251,ラルーガンと島ワタリ 8株目
「まぁ、だから、オレが戦い慣れてるのは赤ん坊の頃から鍛えさせられてたからで、タイミング悪くブゥの事が知れ渡ったのは島の奥に籠らされてたからだな」
「なるほど」
そうブゥが暫くの間未知の魔物だと勘違いされていた理由をまとめたニャニャさんは、何匹もの苦虫を一気に噛み砕いたかの様に酷く顔を歪めた。
その言葉の節々からニャニャさんがドラク族の村の事を快く思ってない事が良く分かる。
だからこそ諦めなきゃいけないかもしれない。
家出してるとは言え折角ドラク族の人と出会えたんだから顔つなぎして貰おうと思ったのに・・・・・・
このニャニャさんの態度を見るにそれは難しいかもしれない。
せめて喜ばれる手土産位は教えて貰えないかな?
「何だチビ助共?
言いたい事があるならハッキリ言えよ」
「えーと・・・・・・
実は俺達ドラク族の方に。
正確に言えばドラク族の方が聖地と呼ぶ場所に用があるんです」
「へぇ」
その思いが無意識にでも顔に出てたんだろう。
言いたい事があるなら言えと言ったニャニャさんにそうオズオズと火山に用があると言ったら、ニャニャさんの雰囲気が明らかに良くない方向に変わった。
多分ニャニャさんも家出前にガッツのあり過ぎる巡礼者達に迷惑を掛けられたんだろうな。
「だから顔つなぎしろって?」
「出来れば・・・
無理なら、持って行って喜ばれる品を教えて頂けると、助かり、ます・・・・・・」
「目的は?
そこまでしてあの山に入りたい目的は何だ?
言っておくけどなぁ、願掛けが目的とかふざけた事言ったらこの場でぶっ飛ばすからな!?」
「違います!!
俺達は大切な人達を治す為に薬の素材を探してるんです。
その1つがドラク族の聖地に住んでいると言われてるフェニックスに生えてる苔なんです。
だからそれを取りに行く許可が欲しくて・・・」
「フェニックスの苔ッ!!?
それに薬って・・・・・・」
そんな巡礼者の1人だと言うなら許さないと喉の奥をグルグル鳴らす様にそう低く言うニャニャさん。
そんなニャニャさんに俺達は違うと言えばニャニャさんの雰囲気がまた変わった。
そして驚愕に彩られ限界まで開かれたその目が俺達を舐め回す。
「・・・・・・お前等の中に・・・
いや、お前等、名前は?」
「俺は佐藤
「サトウ!!!?
じゃあ、お前がサトウ・キビなのか!?
コラル様の予言にあった緑の勇者の!!!?」
違います」
俺が名乗った瞬間、あり得ないと言った表情でニャニャさんがルグとマシロの紹介を遮った。
そのニャニャさんの言葉を聞いて俺の表情がトラウマとかスキルとか関係なく素で落っこちた気がする。
そう言えばドラク族はコラル・リーフを信仰の対象にしてたんだったな。
なら『佐藤 貴美』の事が伝わっていても可笑しくないか。
「え?お前、サトウ・キビじゃないのか?」
「違いますよ。彼の名前はタカヤ・サトウさんです」
「なぁんだ。名前と苗字が似てるだけの別人か。
そりゃそうだよなぁ。
こんなヒョロヒョロなチビ助が予言の勇者な訳ないよな」
職員さんから登録上の俺の名前を聞いてニャニャさんがホッと力を抜く様に息を吐いて、
「勘違いして悪かった」
と笑って謝ってくる。
そんなニャニャさんに俺は笑って気にしてないと言えただろうか?
