252,ラルーガンと島ワタリ 9株目
これもこの世界をどうにかしたい誰かのお導きって奴なのかもしれない。
本当に運よくドラク族の人と知り合えて、村に案内してくれるって言う依頼の予約も出来て。
俺達はホクホクとアルバ島に向かう定期船に乗り込んだ。
「チケットと依頼書を確認させてもらいます」
「お願いします」
「・・・・・・はい。問題無いですね。どうぞ」
そう言われ依頼書の1枚と一緒にギルドで渡された3人分の船のチケットを渡す。
ギルドでサインした3枚の依頼書はそれぞれ、1枚がギルドで保管する用でもう1枚が何時も通り自分達で持ってる用。
そして最後の1枚がアルバ島行きのチケットを誰かから強奪して無いか乗船前に確認する為の依頼書だ。
そこまでしないと島に入れないなんて・・・
それだけ危険って事だよな。
アルバ島自体は通り過ぎるだけだけど気を付けないと。
「やっぱり、迂回すべきかな?」
「うーん・・・・・・
迂回するならこっち側の海岸沿いにグルッと周って行ったらどうかな?
かなり遠回りになっちゃうけど、その方が安全でしょ?」
「そこまで遠回りする必要あるか?
目撃情報の多いこの辺りの森を避けるだけなら、そこまで遠回りしなくても良いだろう?
こう行っても安全だと思うぞ?」
「でも最近は他の場所でも見かけるんでしょ?
だったらやっぱりこう遠回りした方が良いよ」
この船が着くアルバ島の乗船場から島ワタリの巣がある小島には、真っすぐアルバ島上空を突っ切るルートが1番早く着く。
でも大きさも跳躍力も何もかも未知な、想像以上に危険な魔物が闊歩しているとなるとそのルートを行く訳にはいかない。
そう思って船に揺られながら地図を広げ、熱中症対策に被った帽子を潰す勢いでルグとマシロと顔を突き合わせる様に横に並んで話し合う。
マシロの言う通り遠回りすべきか、それともルグの言う通り少し迂回するだけのルートを行くか。
さて、どうすべきか?
『最初は極力真っすぐ進んで、危険だったら早めに海沿いの方に行く感じでどうかな?』
暫くあーでも無いこーでも無いと話し合っていたけど、最終的に四郎さんのその意見でまとまった。
取り敢えず、最初は出来るだけ高い位置で最短ルート寄りに行く感じで。
そう行きの船の中で決めた通り『フライ』を掛けたレジャーシートを進めていく。
「見えた!!あの島だ!!!」
「うーん・・・・・・あ、本当だ。
島ワタリが沢山集まってる」
先行した仲間が新たな天敵の手によって即座に食材にされた姿を見て心が折れたんだろう。
1度ド派手なコカトリスに襲われた事を抜かせば比較的問題なく最短ルートを進められている。
ローズ国に居たコカトリスよりも凶暴だって聞いていたこの国のコカトリス達は完全に獲物を狙うルグに怯え切ってもう襲ってこないし、警戒していた未知の魔物は影も形も現れない。
その事にホッとしつつそのまま最短ルートで進み続けて暫く。
雲だろう微かに白い点々が浮かぶ小島が遥か遠くに見えだした所でルグが見えたと叫んだ。
此処からじゃまだ島ワタリの姿は見えない。
けど、その島を望遠鏡で見たマシロも島ワタリの姿が沢山見えたと言ったから間違いなくあの島が目的の島だ。
「あれが島ワタリ・・・・・・
かなり大きいな・・・」
更に島に近づくと、雲だと思っていたそれの1部が大きな白い鳥の群れだと言う事が分かった。
広げた翼の部分を抜かした体の大きさは軽自動車より1周り、2周り小さい位だろうか?
翼を畳んだ状態でも本来の姿のクエイさんより明らかに大きいのは間違いない。
翼を広げた状態で並んだらきっと小学生と大柄な大人位の差はあるんじゃないかな?
