じ考えな訳が無い。
世界も世間も自分を中心に回る事は、天変地異が起きても絶対無い。
俺は、それが現実で常識だと思っている。
そんな事が起きるのは夢物語の中だけ。
俺からしたら非常識で非現実な世界に来てもそれは変わらなかった。
「ふーん。お前、固い頭してるな」
「ここに来て痛感しましたよ」
「・・・・・・・シャル、サトウ。
お父様もお待ちしております。
そろそろ他のスキルを見たいのですか」
「申し訳ありませんルチア様。直ぐに開けさせます」
おっさんとローブ集団の何人かと集まってコソコソしていた魔女が戻ってきて不機嫌そうに言う。
俺が魔女に何を話していたのか聞く前に助手は驚いたフリをして答え、俺を急かす。
今聴けそうに無いし、また後で聞けれたら聞けばいいか。
仕方なく俺は残り2つの項目に意識を集中させた。
まず、追加スキル。
異世界の知識B・・・
異世界の知識を持っている。一般常識レベル
これは学校の授業や日常生活全般で身についたものだろう。
テストでいつも中の中の成績だったから少し期待外れだけど納得出来る。
出来ればAは欲しかったな。
料理A・・・
かなり料理が得意になる。
家事・・・
掃除・洗濯・炊事・買い物等の日常生活に必要な知識があり、それが出来る
節約B・・・
一般に知られる節約の知識がある
我が家は母さんが仕事で常に海外を飛び回ってて、ほぼ父子家庭状態だ。
去年上京した双子の兄貴達は家事がからっきしダメで、その為俺と父さんで交代で家事をこなしていた。
洗濯や掃除は適当な所が在るし、買い物だってセールに来る主婦方に負ける。
けど調理師免許を持ち専門学校では優秀な成績を収めた叔母さんや、その料理を毎日食べているナトに認められる位料理の腕が伸びた自信はあるな。
異世界の農業知識・技術A・・・
異世界の農業のかなりの知識を持ち、それを元に技術が身についている
これは専業農家の父さんの手伝いで身についた事だな。
田植えとか稲刈り、あとは野菜の植え替えとか収穫とか。
父さんのお陰で美味い米と野菜が食べれるけど、田植えと重なる事が多いGWとかは遊べ無くなるから小さい頃は嫌ってたっけ。
今はそれなりに農業に対して興味が出てきたかな。
器用さS・・・
細かい作業が得意になる。達人レベル
集団行動力S・・・
周りに合わせた集団行動が相当得意になる
そこまで器用じゃ無いし、集団行動を好んでる訳じゃないんだけど・・・・・・
この世界の住人からしたら俺はSが付く程器用で集団行動が得意に見えるんだろうか?
身軽さA・・・
かなり身軽に動ける
特殊格闘術C・・・
異世界の格闘術。異世界では柔道と呼ばれている
特殊剣術C・・・
異世界の剣術。異世界では剣道と呼ばれている
水泳B・・・
普通に泳げる
これは・・・・・・体育の授業関係か。
身軽かどうかは分からないけど、体育の成績は他の教科に比べて良い方だった。
その下の3つは、水泳は毎年あるし・・・・・・
そうだ!
中学の体育でダンスと柔道と剣道から2つ選び、数時間ずつやる授業が有ったんだ。
リズム感がまったく無いせいでダンスは論外。
最初から不人気の柔道と渋々2つ目に選んだ奴が多い剣道しか選べなかったんだよ。
その上、ほぼ全てボロ負け。
そんな状態で中学から全くやっていないから柔道も剣道も、この世界では役に立たないだろうな。
想像力SS・・・
頭の中で正確なイメージを浮かべられる想像力がとんでもなく上がる。別名妄想力
『別名妄想力』って・・・・・
想像と妄想って同じ項目で良いのか?
確かに、嫌いな授業を
『この学校に爆弾を設置したとか言ってテログループが乗り込んできて潰れないかな』
とか
『校庭に隕石が降って来て可愛い宇宙人美少女が来ないかな』
とかの現実逃避で乗り切る事はあるけど。
接遇S・・・
接客業務時の客に対する接客の知識・技術がかなりある
フェイスマスク・・・
営業スマイル。
周りと円滑にコミュニケーションをとる為に使う社会人の武器。
スキルが発動している間はけして今の好感度から下がらず、場合によっては自分の本心とは関係なく好感度が上がる。
外見の良い人に限りチャーム効果あり
『接遇S』か。
ナトの家でバイトしていた時は店を改装する直前でやっと人並みに出来る様になったと言われたのにか?
そんな俺がSランクなら間違いなくナトや叔母さんは伝説クラスだな。
そして、スキルにも見た目が重要に成るのかー。
どーせ、俺じゃあチャーム効果は起き無いんでしょうねッ!
