48,跳ねかえる巨大クロッグ 5匹目
慌ててルグとユマさんを追いかけると、2人はホテルを出て少し離れた道の隅で何やら真剣な表情で話込んでいた。
止まった2人。
何というか、うん。
声、掛け辛いな。
「あ、サトウ君。ごめんね!!
置いて行っちゃったみたいで・・・・・・」
「いや、気にしなくて良いよ。
何かヤバイ事起きてるみたいだし」
「うん・・・・・・
大・大・大ッ問題が起きてるよ・・・・・・」
ちょっと途方に暮れていた俺に気づいた2人が慌てて謝ってくる。
そんな2人に、
「あんな表情する様な問題が起きているんだから仕方ないし、気にしていない」
と伝えると、ユマさんは酷い頭痛が起きているかの様に片手で頭を揉む様に押さえながら呟いた。
ルグは外国の映画のワンシーンみたいに今にも、
『Oh,My Gad!!!』
と叫びそうな雰囲気で空を仰いでいる。
そのまま呻く様に呟かれたその言葉。
「エスメラルダ研究所にある魔道書。
あれの1冊は、30年位前にグリーンス国から盗まれた魔道書なんだよ。
他の3冊もヒヅル国、マリブサーフ列島国、チボリ国から同時期に盗まれたモンだしな・・・」
「ふぁ!?」
それに思わず俺は変な大声を出してしまった。
「え!?それって・・・・・・
いや、それ以前に研究所にあるのが似たデザインの別の魔道書の可能性は!?」
「内容が盗まれた魔道書と同じなんだよ、サトウ君。
この世界には『孵化から産卵までのサイクルを操作する魔法道具』。
つまり生物の進化や成長を操作したり改造したりする魔法道具の設計図が描かれた魔道書なんて世界で1シリーズ。
盗まれた4冊の魔道書以外無いんだよ」
「も、もしかしたら、その本のコピー本と言うかレプリカかも知れないだろ?」
有名な物の贋作って良く有るだろ?
そう思ってたらルグが静かに首を横に振った。
「その魔道書は誰か、悪意を持った者に知られる訳にはいかないから、写本を作る事も禁止されている。
そもそもその魔道書の存在自体、各国の王族やその家族、信用出来る側近位しか知らない物なんだ。
だから何冊も同じ魔道書が存在するはずないんだよ。
それに内容は兎も角、同じ表紙の魔道書は今のこの世界の技術じゃ再現不可能なんだ!!」
「じゃ、じゃあ・・・本当に盗難品?
『前所長が研究所を建設する時にローズ国王から渡された』って事は盗んだのはおっさん?
国際問題、と言うか最悪戦争が起きるんじゃ・・・」
いや、そもそもおっさん達はアンジュ大陸国に戦争を仕掛ける為に。
と言うか、魔王を暗殺する為に勇者を『召喚』しようとしてるんだよな。
戦争は覚悟の上か。
「それは勿論だけど、それより魔道書を使った事の方が問題なんだよ」
「使った事が?
確かに、生き物の成長を操作するってのは凄いけど、何かこう・・・・・・
不老長寿とかそうゆうのを実現させようとしたんだろ?
『魔道書の存在自体、各国の王族やその家族、信用できる側近位しか知らない』事で、『写本を作る事も禁止されている』程、そこまで危険な物なのか?」
進化や成長って言うと件の巨大クロッグや犬や猫、野菜や米の様に人間に都合の良い様、改良するって事だよな?
成長って言うのも、ずっと若いままとか直ぐに大人になるとか。
凄いとは思うけど、『危険』ってイメージが浮かばない。
「うん。
盗まれた魔道書は各国で使用を禁止して厳重に封印されていた危険な物なんだよ。
勿論ずっと若いままで居られる魔法道具も書かれてたかも知れない。
でもそれは、サトウ君が言ってた『研究で出来た副産物』に過ぎないんだ。
その魔道書の真の目的は違う」
「品種改良や不老長寿が副産物!?
いったいその魔道書って・・・・・・」
今ある物よりもっと良い物を得る為の手段の1つである品種改良。
いつまでも若く健康な体で長く生きたいという人間誰しも持つ願望、不老長寿。
どっちも人が求め続け、研究され続けるものだ。
それが副産物だっていうその魔道書の真の目的っていったい・・・・・・
まさか、不老不死とか?
