254,ラルーガンと島ワタリ 11株目
「えーと・・・飲む?」
そうスポーツドリンクを飲みながら休んでいたら、ポカンと口を開けた1羽の島ワタリが近くに寄って来た。
俺でもギリギリ目視出来る位巣が近いし、多分俺達が変な事しないか監視に来たんだろうな。
そう思ってたけど、どうも違うらしい。
口を開けたまま不思議そうにクルクル小さく傾げられるその視線は俺達じゃ無く、俺達が持つコップに向いている。
そう言えば鳥って暑過ぎるとワニの様に口を開けて体温調節するんだっけ。
ずっと口を開けてるって事はそれだけ暑いって思ってるって事で、その分この島ワタリも喉が渇いてるって事だよな?
そう思って声を掛けながら『クリエイト』で少し浅めのボウルを出してスポーツドリンクを注いで島ワタリの近くに置く。
「アハハ!良かったな、サトウ。
島ワタリにも気に入られたみたいだぜ!」
「そう?
ずっと口開けてたし、単純にそれだけ喉が渇いてただけだと思うけど?」
「違うよ。
ちゃんと島ワタリも美味しいって思ってるって。
その証拠に、ほら。
美味しいよ、一緒に飲もう。
って仲間を呼んでる」
鳩や文鳥なんかの一部を抜かして基本鳥はストローを使うみたいにチューチュー吸う事が出来ないらしい。
勿論コップに口を付けるみたいにゴクゴク飲む事も出来ないから、鳥が水を飲む時は地面に降り立ってヘドバンみたいな動きをして飲むそうだ。
燕の仲間は飛びながら水を飲む事が出来るらしいけど。
それで一緒に住んでた頃のスズメの様子的にそこ等辺はこの世界の鳥も同じなんだろう。
見た目は鳩に似てるけどそう言う部分の体の構造は鳩に似てないんだろうな。
だから島ワタリがザパザパ激しく音を立てて必死な感じで頭を上下に動かしてるのは、物凄い勢いで水を飲んでるって事になるんだ。
そうその姿を見て水浴びをしてるのかと首を傾げるルグに説明したら笑われた。
やっぱり今日は何時もより蒸し暑いのかもしれない。
だから先祖代々マリブサーフ列島国で生まれ育ってきた島ワタリ達も何時も以上に喉が渇いてたんだ。
そう思って未だに笑うルグに言い返したら、マシロにも違うって言われた。
確かに1番最初に側に来た島ワタリがニーニー甲高く鳴いた途端新たに数羽の島ワタリ達が飛んで来たけど、やっぱり単純にこの島ワタリ達も喉がスッゴク乾いてただけじゃないかな?
「分かった、分かった!!
直ぐ作るから、俺達の分、取ろうとしないで!!」
元々あの巨体にあの水量じゃ全然足りなかったんだろう。
それなのに仲間まで呼んだんだ。
当然最初にボウルに入れたスポーツドリンクは全員に行き渡る前のあっと言う間にスッカラカンと消え失せてしまった。
それだけ自分達が勢い良く飲んだのにその事が納得出来なかったのか、
「お替り!!」
と集まった島ワタリ達が目で訴えてくるし、スポーツドリンクが入った大きなペットボトルを嘴の先て突いてくる。
このままじゃラルーガンの実を手に入れる前にスポーツドリンク狙いで襲われそうだ。
そう冷や汗を流しながらそんな島ワタリ達をどうにか制止し、魔法を駆使してスポーツドリンクを量産する。
急いで作ったから全体が馴染んでなくて持ってきたスポーツドリンクの様に調和が取れて無いけど大丈夫かな?
不味いって襲ってこない?
そう思って試しに1番近くに居た島ワタリに少し飲ませたら、特に不満そうな態度もせずお替りを要求してきた。
「こんだけあれば足りるかな?」
「どうかな?
行列出来そうな位人気だから、直ぐ完売しそうだよ」
「えー・・・・・・
これ以上は流石に作り切れないんだけど・・・」
クスクス笑うマシロの言う通り、島ワタリ達が次々に仲間達を呼び寄せ1番最初にこの島を見つけた時位島ワタリ達が集まり出してる。
多分、巣の近くに居た島ワタリ達は全員集まってるんじゃないかな?
こんなに沢山居たら要求通りさらに増やした大きなビニールプールいっぱいのスポーツドリンクも直ぐに終わってしまいそうだ。
どうしよう・・・
意図せず島ワタリ達を引き寄せられたのに、このままじゃラルーガンの実を採りに行ったルグが帰って来る前に島ワタリ達も帰ってしまう。
そうなったら間違いなくルグが襲われてしまうんだ!
どうにかそれだけは回避しないと!!
「・・・・・・なぁ、スポーツドリンクだけじゃなく、こっちもどうだ?」
マシロが手伝ってくれるとは言え、流石に同じ量のスポーツドリンクを作り続ける気力はもう無い。
なら他の物で引き付けられないか。
そう思って脳裏に浮かんだのはスズメの姿。
そうだ!
初めてスズメに会った時の様にお米を出してみたらいいんじゃないか。
いや、ラルーガンの実を食べるって事は、木の実や果物の方が好みかもしれない。
頼むから飲み物じゃ無くて『ミドリの手』で出せる食べ物にも興味を示してくれ!!
そう内心願い、大きなお皿にお米やリンゴ、蔓蜜柑、イチゴ、ダグブラン。
俺達の世界、この世界関係なく今まで見つけてきた果物や穀物、木の実を出せるだけ出して盛っていく。
「良かったね、キビ君!
