表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 マリブサーフ列島国編
487/498

255,そっくりさん 前編


「じゃあ、ラルーガンの実、貰ってくな」

「ニィアー」

「ニルルルゥ!!ニルルルゥウウ!!!」

「ッ!ニルルルー!!!」


天然のラルーガンの実も無事手に入れられたし、問題なく『ミドリの手』でラルーガンの実を出せるようにもなった。

何時までも此処に居るのも危険だからと、空になったビニールプールやお皿を片付けて帰ろうとした瞬間。

分かったと言う様な鳴き声を上げた島ワタリとは別の島ワタリが警告音の様な今までで1番甲高い鳴き声を上げ飛び上がった。

その鳴き声が島ワタリ達の間を伝染する。


「な、なんだ!!?」

「ッ!!サトウッ!!!急いで飛べ!!!」

「え?」

「あの花の匂いがッ!

船を襲った奴が近づいている!!!」

「ッ!『フライ』!!!」


急にバサバサと一斉に飛び去って巣の真上で鳴きながら飛び回る島ワタリ達。

その、


「危険が迫ってる!!

警戒を怠るな!!

巣に敵を近づけるな!!!」


と言ってそうな島ワタリ達の態度に、俺は唖然と島ワタリ達の事を見る事しか出来なかった。

そんな俺の耳にルグの焦った様な鋭い指示の声が届く。

その理由が理解出来ず固まる俺に更なるルグの声が続いて、四郎さんが助けてくれたんだろう。

ルグが『あの花』って言った時には俺の手はカバンからレジャーシートを出していて、ルグが言い終わる頃には呪文を唱えていた。


「ヒ・・・ト・・・?襲われた人の方?」


少し高いさっきまで居た場所の上空に逃げて暫く。

俺でも分かる位藤の花の様な香りが濃くなった頃、俺達が来た方とは別の方角に広がる森からナニカが現れた。

ポタポタと絶え間なく体から垂れる黒い液体を引きずる様にグネグネフラフラ歩いてくるソレ。

多分、あの黒い液体を頭から大量に被ったんだろう。

更にゆっくりゆっくり歩みを進め近づいて来て分かったソレは、カラスの様に上から下まで真黒な服を着た人だった。


「私達の声を聞いて助けを求めに来たの?」

「多分?降りて確か


「ダメだ!」


シャワーを浴びてる時に襲われた人なのかな?

近くに有って適当に掴んだ他の人の服を着てるのか、その人はそう言うファッションだとは思えない程の手や足が一切見えない位袖や裾が長いブカブカ過ぎる服を着ていた。

それにフードも深くまで被ってるから此処からじゃどんな人か一切分からない。


勿論、怪我をしてるかどうかも。


唯一分かる事はどちらかと言えば小柄な方だって事位だろう。

さっきまで居た側の木と比べた感じ、マシロと同じか少し高い位。

間違いなく俺よりは背が低い。

それにブカブカ過ぎる服を着てるから華奢に見えて、その人の素顔すら見えてないのにその人がマシロと同じ位の女の子に思えてしまったんだ。

だからだろう。

自然と薄れた警戒心のまま近づこうと言おうとしたら、直ぐ様ルグの鋭い制止の声が静かに響いた。


「マシロ、サトウ。油断するな。

まだそうだと決まった訳じゃ無い」

「え?」

「明らかに人間の動きじゃない。

手や足の骨を折る様な大怪我をしていてもあんな風に動かないはず。

いや、あんな風にしか歩けない状態の怪我を負ってるならそもそも自分の足で歩けないはずだ」


警戒し続けるルグのその硬い声を聞いて息がつまる。

言われて見れば確かに力なく歩いてるにしてはグニャグニャし過ぎている。

まるでうまく動かせてないマリオネットか初期段階の二足歩行ロボットの様な、人間じゃないナニカが人間の真似して歩いてる様な不自然な動き。

普通の人間がパントマイムやダンスの練習に態とやってるんじゃないのにあんな風に歩くなら、全身複雑骨折でもしてないとあんな歩き方にならないだろう。


「そう言う祭りがマリブサーフ列島国にはある」


って言われたらそれまでだけど、常識的に考えればあんな状態のままこんな所でパントマイムやダンスの練習なんてする訳無いし、全身複雑骨折なんてしてたらルグの言う通り此処まで来れないはず。

そう考えると確かに可笑しい。

でも、それは『人間なら』って事が前提の話だ。

もしあの人が人間じゃ無かったら?


「船を襲った奴が船の奴等や今まで襲ってきた奴等から奪った服を使って擬態してるかもしれないからな。

絶対に近づくなよ?」

「でも、あの人が『人間』だとは限らないだろう?

魔族の可能性は?」

「確かにアルラウネとかだったらあんな風に歩いても可笑しくないよね?

変化石もなく此処まで来れるか分からないけど」

「襲われた時に壊れたり無くした可能性は?」

「あるかも」


あの人があの船に乗って来た人かどうかも分からないし、俺が残りの矢野高校生やDr.ネイビーの子孫だと思ってるだけでそもそも本当に乗って来たのがそうかかも分からないし、あの人が人間かどうかも此処からじゃ判断出来ない。

