260,ホムンクルス 後編
「さて。今回は大幅に予想が外れた様だね」
「あぁ、そうだな。
『エネミーズ』とは無関係な事件だった」
「エネミーズ?それってな・・・・・・
あー、件の目的に関わる事なら聞かない方が?」
「出来れば気づかなかったフリで頼むよ。
・・・あ、いや。
これ位は君達も知っておいた方が良いかな?」
そう詳しく聞くなと釘を刺した後バトラーさんが少しだけ教えてくれた事。
何でも最近、『箱庭遺跡』の入り口付近で見たミイラみたいな、
『人間を積極的に襲う自然に生まれ生き続けるには種としても個としても異常な新種の生き物』
が各地で見つかってるらしい。
その通称が『エネミーズ』。
「君達が見つけた求水病の原因の寄生虫。
アレもエネミーズの一種だ」
「アレも!!?アレもなんですか!!?」
「あぁ。製作者が同一なんだろうな。
エネミーズの体には幾つか共通点があるんだよ。
その共通点がその寄生虫からも出たんだ」
「製作者がって・・・・・・
大昔に白悪魔達に作られた未確認のキメラが何らかの理由で表に出て来たって事でしょうか?」
「いいや。残念ながら違う。
つい最近状況を見て随時誰かが作ってる魔物なんだ、エネミーズは」
エネミーズは基本、ある日何の前触れもなくとある場所にポンと現れる。
その『とある場所』って言うのが、ナト達がその時居る場所の近くらしい。
だから殆どの場合ナト達が倒してるんだとか。
そして、
「この事件は『勇者』の手によって無事解決した」
と言わんばかりに、ナト達が倒し終わるともうそのエネミーズは現れない。
頑なに現実逃避してる人じゃ無ければ、ここまで言えば皆まで言わなくても分かるだろう。
まるでナト達が現れたタイミングで、ナト達を『活躍させる為』に、誰かが意図的に『人間を襲う為だけ』に作ったかの様な生き物達が現れる。
それと同時に流行り出した『勇者』を持ち上げる様な噂と、船の中で聞いた様なユマさん達を悪く言う様な噂。
ぜっっっっっったい!!!
魔女や黒幕達が関わってるだろう!!
「その調査をバトラーさん達はしてるんですね。
犯人の目星は?」
「全然」
あ、嘘だ。
悩む事なく告げられたその一言に俺の直感がそう告げる。
なるほど。
コレが俺達に言う事の出来ない1番の情報って事か。
バトラーさん達は知ってるんだ、誰がエネミーズを作ったのかを。
バトラーさん達の知り合いか、それともこの世界で有名な犯罪者か。
いや、色んな事情で表向きに動けない各国の王様達の代わりに冒険者として動くバトラーさん達がエネミーズを追ってるって事は、つまり・・・・・・
つまり、そう言う、事、なんだよな?
それって・・・・・・
・・・あぁ、いや、ダメだ。
これ以上考えるのは止めておこう。
バトラーさんよりも鋭い光を宿すミモザさんの目を見るに、なんにしても俺達はこれ以上率先して関わるべきじゃ無いのは確かだ。
ナト達を追いかけてる以上、エネミーズとは否応無くともまた関わりそうだけど。
「サトウ君達が求水病を解決してくれたからね。
勇者達を活躍させれなかった以上、新たなエネミーズが現れるかもしれない」
「・・・・・・確かにそうですけど、そんな事あり得るんですか?
犯人の魔法的に。
『生命創造』かそれに近い魔法を使ってエネミーズを作ってるなら、1度に何度もエネミーズを作るのは不可能では?」
「確かに『生命創造』は強力過ぎる魔法だ。
それ故に連続で使う事が不可能って言われてるし、実際歴代ジャックター国王達もそうだった。
けどなぁ、お前等も知ってるだろう?
どんなモノにも抜け道ってもんはあるんだよ」
「・・・あぁ、なるほど。
犯人は魔法道具や強化系の魔法を使って底上げしてるかもしれないんですね」
「・・・・・・そう言う事だ」
今までの魔女達の行動を思い返せばありえそうだ。
でも、そんなにポンポコエネミーズを生み出せるものなんだろうか?
