263,黒い試練 3回戦目
シェフの話は本当・・・
いや、聞いてたのよりも厳しくなってないか?
船で聞いた通りレッドバー島の海岸や直ぐ近くの海には大人のイーラディルスに乗ったドラク族の人達が居て、周辺を厳しく監視していた。
俺達はニャニャさん親子のお陰で比較的楽に島に入れたけど、もしニャニャさんに依頼せず来ていたらどうなっていた事か・・・・・・
ニャニャさん達の人柄から噂と違いドラク族の人達が問答無用で襲ってくるとは思ってないけど、漏れ出る雰囲気からきっと命の保証は無かっただろうとも思ってしまう。
その位巡回のドラク族の人達は乗ってるイーラディルスごとピリついてるんだ。
「なーに硬くなってんだい、『緑の勇者』候補君?
お仲間も変な顔してるし・・・」
「いや、その・・・・・・」
「ん?・・・あぁ!
本土の奴等が言ってる噂の事気にしてるのかい?
安心しな!!アンタ等は正式な客人だ。
よほどアンタ等が変な事しなかったらアタシ等は急に襲ったりしないよ!!」
「それは・・・・・・はい。分かりました。
出来るだけ不審がられる様な行動しないよう、気を付けます」
巡回中のドラク族の人達の殺気に似た警戒心に当てられたんだろう。
思わず俺達まで武器に手を伸ばして警戒してしまった。
そんな俺達の様子に不信感を覚えたらしいニャニャさんのお母さんがそう声を掛けてくる。
そんなニャニャさんのお母さんにどう返すか・・・
そう悩んでいた俺の雰囲気で察したんだろう。
そう豪快に笑い飛ばすニャニャのお母さん。
ニャニャさんのお母さんは笑ってるけど、正直俺達の方は笑えない。
無遠慮に無理矢理入ってくる方も入ってくる方で悪いけど、厳つい巨大生物に乗ってよく手入れされた武器片手に不気味なお面を被って巡回する方にも問題あると思う。
こんな姿見たら、『話を一切聞かないこわーい部族が住んでる』って言われても仕方ない様な気がするんだ。
そう思うけど馬鹿正直に言う訳にもいかないし、ドラク族の中も外も知ってるニャニャさんが無言で、
「言っても無駄だ」
と首を横に振ってるから俺は当り障りない事を言うだけに留めた。
「まぁ、今は普段よりも警戒が厳しくなってるのは確かなんだけどね」
「厳しくって・・・何が遭ったか聞いても?」
「数日前に今代の勇者を名乗る奴等が乗り込んで来たんだよ。
その偽勇者の取り巻き達の礼儀が本当なって無くてねぇ」
「身内が大変ご迷惑をお掛けしました!!!
本当に申し訳ございませんッ!!!」
どれだけドラク族の人達に迷惑をかけたんだよ、ナト達は!!
思わず瞬時に土下座する位ニャニャさんのお母さんから抑えようとも抑えられない威圧感が漏れ出てるじゃないか!!!
そう内心泣き叫ぶ俺の心情を知ってか知らずか、ニャニャさんが戸惑った様に声を掛けてくれた。
「身内って・・・・・・」
「多分、青の勇者って呼ばれてた男の子が居ると思うんですけど、そいつが俺の従姉妹なんです。
赤の勇者って呼ばれてる方も同郷の知人ですし・・・」
「あぁ、あの2人。
あの2人、特にアンタの従姉妹の方はまだマシな方だったよ。
真の勇者からはほど遠い、簡単に騙される飾り物の目玉を埋め込んだ都合よく操られた偽物の『勇者』だったけどね」
「そうですか・・・そう、ですか・・・・・・」
ナト達はまだましだと言って貰えて俺はホッと息を吐いた。
一先ずナト達が大惨事を起こしてないって事に対する安心と、微かにでもナト達の現状に気づいてくれた嬉しさで泣きそうだ。
「それより問題だったのは偽勇者達を騙してたあの白髪の女とその取り巻き2人だよ!!
ゾンビにした女子まで連れ立回して・・・
あんな奴等がコラル様が待たれていた真の勇者な訳無いじゃないか!!!
逆よ、逆!その真逆の存在だよ!!!
人数が違うけど間違いなくアレは予言に書かれてた『クグツの半人魚』に決まってるわ!!」
「『クグツの半人魚』?」
クグツって操り人形って意味の『傀儡』の事?
それとも人形を操る方の『傀儡子』の事か?
