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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 マリブサーフ列島国編
494/498

262,黒い試練 2回戦目


「いいか?

この先に進んだら絶対襲われるから覚悟しておけよ?」

「それは・・・・・・」


レッドバー島が微かに見えだした海のど真ん中。

それまで木箱ボートに乗って近くを飛ぶ俺とルグ、マシロとシュガーさん以外の5人を乗せても優雅にかなり速いスピードで泳いでいたブゥが急にそれ以上進まなくなった。

困っている様にも躊躇っている様にも見える態度と弱々しく漏らす鳴き声。

そう言う反応を示すだけで一向に進もうとしない。

そんなブゥの態度を受けてか、覚悟を決めた様な真剣な表情でニャニャさんがそう周りを見回して言った。


「ニャニャさんを連れ戻そうとしてるご家族の方にですか?」

「・・・・・・・・・やっぱ帰りたくねぇええええええ!!!」

「ギャァアアアウゥウウウウウウ!!!」

「正式にボク達の依頼を受けて前払いの報酬の1部もちゃんと受け取ったんだから、諦めてね」

「無慈悲!!!」

「アギャウ!!」


覚悟を決めた様に見えて全然覚悟が出来てなかったらしいニャニャさんとブゥが仲良く泣き叫ぶ。

そんな駄々をこねる様な2人に、笑顔のジェイクさんが容赦のない言葉を浴びせた。

言ってる事は至極真っ当な正論だってのは分かってるけど、せめてもう少しオブラートか八つ橋に包んであげた方が・・・・・・

そう言う前にクエイさんに、


「ここで甘やかしても無駄に時間が経つだけだ。

余計な事言うな」


と瞬時にキッと睨まれすごすご引き下がる。

はい、何でもありません。

遅れない様に大人しく木箱ボートの操作だけしてます。


「なら、せめて、もう少しだけこのまま覚悟決める時間をくれよ~」

「アギュ、アギュ!!」

「良いからサッサと行け」

「絶対駄目って言った!

絶対駄目って言っただろう!!」

「何言ってるか知らねぇけど、サッサと行け」


ニャニャさんの言葉に『そうだ、そうだ!』と同意する様に鳴くブゥごとクエイさんがバッサリ切り捨てる。

そんなクエイさんの冷めた目視線や態度に俺達が通訳しなくても何を言いたいのかある程度察したんだろう。

ニャニャさんが更に泣き叫ぶけど、同じくニャニャさんの言葉が分からないクエイさんには一切伝わらなかった。

まぁ、通訳しても返事は変わらないだろうけど。


「うぅ・・・・・・ブゥ、頑張って進もうな?」

「グキュゥウウウ・・・・・・」


それ程帰りたくないんだろう。

今のニャニャさんにそっくりなシワシワした顔をして、人間だったらトボトボ歩いてる様な速度でブゥは漸く泳ぎ出した。

そんなニャニャさん達に言うのは酷だって分かってるけど、流石に言わない訳にはいかないよな?


「あの、ニャニャさんとブゥ?

前でから猛スピードで誰か来てますけど、このスピードで泳いでいて大丈夫ですか?」

「・・・・・・え?」

「何度もお二人の名前を呼んでいるので、ドラク族の方だと思うんですけど・・・・・・」

「ロォオオオシィイイイイイイ!!!

ブゥウウウウウウ!!!」

「ぎゃぁああああああ!!!

もう来たぁあああああああああ!!!!」

「ギャアアアアアアア!!!」


仁王立ちで猛スピードで海面を走る。

いや、猛スピードで泳ぐ大きな生き物に乗った大柄な人がレッドバー島の方から真っすぐこっちに向かってくる。

グングン近づいて来てハッキリ見えたニャニャさんと同じ刺青だらけの筋肉質でガッシリした姿はオリンピック常連選手の様で男性っぽいけど布でシッカリ隠された胸は潰されていてもそれなりの大きさを持っているし、奇妙で派手な仮面をかぶってるから顔から判断する事も出来ない。

それに物凄い肺活量の持ち主らしく、かなり遠くから続くドップラー効果の影響で声から判断するのも難しそうだ。

かなり近くに来た時に聞こえた声の高さ的には多分女性だとおもうけど、ここまで近づいてもまだ胸筋が物凄い男性の可能性も捨てきれないんだよな。


「このッ!!!バカ息子がぁあああ!!!!」

「イッ!!!」


大きな音を上げ津波を起こしそうな勢いで海から現れた赤い潜水艦の先端がブゥの首に噛みつく。

いや、潜水艦だと思う位大きなそれは巨大なイーラディルスだった。


なるほど。

あの話は本当だったんだな。


と、そのイーラディルスを見て俺は現実逃避の様に内心納得していた。

品種改良で態と大きくされた訳じゃ無いからローズ国のコカトリスよりも当然マリブサーブ列島国のコカトリスの方が小さいんだ。

それでもブゥじゃどんなに口を大きく開けても話に聞いていた様にコカトリスを1口で食べるのは無理だろう。

でもこの海から現れた巨大イーラディルスを見てその意味を漸く理解できた。

この巨大イーラディルスが特別大きいんじゃなくて、その逆。

これが大人のイーラディルスの平均サイズで、ほぼ大人5人背中に余裕で乗せれる位大きくてもブゥは俺が思っていたよりも大分幼い子供だったんだ。

その位出てきたイーラディルスと体格差があるし、鱗や牙の硬さもかなり違う。

このイーラディルスならこのままブゥの首を噛み砕いて丸呑みにしてしまう事も出来ただろうけど、巨大イーラディルスはブゥの首を軽く咥えただけでそれ以上何もしてこなかった。


