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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 マリブサーフ列島国編
497/498

265,黒い試練 5回戦目


 十中八九コラル・リーフで間違いないだろう細長い棍棒を片手に持ったコロナさんと瓜二つな人の石像と、その像の台座を囲う様に飾られた祭壇や松明。

それらが堂々と中心に建った大きな広場を守る様にジャングルの木々に隠れて木造の家々がポツリポツリと建っている。

そんな遠目からじゃ絶対に気づかないだろうし、誰の案内もなく自力で見つけ出すのも困難に近いだろうその場所が目的地のドラク族の村だ。


村の、はずだ。


「えーと・・・・・・

狩りをなさってるって聞いてますが、何時もこの時間は村人全員で出かけてるんですか?」

「いや。居るぞ、サトウ」

「・・・え?」


着いた村には誰も居なかった。

初見で全く人影が見当たらない所は初めクエイさんの故郷であるカラドリウスの村に訪れた時を思い出すけど、此処は大分違う。

生活音やその跡すらないほど静かで、一見すれば木々に覆い尽くされるほど昔に捨てられた様に思えてしまうんだ。

石像や祭壇が綺麗だからまだ誰か残ってるか定期的に手入れしに来てるのだろうと淡い希望を抱かせるだけで、ニャニャさん達が此処が自分達の村だと言わなければ今も生きてる村だとは到底思えなかった。

それ程人の気配が全く感じられなかったんだ。

そう思ってニャニャさんに尋ねた言葉をルグがすぐさま否定する。


「居る、って・・・・・・何処に?」

「周りに。沢山」

「うまーく隠れてるみたいだけどなぁ。

かなりの数の奴等が今にも俺様達を狩り尽くそうと狙ってるぜ?」

「へぇ。良く気づいたね」


危険な旅を続けていても未だに俺はそう言う事に疎いんだろう。

いや、周りの様子的にそう言う次元じゃ無い様だ。

未だに微かな視線どころか生き物が隠れてる小さな音すら聞こえないけど、俺と比べるなんて烏滸がましい程経験豊富なルグが現在進行形でそこに隠れてると言わんばかりに周りに沢山の人が居ると言ってゆっくり周りを指さした。

そしてルグと同じかそれ以上に幾つもの修羅場を潜り抜けて来たザラさんも油断なくモーニングスターを構えてルグの言葉を引き継ぐ。

俺は兎も角、そんな2人以外何だかんだで人の気配に鋭いマシロ達もルグとザラさんがそう言うまで全然気づいて無かったって事は、それだけドラク族の人達が『強い』って事なんだろう。

チラッと見えた近海を巡回していたドラク族の人達の様子的にイメージしていた通りの唯の狩猟民族じゃないってのは分かってたけど、これは予想以上だ。

ルグとザラさんの雰囲気的にかなり遅いんだろうけど、ここにきて漸く俺はこれからどれだけ恐ろしい人達と戦う事になるか理解した。


いや、これでもドラク族の恐ろしさを完全には理解出来てないんだろう。


そう一目で思わせる程誰よりも早く周囲を警戒しだした2人の目は、


「狩られる前にこっちが先に狩ってやる」


と言う獰猛な色が宿っていた。

ナト達と戦ってる時でも中々見せなかった様な色。

そんな最上級の警戒を見せる2人を見てニャニャさんのお母さんの口が弧を描く。


「流石『緑の勇者』候補の仲間。

安心して良いよ!!正式な客人だ!!」

「『緑の勇者』候補を連れて来た!!」

「『緑の勇者』候補!!?」


あぁ、更にクエイさんの故郷の事を思い出すな。

少し斜め上を見て叫んだニャニャさん親子の言葉を聞いて家の影や中、木の上からゾロゾロと老若男女刺青を刻んだ人達が現れる。

それと同時に村が息を吹き返した。


「と言うかロシィイ!!

お前、漸く帰って来たのか!!?」

「あー・・・・・・・・・」

「ロシィイ」

「・・・・・・し・・・心配かけて、悪かった・・・

その・・・・・・ただいま」


心配してたんだぞ!

と言って心底安心した顔で集まって来た同年代位の人達を避ける様に声を漏らして視線を反らしたニャニャさん。

そんな複雑そうな顔のニャニャさんをニャニャさんのお母さんが静かに窘める。

名前だけを呼んだその意味と不安そうに自分を見つめ返答を待つ友達の顔でニャニャさんも本当の意味で帰る覚悟が出来たんだろう。

消え入りそうな小声でそう言った。

そんな小さな声でもニャニャさんの友達にはちゃんと届いたんだろうな。

言い終わるか言い終わらないかの瀬戸際にはもうニャニャさんは友達に囲まれ揉みくちゃにされていた。


「やめろよ!!!」


と言うけど、ニャニャさんの顔に浮かんでるのは照れ臭そうで嬉しそうな笑顔だけだ。


「さて。

聞いた限り君達は本当に『緑の勇者』候補みたいだね」

「その言葉を利用して来てますが、俺達は勇者じゃありません。

大切な人達を助ける為に『蘇生薬』の素材を求めてるだけの唯の冒険者です。

・・・・・・そう、彼等が言ってます」

「へぇ・・・」


俺達が欲しいのはあくまでフェニックスの苔。

『火の実』も勇者の称号も必要ない。

欲しくもない。

そう口にしなくてもその表情から嫌と言う程分かるピコンさん達の思いをハッキリとさっきまでチラチラとジェイクさんの方を見ながらニャニャさんのお母さんと話し込んでいた好意的な笑顔を被るドラク族の男性に伝える。


