248,ラルーガンと島ワタリ 5株目
「うーん・・・・・・
ファイルの方にも・・・
日誌以上の事は・・・無さ、そう、だね。
うん、無い」
「チッ!外れか・・・」
「まぁ、俺達は運よく考古学に精通したジェイクさんが居て、更にウォルノワ・レコードも見つけられたから早い段階でこの情報を手に入れられたけどさ。
普通は此処まで来て漸く分かった情報だったんだよ。
だから偽勇者ダイス達にとって『不都合な1万年前の話』が残っていてくれた事自体に感謝しよう?」
「でもよぉ・・・
また振出しに戻っちまったんだぞ?
他に手がかりになる様な・・・・・・
話が見つかったんだな?」
「うん。と言う事で次はこっち。
島ワタリについて気になる事が書いてあったんだ」
「気になる事?」
『ラスト・ワードの話』を読み終わってすぐ民話集の資料が纏まった箱ファイルの方も隅から隅まで調べてみた。
だけど、研究日誌に書かれてる事以上に詳しい事は一切伝わって無かった様で、こちらにも目新しい情報は一切無い。
出来ればラスト・ワードさんの日記とかが残ってれば良かったんだけど・・・
無い物は無いでしょうがない。
そう気持ちを切り替え舌打ちと一緒に顔を顰めるルグを慰めつつ『民話から読み解く島ワタリ』のファイルを見せる。
「ここに書いてあるんだけど、この国のシンボルに書かれてる葡萄みたいな実があるでしょ?
あれ、ラルーガンの実らしいんだ」
「あれが!?
勇者達やサンプルとして呼ばれた人達が広めた葡萄の一種とかじゃ無くて!!?」
あんなに堂々とラルーガンの実の存在がマリブサーフ列島に来て直ぐ掲げられてたとは・・・・・・
マシロと同じ様に最初知った時は俺も驚いた。
港で見たあのシンボルに書かれていた果物。
この世界の葡萄の一種だと思ってたけど、あれこそが俺達が探してるラルーガンの実だったんだ。
「この資料によると、今のマリブサーフ列島国の人達もその正体を知らないみたいなんだ。
長い年月の中で忘れられ、結果国のシンボルに書かれてるのは架空の木の実だって思ってるらしい」
「でも、あのシンボルが作られた当時には『ラルーガンの実』って分かって描いていた?」
「うん。
そして島ワタリとラルーガンの実が一緒に書かれてるのは、ラルーガンの実を食べている島ワタリの姿が当時良く目撃されてたから」
そう言うマイナー寄りの口承がある。
そう言って俺は民話集の『奇跡の実の話』のページを指さしながら説明した。
島ワタリの方の資料を読むにこっちもこっちでかなりマイナーな口承らしいけど、学者さんがちゃんとまとめていてくれて良かったよ。
お陰で色んな手間が省けた。
「この海中で見つけた奇跡の実って言うのがラルーガンなの?」
「うん、そうらしいよ。
こっちの資料にその可能性が非常に高いって書いてある。
ただ、その根拠が現在知られてるこの話の条件に合う海藻類がラルーガンしか無いからってだけで、実際は別の・・・
例えば既に絶滅した資料に残ってない海藻の実だった可能性もあるんだよね」
「それでもキビ君もラルーガンの可能性が高いって思ってるんでしょ?」
「うん」
確信めいた真っ直ぐな目をして聞いてくるマシロに俺は力強く頷いた。
集められた資料の情報だけじゃなく、船やケルピー牧場で聞いた話や『教えて!キビ君』の情報も加えて考えると、『奇跡の実の話』に出てきた『奇跡の実を宿す海藻』はラルーガンで間違いないと思うんだ。
そう思ったからこそこの話をルグ達に伝えてるんだけど。
それでも万が一間違ってた時に立ち直れない位ガッカリしない様、念の為の保険でそう違う可能性もあると伝えたんだ。
「それで、今は兎も角、自然と島ワタリとセットで描かれる位この光景は当時かなりの頻度で見られていたんだと思う。
それこそ光が物に当たれば反対側に影が出来るとか、夜になれば月や星がハッキリ見えるとか。
その位当たり前って感じで見られてた」
「だからそこ等辺の年代の事やシンボルの事をもっと調べれば何かラルーガンの実についても書かれてるかもしれないって事だね!」
「もしくはあのシンボルに書かれてる木の実みたいなのをどっかで見た事無いかって聞き込みしまくるか」
マシロの言う通りシンボルについて調べるか、ルグの言うとりシンボルを指さしつつ聞き込みをするか。
資料にはマシロの言ってた通りあの実が『ラルーガンの実』と理解して描かれたって書いてあるし、今もラルーガンの実が自然に存在するならラルーガンの実と気づかずにこの国の人達が見てるかもしれない。
新たな取っ掛かりから進めるなら2人の言う通りその2つが妥当だろう。
折角図書館に居るんだからまずはこのままシンボルについて調べるべきだよな?