どっちも『くぐつ』って読むし、音だけじゃどっちか判断できない。
普通に考えれば『くぐつし』や『かいらいし』とも読む『傀儡子』の方じゃなく『傀儡』の方。
操られた人形の事を指していると思うけど、魔女達の現状を思うと人形を操っている人の方を指してる様に思う。
ナト達を騙してルディさん達を薬漬けにした上に魔法を使って操ってる訳だし。
それとも魔女も黒幕に操られた滑稽なマリオネットの1人だと言う事なのか?
それともコラル・リーフの世界の魔女の立場に居た人がそうだったってだけで、魔女達は違う?
・・・・・・・・・うん。
何処まで同じで、何処がIF要素なのか。
それがハッキリしないし予言も全部見せて貰えるか分からない今の状態でこれ以上ここで考えても仕方ないな。
ついつい癖で考え込んじゃうけど。
「あー、えーとだなー・・・
簡単に言うと、『緑の勇者』が現れる前にはまず最初に、『白鳥の王』の配下の『クグツの半人魚』って呼ばれるウンディーネの血を継いだ女とその取り巻きの男達に騙され自分を勇者だと思い込んだ『偽勇者』が現れるんだ。
その『偽勇者』は試練の罠に引っかかって偽の宝を持ち帰る。
その後現れて本物の宝と『蘇生薬』の素材を見事に手に入れるのが正真正銘本物の『緑の勇者』なんだ」
詳しい事は試練をクリアした後に爺ちゃんに聞いてくれ。
と掟に厳しい母親の目を気にしてそう軽く教えてくれるニャニャさん。
つまりブランシス王国国王の部下のウンディーネのハーフの人とその仲間に騙され『勇者』役を押し付けられた人が居た。
その人がまず『火の実』を求めてドラク族の試練を受けてコラル・リーフの用意した『火の宝玉』に続く道に進む。
その後コラル・リーフ世界の本物の勇者だった『緑の勇者』とその仲間が現れて本当の意味で試練をクリアする。
それがコラル・リーフの世界で起きた事。
ニャニャさんのお母さんが『タイミング含め』って言ったのはそう言う事だったんだな。
・・・あ、いや。
今までの情報を顧みるにコラル・リーフが元の世界でも仕掛けを作ってるとは思えない。
と言う事は『偽勇者』は同時代に現れた存在じゃ無くて『緑の勇者』の前の時代の勇者と考えるべき・・・
なのかな?
何の因果かこの世界では同時代にその役割に当てはまる人達が現れたってだけで。
・・・あー、いや、でも、そう決めつけるべきじゃない、のかも?
『初心者洞窟』の仕掛けの事もあるし、コラル・リーフの世界にはコラル・リーフが仕掛ける前からそうい言うのが沢山有ったのかもしれない。
寧ろIF要素でこの世界にコラル・リーフが『召喚』された時、本来あるはずのその仕掛けがこの世界には無かったからコラル・リーフが慌て代わりに造ったって可能性もあるよな?
そう考えると複数の『勇者』が同時代に現れていたと言う説を完全に否定する事も出来ないはずだ。
もし仮にこの世界と同じ様に『偽勇者』と『緑の勇者』が『同時代に現れた存在』とするなら、コラル・リーフの世界の『偽勇者』は『本物』が『召喚』される前に『召喚』されたサンプルの人か、『緑の勇者』を『召喚』した国とは別の国が『召喚』した『勇者になれなかった異世界人』の可能性もある、はず、だよな?
「因みに人数って言うのは?」
「『緑の勇者』の前に6人の『偽勇者』が現れるんだよ。
1番最初が『クグツの半人魚』に騙された『赤』。
その次が『白』で、次が『黄色』。
その次が・・・」
「『紫』。次が『橙』。そして最後が『青』よ。
予言と違って最初と最後の『偽勇者』が同時に現れたのよね」
「なるほど・・・・・・」
これは・・・国と時代、どっちだ?
当時ならまだブランシス王国も滅んでないはずだし、そもそも現在よりも国の数も『召喚』の方法を知ってる国の数も多かったはず。
だから現在は存在しない国含め7つの国がそれぞれ勇者を『召喚』しても可笑しく無いはずだ。
それに対して歴代勇者説。
これもありだろう。
7代目勇者のコラル・リーフが『召喚』された時代と同じ時代のIF世界から来たとしたら、それまでにコラル・リーフの世界でも6人の勇者が『召喚』されてるはずだからな。
と言う事で、これも現状断定できない、と。
取り敢えず何にしてもアドノーさん達に伝えるべき事が増えたのは確かだ。