こっちも気に入ってくれたみたいだよ」
「みたいだな」
島ワタリが何を食べれるか分からなかったから出せる種類全部出したけど、ある意味功を成したかな?
島ワタリ達は結構何でも食べれる種族の様で、1羽1羽好みの物をどことなく嬉しそうに食べている。
いや、やっぱり喉が渇いてたのか?
比較的水分量の多い果物の方が人気みたいだし、変わらず1番人気はスポーツドリンクだし。
「他の飲み物・・・・・・
よりはスポーツドリンクが良いかぁ」
「ほらね。
やっぱりそれだけ島ワタリ達も美味しいって思ってくれてるんだよ」
「ここまで来たなら本当にそう思って良いのかな?
まぁ、それならそれで嬉しい限りだけど、大量に作るのは大変なんだよなぁ」
「ジュースのお店開けそうだもんね」
「本当にね。
味は兎も角、人間相手だったら手間賃としてそれなりの値段のお金取ってるって。
島ワタリ達ならラルーガンの実かな?」
まぁ、でも、実際にお店開くのは調理師免許とか無いから無理だけどな。
そう言ってマシロの言葉にため息で返す。
アルバイトとしてどっかのお店で働くなら兎も角、調理師免許もお店を開く権利も資格も無いから俺個人でジュースのお店を開いてお金を取る事は出来ない。
でも作ったスポーツドリンクの量だけ見たら間違いなくお店レベルで作ったはずだ。
ここがお店だったら島ワタリ達からはラルーガンの実って言うお代を確実に貰わないとやってられないって。
鳥相手でも無銭飲食は許さないからな?
「ただいまー」
「お帰り、エド。どうだった?」
「バッチリ!!」
びしょ濡れで戻ってきたルグに事前に『クリエイト』で作って置いたタオルを渡しながら声を掛ける。
ニッと笑ってタオルと交換で渡された袋の中には、海水と一緒に旗に書かれてたのとそっくりな桃に似た黄緑色の小さな実を沢山つけた房。
実の形は確かに桃に似てるけど硬めのゼリーかプリンの様にプルプルしてて、スグリの様に薄っすら中心の種が見える位半透明で。
大きさも相まって事前情報がなくポンと実1個だけがお皿の上に乗ってたら、変わった型で作った青りんごの寒天ゼリーだと思い込んでいただろう。
「思ったより、シッカリしてる、みたいだな?」
「あぁ。
見た目はかなり柔らかそうだけど、皮がシッカリしてるみたいだぜ。
上に座りでもしなきゃ潰れないと思うぞ」
「確かに皮が厚いな。中身は・・・液体か」
「なんだか、蔓蜜柑の粒々を大きくした感じだね」
「確かに」
突くとプルプル震えるけど海月茸の様なゼリー状じゃ無くて、ラルーガンの実の方は空気の入ってない水風船って言う方が正しいだろう。
ラルーガンの実は蜜柑の砂じょう1粒を大きくした様な感じで、風船の様な厚手の透明な袋の中にはヘタと花落ちの方から伸びた筋に支えられた種を守る様にタップリ黄緑色の果汁が詰まっていた。
「・・・・・・あぁ、だからか。
島ワタリ達がスポーツドリンクをあそこまで気にいってたのは」
「確かに似てるね。
こっちの方が薄味でスースー感が強いけど」
島ワタリ達からしたら濃縮したラルーガンの果汁を飲んでる様な感じだったんだろうな。
そりゃあ、あそこまで人気になる訳だ。
そう思う位、軽く飲んだラルーガンの実の果汁は俺が作ったスポーツドリンクに似た味がした。
市販のスポーツドリンクを沢山の氷と少しのフルーツジュースで割った、と言えば良いのか?
同じ薄めたスポーツドリンクの様なと表現出来るけどそんな感じの味の水サボテンとは明らかに違う。
春を思わせるフローラルな蜂蜜が前面に出てる所とか、薬草の効果で長くスースー感が続くココアシガレットの様な後味がある所とか。
そう言う所が水サボテンの水より俺が作ったスポーツドリンクの方が近いと思わせたんだ。
けど、残念ながらあのスポーツドリンクには島ワタリ達が欲してる成分は入って無いんだよ。
その濃さからラルーガンの実より効果がありそうだって感じてどんなに飲み続けても、元気な子供が生まれる助けには一切なりません!
「ごめんな。
これ、濃いラルーガンの果汁じゃないんだ」
「ニィアー」
「フフ。
意外と島ワタリ達、そこ等辺分かった上で飲んでるかもよ。
ラルーガンの実に似た味だから美味しいって」
「そう?」
「うん!
だってエド君がラルーガンの実を持って来ても怒ってないでしょ?
さっきキビ君が言ったみたいにコレがジュースとフルーツのお代だって分かってるんだよ。
キビ君がジュースを作ってる姿見てるし、それが分かるならあのジュースがラルーガンの実とは別のもだって分かってるって!」
「確かにロックバードやフェノゼリー並みの知能があるなら何となくでも理解してるかもな」
勘違いして飲んでたら申し訳ないな。
と思って、そう分け合ってビニールプールに入ってたスポーツドリンクを飲み干し終えた島ワタリ達に声を掛ける。
こんなに大きいから魔物じゃ無いけど島ワタリ達もスズメと同じ様にある程度人間の言葉が分かる位の知能が有るのかな?
そう声を掛けて直ぐ仲間を呼んだの時とは少し違う鳴き声が返って来た。
それを聞いて同じくスズメの事を思い出したんだろう。
そう理解した上で飲んでたとマシロが懐かしそうに小さく笑った。
それにルグも笑って同意する。