それに船の造りが人型用でもルグみたいに普段は常に変化石を使って人間に変身してたら可笑しくないし。

襲われたとしたら今本来の魔族の姿をしてしるのも可笑しくないはず。

だからルグが言う様に船を襲った動物や魔物が擬態してる可能性も完全に否定出来ないけど、あの人がルグの様な二足歩行の動物系の魔族の可能性も否定出来ないんだよ。

そう思って尋ねたらマシロにあり得ると言って貰えた。


「だから襲撃者とは決めつけるなって?」

「警戒する事に越した事はないけどね」

「分かった。迂闊に近づくなよ?」

「了解。警戒しつつ確かめるよ」


目を細めて尋ねるルグに頷き返しながら、


『絶対近づくなは言い過ぎだ』


とそれとなく言えば、そうさっきの言葉を訂正した。

そんなルグの考えを自分なりに汲み取り、


『警戒は怠らないけど助けが必要な人かどうか確認したい』


と言いゆっくりその人に近づく。


「あッ!だ、大丈夫ですか!!?」

「おい、サトウ!!」


遂に力尽きたかの様に突然パタリとうつ伏せ気味に倒れたその人。

その姿を見て俺は慌てて周囲の安全を確認しレジャーシートを降ろし、声を掛けながらその人に近づいた。

いや、近づこうとした。

その前にルグに痛い位腕を掴まれそれ以上近づく事が出来なかったんだ。


「何やってんだッ!!!

そいつ、どう見てもマンイーターだろう!!

それ以上近づくなッ!!!」

「え?」


倒れた瞬間開けたんだろう。

脱げたフードや服の隙間から見るにその人は俺達と同い年位の女性みたいだ。

ただ、俺と同じ様な体が植物に変わる病気を患っているのか、それともそう言う種族なのか。

いや、フラフラと倒れた所を見るに、多分病気なんだろう。


その人の体からは花なり病の症状とは違う感じで植物が生えていた。


特に植物が多いのは左腕で、左腕が丸ごと絡まった蔓草に変わってしまっている。

そんな状態の苦し気に短く息を吐く女性の顔を見た瞬間。

警戒しなきゃって考えと思いとは裏腹に、その人を絶対に助けなきゃいけないって衝動に体が支配された。

間違いなくまた四郎さんが俺の体を支配してる。

そして案の定、俺自身が出来る事はただ考える事だけ。

本当にその女性が安全な人かどうかも分からないのに近づきたくないって思いを裏切り、体がドンドンその女性に走り寄っていく。

でもルグが止めてくれた。

その事にホッとする俺とは正反対に、四郎さんは怒りと困惑、焦りに支配されてる様だ。


「どうして!?何で!?」


と言う掴まれた腕以上に痛いその悲痛な四郎さんの思いが脳を占拠していって、自然と涙が目に溜まり出して。

その状態のままルグを見れば、俺の腕を掴んだ勢いのまま返ってくる言葉。

その言葉に涙が引っ込んだ。


「いや、あの人、マンイーターじゃないよ。

人間かどうかは分からないし似た種族の生き物かどうかも分からないけど、エドの目の色が変わって無いから少なくとも『財宝の巣』で見たマンイーターと同種じゃ無いのは確か」

「うん。私もキビ君と同意見。

エド君も顔色とか態度とか見るにマンイーターの『魅了』に掛かった様な感覚ないでしょ?

アレ、アドノーさん達が調べてくれた話だと、今の所悪魔や鬼の血を引いている人以外完全な耐性つけれないらしいの。

なのにこんな近くに居る今、そのどっちの血も引いて無いエド君が『魅了』されてないなら、あの人はマンイーターじゃないよ」


俺達が依頼を終えた後、ジンさん指揮の元本格的に『財宝の巣』の調査が行われ始めた。

それに引き続きロホホラ村の博物館の職員さん達も協力していて、依頼の報酬のサンゴ王妃ことコラル・リーフの調査の進捗報告ついでにそこ等辺の事も教えてくれてる。

その職員さんやチボリ国兵さん達からの情報によると、マンイーターの本当の姿を知っていてもマンイーターの『魅了』を努力と気合だけで完全に防ぐ事は出来ないそうだ。


現段階だと有効な魔法や魔法道具の発見、開発も出来てなくて、遺伝以外の対抗手段がない。


でも、連れ去られた人間からマンイーターに進化する途中の生き物が居たんだろうか?

調査を続けた結果、コラル・リーフが居た3000年前には既にマンイーターの様な生き物が居たらしい事が分かった。

それなのに何故バルログと人間の血しか引いて無いと思われるコラル・リーフは無事だったのか?

その当時は進化途中で『魅了』の魔法が今より強く無かった可能性もあるけど、緑化ランプの事とかを考えればコラル・リーフがマンイーター対策の魔法道具を持っていた可能性が高い。


と言うのが最新のアドノーさん情報。

そのアドノーさんから聞いた話を思い出したマシロがそう俺の意見を補足する。


「え?」

「え?・・・・・・あぁ、そう言う」

「あ!なるほどねー。コロナちゃーん!!!」

「やめろ、マシロォオオオオオオ!!!」


なるほど、そう言う事か。

目の色の事とかアドノーさん達からの情報とか。

そう言うのが無くてもどっからどう見ても明らかにその女性がマンイーターじゃ無いと分かるのに、俺とマシロが言った否定の言葉を聞いてルグは心底信じられないと言った表情を浮かべ固まった。

何でそこまでルグが女性をマンイーターだと強く思い込んだのか。

なるほど、なるほど。

ルグはこう言う人がタイプなんだな。

いや、きっと、魔法に掛かった様な感覚が無くてもまたマンイーターの『魅了』に掛かったと思い込む位、あの女性が好みドンピシャだったんだ。

それに同じく気づいたマシロの行動は早い、早い。

ハッとして、目をキラッとさせて。

墓穴を掘ったと気づいたルグが行動に移す前にルグの鞄から抜き取った通信鏡を使いコロナさんにもその事を伝えよとしていた。

恋愛事に興味があるのは良く分かったけどね、マシロ。

今は人命を優先させよう?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