『その資料には他に何か書いてあった?』
「あ、はい。
ラルーガンの実探しに役立つかは分かりませんが、この国に限らず多くの民話に置いて島ワタリは『前身の国々含めたマリブサーフ列島国を擬獣化した存在』として絵が描かれてるらしんです」
メールに書かれたその四郎さんの言葉に頷き返しそう答える。
例えば何時だかミルちゃんが言っていた『小鳥達の喧嘩』って絵本。
絵本の中では1個の木の実を取り合って鳥達が口喧嘩をするって言う内容だけど、実際にはあれは伝説のお宝。
十中八九『夜の実』だろうソレを求めて戦争をしていた各国の姿をその国固有の鳥に例えて話された民話が元だったらしい。
その中でもマリブサーフ列島国は島ワタリとして描かれている。
他の例題で出された話は聞いた事無いから良く分からないけど、資料によるとそう言う話がこの世界には数多くあるそうだ。
「確かにここに書かれてる童話や民話全部に『人の言葉を喋る島ワタリ』が出てくるね」
「それが全部マリブサーフ列島国かマリブサーフ列島国人の誰かを表してるって事か」
「恐らくは?
資料を読む限りだとほぼ間違いなくそうだと思うけど・・・」
「そうなると気になる民話が・・・・・・
あった!!これ!この『苔葡萄の話』」
そう言って民話集のあるページを見せてくれるマシロ。
そのページにはマシロの言う通り『苔葡萄の話』と言う話が乗っていた。
その話を簡単に纏めると、『ある日現れた神様に頼まれた島ワタリが予言の勇者が現れるまで苔葡萄と言う果物を守る』って話だ。
「この話も何かヒントにならないかな?」
「ん~・・・・・・
多分、これも現実にあった事が元になってる話じゃないかな?
主人公の島ワタリがマリブサーフ列島国。
あ、いや・・・多分、年代的に考えて・・・・・・
マリブサーフ列島国の前身の国のどれかの事だとすると、『赤い剣を携えた神様』が勇者。
恐らくレーヤの事で、苔葡萄を枯らそうと襲ってくる『凶暴な白鳥達』が『小鳥達の喧嘩』から考えて白悪魔達。
もしくはブランシス王国の事を指してるんだろうな。
で、『苔葡萄』が作中に出てくる特徴的にラルーガンの実とフェニックスの苔が混ざった物だと思う」
マシロに尋ねられ資料含めジックリ『苔葡萄の話』を読んだ結果、俺はこの話も実話が元になってる話だと思えたんだ。
民衆受けを狙って出されたか、長い年月のうちに信仰心から混じった『予言の勇者』の事は置いておいて。
それ以外の最初から居ただろう物語の登場キャラクターをその描かれた特徴から別のモノに置き換えれば、現実に起きても可笑しくない事件になる。
俺にはそう思えて仕方なかったんだ。
『つまり、レーヤの遺言で蘇生薬の素材を守っていたマリブサーフ列島国をブランシス王国が蘇生薬を作らせない為に襲ったって事だよね?