必要不可欠な物を手に入れる為とは言え一時でも勇者なんかにされるのは不本意って気持ちは俺もそうだ。

でも俺の1番の目的はあくまでナト達を連れ帰る事。

どんなに取り繕うともゾンビにされた人達を助けたいって目的はその次になってしまうんだ。


だから男性に伝えた言葉を俺の物にしたら嘘になってしまう。

今ここでこの男性に『嘘』を言ってはいけない。

自分達が何も口にしていないのにそう自分達が言った事にされたルグやピコンさんがどんな顔をして見てきても、この事に関してだけは『嘘』を言っちゃいけないんだ。

そのゾワゾワと落ち着かなくなる様な作り笑いが原因か、何時もなら嘘を吐いたり誤魔化す所なのに何故かそう今回は逆の事をしろと本能が告げている気がした。

何時も通り理性が納得する様なそれらしい理由を幾ら考えてもしっくりこないし、四郎さんが忠告してくれてるのとは感覚的に、多分、違う。

普段は比較的大人しいはずの俺自身の本能が頭の中の考え全部押さえつけて激しく主張してそう告げているんだ。

自分で言うのもなんだけど、何時もなら信用率が低すぎて従い辛いその本能に反射的に従ったのはきっと正解だったんだろう。

その男性は一瞬目を見開いて心底愉快そうに目を細めた。


「『彼等が』って事は君は違うのかな?

君は本物の『火の実』を手に入れたいとも、本物の勇者になりたいとも思ってるのかな?

それとも、ゾンビにされた人達の事がどうでもいい?」

「いいえ。

俺だってどっちも要りませんし、ゾンビにされた人達だって助けられるなら助けたいです。

ですがそれは俺の1番の目的じゃない。

彼等と俺じゃ此処に居る、此処に来た1番の目的が違う。

彼等の様にただ純粋に大切な人達を助けたいって言う理由で俺はこの場所に来ていない」

「なら君が此処に来た理由は?」

「騙され、利用され、勇者なんかにされて連れさられた従姉妹とクラスメイトを、家族を引っ張ってでも連れ戻す事です。

今はそれが出来るだけの力が無くて、諦めて、見逃して。

アイツの腕をつかみ損ねてばっかりだけど、必ず連れ戻す。

必ず生きてるアイツ等を故郷に連れ帰る。

それが俺の1番の目的です」

「・・・・・・その連れ戻したい相手がその命を対価にしなければいけない程の罪を犯していても、君は生きて彼等を連れ帰るつもりかい?」

「はい」

「罪を償わせる事もせずに?」

「いいえ。

騙され操られていても罪を犯した事は、アイツ等が誰かの命と心に手を掛けた事は変えようがない事実で、それ故に正しく罰せられないといけない事も、許されてはいけない事も、被害者達に仕方ないと受け入れて貰う事を強要出来ない事も、分かっています。

理解はしています。

ですが、同時に、アイツ等が必ずその命でもって償わないといけないとは思っていない。

俺はあの時と変わらず今もアイツ等にはそれだけの情状酌量の余地があると信じています」


何より。

そう声に出そうとして言葉が詰まった。

感情のまま俺は、今、何て言おうとした?

男性との押し問答で多少なりと冷静さを失っていたんだろう。

勢いに乗せて考えもしなかった、いや、無意識にずっと。

それこそ『レジスタンス』のアジトで目覚めて直ぐにルグと言い争った時からずっと、無意識に俺はそう思っていたんだろう。

それがこの世界に来てからの経験で段々形を帯びてきて、きっとバトラーさんとグリシナさん達とのやり取りを直ぐ近くで見聞きして、漸く言葉に出来なかったその思いと考えがハッキリした形を作り出した。

意識してなかったけど俺の中ではちゃんと言葉に出来る程の形になってたんだ。

だから今、その出来上がった言葉が俺の口から飛び出ようとした。

飛び出ようとしたから、漸く俺は無意識下にあったこの本心を自覚出来た。

俺は・・・・・・


「何より?何よりのその続きは?」

「何より、俺は・・・・・・」


話してる間にドンドンその色が濃くなってきて今や完全に歓喜に似た期待に満ちた目に変わった男性にそう促される。

その男性の言動に無理矢理押し出される様に言葉を漏らした俺は、1度目を瞑って深呼吸した。

自覚した本心を頭の中で反芻して、改めて言葉にする。

それを終わらせてから俺は覚悟を決めて舌の上に乗せたその言葉を口の外に出した。


「何より俺は、『死』が最も重い罰だとは思っていない。

寧ろ軽い方だと思ってるんです」


そう言った俺に男性はルグ達の様に驚くでもなく不思議がるでもなく、


「何故そう思うんだい?」


と爆笑したいのを押し殺した様な不敵な笑みを口の端に浮かべるだけだった。


あぁ、なるほど。

そうか。

そう言う事なのか。


その抑えきれない口元の小さな笑みが100点満点の正解だと言ってる様な気がして、俺は漸く自分が今何をしてるのか理解した。

そうか、もう面接は始まっていたんだな。


どうやら俺は本能的に『『緑の勇者』としての正解』を導き出していたらしい。


なら試練を受ける為にもこのまま正解の回答を考えて・・・

いや、ダメだ。

考えたらきっと『不正解』になる。

考え抜いて答えた回答じゃ『正解』には。

コラル・リーフの求めた『サトウ キビ』らしい事は言えない。

正解とか不正解とか余計な事考えず、さっきまでの通り嘘偽りない本心を言えば良い。

今だけは如何にかこの悪癖を抑え込まなきゃな。

そう思って俺は小さく頭を振った。


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