ユマさんも寝ぼけて何か生き物を生み出してしまった時、1体生み出した後は暫くの間そう言う事故を起こす事が無かった。
最高ランクの『制御』の魔法陣を刻まれても強過ぎるって言われるユマさんでもそれだけのクールタイムが必要なのに、それより弱いだろう生き残った白悪魔達や他の『生命創造』を持ってる人がそう直ぐにエネミーズを生み出せるとは思えない。
さっきまでのマシロの様子を思い出せば尚更だ。
まぁ、グリシナさん達の事もあるし、クローンの様に科学的に作ってるって言うなら別なんだろうけど。
そう思って聞いたらミモザさんにルディさんのバイオリンや魔女の歌、高橋が持ってるレーヤの刀を補助をしていた魔法道具の様な物があると遠回しに言われた。
いや、ミモザさんの視線の動きや微かな間の置き方的に本当はそれ以外の『秘密のナニカ』が有るのかもしれない。
でもそれはグリーンス国かアンジュ大陸の秘中の秘か、犯人の正体をハッキリ示すもので、この場で言う事が出来ないんだろう。
そう思ってそれに気づかないフリをした。
「と言う事で、僕達にはそんなに時間が無いんだ。
彼女達がエネミーズじゃ無いと分かった以上、僕達はこれで帰るよ。
暫く彼女達の事を頼んだ」
「え、あ、はい。分かりました」
今までの独自調査の結果と、クエイさんの診察結果。
それに加え今の話し合いで確信を得たんだろう。
最終的にグリース国に行くとしても暫くは掛かるだろう機密情報満載なエネミーズの調査に病み上がりの赤の他人を連れ回せないし、何よりあんな登場の仕方をしてしまったからグリシナさんからの第一印象が俺達よりも良くなさそうだし。
それに、仲間が亡くなって、自分も異常な形で死にかけて。
その後目覚めて直ぐあんな事言われたんだ。
グリシナさん自身も落ち着いて考え直す時間を欲してるはず。
だからこそこのままグリシナさん達の事を俺達に任せるとバトラーさんは言って出て行ったんだ。
それにロアさんやマキリさんも続いていく。
そして最後に、
「罪悪感とか抜きに本当にお前がどうしたいか、また改めて聞きに来る。
今日は何も考えずゆっくり休め」
と、個人的には良い返事を期待してるとグリシナさんに声を掛けたミモザさんも出ていく。
その間ずっと暫く前から変わる事無く無言で俯いてるグリシナさんは、結局1度も顔を上げる事は無かった。
「あー・・・・・・グリシナさん?
俺達も夕飯食べに少し外に出てます」
「・・・待って」
バトラーさん達が出て行った部屋の中にはグリシナさんを中心に重い空気が漂っている。
その空気は誰構わず一切を拒否してる様に感じた。
多分、1人になりたいと無言で訴えてるんだろう。
そう思って時間も時間だからと出て行こうとしたら、返事もしたくないだろうと思っていた当のグリシナさんに呼び止められた。
「最後に2つだけ、行く前に教えてください」
「え?えーと・・・はい。何でしょうか?」
「・・・・・・・・・」
そんなに聞きずらい質問なんだろうか?
教えてくれと言う割にグリシナさんは相変わらず両手で掛け布団の端を強く握って俯くだけで何も話さない。
そんなグリシナさんの次の言葉を根気よく待ってどの位経っただろう?
