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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 マリブサーフ列島国編
482/498

250,ラルーガンと島ワタリ 7株目


 翌日朝10時。

俺達は予定通り島ワタリの巣があるアルバ島付近の小島に向かう為にギルドに向かっていた。

未知の黒い魔物が出た影響でアルバ島含め付近の島に入るにはギルドで手続きしないといけないらしい。

その位その未知の魔物の被害者が出てるって事だろう。


「えーと・・・後は・・・・・・

こちらの依頼書の依頼内容欄に書かれた注意事項を良く読んだ上でサインをお願いします」

「はい」


職員さんも急な変更で慣れてないんだろう。

少し手際悪く入島手続きをしてくれた職員さんが最後にそう言って同じ内容が書かれた3枚の依頼書を渡してきた。

依頼書を利用してるけど依頼内容欄を読むに『箱庭遺跡』に入る時書いた様な『何が起きても自己責任だと承諾します』って言う契約書みたいだ。

それにプラスして未知の魔物の情報収集。

手慣れの冒険者でも苦戦する程強いから積極的に未知の魔物に関わらなくても良いけど、偶然出会うかもしれないから念の為に記録を取っておきたいと言う事らしい。


「何か分からない所とかありますか?」

「えーと、この1番下の注意書きなんですが・・・


『発見した黒い未知の魔物の姿がイーラディルスとそっくりだった場合、無暗に攻撃しない様にして下さい』


ってどう言う事でしょう?

その魔物は黒いイーラディルスの姿をしてるって船の中で聞いたんですが・・・・・・」

「あ、はい。

調査の結果2種類の生き物の情報が混ざってる事が分かったんですよ。

その混ざってる一方がとある人のペットだと言う事が分かりまして・・・」


依頼内容欄の最後の方。

そこには、


『有益な情報を提供したり未知の魔物の捕縛や討伐を成功させたらちゃんとそれ相応の報酬を出す』


と書かれてた。

その内容自体は特に気になる事じゃない。

気になるのはその次の覧。

そこに明らかに注ぎ足されたと分かる文が書かれてたんだ。


その文が『黒いイーラディルスには手を出すな』と言う物。


未知の魔物の正体がメラニズムのイーラディルスだと思ってたからこの注意書きには軽く驚かされた。

その理由を聞いて直ぐ納得出来たけど。


「あ、ほら。丁度来ましたよ」

「え?・・・・・・え?」


俺達を真っ直ぐ見ていた職員さんの焦点が話の途中でズレた。

その視線の先は俺達の真後ろ。

丁度風通しの良過ぎるギルドの出入口がある辺りだ。

その視線の動きからつい気にしてしまう様な人。

例えばお偉いさんでも来たのかと思ってたら、徐に職員さんはスッと出入口を指さしてそう言った。


丁度来たって、その黒いイーラディルスの飼い主さんが?


そう思って振り返った先では丁度巨大な黒い爬虫類の尻尾が過ぎ去る所だった。

そのチラリと見えた尻尾の先だけでも俺の胴と同じ位あるんじゃないかって思う位太かったんだ。

それが全長ってなるとどの位の大きさになるんだか・・・

恐ろしくて小さく疑問の声を漏らす事しか出来なかった。


「ん?何だ、何だ?」


出入口の方を見たままカウンター前で固まる俺達がよっぽど不審だったんだろう。

その黒いイーラディルスの飼い主らしい俺と同い年位のかなり背の高い男性がギルドに入って直ぐ足を止め不機嫌そうにそう言いながら眉を寄せた。


顔や腕や脚、曝け出した日焼けした逞しい上半身含め見える範囲全体に奇妙な刺青を彫ってる事に加え、多分2m後半以上は有るんじゃないか?

って思う程の高身長。

実際はもう少し背が低いのかもしれないけど、刺青だらけのその大きな体に見合った長くて丈夫そうな槍を担いでいる事から威圧的に感じて、かなり大きな人に見えるんだ。

そんな何もしなくても威圧感を感じる人が不機嫌そうに近づいてくるんだから怖いのなんのって・・・

イーラディルスの尻尾で固まった体が更に小さく固まっていく気がした。


「こんにちは、ロシィイ・ニャニャさん。

今丁度貴方のペットの話をしてたんですよ」

「おい、おい。何度も言ってるだろう?

ブゥはペットじゃ無くて大事な相棒だ。

そこ間違えるなよ?」

「あぁ、そうでしたね。すみません」

「・・・・・・まぁ、いいや。

ワリィな、チビ助共。脅かしちまったみたいで」

「い、いいえ・・・お気になさらず・・・・・・」

「そう言ってくれると助かるぜ。

アイツ、見た目は厳ついけど寂しがり屋で人好きなかなりのんびりした奴なんだ。

こう行く先々で怯えられるとアイツも落ち込んじまうからさ。

だからそんな怯えてくれるなよ?」

「えーと・・・はい。分かりました」


職員さんから俺達が固まってる理由を聞いた男性、ニャニャさんは俺達を安心させようと軽く屈んで真夏の太陽の様にニカッと笑ってそう謝ってくれた。

そんなニャニャさんを援護する様にブゥと呼ばれたイーラディルスが顔だけ覗かせてシュンと可愛らしく一声鳴く。

その鳴き声だけじゃなく、話に聞いていた通りの何時だか出した鳥よけ用の目玉模様によく似た目も、


「ボクは悪いワニじやないよ?」


と悲しそうに細められている気がするし、本当にブゥは人に友好的な大人しい感じの子なんだろう。

確かに大きくて厳つい見た目をしているけどこう言う表情豊かな態度されるとあんまり怖くないな。

寧ろ雰囲気がピックやペールに似ていて可愛く思えてくる。

うん、落ち着いてきたし少し慣れてきたから全然怖くないな。


「何かピックとペール思い出しちゃった」

「あー。種族は違うけど確かに雰囲気が似てるな。

特にペールに似てないか?」

「似てる似てる!