でも、永遠に死ねないって逆に苦痛じゃないのか?
住んでる星が消滅して宇宙に放り出されても、俺の前に呼ばれたサンプル達の様になっても生きてるって事なんだから。
そう、無い頭を捻ってウンウン唸る俺を見かねてか、ルグが答えを教えてくれた。
「その魔道書は魔法道具の設計図が書かれているから『魔道書』って言われてるけど正確には違う。
Dr.ネイビーって言う1000年前の勇者が居た時代に現れた危険人物が書いた、ユマの『生命創造』を魔法道具で再現しようとした、その研究記録書。
4冊の内どれか1冊に書かれた『完成品』の魔法道具はユマの『生命創造』と変わらない。
いや、それ以上の力を持つ物だ。
それ以外の『失敗作』が書かれた3冊もDr.ネイビーにとっては失敗作でも作られればこの世界の生態系が崩れる威力を持ってるんだ!!」
「確かにそれは・・・・・・・・・」
うん、危険だな。
『失敗作でも作られればこの世界の生態系が崩れる威力』って相当だぞ。
使用禁止になって厳重に封印されたのも頷ける程危険な物だな。
「そもそも、Dr.ネイビーって奴はそんなモン作ろうと思ったんだ?
魔王に成りたいとか、超えたいとか、世界征服したいっていう願望でもあったのか?
それとも、新しい生き物を作り出して有名になりたかったのか?」
「多分、死んでしまった誰かを取り戻したかったんじゃないかな?
確か・・・・・・・・・
『ラディッシュ』って人を取り戻すの為に研究してたって話しを聞いた事あるから。
・・・・・・・・・『生命創造』じゃ死んだ人は生き返らないのにね。
どんなに頑張っても、願っても、『生命創造』で産まれるのは見た目がそっくりな別の生き物だよ」
「ユマさん・・・・・・・・・」
そう言えばユマさんの両親は・・・・・・・・・
「ちょっと、2人共そんな顔しないでよ!
今は魔道書の事!
その1歩間違えば世界が終わる危険な内容から魔道書は、Dr.ネイビーの研究所があるローズ国以外の国でそれぞれ1冊ずつ封印される事になったんだ」
「Dr.ネイビーの研究所はその研究内容から迂闊に解体出来ないから、今もこの国の何処かにあって国が管理しているはずなんだ。
それなのに魔道書が盗まれてDr.ネイビーの研究所がある国に揃っている上に、その魔道書に書かれた魔法道具が再現されている。
それを指示したのは研究所を管理していてその危険性を良く知っているはずの国の王様」
「その事で魔道所を管理していた各国とローズ国で話し合うだろうけど、グリーンス国王は・・・・・・」
ユマさんがこの国に飛ばされた事故のせいでヒヅル国で治療中と。
そこまで分かって2人は更に暗い顔をした。
「うん。だから、多分会議には出れない。
こう言う重要な会議で代理を立てるとなると、ジャックター国王が書いた書類が必要なんだ。
ジャックター国王が認めた正式な代理人だって言う身分証明が」
「でも書くのに必要な道具はヒヅル国に置いて来ちゃったから書けないんだよ。
唯でさえ私みたいな『人生の4分の1も生きてない小娘が国を継いだ』って他の国から舐められてるのに・・・」
ユマさんはそこで一旦言葉を止めると大きく息を吐き、遠くの空を見ながら続きの言葉を投げ捨てた。
「ヒヅル国、マリブサーフ列島国、チボリ国の3国が魔道書回収の為に既に動いていて、なのに私達が何もしていないと
『小娘を王にする様な国など恐れるに足りない』
って国の評価まで下げる事になるんだよ」
繋ぎの王様と言えど、ユマさんは父親から託された国の評価を落としたくないんだな。
いや、『繋ぎ』だからこそ・・・か。
確かにそれは真剣な表情にもなるだろう。
ルグも幼馴染としてそんなユマさんを見てきてるから、ユマさんのその心情が解る様だ。
 