かなりの時間が経ったと思う程重い沈黙を漸く震えるグリシナさんの声が破った。
「・・・佐藤さん、貴方は・・・・・・
貴方は、違うんですね。
貴方は、僕達を追いかけて来た、新しく生まれた僕達の兄弟じゃないんですね」
「はい・・・」
漸く顔を上げた泣きそうなグリシナさんの言葉に、俺は小さく頷く事しか出来なかった。
Dr.ネイビーはとっくの昔に亡くなってるのに、1000年近く経った今でもキール氷河では新しくホムンクルス達が生まれているらしい。
「オリジナルのDr.ネイビーが死んでもホムンクルスを作り続けるシステムが出来上がってるんだ」
とは『タスクニ所長』の談。
詳しい事を聞こうとしてもはぐらかされるし、自分達が実際何処で生まれ、何処で拾われたかも教えて貰えないからグリシナさんはそれ以上の事を知らないらしい。
それでもろくでもない物が残されたって事だけは分かる。
「貴方は、貴方が、あの人が本当に求めていた僕達のオリジナル。
『佐藤 四郎』さんなんですね」
「いいえ、違います。俺はその異世界の同一人物。
Dr.ネイビー達とは直接の血のつながりが無い、他人の空似です」
「そう、そうですか・・・・・・」
「ですが、アナタ達を作ったDr.ネイビーの実弟である四郎さんは、今、幽霊になって俺に取り憑いています。
見えないでしょうけど、彼は確かに此処に居ます」
「ッ・・・」
一種のコピーとしてオリジナルの存在に複雑な思いを抱いてるんだろう。
俺が四郎さんそのものじゃないって聞いてホッと力を抜いたグリシナさん。
でもグリシナさんは俺の次の言葉でまた体を強張らせてしまった。
「四郎さんと話す事も出来ますが、どうしますか?」
「・・・・・・、・・・・・・・・・いいえ。
今は、まだ、良いです。
まだ・・・
まだ、彼と話す覚悟も気持ちの整理も出来ていませんから」
「分かりました」
そうグリシナさんに断られ俺はヒッソリと息を吐いた。
相当ショックだったんだろう。
あぁ言ったは良いものの、ホムンクルスの事を知ってから、
『暫く放って置いて』
のメール以降一切四郎さんからの反応が無いんだ。
俺本来の姿じゃなく四郎さんの姿で見えてるから俺の側かスマホの中に居るのは確かだと思うんだけど・・・・・・
この様子だと多分、四郎さんの方も暫くまともに会話出来ないだろうな。
「それで・・・
もう1つの方なんですけど・・・・・・」
「はい」
「こ・・・・・・・・・」
「こ?」
「こ、この姿での・・・お、お手洗い・・・・・・
どう、すれば、いいんでしょう?」
「・・・え?・・・あー、えーと・・・・・・」
顔を真っ赤にしてプルプル震えながら段々小さくなるギリギリ聞こえる声でそう尋ねるグリシナさん。
そ、そうだよな。
急に姿が物凄く変わったんだから、日常生活にも支障があるよな。
えーと、どうしよう?
「あ、そうだ。変化石。
エドかマシロ、グリシナさん達に渡せる変化石持ってない?
人間に変身出来ればそこ等辺も解決すると思うんだけど・・・・・・
何なら急いで追いかけてミモザさんが持ってないか聞いてくる」
「ちょっと待ってろ。
アルから変化石送って貰うから」
「我儘だってのは分かってるんですが・・・
その・・・
出来れば人間の男性に変身出来る物をお願いします。
元々僕、男だったので、女性しかいないアラクネに合わせるのはちょっと・・・
いや、かなり困ります・・・・・・」
「大丈夫!
そこは私がある程度調整するから、その姿になる前の姿に近い姿に変身出来ると思うよ」
「本当ですか!!お願いします!!!」
色んな感情から浮き出た涙を浮かべ、グリシナさんそう嬉しそうにマシロに頭を下げる。
もう2度と元の姿に戻れないと思っていた様だし、そうなっても仕方ないよな。
取り敢えず俺はグリシナさんの着替えを『クリエイト』で作って置こう。
あの頃ってどの位のサイズ使ってったっけ?
『悪いな。
アジトの方も探したけど、こっちには1個しか無かった。
急ぎならこっちからネイに連絡しようか?』
「あー、大丈夫。
1人はまだ起きそうにないし、こっちで他当たるから」
『分かった』
『レジスタンス』アジト含め、魔法道具屋には変化石が1個しか無かった様だ。
そうその見つかった1個を送りつつバツが悪そうに言うアルさんにルグは気にして無いと言った。
その本当に気にしてない様子から、その『他』の当てが既にあるんだろう。
もしかしたら『エド』の演技の為に素直に渡せないだけでルグ自身が幾つか変化石を持ってるのかもしれない。
ルグと1番相性が良いのは変化石な訳だし。




