261,黒い試練 1回戦目
今日はニャニャさんと約束した日。
少し早めに来てギルド前で待っていると、直ぐにブゥに乗ったニャニャさんが現れた。
「おはようございます、ニャニャさん。
今日はよろしくお願いします」
「ヨッ!おはようさん。
ちゃんとラルーガンの実は見つけられたか?」
「はい。この通り無事採れました。
ニャニャさんの方も依頼は終わりましたか?」
「当然!バッチリ終わらせたさ!」
そう言ってニャニャさんに頼まれた通り、クエイさんに渡したルグが採ってくれたラルーガンの実を見せて貰いつつそうニャニャさんに尋ねる。
ニカッと笑って答えてくれた通り、ニャニャさんの方も問題なくあの時の依頼を終わらせられた様だ。
これなら安心して俺達の依頼に集中して貰えるな。
あの時の嫌がりようから、
「依頼が終わらなかったからやっぱり村に帰るのは無し!!」
とか言われるかもと少し不安だったけど、そう言われずに済みそうで内心ホッとした。
きっとこの数日に間にニャニャさんも帰る覚悟を決めてくれたんだろう。
「で、そいつ等がチビ助共の仲間か?」
「はい。こんなに大人数では迷惑でしたか?」
「いや、そこ等辺は気にしてない。
ただ、予言通りちゃんと8人居るんだなぁって」
そりゃそうだ、態と8人で来たんだから。
ドラク族に伝わるコラル・リーフの予言の『緑の勇者』一行は、十中八九あの動物像と同じ8人って伝わってるだろうと思ったんだ。
だから伝わってる種族と違ってもせめて人数だけでも合わせようと、シュガーさんにも一緒に来て貰った。
それに名前が同じだけで異世界の同一人物じゃない俺が『サトウ キビ』候補になるなら、『佐藤 貴美』のホムンクルスのシュガーさんだって候補になるはず。
と言うかシュガーさんの方が候補として俺より遥かに有力だろう。
色々混ざって改造されてるとは言え基礎の遺伝的にはコラル・リーフが待ち望んでた『佐藤 貴美』なんだから。
「と言うかそこの2人、何かギクシャクしてないか?」
「ア、アハハ・・・
ちょっと、色々ありましたので。
気にしないであげて下さい」
そう言う訳で本当ならグリシナさんと一緒にあの小島に1度戻る予定だったシュガーさんに一緒に来てくれって頼み込んで、シュガーさんもある理由で快く引き受けてくれたんだ。
まぁ、それが原因でニャニャさんが怪訝そうな顔をする位ルグとシュガーさんの間に可笑しな雰囲気が漂ってるんだけど。
そっちもそっちでかなり似ているのかな?
グリシナさん相手でも詳しい事を話してくれないから実際はどうか分からないけど、どうもシュガーさんは最初見間違えてた『スティー』って言う人。
タスクニフジ研究所のメンバーの中にはそんな愛称の人が居ないらしいから、恐らく近くの町に住んでいると思われる親しい人とルグを重ねてる様で、まだルグと一緒にいたいらしい。
多分、そうじゃ無いとシュガーさんの心が保てないんだろうな。
嘘偽りと分かっていても、研究所の仲間よりも信頼を置いていた『スティー』さんが側に居るって安心感が無いと、今のシュガーさんは立つ事も歩く事も出来ないんだ。
だからこそグリシンさんも1人でやるのが大変だって分かっているのに、1人で小島に残した船とかの整理をするって言ってくれたんだと思う。
それかグリシナさんもまだ1人で静かに気持ちの整理をしたかったか。
そんな訳で自分が元々使ってた変化石のイヤリングを渡す位知れば知る程タイプだと分かっていくシュガーさんに、あんな事があった後の精神安定の為の誰かの代わりだと分かっていてもグイグイ迫られルグはタジタジしてるんだ。
今もピッタリ寄り添う様にかなり近くに居るシュガーさんに硬くなってる。
完全にピッタリくっ付かないのは、シュガーさんなりの負い目からかな?
「んー?んんー?
・・・・・・あぁ、そう言う事。お熱いなぁ」
「ちょ!ちがッ!!変な勘違いするな!!!」
「あー、はいはい。青春、青春。
で、因みに聞くけど、この中に医者のカラドリウスと考古学者の悪魔は居る?」
少し勘違い気味に察して『リア充爆発しろ』と目で訴えるニャニャさんに、ルグが慌ててそう叫び返す。
その反応は逆にニャニャさんの勘違いを加速させるだけだと思うけど、本当の事言う訳にもいかないし、折角だからこのまま勘違いして貰う方向で良いかな?