『火の実』を狙っただけじゃなく』
「はい、恐らくは。
そしてそう考えると、気になる事が2つ」
『神様に頼まれたって言って物語の最後に登場する苔葡萄を使って世界を救う予言の緑の勇者の存在と、苔葡萄を守る為に島ワタリが定期的に海を巡るって所だよね?』
「はい」
『でも、『予言の緑の勇者』についてはそこまで気にする事でも無いんじゃないかな?
その部分、後々の人達の改造でしょ?』
「まぁ・・・
そこは俺もそう思いますよ?
ただ、四郎さんも分かっていると思いますが、苔葡萄。
つまり『蘇生薬』の素材を使って世界を救った人が居る事は確かだと思うんですよ」
『それは時系列がゴッチャになったからって考えればそこまで気にする事じゃないでしょ?』
「確かに四郎さんの言う通り時系列や他の人とかがゴッチャになって『勇者』として表現されたジャックター達の事の可能性の方が高いと思いますよ?
でも彼等以外にも『蘇生薬』を作ろうとした人が過去に居た可能性も捨てきれないじゃないですか。
初めてゾンビ毒の元の『隷従の首輪』が作られてから1万年って言う長い時間が過ぎていて、何千年暗躍し続けてるかもしれない偽勇者ダイスも存在してる。
その長い年月の間に他にゾンビ毒や『蘇生薬』を復活させようとした人が居ても可笑しくないと思いますよ?」
『だから気になるって?
でも今1番気にすべきはそこじゃないでしょ?』
「確かにそうですね。
今1番に気にすべきは、島ワタリの方」
「『ラルーガンの実が生える場所は沢山存在する』」
思考を整理する様に繰り返した議論。
その俺と四郎さんの結論の声とメールの着信が重なる。
フェニックスの巣がレッドバー島の火山にしか無いのは間違いないから、『島中の海岸に苔葡萄が生える』って特徴はラルーガンから来てる可能性が高い。
と言う事はジャックター達がラルーガンの実を見つけた場所が偶然『コナ付近の海』だっただけで、ラルーガンの実が生えるスポット自体は複数存在していた可能性が高いだろう。
なら『コナ付近の海』を探す必要性は無い?
「あ、そう言えば・・・・・・」
『民話から読み解く島ワタリ』のファイルに入ってた資料に書かれてたっけ。
決まった順番で島々を巡る島ワタリが何の前触れもなくその順番を変える事があるって。
「もしかして島ワタリ達はその年にラルーガンの実が生る場所の付近に巣を作る、のか?」
「「え!?」」
不意に零れた俺の声にルグとマシロの驚愕の声が重なる。
今までの情報からポンッと思いついた仮説。
『奇跡の実の話』を簡単に纏めると、
『主人公は同じ場所で何年も奇跡の実を探していた。
でも奇跡の実を見つける事は出来ず、諦めかけたその時島ワタリ達がやって来て、その島ワタリ達に導かれるままもう1度海に潜ったら奇跡の実を見つけられた』
と言う話だ。
その『何年探しても見つけられなかった』って部分がもし最初思いついた様に『ラルーガンが実を付けるのが何年かに1度だけ』って事を表していたら?
そして島ワタリ達が『奇跡の実の話』の中で何の苦労もなく簡単にラルーガンの実らしい奇跡の実を見つけられた事と、ラルーガンの実を採ろうとしたジャックター達を普段の温厚な姿から一変させ激しく攻撃してきた事。
その位島ワタリはラルーガンの実を見つけるのが得意で、ラルーガンの実は島ワタリ達にとっても大事なものだったって事だよな?
それで島ワタリ達の気候とかさして変化が無いのに態々1年毎に暮らす島を変える性質。
シンボルにその姿が採用される位ラルーガンの実をよく食べていた事。
それら全部をまとめると、つまり・・・・・・
そうグルグル考えた結果、その言葉が思わずポロリと零れたんだ。
「あぁ、いや。でも、確信に至る証拠がなぁ・・・
取り敢えず、マシロが言った様にシンボルについてももう少し調べてみよう?」
「そ、そうだね」
残念ながらまだ妄想の域を出ない仮設なんだよなぁ。
だから詳しく言えと言うルグ達の視線を遮って俺はそう促した。