「・・・・・・『教えて!キビ君』の画像で見るより、本物は目が怖いな」
「そうかぁ?」
「うん。何か画像よりも鋭い気がする。
俺達を警戒してるせいかな?」
肉眼で見えだした辺りではその位大きな白い鳥って事しか分からなかった。
けど、『ニィー』とか『ルゥー』とかの独特な鳴き声がよく聞こえる位更に近づいたら、その鳥が『教えて!キビ君』に乗っていた画像そっくりな姿をしてる事が分かった。
遠目から見ると可愛い分類なんだけどなぁ。
顔が見える位更に近づいたら、意外と目が怖かった。
本来自力で飛ばない人間がこの世界には存在しないレジャーシートに乗って飛んで来たのが珍しいのか、それとも飛んでるから見慣れた人間とは思わず縄張りを犯しに来た変な鳥だと勘違いして警戒してるのか。
その1羽でもちょっと怖い島ワタリ達の赤っぽいギョロっとした目が一斉にこっちを見てる気がして背筋がゾワッとした。
あの巨体に攻撃されるのも怖いけど、ジーッと見られてるだけなのも別の意味で怖いな。
これ以上島ワタリ達を刺激しない様に少し離れよう。
「えーと・・・取り敢えずぅ・・・
島ワタリ達をぉ・・・刺激しない様にぃ・・・」
「あっち。
1番集まってる反対側辺りの海岸に1度降りようぜ」
「分かった」
巣らしき物が見当たらない、ただ単にエサを食べに来ただけらしい島ワタリ達が集まってる辺りをほんの少し通っただけでアレだったんだ。
行き成りラルーガンが生えてるだろう島ワタリ達の巣がある辺りに降りたら無意味に島ワタリ達を驚かせる事になるだろう。
そうなったら間違いなく俺達はあの巨鳥に襲われる事になる。
そうならない為にもまずどこ等辺に降りるべきか。
そう声に出しながら島を見回してると、ルグが後ろからそうある一点を指さした。
島ワタリ達が集まってる場所からかなり遠いけど確かにあの辺りなら安全に降りられそうだ。
「よし。問題なく降りられそう・・・」
「キビ君、キビ君!!あそこ、あそこ!
船が止められてる!!
多分、他に誰か来てる!!!」
「えッ!?本当!!?何処!!?」
「あそこ!!!あの木が生えた海岸の辺り!!」
木々が密集してたり危険な生き物が居たりしない、比較的降りやすい草原状の小さな岬に降りようとした瞬間。
そうマシロに何度も肩を強く叩かれた。
そしてマシロが指さしたポケットビーチの一角を見ると、この世界にもそういう種類の船もあるんだろうか?
確かにこの世界で見た船に全然似ていない、元の世界で見たクルーザに似た小さな船が乗り上げていた。
けど近くに乗って来た人が居る様には見えない。
「ゲホッ!ゲホッ!!
・・・ッ、はぁあああ・・・・・・・
すみま・・・ッ!!何だ、コレ!!?」
上品な爽やかな甘い香りでもここまで濃縮したら唯の悪臭だ。
扉を開けてまず入って来たのは、桜と同じく古くから日本人の心を掴んできた気品ある奥ゆかしさとは程遠いむせ返る様な藤に似た花の香。
見頃になった広大な藤の名所でも絶対こうはならないって位、襲い掛かって来た様な濃厚な香りに反射的に目を固く瞑って何度も咽て。
新鮮な酸素が足りずクラクラしそうになりながらどうにか声を掛けながら見回した船内は、
「一体此処で何があったんだ!!?」
と思わず叫ぶ位異様な光景をしていた。
ギャグマンガの様にミラクルなコケ方をしてもきっとこうはならないだろう。
そう一目でわかる位、船内は床だけじゃなく、壁も天井も藤の様な香りがする真黒な液体で染まっていた。
その光景はタップリ液体が入った大きな風船が破裂した様にも、ペンキが入ったバケツを振り回して作る斬新なアートの一種にも、推理物のアニメやドラマで出てきた滅多刺しの悲惨な殺人現場にも見える。
その異様な光景を作っている黒い液体が撒かれたのはほんの少し前。
乾いてカピカピになった所もあるけど、ほとんどは少しネバついたドロドロの液体のままだ。
「ナニ、コレ・・・墨?インク?
まさか、酸化した血・・・じゃないよな?」
「多分、違う。
こんな甘い匂いがする血が流れてる生き物が居るなんて聞いた事無いし、多分、違うよ」
「そ、そうだよな・・・・・・」
俺の後ろから覗いてそう答えてくれたマシロの言葉にホッと息を吐く。
それから改めてもう1度船内を見回した。
初見で衝撃的過ぎる光景に細かい所までちゃんと見れてなかったけど、死角になってる様な場所で誰か倒れてたりしないよな?