そうルグとシュガーさん、ニャニャさん、ブゥ以外の全員でササッと視線とサインで相談して、俺達もルグに生暖かい視線を送る。
ユマさんは最初から素でそう言う視線を送ってたけど。
そんな俺達の作り出した雰囲気で確信を得たんだろう。
少しの嫉妬心からか雑にルグをあしらったニャニャさんがそう話題を変えた。
「予言通りなら必ずその2人は居ると思うんだけど?」
「ボク達がそうだよ。
今は道具を使って人間に化けてるけどね。
必要だったら元の姿に戻ろうか?」
「いや、いい。
それは長や先代の爺ちゃん達の前でやってくれ」
出来るだけ予言通りにした方が有利に進められるだろう。
と、事前に決めていた通り予言の中に悪魔やカラドリウスの事があると分かって、そうジェイクさんが正直に答えた。
それを聞いてニャニャさんが更に複雑そうな顔で小さく呟く。
「やっぱ、チビ助が『サトウ キビ』なのか・・・
こんなチビ助が『サトウ キビ』・・・・・・」
「あッ。
此方に居るシュガーさんも『サトウ キビ』候補です。
俺が候補になるなら彼女もそうです。
どちらかと言えば彼女の方が候補として有力だと思いますけど、どうでしょう?」
「いや、こんな可愛い子ちゃんの方が無いって。
ただ性別が同じだけじゃん。
まだ冒険者として経験積んでそうなチビ助の方がマシ」
「ごめんなさい・・・・・・
期待通りな姿じゃ無くて・・・・・・」
「え、あ、いや!
嬢ちゃんが悪いんじゃないから!!
オレ達が勝手に屈強で頭も良くて魔法も強い超ハイスペック超人な美女だってイメージしてただけだから!
あの超凄いコラル様を超える真の勇者だって言うからそう言う奴じゃないと納得出来ないって言うか・・・
本当、嬢ちゃんやチビ助が悪い訳じゃ無いから、嬢ちゃんも別に気にすんなよ?」
「そうだぞ。
伝説なんって伝わっていく内に都合よく美化されていくもんなんだ。
予言の中の人物と違っていたからってそんなに落ち込むなよ」
「・・・はい、分かりました。
ありがとうございます。
ス・・・あ、う・・・エド、さんも、ありがとう、ございます」
態と極力動物像に合わせた事が功をなして、ニャニャさんの中では完全に俺達が伝説の『緑の勇者』一行って事になった様だ。
その分村の掟に反発して家出していても変わらない長年の期待と理想を裏切ってしまった訳だけど。
そのせいで他人に配慮出来る様な精神状態じゃなくなってしまったらしいニャニャさんの一言がシュガーさんに突き刺さる。
ニャニャさんには露程にも想像出来なかった事だろうから仕方ないけど、失敗作として捨てられた過去があるシュガーさんにその一言はきつ過ぎるって。
今のシュガーさんの精神状態が状態だけに最悪な方向にミラクヒットしてしまった。
その結果今すぐ自殺しそうな程物凄く落ち込んでしまったシュガーさんを見て詳しい理由は分からなくてもとんでもない失言をしてしまった事だけは分かったニャニャさんがそう慌てて謝る。
それを聞いて。
いや、視線を反らしつつも少しぶっきらぼう気味に慰めたルグの言葉で少しは元気が出たんだろう。
『スティー』さんとルグを重ね過ぎない様に自重したせいでギクシャクとしながらもそう答えシュガーさんはもう気にしてないと言いたげに微笑んだ。
それはそうとして、流石にそのドラク族のイメージはどうかと思う。
そんなチート系主人公な人、異世界とは言え物語の外に存在する訳無いって。
多分それだけコラル・リーフに対する信仰心がドラク族の中で高いんだろう。
やっぱり今からでもコラル・リーフにそっくりらしいコロナさんに来て貰うべきだったかな?
現実的に考えて無理だって分かるけど、『緑の勇者』一行の中にバルログも居たはずだし、コロナさんが居たら物凄くスムーズに事が運ぶ気がする。
まぁ、無い物強請りだって分かってるから今出来る範囲で補正を掛け続けてるんだけど。
ニャニャさんの反応を見るとプラスに働いたその補正が俺達の見た目のせいでゼロに戻った気がする。
いや、マイナス方面に行ってないだけまだましなのかな?
「じゃあ、さっさと依頼書書いて行こうぜ。
嫌な事はサッサと終わらせたいんだ」
「分かりました。それでは・・・」
「任せて。クエイ君、ザラ君。行くよ」
「漸くか」
「了解。5人共ちゃんと大人しく待ってるんだぞー」
「分かってますよ」
シュガーさんの紹介を切っ掛けにお互い改めて自己紹介して、少しの世間話含めそれの通訳徹して。
少し経った所でそう言ってニャニャさんがギルドに入っていく。
それに返事をしつつも俺はその場から動かず、昨日の内に決めた通りクエイさんとジェイクさん、ザラさんに依頼書の事を頼むと言った。
こういう時も適材適所。
大人数で向かってグダグダになるより、慣れた少人数でパパッと決めた方が早いに決まってる。
俺達は言われた通り大人しく待つ事にするよ。