困った様にもう1度ニャニャさんが謝ってくれたから、多分無理だったんだろうな。
「あー・・・本当、悪かったな。
俺達ドラク族が信仰してるコラル様の予言の中に、
『何時か必ず白鳥の王によって世界は紫の雨に侵される。
その時サトウ・キビが現れ、世界を救う為に必ず薬の素材として聖獣の苔を求めこの地を訪れる』
って言うのがあるんだ。
だから何者からも聖地と聖獣を守れって言う言掟があって・・・・・・
あ、サトウ・キビって言うのはコラル様が何時か現れるって言った世界を救う真の勇者の事な?」
「なるほど。その人と勘違いしたんですね。
残念ながら偶然が重なりに重なっただけで完全なる人違いです」
もしかしたら四郎さんが代わりに答えてくれたのかもしれない。
そう反射的にニャニャさんに当り障りなく答える傍ら、俺の脳の大半は別の事を考えていた。
つまり、この世界のIF世界だと思われるコラル・リーフの世界でもゾンビ毒事件が起きたって事か?
『白鳥の王』って言ってるって事は俺達の世界と違ってブランシス王国の王様が主体となって。
いや、黒幕の正体が生き残った白悪魔だとしたら、コラル・リーフの世界とほぼ同じ事が起きてるって事か。
そしてその世界に勇者として召喚された『佐藤 貴美』とその仲間達が俺達と同じ様に素材を集め『蘇生薬』を作り上げた。
ニャニャさんは何処かの世界の『佐藤 貴美』の事を『緑の勇者』って言ってたし、もしかして『苔葡萄の話』はコラル・リーフの世界の出来事が元になってる?
ナトが青、高橋が赤。
それと同じ様にコラル・リーフの世界に召喚された『佐藤 貴美』は緑の勇者と呼ばれていた。
それが長い長い年月をかけてドラク族から伝わってあの口承になった、って事なのか?
そして自分の世界で起きた事件が何時かこの世界でも起きると何らかの理由で確信していて、同時に『蘇生薬』の素材が意図的に消されようとしている事も分かっていた。
だから予言と言う形でドラク族にフェニックスを守らせたり、海月茸農場の扉の仕掛けを作ったり。
そう言う事もしていた。
その確信に至った『何らかの理由』は黒幕達の存在?
いや、流石にそれは飛躍し過ぎか?
取り敢えず、こう言う考えは専門家達の意見を聞くべきだな。
この考えはルグから通信鏡を借りてコロナさんやアドノーさん達に伝えて話し合おう。
まずは今すぐ出来る事をやるべきだ。
「まぁ、偶然は偶然でも俺達もフェニックスの苔を探してるのは確かですからね。
先程の顔つなぎの話は可能でしょうか?」
「うーん・・・・・・」
「今日、今直ぐじゃ無くても良いんです。
俺達も今日は他の薬の素材を採りに行く予定なので、無理にとは言いませんが後日ニャニャさんの都合が良い日にお願いできればと・・・・・・」
「他の薬の素材って、ラルーガンの実?
島ワタリが守ってる。
それで作ろうとしてる薬の名前は『蘇生薬』」
「はい。それも予言の中に?」
「あぁ」
やっぱり、コラル・リーフの世界でもゾンビ毒事件が起きたんだな。
そうニャニャさんに『蘇生薬』の事を言われ俺は内心そう思っていた。
この短い会話だけでもかなり気になる情報が出て来たんだ。
ここまでくるとそのドラク族の予言も詳しく聞いてみたくなる。
絶対もっと有益な情報が隠されてるはずだ。
いや、でも、詳しい予言の内容はドラク族以外口外禁止とかだったらどうしよう。
反抗心からかニャニャさんは結構詳しく教えてくれるけど・・・・・・
そうグルグル考え込んでいたのがいけなかったんだろう。
明らかなミスを犯してしまった。
「と言う事は『隷従の首輪』がどっかっで復活したって事だよな?
うーん・・・
ここまで予言の内容と被ってるとなぁ・・・・・・
なぁ、やっぱりお前、サトウ・キビなんじゃないの?
もしかして愛称がキビだったりしない?」
「ッ・・・」
「やっぱり『サトウ』で『キビ』なのかぁ」
考え込んでいた頭にそのニャニャさんの言葉が飛び込んできて、一瞬息と言葉が詰まった。
それがいけなかったんだろう。
俺も『佐藤 きび』であるとニャニャさんに察せられてしまった。
あぁ、こんなミスするなんて・・・
信仰するコラル・リーフが待ち望んだ『佐藤 貴美』じゃないのに、こんな俺が同じ名前だなんてドラク族の人にバレたらどうなるか・・・
不敬だってルグやマシロも一緒にグサッてなるかもしれないのに・・・・・・
俺の馬鹿!!