多分この巨大イーラディルスはブゥのお母さんかお父さんなんだろうな。


子供を運ぶ親猫の様に咥える感じでブゥの首を甘噛みしたまま叱り付ける様に巨大イーラディルスが声を漏らした瞬間、諦めずに逃げる様に慌てて暴れていたブゥが観念した様に弱々しく鳴いて大人しくなった。

それと同時にその巨大イーラディルスに乗って来た人がニャニャさんの脳天をぶん殴る。


「ッテェエエエ!!!

いきなり殴るなよ母ちゃん!!!」

「お黙り、バカ息子共!!

何時までも家に帰らずフラフラして・・・

母ちゃん達がどんだけ心配してたと思うんだい!?」

「心配してくれなんって言ってないッ!!!

オレ達はもう1人前の大人だ!!!

何処で何やってようとオレ達の勝手だろう!!」

「何が一人前だ!!!

成人迎えただけの真面に仕事1つこなせない半人前が生意気言うんじゃないよッ!!!」

「狩りが下手でもちゃんと仕事で来てる!!!

父ちゃん達の手を借りなくても問題なく稼げてるんだッ!!!

今だって依頼で此処に来てるんだからな!!!」

「依頼ぃ?そう言えば、アンタ等誰だい?」

「え、えーと。ニャニャさんに依頼した者です。

はい・・・」


反抗期息子と肝っ玉母ちゃんの壮大な親子喧嘩に巻き込まれない様に全員で木箱ボートに避難して大人しくしていた俺達に、漸くニャニャさんのお母さんが気付いた。

仮面のせいで表情どころか視線すらも分からないけど、その雰囲気から間違いなく怪訝そうな顔をしている。

そんな不信そうな雰囲気を隠そうとしないニャニャさんのお母さんに俺は此処に来た事情を説明した。


「アハハハッ!!!

まさかアンタ等が伝説の『緑の勇者』達だったとはねぇ!!

予想外だよ!!」

「そうとは限りませんが、その予言の中の勇者の話にあやかって来てるのは確かですね」

「それでも構わないさ。

タイミング含めここまで予言の通りなんだ。

アンタ等は確かに試練に挑む資格がある。

まぁ、それを最終的に決めるのは長様だけどね。

ロシぃが連れて来たからってだけじゃないけど、アタシはアンタ等なら資格を得れると思ってるよ」

「ありがとうございます。

それで、えっと、試練、ですか?

それは1000年前の勇者達が受けたって言う火山に入る為の黒いドラゴンと戦う奴の事ですか?」

「へぇ、ちゃんと調べてるんだね。偉い、偉い。

けど、少し違うね。

まぁ、詳しい事は村に着いてからだ。

ロシィイもちゃんと連れ帰らないといけないしね」

「オレとブゥはチビ助達村に案内した速攻戻るから」

「ダメ」

「ヤダッ!!!」


何がツボに入ったのか。

そう話し易い様に巨大イーラディルス、ブゥのお母さんの背中に移ってしたニャニャさんに話したのと同じ範囲の俺達の事情を聴いてニャニャさんのお母さんは爆笑した。

爆笑していてもガッシリニャニャさんを掴んだ手は離さない。

勿論ブゥを咥えるブゥのお母さんも。

ニャニャさんとブゥは依頼が終わったら直ぐ逃げ帰ろうとしてるみたいだけど、多分この様子じゃ無理だろうな。

それだけニャニャさんのお母さん達もニャニャさん達の事を心配してるって事なんだろう。

それが愛息子の将来を押し付け縛る事だとしても。


「取り敢えず、ニャニャさん達は自分の将来についてもう1度ちゃんとご家族と話し合うべきだと思いますよ」

「話し合うぅ?今更話し合ったって・・・・・・」

「ちゃんと話し合うべきです。

それが大切な事なら尚更話し合うべきだ。

何時までこの日常が続くか分かりませんから。

話したいと思った時には、もうちゃんと言葉を交わせないかもしれないんですよ?

逃げるんじゃなくて、話せる内に自分達の意見は納得できるまでぶつけ合うべきです。

じゃないと、後悔する」

「・・・・・・・・・分かった」


文化も常識も異なる他人の家の事情だからどっちが良いとか悪いとかハッキリ言えないけど、ちゃんと話し合って丸く収まってくれれば幸いだ。

何時も通りの何もない日常なんて簡単に壊れちゃうんだからな。

そうなった時に後悔しない様に。

俺達の様にならない様にニャニャさんは家族とちゃんと話し合うべきだ。


そう思ってお節介だと分かっていてもついニャニャさんにそう声を掛けてしまう。

それを聞いてニャニャさんは俺達を1度見回して、少しバツが悪そうに頷いた。


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