「やっぱり誰も居ない」
「でも、此処で生活してた跡がある。
食器とかも準備されてあるし、今朝まで誰かが此処で生活してたのは間違いないと思うぞ?」
シッカリ隅々まで探すけど、案の定誰も居ない。
けど机やソファー、ベッド、キッチンにトイレやお風呂。
空間結晶を使って広げられたその船内の至る所につい最近まで誰かが使っていた跡が幾つも残っているんだ。
多分、今朝の比較的早い時間までは誰か此処に居たはず。
その証拠に電気コンロに乗せられた蓋をした鍋の中にはまだ腐ってない冷めたみそ汁とご飯が入っているし、その隣の台の上には伏せられた茶碗やお椀、箸が3組ずつ。
完全に朝食の準備中に何か遭って慌てて逃げ出した様にしか見えない。
それに、扉全部全開にして換気してもなかなか消えないこの香りに1番やられてる事と、それが原因で最後の数分以外殆どの時間船の外側の調査をしていてくれてた事。
それと船内の調査中ずっと『クリエイト』で作った鼻栓をした上に何重にもマスクをしていた事。
その事が原因で普段よりも調査の精度が落ちてるとは言え少し船内を見回しただけのルグまでもそう言っているし、ほんの数時間前まで誰かが居たのは確かだろう。
「やっぱり、全員島の中に居るのかな?」
「多分、オイラ達が来る前に救助されたんじゃないか?」
「え?どうしてそう思うんだ、エド?」
「ケルピーが居ないから。
何か、例えば未知の魔物とかが襲ってきたなら、この船の近くにケルピーが暴れて逃げた跡や死骸があるはずだろう?
そう言うのが無いって事は襲われて直ぐか、ケルピーと一緒に救助された後、此処に住んでた奴とは別のナニカがこの黒い液体をぶちまけたんだよ」
「うーん・・・それはどうかな?
多分、ケルピーは最初から居なかったはずだし、救助されたなら朝食の準備とか高価そうな物とかそのままにして行っちゃうとかは無いんじゃないかな?」
「んん?
朝食の~とかはまだ分かるけど、ケルピーが最初から居なかったって・・・
それ、どう言う意味だよ、マシロ?
ケルピーが居ないのにどうやってこの船此処まで来たんだ?」
「この船、飛行船みたいに魔法道具で動いてるみたいなんだ。
ケルピーが引かなくても自力で動けるんだよ。
今は壊れていて動かないけど・・・・・・
だからこの船に乗っていた人、キビ君の言う通りまだこの島に居ると思うよ?」
この船の様子からして、この船に乗っていた人が船ごとこの島に漂着したのは間違いないと思う。
けど人だけじゃなく船を引いてきたはずのケルピーも居ないなら、まだニュースになってないだけで既に救助されているはずだ。
そう言うルグにマシロはこの船が秘密裏に作られていた最新の魔法度具式の船だからその考えは間違ってると首を横に振った。
「もしそうなら・・・・・・・・・
もしかしたら、此処に残りの矢野高校生達が居るかもしれない」
「え!!!?本当か、サトウ!!?」
「うん、多分?」
実物を見た事無いから設備とかの内装に関しては何とも言えないけど、外見だけは俺達の世界のクルーザに瓜二つな事。
それに加え電気コンロの上の朝食の様子。
この世界では珍しい見慣れたみそ汁とご飯が、同じくこの世界では見ない電気コンロの上に置いてあるんだ。
それも丁度3人分。
この船ごとそれらを作ったのが俺達の世界の人間だと思った方が可能性はあるだろう。
俺達よりもかなり上の『クリエイト』や『ミドリの手』、『プチヴァイラス』が使えれば出来なくは無い筈だし・・・
「この船が歴代勇者が伝えた話を元に作った最新の魔法道具って可能性も、何でも勇者の真似をしたい信心深すぎる英勇教信者が居た可能性も否定できないけど・・・・・・」
「でも、キビ君の世界の人が魔法を駆使してこれを作って生活していた方がしっくりくる?」
「うん。それか・・・Ⅾr.ネイビーの子孫?」
そう自信なさげに言った説明を聞いてしっくりくるか聞いてきたマシロに俺は強く頷き返し、もう1度首を傾げた。
子孫の人がDr.ネイビーが昔作った船を直してやって来たって可能性もあるっちゃあるか?
でもやっぱり矢野高校生達の方が可能性としては高い?
「取り敢えず、クエイやアル達にこの事言っておいた方が良いのは確かだな」
「うん、それだけは確かだな」
乗ってきた人に会えるかどうかは兎も角として、この船の事はちゃんと報告しておかないとな。
そう通信鏡を取り出すルグに連絡を任せ、マシロと一緒に少し離れる。
この船を見つけてから大分経つけど、幾ら周りを見回してもこの船の持ち主は帰ってくる気配がない。
ルグが居る砂浜から離れ過ぎない様に船の1番高い所に登って望遠鏡を使ってジックリ見回しても人影の袖1つ見つからないんだから隠れて近くに居るって事も無いと思う。
それだけ遠くに居るのか、それともルグの言う通り無事誰かに助け出されたのか。
もしかしたら危険な生き物や居るかもしれない未知の魔物に襲われてもう既に・・・
本当に矢野高校生達が居たなら俺達の世界に送り返す都合もあるし、出来ればこの船の持ち主とお互い生きてる状態で会えると良いんだけど・・・・・・
大丈夫かな?