今まで隠してた意味が全部水の泡じゃ無いか!!
そう内心で泣き叫んでいたけど、結果そのお陰で良い方向に進んだかもしれない。
「出来れば村に帰りたくないんだけどなぁ・・・
はぁあああ。仕方ない。
聖地の方は無理だけど村には案内してやるよ」
「本当ですか!?」
「まぁ、な。
その様子だと、どうせ俺が案内しなくてもお前等自力で村に行くだろう?」
「はい」
「だよなぁ。
そうなると遅かれ早かれ俺と会った事も知られる訳だしさぁ。
そうなったら絶対!!!
予言の『サトウ・キビ』候補かもしれない奴を見つけたのに村に連れて来なかった!!!
って逆に面倒くさい事になるんだよ!
今だって少し島の近く通るだけで態々連れ戻しに来たり小言言いに来て煩わしくって仕方ないのにッ!!
そのせいで何回遠回りする事になったと思ってんだ!!!」
そう不満を露わにして叫ぶニャニャさん。
そのままウガーッと踊り狂う様に叫び続けるニャニャさんの姿から、相当ニャニャさんが実家関連の事でストレスを貯めてる事が分かった。
そりゃあ、家出したくもなるよ。
「まぁ、だから、どっちが嫌かってなったらそっちの方が嫌なんだよ」
「それでも助かります。
本当にありがとうございます!」
叫んだ事で多少はストレス発散出来たんだろうけど、長年積りに積もった不満はそんな事位では消し切れ無いらしい。
少し落ち着いてきたニャニャさんが、本当に心底嫌そうに顔を歪めてそう仕方ないと深い深い溜息を吐いた。
そんな俺達にとって有益な比較的楽な方を選んでくれた今にも泣き出しそうにまた叫ぶニャニャさんにもう1度お礼を言う。
そんな俺を見てニャニャさんの顔が更に歪んだ気がしたのは気のせいだろうか?
「そう言う事なら依頼って感じで頼んで良いか?
別行動してるリーダー達と相談しないといけないけど、出来る範囲で報酬は弾むから。
・・・・・・って伝えてくれるか?」
「分かった。
えーと、『そう言う事なら依頼って感じで頼んで良いか?
別行動してるリーダー達と相談しないといけないけど、出来る範囲で報酬は弾むから』と彼が言ってます」
「そう言って貰えるとオレも助かるな。
そうだなぁ・・・・・・
オレも今受けてる依頼が完全に終わった訳じゃないからなぁ・・・
明後日のこの時間辺りに此処に来てくれるか?
直接依頼書出してそのまま村に行く感じで」
「・・・・・・って事だけど大丈夫?」
「私は問題ないと思うよ?」
「寧ろありがたい位だろう。
オイラ達も念の為に明日は開けておいた方が良いからな」
「分かった。
えっと、では、明後日また改めてお願いします」
無くても分かってるだろうけど正体を悟られない為に態々マシロの通訳が終わってからそうニャニャさんに尋ねるよう聞くルグ。
そのルグの言葉をそっくりそのままニャニャさんに伝え、ニャニャさんの提案を同じくそっくりマシロがルグに伝えたのを確認してからそう聞く。
それに対して直ぐにマシロは大丈夫だと頷き、ルグはピコンさん達の方がどうなるか分からないから念の為に1日開けてくれるのはありがたいと言った。
ナト達の事もあるし、勿論2人と同じく俺も賛成だ。
その3人分の意見をニャニャさんに伝え、ニャニャさんと職員さんに改めてそう頼む。
それを聞いて頷いたニャニャさんは隣のカウンターで今受けてる依頼の中間成果を渡し、職員さんは途中だった手続きを終わらせてくれた。
取り敢えず明後日の事は明後日の俺達に任せるとして。
今日の俺はラルーガンの実探しに集中しよう。