納得出来ない所もあるけど追加スキルはこれだけだ。
固有スキルと追加スキルを見ると戦闘面が壊滅的だった。
だけど、製作能力と接客能力は平均以上。
魔女やおっさんの様子を見ていると、俺が無事に帰れる保証は無い。
このスキルを見る限り最悪元の世界に返れなくてもこの世界で生きてく事が出来るだろう。
どこかの店でウェイターや料理人をやったり、鍛冶師や大工になって生活費を稼ぐ事は出来ると思う。
それだけでも解れば、少しだけ安心だな。
最後に付属スキル。
これは・・・・・
「なっ!」
「こんな物が本当にっ!?」
「どの国でもこの様な品は作れなかったのに!?」
「嘘だろ?スキル玉が壊れたのか?」
付属スキルを見た魔女達は言葉を失い、観客の中には、
「この道具が壊れたのでは?」
と、言い出す者がいる程だ。
そう思うのも無理は無い。
そこには、
ジャージ上下
運動能力上昇SSS・・・
凄く動きやすくなる
作業能率上昇SSS・・・
凄く作業しやすくなる
耐久性SS・・・
物理、魔法攻撃からの耐久力が凄く上がる
*この装備のスキルは異世界の者にしか発動しません
スニーカー
運動能力上昇SSS・・・
凄く動きやすくなる
安全性SSS・・・
安全に作業が出来、長時間履いてもそんなに疲れない
耐久性SS・・・
物理、魔法攻撃からの耐久力が凄く上がる
*この装備のスキルは異世界の者にしか発動しません
の文字。
近所のデパートで20%OOFで売られていた大量生産のジャージと、同じデパートで1番安かったスニーカーに今まで見た中で1番良いスキルが付いていたんだ。
その上異世界の者、つまり今の所俺にしかこのスキルは発動しないときた。
これがブランド品やオーダーメイドだったら、もっと凄いスキルが付きそうだ。
スマホもそうだけど、異世界に来たら俺が居た世界の物はとんでもないスキルが付くのか?
「サトウこの装備をどこでっ!!」
「近所のデパート、百貨店で買いました」
「百貨店?
サトウはこの装備を買える程元の世界では地位が高いのですか?」
「いいえ。
それは普通に庶民でも買える値段の大量生産品ですよ。
俺が買った時は新デザインのジャージが売られだしていて値下がりしていました。
靴も同じ店で1番安い品です」
「ワシの所でも扱った事が無い、これ程のスキルが付いた防具が庶民でも買え、大量生産されているはず無いだろう!?
貴様、王の前で嘘をつくきかっ!!」
俺がそう言うと観客の裕福そうに肥えたおっさんが顔を真っ赤にして吠えた。
『ワシの所でも』って言うからには商人なんだろう。
そりゃ、この世界はファンタジーもので良くありがちな中世ヨーロッパ風の世界っぽいし。
まだ俺が居た世界みたいに機械で大量に同じ物を作る技術が普及していないんだと思う。
だからって異世界の技術を全面否定して嘘だと決め付けられたら困る。
「そう言われましても・・・・・・
ファッションに疎いので詳しくは説明出来ませんが、俺の世界では技術が発展し、安定した生産方式が確立しています。
もう少し前の時代なら俺みたいな農家の息子が買えない品でしたし、俺じゃ買えない位これ以上に高いブランド品やオーダーメイドの品もあるんですよ。
それとこの服は防具じゃなくて、作業着や運動着です。
俺もそうですが、人によっては普段着としても着られています」
「なんだと!!」
「俺の世界は魔法やスキルが無い分こう言う技術が進化しています。
日々の研究や品種改良で服以外にも安全で安く質の良い品を大量生産出来る世界なんです」
この世界に比べたら安全だが絶対と言えないのが悲しい所だ。
兎に角、そう言えばようやく商人のおっさんも納得したのか静かになった。
大人しく成る間際、
「チッ、猿共の世界の癖に」
と聞こえたが気にしない。
何と言おうが負け犬の遠吠でしかないんだから。
「少しいいでしょうか。
サトウの世界では皆、この様な物が作れるのですか?」
俺と商人のおっさんの会話が終わるのを見計らい、悩む様に俺達の会話を聞いていた魔女が、商人に声を掛けてから俺に聞いてきた。
「多分、無理だと思います。
どうやって作っているか知りませんが、こう言う大量生産品は専用の精密機器。
え~と、大きくて特殊な道具によって高速で作られています。
手作りで商品として売れる物を作れる人は専門知識と経験がある一部の人だけかと」
「では、その道具の方は造れますか?
もしくは設計図を知っていますか?」
「それも無理です。
やはり、専門家で無いと・・・・・・」
「・・・・・・・・サトウ自身は出来ますか?」
「道具の方は設定図も制作方法も知りません。
服は無理ですけど、エプロンや小袋なら作った事があります。
商品として売るのは不可能な駄作でしたが」
「そう・・・・・・ですか・・・」
この世界に俺達の世界の技術を取り込もうとしたのか、魔女は非常に残念そうな顔をした。
俺達の世界の技術だって長い年月をかけて先人達が努力した結果で生まれたものだ。
この世界の人間だって魔法に頼らなければ、俺達の世界と同じ技術を手に入れられる可能性があると思う。
完成に向けて何世代もかけて研究する気力がこの世界の住人にあればの話だけど。
もしくは、また俺達の世界から人間を連れて来るか。
「お父様、この技術が手に入らないのは非常に残念ですが・・・・・・・・・」
「仕方ない。
先ずはこの猿の魔法を調べるのが先決だ」
だから猿じゃ無いって。
そう言っても聞かないだろうおっさんの指示通り、俺はスキル玉から手を離しもう一つの玉に手を置いた。