やっぱりのんびり屋さんだからかな?」

「ハハッ!!

そんなに早くアイツに慣れてくれる奴等に会えるなんてな!

そのピックとペール?って奴等のお陰か?」


そんなブゥの態度に2人もピックとペールを思い出したんだろう。

小さく手を振り返せる位緊張や警戒が解けたルグ達の態度にニャニャさんは嬉しそうに笑みを深めた。

ステアちゃん達のお陰でニャニャさんの中の最悪な第一印象を覆せた様だ。

その後予想通りかなり珍しいメラニズムのイーラディルスのブゥの事でニャニャさんと盛り上がって暫く。

ニャニャさんとの仲も多少深まっただろうと思ってずっと疑問だった事を口にした。


「あの、不愉快じゃ無ければ教えて頂きたいのですが・・・・・・」

「ん?何だ?」

「どうしてブゥが未知の魔物だと勘違いされたんですか?

ニャニャさんはマリブサーフ列島国の方ですよね?

相棒と仰る位長年一緒に居て冒険者をしていたならブゥの事、もっと知れ渡ってるはずですよね?」

「確かになぁ。

アンタ、かなり戦い慣れてるだろう?

相当長く冒険者やってるんじゃないのか?」


最短で半月位か?

俺達が乗ってきた船がマリブサーフを出てまた戻って来るまでまだそんだけしか経っていない。

そんな短い期間じゃ何も分からなくても仕方ないだろう。

だから本当に何の前触れもなく突然現れたと職員さんが言っていた、独特の甘い香りを漂わせてる事と襲われた人達が居るって事以外一切の情報が無い本物の未知の魔物の事は置いておいて。


雰囲気や体の動き、武器の様子がかなりザラさんに似てるからニャニャさんがベテラン冒険者なのは間違いないと思う。

ルグも戦いに慣れてるって言ってるから確かだろう。


なのにどうしてニャニャさんやブゥの事までこの事件が起きるまで知られていなかったのか。


今日みたいに毎日ブゥに乗ってギルドに来てるなら皆見慣れてそんな勘違いされるはず無いと思うんだけど・・・

もしかしてデビノスさん達やシラタキさん達みたいに祖国で冒険者してたんじゃなくて別の国に出稼ぎに行ってたとか?

それでつい最近帰って来た。


いやでもそれはそうで可笑しいか。


ニャニャさんとブゥは何処からどう見ても長年一緒に居たって誰が見ても分かる態度と雰囲気をしてる。

だからかなり小さい頃から一緒に居たのも間違いないと思うんだけど、そうすると比較的かなり長く勘違いされていた事が可笑しく感じるんだ。

一般のマリブサーフ列島国人でも王族貴族でも小さい頃から1人と1匹で行動してたならその姿はどっかの島では見慣れた物になっていたはず。


なのにその情報が直ぐにギルドや調査してるチームの元に来なかった。


それは何故か。

見た目からニャニャさんの事、生粋のマリブサーフ列島人だと思ったけど、実はご先祖様が帰化した別の国の人だったとか?

そう思って聞いたらニャニャさんはキョトンとした顔をして首を横に振った。


「んっにゃ。

オレが冒険者になってまだ1ヶ月も経ってないぞ?」

「・・・へぇ。じゃあ、前職は兵士か?」

「それも違うなー。

そもそも何かの職業に就いたのも今回が初めてだし。

と言うかもしかして知らないのか?」

「知らないって何がです?」

「ドラク族って聞いた事無いか?

レッドバー島に昔から住んでる一族なんだけど」

「その話なら知って・・・・・・まさか!!」

「えぇ、彼はあのドラク族の人間なんですよ」

「「「えぇえええ!!!?」」」


まさかニャニャさんがドラク族だったなんって・・・

職員さんに正解を教えられ思わず俺達3人の驚愕の声が重なった。

マリブサーフ列島国では周知の事実らしいけど、ニャニャさんの全身に彫られた刺青こそがドラク族の証らしい。

謎の幾何学模様にしか見えない刺青の模様にも1つ1つ意味があって、ドラク族しか知らない特殊な染料を使ってるからドラク族のフリをするのは無理なんだとか。

なるほど。

ドラク族(治外法権区域)の人だから中々こっちまで情報が来なかったのか。


「ドラク族は生涯レッドバー島から出る事がありませんからね。

それに私達も気軽にあの島には入れない。

名前を知っていてもその実態を知らなくても無理はありませんよ。

海外の方なら特に」

「生涯って・・・

でも、ニャニャさんは・・・・・・」

「そう言うの含め村の掟が窮屈でブゥと家出した!」

「あ、はい」


そうまたニカッと笑うニャニャさん。

取り敢えずニャニャさんが今人生を楽しんでる事は分かった。


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